1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

サントリー「響」の価格を釣り上げた中国人ビリオネアの正体。迫る金融倒産連鎖…個人情報を守れないスイスの銀行を富裕層が見放した!

集英社オンライン / 2023年6月12日 7時1分

米国でシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が破綻。また、スイスの金融機関最大手UBSがクレディスイス・グループの買収を発表するなど、金融システムへの不安が強まっている。この背景には何があるのか。評論家・宮崎正弘氏の 『国際金融危機!米中メルトダウンの結末』(ビジネス社)から一部抜粋、再構成してお届けする。

#2

大富豪がスイスの銀行にお金を預けるという図式はとうに崩れていた

天下の名門、老舗のクレディスイスはなぜ経営が傾いたのか。

じつは世界の大富豪がスイスの銀行にお金を預けるという図式はとうに崩れていた。知らぬは仏のみ、偏った情報だけを「特権」と思い込んでいた大金持ちたちだった。産油国はもちろん、ロシアのオリガルヒ、そして中国のビリオネアたちである。



そもそもスイス銀行というのは「総称」であって具体的にはスイスの法律で匿名預金ができる秘密口座の代名詞だった。電話一本で暗号を言えば巨額が世界の他の場所へ動かせた。逆に暗号を知らなければ、第三者は預金を引き出せない。

たとえばPLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長が死んだとき、秘密口座の暗号を夫人にも打ち明けていなかった。残余の巨額はスイス銀行の懐で消化された。「ゴルゴ13」の数あるストーリーでは、彼の機密口座もスイスのプライベート銀行と想定された。ゴルゴの「仕事」が済むと、「ご指定のスイス銀行口座に振り込みました」という台詞が導かれる。

大金持ちはスイスから他のタックスヘイヴンへ資産を移動

事実は劇画より奇なり。

スイス銀行の隠し口座やプライベート銀行の不正が世界的規模で問題視されたのは、テロ資金、麻薬取引、マネーロンダリングなど不正資金の移動問題だった。

米国が「透明性を高めよ」とスイスに強い圧力をかけ、スイスは時間を稼ぎながら、プライバシーの保護だの何だのと言い訳をしつつ、数年をかけて米国の要請に応じた。この間に大金持ちはスイスから他のタックスヘイヴン(租税回避地)へ資産を移動した。その助言をしたのもスイスの銀行家と弁護士たちだった。

タックスヘイヴンとは税率が低い香港(17.5%)、シンガポール(17%)や、完全に免除される国や地域(たとえば米国フロリダ州の所得税はゼロ)を意味し、日本語では「租税回避地」の訳語が当てられる(「脱税天国」は正確な意味ではない)。

世界の金持ちのおよそ8%が金融資産をタックスヘイヴンにおいている。
とくに超富裕層の便宜を図るのがプライベート・バンキングで、中国人が集中する英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島、あるいは税優遇制度があるオランダやルクセンブルクが有名だ。

金融帝国スイスがプライベート情報を守られなくなった

従来「金融帝国」として君臨したスイスは富豪らがプライベートな情報が守られなくなってしまったとし、口座の維持を回避するようになり、シンガポール、香港、バハマ、ケイマン諸島、英領ヴァージン諸島、ルクセンブルク、ジャージー島へ移動した。

また、タックスヘイヴンのなかには悪質な脱税、マネーロンダリングのために利用されている地域があり、麻薬や武器取引、テロリスト集団の資金隠匿。暴力団やマフィアの資金が流入している。

大規模なタックスヘイヴンはオフショア金融センターと不可分の関係にある。しかし金融業に経済を依存しているために金融危機や破綻に脆弱であって想定外の事件が起きると甚大な悪影響が出る。ユーロ危機におけるアイルランドやキプロスは典型だろう。

主なタックスヘイヴンは以下の通りである。

アンギラ(英国領)、アンドラ、アンティグア・バーブーダ、バハマ、バーレーン、ベリーズ、バミューダ諸島(英国領)、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島(英国領)、ジブラルタル(英国領)、リベリア、リヒテンシュタイン、モナコ、パナマ、セントルシア、サンマリノ、バヌアツ、マン島(イギリス王室属領)。

『パナマ文書』『パラダイス文書』『パンドラ文書』

漏洩した機密文書の『パナマ文書』『パラダイス文書』『パンドラ文書』などが口座の実態やダミー企業、世界の大富豪たちの名前まで暴露した。

これではプライバシーの保護どころではない。富豪たちはもっと便利で有利で匿名性が確保されるタックスヘイヴンを求めて世界を彷徨い始めた。

英領ヴァージン諸島に中国共産党幹部の隠し預金が集合した。
この島では資本金1ドルで会社登記が可能だから、同じオフィスビルに数百のペーパーカンパニィが登録されている。合計2万数千社もの中国人ダミーの秘密口座があって、管理は弁護士事務所、これと連携する香港の会計事務所などが仲立ちする。同じヴァージン諸島でも米国領ヴァージン諸島にこの特権はない。

