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肉体美に宿る繊細な演技力。映画『aftersun/アフターサン』主演の27歳ポール・メスカルは、若手スター不在のハリウッドの救世主になれるのか

集英社オンライン / 2023年6月11日 14時1分

ダブリンの演劇学校を卒業してわずか6年。瞬く間にハリウッド期待の若手のひとりとして注目を集めるポール・メスカルの魅力に、ハリウッド在住の映画ジャーナリスト中島由紀子さんが迫る。(トップ画像:JR/Agence Vu/アフロ)

『aftersun/アフターサン』で見せた名演技

若い父親を演じた『aftersun/アフターサン』
Everett Collection/アフロ

もう長いこと若手スター不在と言われるハリウッドで、静かに輝きを放っているのが、現在公開中の映画『aftersun/アフターサン』(2022)に出演する27歳のポール・メスカルです。3月に行われたアカデミー賞では、ブレンダン・フレイザーやコリン・ファレルらと共に主演男優賞にノミネートされ、世界中から注目されました。



演じたのは、別れた妻と暮らす11歳の娘ソフィと共に、トルコのリゾート地へバケーションにやってきた若い父親カラム。経済的に困窮する自分を人生の敗北者ように感じており、娘とのひとときをなんとか楽しみたいと願うカラムの優しさと繊細さが、バケーションをさらに悲しく切ないものにします。

バケーションの20年後、当時の父と同じ年齢になったソフィがビデオカメラで撮影した映像を見返すシーンが挿入されるのですが、恐らく、そのバケーションが父娘の最後の時間だったことが示唆されます。カラムの内面の崩壊を言葉少なく伝える、ポール・メスカルの名演技が光る作品でした。

彼が俳優として最初に注目されたのは、2020年のコロナ禍真っ只中のときに出演したテレビシリーズ『ふつうの人々』(2020)。複雑で繊細な感性を持つ青年を演じ、テレビ界のアカデミー賞と言われるエミー賞にノミネートされ、「あの人は誰?」と話題になりました。

生まれ故郷のアイルランド・ダブリンにある演劇学校を2017年に卒業し、2年間舞台で演技力を磨いた後、初めてドラマで主役を務めた『ふつうの人々』で、知名度がアイルランドから一気に世界へと広がったのです。

素顔は謹厳実直なスポーツマン

初主演ドラマ『ふつうの人々』
Everett Collection/アフロ

『ふつうの人々』のインタビューで私が初めて彼に会ったときの印象は“地味”でした。「わあハンサム!」とか「キャー素敵」とこちらが浮き立つような都会的な華やかさはまったくなく、体ががっちりしている謹厳実直な人という感じ。

彼と同じ年代の若手がしのぎを削り、スターダムに向かって演技を磨いていることに触れ、「憧れているハリウッドスターは?」と聞くと、思った通り謹厳実直タイプの答えが返ってきました。

「素晴らしい俳優のひとりであるティモシー・シャラメは、今一番注目を集めている新しいタイプの主演俳優です。でも僕は、彼とは全く違う鋳型で作られた俳優だから、比べようがありません。

演劇学校ではハンフリー・ボガードやマーロン・ブランドの作品をたくさん見てインスパイアされてきました。最近の俳優で言うと、テレビシリーズ『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』(2014)のウディ・ハレルソンとマッシュー・マコノヒー。彼らを見ていると“こんな演技がいずれできるようになるのだろうか?”という恐怖心と、“がんばるぞ”という信じられないくらいの刺激を受けるんです」

『ふつうの人々』で演じたのは、ゲーリックフットボール(ラグビーとサッカーを合わせたようなアイルランド発祥のスポーツ)の花形選手コネル。若い男女の愛の形を描いた物語の中で、全裸シーンも披露しています。実は、彼も長年ゲーリックフットボールの選手で、試合中に顎を骨折するまでは名プレイヤーとして知られていたそう。鍛えあげた彼の肉体美を見て「セクシー」と感じるファンは非常に多いです。

「演劇学校ではコンタクトスポーツをやることを禁じられていましたが、無責任なことに僕はずっと隠れて続けていました。舞台への出演が決まっていたのに顎の骨折をし、セリフがうまく言えなくなったことで、ゲーリックフットボールとは完全に縁を切りました。でも、ドラマを通して世界中にゲーリックフットボールの存在を知ってもらえたことは嬉しいです。

舞台でも映画でもテレビでも、いい作品にしようとみんなでベストを尽くすコラボレーションは、チームスポーツに似ていると思います。自己鍛錬してチームに貢献することを、僕はスポーツから学びました。

舞台に出演していた2年間は、僕に“演技とは何か”を教えてくれた原点。と同時に、かなりギリギリの収入だったので家賃が払えないこともありました。それでも挫けずに目標に向かって続けてこられたのは、スポーツで鍛錬した精神力があったからだと思います」

イギリスで権威ある演劇賞も受賞

REX/アフロ

『aftersun/アフターサン』の撮影後、ロンドンの劇場で『欲望という名の電車』の舞台に立ち、映画版でマーロン・ブランドが演じたスタンリー・コワルスキーに扮したメスカル。セクシーで野獣のように荒々しかったブランド版とは違い、荒々しさに繊細さと思いやりを加えた新しいコワルスキー像を創り出して絶賛されました。

アスリートのような見事な肉体の中に、繊細な精神を宿す貴重な俳優としての地位を確立した彼は見事、イギリス演劇界の最高峰ローレンス・オリヴィエ賞で主演男優賞を受賞。演劇学校を卒業してたった6年、これは快挙です。

今年の1月には、巨匠リドリー・スコット監督が『Gradiator2』の主役ルシアス役にポール・メスカルを抜擢したと発表し、ハリウッドは一気に華やぎました。ルシアスは、前作でマキシマス(ラッセル・クロウ)に殺された、ローマ皇帝コモドゥス(ホアキン・フィニクス)の甥。

メスカルがグラディエーターの格好をし、ローマ時代の大円形競技場に立っている姿が、もう眼前に浮かびます。彼をハリウッドのトップクラスの俳優に一歩近づかせる映画になることは、間違いないでしょう。

文/中島由紀子

『aftersun/アフターサン』(2022)Aftersun 上映時間:1時間51分/イギリス・アメリカ

11歳のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らす若き父カラム(ポール・メスカル)と、トルコのひなびたリゾート地へやってきた。輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向けあい、親密な時間を共にする。20年後、カラムと同じ年齢になったソフィ(セリア・ロールソン・ホール)は、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく……。

公開中
配給/ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/aftersun/index.html

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