過去最高の24万人! 激増する不登校児…画一的に人材を育てる昭和教育に未だ目をつぶる学校の怠慢「ギフテッドの3割は不登校傾向」
集英社オンライン / 2023年6月14日 10時1分
学校は学力を伸ばすだけでなく、集団生活を通じて協調性を身につける役割も担っている。だがその一方でそういったルールに馴染めず学校に行けなくなる子もいる。不登校の子の人数は10年でなぜ倍増したのか。『「低学歴国」ニッポン』 (日経プレミアシリーズ)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
仮想空間の”学校”に通う不登校児
テレビゲームを模した画面内の教室に職員と子どものアバター(分身)が入り、この日のテーマであるサンゴの生態について通話やチャット機能を使ってのやりとりが続いた。不登校の小中学生が集まるインターネット上の仮想空間「room-K」での学習風景だ。
仮想空間を利用した不登校の児童生徒への支援として、認定NPO法人「カタリバ」が2021年に始めた。埼玉県戸田市など自治体と協力し、22年11月時点で134人が利用する。
自宅など子どもの安心できる場所からアクセスできるのが特徴で、いくつかに分かれた教室ごとにプログラミング、イラスト、工作など、子どもたちが自分の好きなプログラムを選ぶことができる。
家から出ることが難しかったり、集団でのコミュニケーションが苦手だったり、不登校児が抱える困りごとや置かれている状況はそれぞれ異なる。カタリバでは定期的に支援スタッフが面談して一人ひとりのペースに合った時間割を立てる。
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なぜ「秀頼」は学校に絶望し、仮想空間に行ったのか
「秀頼」の名で自宅から参加する小4男児(10) も「room-K」に参加する一人だ。小学校に入学後すぐに不登校になった。
「みんなと同じでないといけない学校が合わなかった」。苦手な科目で分からないことを聞きたくても、自分ひとりで教員に聞くことができなかった。逆に好きな科目で上級学年の内容の質問をすると答えてもらえず、失望感を強めた。
「好きなことに集中できるのが自分の良いところ」とカタリバでは自分なりのペースで好きな理科などを学ぶ。現在は学校に少しずつ通いながら、2日に1回ほど仮想空間で学んでいる。
「学校はそこに目をつぶってきた」
「不登校のきっかけは多様で一概に増加の理由は語れない。ただ、一律に同じ内容を同じスピードで学ぶことに合わない子どもはたくさんいる。学校はそこに目をつぶってきた」。カタリバの今村久美代表は指摘する。
子ども自らが学校に行かないことを選ぶ「積極的不登校」を認めようとする考え方も出てきているが、今村代表は「現実には学校に行きたいけど行けない子どもが多いと感じる。同じ学区の子が楽しそうに登校する姿を見て苦しい思いをしている親子は多い」と語る。不登校になる子どもは激増している。
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不登校の子は過去最多の24万人
文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、1991年度から調査している「不登校」は病気や経済的理由、新型コロナウイルスの感染回避などを除いて年間30日以上登校していない状況を指す。
それによれば、不登校の小中学生は2021年度に過去最多の24万人に達し、約10年前からほぼ倍増した。小学生が8万1498人(前年度比28%増)、中学生は16万3442人(同23%増)だった。
児童生徒1000人あたりの不登校の人数は小中学校合わせて25.7人で、15年度(12.6人)と比べて倍になる。年間の欠席日数が90日以上だった児童生徒も過去最多の13万4655人で、不登校全体の半数を超えた。
マニュアルに従って正確に作業する均質な人材
不登校の加速度的な増加は、教室に集まって教員が一斉に教える学校文化に対する子どもたちの異議申し立ての広がりを映し出す。
明治維新から戦後の高度経済成長期に至るまで工業化が社会の課題だった時代はマニュアルに従って正確に作業する均質な人材が必要とされ、学校での画一的な教育が効率的だった。デジタル社会を迎えた今、求められているのはイノベーションを起こせる人材だが、学校の対応は鈍い。
「教科書の内容は全て理解していたが、自分のレベルに合わせた勉強をすることは全く許されなかった。周囲に合わせろと叱られた」「授業で発言をすると雰囲気を壊してしまい申し訳なく感じてしまう。分からないふりをするのが苦痛だった」
文科省の有識者会議が21年に実施したアンケートに悲痛な訴えが並んだ。対象者は3歳で九九を理解するなど特異な才能を持ち、「ギフテッド」とも呼ばれる小中高生やその親など約800人だ。
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浮いてしまう「ギフテッド」3割が不登校傾向
有識者会議は22年9月に提言をまとめ、特異な才能を持つ児童生徒への支援策の拡充を求めた。在籍するクラスと別の教室でオンライン教育を受けられるような環境整備も提言に盛り込まれた。
文科省は23年度当初予算案に関連予算8000万円を盛り込み、大学や民間団体に委託して指導プログラムの実証研究を進める。特性を把握しやすくする手法の情報収集や、教員が理解を深めるための研修教材の開発にも着手する。
特異な才能を持つ児童生徒は学校の集団生活に困難を抱えるケースもあり、有識者会議の調査でも対象の小学生らの3割に不登校の傾向があった。才能や特性に応じた環境づくりが急務となっている。
不登校児の4割弱は学校、フリースクールなどともつながっておらず
学校は学力などを伸ばすだけでなく、集団生活を通じて協調性を身につける役割を担う。一方で、16年12月、状況によって児童生徒が学校を「休養」する必要性を明示し、不登校児の学びの充実を図る教育機会確保法が成立した。
新型コロナウイルスの感染拡大もあって「必ずしも学校に行かなくてもよい」という意識が保護者や学校関係者の間で広がった。文科省も登校を基本に据えつつ、従来の画一的な教育から、一人ひとりに合わせた「個別最適な学び」へと転換する目標を掲げる。
だが、学校になじめない子たちの受け皿は貧弱なままだ。日本は家庭で学ぶホームスクーリングヘの支援体制が欧米ほど整っていない。
文科省の調査でも不登校児の4割弱は学校ともフリースクールなどの民聞機関ともつながっておらず、その比率は年々大きくなっている。利用に年100万円ほどかかるフリースクールもある。子どもが不登校になったとき、学びの機会を保障できるかどうかは家庭の経済力に左右されてしまうのが現実だ。
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「学びの継続は自己責任になっている現状」
不登校児をオンラインで学習支援する熊本市の遠藤洋路教育長は「現状は学校に無理して来なくてよいといいながら、学びの継続は自己責任になっている。登校するかしないかではなく、色々な場所で学べるようにすることが重要だ」と言い、学校以外の受け皿を教育行政が率先して整える必要性を訴える。
不登校の段階で周囲が適切に対応できず、成人後に長く自宅に引きこもる例もある。「個別最適な学び」を保障しながら社会性をどう育むか。教育行政の本気度が試される。
『「低学歴国」ニッポン』
日本経済新聞社
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2023年5月9日
990円
216ページ
978-4296117376
大学教育が普及し、教育水準が高い「教育大国」――そんなニッポン像はもはや幻想?
日本の博士号取得者数は他先進国を大きく下回り、英語力やデジタル競争力の世界ランキングでも年々遅れをとっている。
とがった能力の子をふるい落とし、平均点の高い優等生ばかり選抜する難関大入試。世界の主流とずれる4月入学。理解が早い子にも遅い子にも苦痛なだけの「履修主義」指導……。
岩盤のように変化を忌避する学校教育はいま、私たちの未来をも危うくしている。
世界をけん引する人材を輩出するには、「何」を変えればいいのか。教育の今をルポし、わが国が抱える構造的な問題をあぶり出す。
【目次】
はじめに 日本人の「低学歴」化を見つめる
第1章 変わらない日本の「学校」
第2章 いびつな日本の「学歴」問題
第3章 二極化する「入試」、形骸化する「偏差値」
第4章 「学校崩壊」避けるためにできること
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