ロシアのオリガルヒはスイスからキプロスにいったん避難し、つぎにドバイへ資金を移管した。ドバイは日本の「参議院議員」(その後除名)が逃亡先として選んだように、世界の金持ちの伏魔殿化している。

また暗号通貨の大手、FTXは本社をバハマに登記していた。CEOだったバンクマンフリードは両親を島の豪邸に住まわせていた。バハマの首都ナッソーはニュー・プロビデンス島にあり、「パラダイス島」と橋で結ばれている。『パラダイス文書』の由来はこの島の名前からかも知れない。

穴場はシンガポールになった

飛び抜けて富豪が多い中国人の一部は大金をもってシンガポールへ逃げ込んだ。
ビットコインなど暗号通貨をフル活用し、さっと口座を移し替え、身軽にシンガポールに移住して高層マンションで暮らす。24時間ガードマン警備の豪華マンションが彼らに爆買いされた。

かつて中国大陸の富豪は香港へ出た。ダミー企業、ペーパーカンパニー、国籍(パスポート)買い、何でもござれだった。ところが、香港が中国共産党に呑み込まれて以来、安住の地ではなくなった。香港の有名俳優ジャッキー・チェンは身を守るため共産党への入党を表明した。

豪シドニーとカナダのバンクーバーへ香港人の移民が目立ち、ここ数年は中国大陸からの新移民が急増した。彼ら新参者の不動産爆買いが、現地の住宅価格を5割がた押し上げた。

バンクーバーの高級住宅地に住む筆者の友人は「3年前までこのあたりに中国人はいなかった。かれらは飛行場の周りか旧チャイナタウンあたりの住宅だったが、ついに金持ちの中国人が高級住宅地を現金で購入するようになった」と嘆いた。かくしてカナダも豪も、移民中国人に批判的となった。それでも蝗の大群は次々とやってくる。

穴場はシンガポールになった。ドバイも税金逃れに天国だが地理的に遠い。シンガポールなら住民の7割は中国人だ(最近、インド、アラブ諸国、そして韓国からの移民が増えてはいるが……)。

サントリー「響」の年代物オークションで史上空前の高価買い入れをしたのも彼ら

2022年統計で425軒の豪邸の契約がまとまった。シンガポールの不動産価格は14%の値上がりとなった。シンガポールは外国人に不動産買いを認めていないのでダミーを使う。レンタル料金は33.2%のアップ、商業ビルの賃料は2倍となった。

シンガポールの最高級ゴルフ場会員権は66万ドルと、2019年比で2倍に跳ね上がった。ランボルギーニなど数千万円の高級車が次々に売れる。豪華レストランは連日満員。
ブランド品もいまでは香港より売れる。このため、スーパーマーケットを調べると食料品は8%の値上げとなっていた。

サントリー「響」の年代物オークションで史上空前の高価買い入れをしたのも彼らだった。2020年8月、サントリー最高酒齢シングルモルト「山崎55」が香港で開かれたボナムズのオークションに出品され、8500万円で落札された。落札主はシンガポール在住の華人だった。かくして中国人富豪はシンガポールを伏魔殿と化した。

国際金融危機!米中メルトダウンの結末(ビジネス社)

宮崎 正弘

2023年5月17日

1,650円

248ページ

ISBN:

978-4828425313

米国・シリコンバレー銀行の経営破綻から始まり、米国の銀行、数行から1日に400億ドルが預金口座から蒸発した。
IT系のベンチャー企業に無理な融資を行い、焦げ付きが生じたと言われている。
さらにクレディスイス銀行、ドイツ銀行などEUの金融大国にも危機が飛び火。中国の資産家や企業も打撃を受ける事態に!
世界経済のバブルが弾ける。そのとき日本経済は生き延びられるか?ドル基軸体制は、いつまで持つのか?
国際資本の伏魔殿の最新情報!

GAFAM黄金時代の終わり/中国経済の大陥没/ウクライナの怪しいマネーが招く大混乱
次の世界恐慌が目前に迫る。


[本書の内容]
ジャック・マーに帰国をうながした中国政府/米国主導だったグレートゲームは終了する?
米国の分裂状態は悪化する/政権中枢に経済通がいない
金融も共産党直轄になるなんて!/海外マネーの逃避が続出している
米国の対中制裁「ブラックリスト」は651社/中国のZ世代は何を考えているのか
それでも中国への油断は禁物/「ドル基軸体制の終焉」が警告され始めた
●もくじ
プロローグ リーマンショックの惨状を超える未来の国際金融の疑獄図
第1章 SVB、シグニチャー銀、クレディスイスの破綻は「金融恐慌」前夜
第2章 米国は中国に勝てるのか?――GAFAMの黄金時代は終わった
第3章 ウクライナの伏魔殿が導く大混乱
第4章 中国経済の大陥没が起きる
第5章 グローバル・パワーとして振る舞いだした中国
エピローグ 大きく揺らぐドル基軸体制

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください