1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

【ネタバレ注意】「怪物だーれだ」…カンヌで絶賛された映画『怪物』。劇中で描かれる“怪物”の正体を徹底考察する

集英社オンライン / 2023年6月10日 10時1分

現在公開中の映画『怪物』は、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督と、『花束みたいな恋をした』の脚本家・坂元裕二がタッグを組んだ話題作だ。第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞し、世界から注目されている最新作をネタバレ考察する。(トップ画像:©2023「怪物」製作委員会) ※本記事では映画『怪物』の内容や結末に触れています。ご注意ください。

登場人物の視点によって事件の見え方が激変

(右から)安藤サクラ演じるシングルマザーの麦野早織、黒川想矢演じる息子の湊
©2023「怪物」製作委員会

本作のキャッチコピーであり、予告編で子どもたちが発する「怪物だーれだ」という言葉。当記事では映画の内容に触れながら、怪物の正体を考察してみたい。多くのネタバレがあるので、『怪物』をまだご覧になっていない方はご注意を。



是枝監督が他者に脚本を委ねるのはデビュー作『幻の光』(1995)以来で、これまでは『万引き家族』(2018)を含め自ら脚本も執筆してきた。坂元は是枝が今、一番リスペクトしている脚本家だ。海外でもリメイクされ評価の高いTVドラマ『Mother』(2010)を大ヒットさせた坂元は、大人目線と子ども目線の両方から物語を紡ぎ出す達人。『怪物』(2023)の脚本を担当するのが坂元であることには大いに納得できる。

『怪物』は、大きな湖のある郊外の町を舞台に、息子を愛するシングルマザー、生徒思いの小学校教師、孫を亡くしたばかりの校長、そして無邪気な二人の子どもたちという登場人物のそれぞれの視点から、学校で起きた“事件”を描き出す。彼らの主張は食い違い、次第に社会やメディアを巻き込み大ごとになっていく。

子供たちの嘘が発端となり、物語は思わぬ方向へ

永山瑛太(右)が演じたのは、小学校の教師・保利道敏
©2023「怪物」製作委員会

息子の湊(黒川想矢)がケガをしたと知った麦野早織(安藤サクラ)は、担任の保利道敏(永山瑛太)が暴力を振るったという湊の主張を全面的に信じ、学校に抗議に行く。だが、保利はそれを否定し、母子家庭にありがちな過剰反応だと反論。校長の伏見真木子(田中裕子)は事態を収束させることだけを考え、保利に責任をなすりつける。

早織の視点では、保利は暴力教師、伏見は事なかれ主義者として描かれているが、保利のパートでは彼は優しい先生で、伏見のパートでは彼女は生徒や学校のことをしっかりと考えている校長だということがわかる。

だが、早織を苛立たせている要因は、保利や伏見の存在ではなく、湊が嘘をついているからだということが、子どもたちのパートで明らかになってくるのだ。

柊木陽太演じる星川依里(左)と湊の運命は……?
©2023「怪物」製作委員会

事件の当事者の湊は、クラスメイトの星川依里(柊木陽太)と親しい友達同士。ところが依里がいじめられているために、巻き込まれたくなくて仲がいいことを隠している。担任の保利に依里をいじめていると誤解された湊は、保利からひどい仕打ちを受けており、「湊の脳は豚の脳と入れ替えられた」と言われたと母の早織に嘘をつく。そして依里も湊の証言に合わせ、保利が湊に暴力を振るっていると嘘をつくのだ。

湊と依里の嘘はたわいもないものだったのかもしれないが、息子を心配する早織はモンスターペアレントのように保利や伏見に食ってかからずにはいられないし、校長の伏見は何としても学校を守らなければいけなくなる。そして保利はなぜ振るってもいない暴力の責任を負わなければならないのかと頭を抱えることとなる。

怪物は誰かと考えたとき、「怪物だーれだ」と言って無邪気に遊び、早織や保利の心配をよそに姿を消してしまう湊と依里が、大人たちを巻き込み窮地に陥れる怪物のようだと感じた。

誰もが怪物の側面を持っているという恐ろしさ

息子を守りたい、真実を知りたいと願う早織(安藤サクラ)
©2023「怪物」製作委員会

しかし、子供たちだけが怪物なのではない。息子の言葉だけを鵜吞みにし、学校に怒鳴り込む早織もまた怪物になってしまっている。

そして保利は生徒思いの教師だったはずが、恋人の鈴村広奈(高畑充希)から「シングルマザーの家庭はモンスターペアレントになりがち」と言われて鵜呑みにし、早織に対して怪物のように接してしまう。

本当は生徒に寄り添ういい校長のはずの伏見もまた、学校を守るために姑息な策を講じ、保利に全責任を被らせるという行動は怪物そのもの。依里をいじめている子供たちも、もちろん怪物だ。

つまり、この映画の登場人物全員が怪物の側面を持っているのだ。

ただ一人、ものすごくわかりやすく描かれている怪物は、中村獅童が演じる依里の父・星川清高だ。男の子のことを好きな息子を化け物と呼び、豚の脳が入っていると言ったのは清高。依里からその話を聞いた湊は、自分も依里に好意を持っていることに気づいて悩み、豚の脳の件を担任から言われた言葉として母親に話したのだ。

自分が信じる“正常”に戻そうと息子に暴力を振るう清高は、まさに最も恐ろしい怪物であることがわかるが、思い込みや守りたいことなどによって、誰もが怪物になり得るということを、本作は伝えている。

誰の中にもいる怪物。その怪物が表に出たとき、どのような結末が待っているのか……。
是枝&坂元が提示した結末は、見る者によってさまざまな捉え方ができるだろう。『怪物』という作品自体が、まさに映画で描かれる複数視点の構図を利用し、観客を巻き込んでいるのが興味深い。

あなたは結末を、どう捉えただろうか?


文/清水久美子

『怪物』(2023) 上映時間:2時間5分/日本


大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー(安藤サクラ)、生徒思いの学校教師(永山瑛太)、そして無邪気な子供たち(黒川想矢、柊木陽太)。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した……。

公開中
監督・編集:是枝裕和 脚本:坂元裕二 音楽:坂本龍一
配給:東宝、ギャガ
©2023「怪物」製作委員会
公式サイト:https://gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください