ネコは30歳、ヒトは125歳まで生きる日が来る?
奇跡のタンパク質「AIM」の最前線 後編はこちらから
ネコは30歳、ヒトは125歳まで生きる日が来る? 奇跡のタンパク質「AIM」の最前線(前編 AIM研究所=IAMの発足)
集英社オンライン / 2022年5月17日 13時1分
老齢期になると多くのネコは腎臓病にかかる――。このことは愛猫家の間では広く知られた事実だった。ところが医師で研究者の宮崎徹氏は、血中のタンパク質であるAIMがネコの腎臓病に効果があることを発見。ネコ薬創薬に向けての奮闘を『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(時事通信出版局)としてまとめ、2021年8月に出版し大きな話題を呼んだ。この度、オーディオブック化されるのを機に、本の出版時からさらに前進したネコ薬創薬の現状を宮崎氏に聞いた。
体の中のゴミを掃除するAIM
AIMとはapoptosis inhibitor of macrophageの略語で、宮崎氏が1999年に論文発表した血中タンパク質の一種だ。AIMは通常、IgMと呼ばれる抗体の一種と結合しているものの、病気などで体内にゴミが発生するとIgMから離れてゴミと結合。このはたらきによって、腎臓を詰まらせる、死んだ細胞などのゴミを排除するメカニズムを解明した。宮崎氏はこれまで、ゴミを掃除する働きがあるAIMによってヒトの腎臓病、脳梗塞、腹膜炎、肝臓がん、肥満や脂肪肝、アルツハイマー型認知症など様々な病気を予防・治療できることを証明してきたが、多くの動物と違い、ネコのAIMだけが腎臓にゴミがたまってもIgMから離れず掃除できないことを発見。AIMを投与してゴミ掃除能力を高めることができれば、ネコの寿命を大きく伸ばす可能性があるのでは、と研究をはじめた。
腎臓病はすべてのネコがかかる遺伝病
――そもそもネコの腎臓は先天的に機能しておらず、生まれたその瞬間から腎臓が悪くなり続けているという、宮崎先生が解明した事実に衝撃を受けました。
先天性の遺伝病と考えていただければいいと思います。人間の場合も先天性の病気はありますが、大概が10万人に一人とか、100万人に一人といった割合です。ところがネコの場合は100%かかっているわけです。逆にいうと、その遺伝病の原因となっているAIMを補充することで、すべてのネコが助かるわけですね。研究者として、ネコ薬創薬はぜひやらなければいけない使命だと思いました。
――『猫が30歳まで生きる日』を出版することになったきっかけを教えてください。
本の出版のお話をいただいたのは約2年前のこと。まだネコ薬が完成していない段階で本を出すのは中途半端だろうと、お断りしようと思っていたんです。ところが出版社から「今はまず創薬の過程を書いていただくだけでも、ネコを飼っている人には安心材料になるはずです」とおっしゃっていただきまして。その熱意に押されて執筆することになりました。私にとって一般向けの本としては最初のものになります。
――2021年7月、本の出版に先駆けて公開された時事ドットコムの記事によって、宮崎先生の研究が広く一般に知られることになり、当時所属していた東大の東京大学基金には3週間で約2億円の寄付が集まったそうですね?
これまでも論文を書くたびに大学や文科省からプレスリリースを出していましたが、仲間内から評価を受けることが主でしたので、一般の方々の声を直接聞くことはほとんどありませんでした。あれほど応援をいただくことは初めてでしたので、本当に驚きましたね。
応援に背中を押され4月に研究所を発足
――今年の4月には一般社団法人AIM医学研究所 (英名 The Institute for AIM Medicine/略称IAM“アイアム”)を発足。代表理事・所長としてIAMに専任し、AIM研究を続けるとのことですが、東大を離れたのはどうしてだったのでしょう?
一刻も早くネコ薬を完成させるためです。大学は、薬を作る前の基礎研究をするにはとてもいい場所です。自由に研究ができますからね。でもそれはあくまで学術の世界の話。私たちの研究のように、基礎研究を経ていよいよ薬にしようとなると、製薬企業やそれを販売する企業など、一般の方々とタッグを組んで密に接しなければならなくなります。複雑化してくるフェーズになると、大学にいるだけでは実現が難しくなってくるんです。
私が6年間在籍していたアメリカの大学は、基礎研究だけでなく薬を世に出すことまでも、ものすごく真剣に考えていました。例えば特許のプロや投資家を引っ張ってくるプロなどが大学に在籍している。つまり大学の中で世に出すところまでできてしまう体制が整っていました。日本はまだそのシステムが不完全ですが、だからと言って「できません」では済まない。それができる環境を自分で作るしかないと考えたんです。
――大きな組織を離れることは、勇気がいることでは?
怖かったですね。でもそれができたのは、やはり私の研究を知ってくれた一般の方々の応援に他ならないんです。ネコのオーナーさんたちの切実な声や寄付金によって、ネコ薬を1日も早く完成させなければいけないという責任感が強く芽生えました。それがなければ踏み出せませんでしたし、背中を押していただいたことは間違いないです。
記事がバズったことで停滞していた創薬が前進
――ネコ薬の開発は、新型コロナウイルスの影響で2020年6月にスポンサーが撤退。中断を余儀なくされたそうですが、進捗は?
中断した後も、一緒に作ってくれるところがないか個人的に動いていたのですが、どうしても製薬企業さんの腰が上がらなかったんです。ところが2021年7月に記事がバズったことで、何社かに手を上げていただきまして。世論によって大きく前進することになりました。
創薬の過程で一番大変な作業は、治験薬をどのように作るかということ。タンパク質は化学合成できないので、どうしても生き物である細胞に作らせなければならない。何千リッターの培養液からわずかしか取れませんし、それを体に注射してもいいくらい綺麗にして、純度が高いものに仕上げていくのは物凄くコストがかかるんです。現在はその条件をほぼ決めかけている時期。あとは大量生産をして、治験をして、データをまとめて農水省に審査をしてもらうという段階を踏むことになります。
――治験はどのくらいかかりますか?
長くても1年でしょうね。ただ、ネコの場合は生まれてから15〜16年かけてだんだん腎臓が悪くなっていくので、どの段階で治験をやればいいのか、そこも問題です。生まれてすぐのネコに投与しても、結果がわかるまでに長い時間がかかってしまいますからね。どこでAIMを投与すると短い期間で大きな違いがわかるか。実はそこもすでに見つかっているので、治験に向けての準備はほぼ完成している段階です。
ネコ薬は2〜3年以内に完成予定
――一般にAIMネコ薬が使えるようになるのはいつ頃ですか?
何もミステイクが起こらず非常に順調に進んだとしたら、今年の終わりくらいから治験薬を作ることになると思います。治験薬を作るのは3〜4ヶ月でできますので、来年から治験をスタートし、同時に申請をどんどん進めていけば2〜3年の間には。承認申請がなされればすぐに使っていただくことができます。ただ、期待を煽ってはいけないというのが、臨床の現場で私が最初に医者として教えられたことですので、確実にできるとお約束をすることはできません。とはいえ、IAMではネコ薬を第一に先行して完成させるつもりです。
――ちなみに東大に集まった寄付金はどうなるのでしょう?
東京大学基金の大変なご厚意によって、基本的にはほぼIAM(一般社団法人AIM医学研究所 以下IAM)に移せることになりました。新しく作った研究所に寄付金を移管するのはなかなか難しいと思いますが、非常に好意的に配慮していただきました。
宮崎徹 みやざきとおる
一般社団法人AIM医学研究所代表理事・所長。長崎県生まれ。1986年東大医学部卒。同大病院第三内科に入局。熊本大大学院を経て、1992年より仏ルイ・パスツール大学で研究員、1995年よりスイス・バーゼル免疫学研究所で研究室を持ち、2000年より米テキサス大学免疫学准教授。2006年より東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター分子病態医科学教授。2022年4月より現職。
一般社団法人AIM医学研究所
https://iamaim.jp
■著書
猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見
宮崎 徹
2021年3月17日発売
1,980円(税込)
単行本/244ページ
978-4-47-8871755-8
ネコにとって宿命的な病である腎臓病の治療が、血液中のタンパク質AIMによって可能になることを解明した、宮崎徹氏の最新医療研究をまとめた一冊。AIMはネコだけでなく人間にも効果があり、腎臓病のみならずアルツハイマー型認知症や自己免疫疾患など、これまで治せないと言われてきた病気への活用も期待できることをわかりやすく解説。印税の一部は、ネコと人間の腎臓病研究などの費用に充てられる。
オーディオブック版
人気声優・浅野真澄氏が朗読を担当。浅野氏自身も、保護猫4匹と暮らしている。
猫を愛するすべての人に聴いてもらいたい新作オーディオブック作品。
ナレーター: 浅野真澄
配信先:「audiobook.jp」 https://audiobook.jp/product/264300
価格:1,980円
サンプルはこちらから↓
取材・文/松山梢 撮影/石田壮一
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