1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

中国の地銀で倒産連鎖! 共産党による達成不可能な目標、地方政府は債券乱発1000兆円、逃げる海外マネー…「経済の専門家が政権中枢にいない」

集英社オンライン / 2023年6月13日 7時1分

現在、国際金融の危機が多くのエコノミストや経済史家から警告されている。これから世界はどこへ向かおうとしているのか。評論家の宮崎正弘氏の『国際金融危機!米中メルトダウンの結末』(ビジネス社)から中国経済の大陥没について一部抜粋、再構成してお届けする。

中国全人代では達成不可能な数値目標が並んだ

中国共産党は懲りもせず虚言と誇大宣伝を並べ立てて自慢することが得意である。3月5日から13日まで開催された全人代では、初日に李克強首相(当時)が演説した。

GDP成長目標を5%とし、22年は「コロナ禍と不動産不況にも拘わらず3%伸びた」と白々しい噓を報告した。李克強は報告書を読みあげながらも、忸怩たる思いがあったのではないか。



都市の新規雇用は1200万人、失業率を5.5%とする。インフレ抑制を3%前後とし、赤字国債の上限はGDPの3%とする。また食糧5000万トンを増産する等とおおよそ達成不可能な数値目標を羅列した。

政府活動報告で目立った表現には「習近平同志を核心とする党中央の力強い指導」、「習同志の核心としての地位と習を中心とする党中央の権威を守る」など、時代錯誤の修辞が続き、「貧困脱却堅塁攻略戦に勝利する」との抽象的で意味不明な表現がある。要するに貧困層を減らし、皆の暮らし向きが良くなるように努力すると言いたいのだ。

内需拡大の項目では「地方政府特別債は3兆8000億元〔76兆円〕とする」とあって、表現に隠れているが、地方政府債務を新規債券発行で肩代わりし、当面誤魔化せと言っているようなものである。


地方政府が乱発した債券は既に1000兆円を超えた(公式には900兆円前後)

地方政府が乱発した債券は既に1000兆円を超えた(公式には900兆円前後)。
名指しはしていないが欧米のサプライチェーンの分断に関して「製造業の重要産業チェーンに関して国を挙げて重要な核心技術をめぐる難関を乗り越え、ハイテク研究開発と応用促進を加速する。デジタル経済をおおいに促進する」とした一方で、「外資の市場参入規制を緩和し、TPP加入交渉を推進する」と主張した。

同時に「金融」と「香港、マカオ、台湾」の項目で、政府活動報告は何を言ったのか。「習近平の強軍思想」を貫徹し、環境にも取り組むとしたうえで、金融では「監督監査を強め、地域性、系統性金融リスクを回避する。大手不動産企業の経営危機に対処し、負債比率を改善し、無計画な拡大経営を防ぎ、不動産の安定成長をうながす」。このため「地方政府の債務リスクを防止・解消し、債務期限構造を改善し、利息負担を低減し、新規発行額を抑え、債務残高を削減する」とした。

この箇所を裏読みすると不動産は無謀な計画で大借金の山を築いたが、利下げと期限を延ばして救済措置をとるという意味だろう。そして、なんとか市況の暴落を防げないものかと言っているのである。

「昨年の不動産投資は前年比10%減。それだけでGDPは3%の下落圧力になる。それでも実質3%の成長をとげたとは信じがたい」(田村秀男氏『産経新聞』3月18日付)。

ちなみに全人代が終わった3月20日、習政権の首席補佐官となる中央弁事処長に蔡奇が指名され、また香港マカオ弁事処主任は丁薛祥が指名された。ふたりとも昨秋の党大会で政治局常務委員に抜擢された習近平側近である。

地方銀行では、あちこちで取り付け騒ぎ倒産が相次いでいる

中国の地方銀行では、あちこちで取り付け騒ぎがおこり、倒産が相次いでいる。
日本のメディアが大きく伝えないので、現地の深刻な状況が分からないかも知れない。この銀行経営危機という中国経済の病理は末期がんである。静かに進行し、やがて死の床につく。

直近でもクレディスイスのAT1(永久劣後債)の紙くず化が間接的な引き金となって、中国の中小の4つの銀行の債権利回りが急上昇した。

湖北省の農村商業銀行と荊門農村商業銀行、山東省の煙台農村商業銀、遼寧省の営口銀行で、23年3月末の償還を見送ったのだ。中国全体の劣後債償還額は400億元(8兆円)。23年上半期に償還のピークがくる。

内モンゴル自治区フフホトといえばレアアース景気に沸騰しているところだが、一方で、地元の「包商銀行」は3年前に倒産した。

これを皮切りに、河南省、安徽省、遼寧省などの村鎮銀行(田舎の信用組合のような小規模な金融機関)が口座を凍結したりした。包商銀行はインサイダー取引の黒幕だった肖建華が、監督の届きにくい地方銀行にテコ入れして、株式取引や大がかりな投機行為の財布替わりに活用していた。肖が香港のホテルから拉致されて行方不明となり、不正融資の実態が露呈した。

抗議集会に介入し、参加者を暴力的に排除

2022年7月には杭州市、南京市などで預金者が人民銀行支店を取り囲んで抗議した。とくに河南省では人民銀行支店前に3000人が座り込んだ。地元銀行の40万人の口座がいきなり凍結されたからで、ほとんどが小口預金の農民だった。全土に同じ動きが見られ、公安系の屈強な男たちが抗議集会に介入し、参加者を暴力的に排除した。

遼寧省の遼寧農村商業銀行は22年8月に倒産した。原因は同行トップが賄賂をとって不正融資を拡大していたからだった。同行は瀋陽農商銀行が事業を引き継いだ。遼寧太子河村村鎮銀行も倒産した。

政府はこうした不良債権処理に邦貨換算で、1人当たり1000万円までの保証をしているが、2018年から22年末までに注ぎ込んだ不良債権処理の総額は627行、52兆円(2.6兆元)にもおよぶ。さらに銀行監査監督委員会、財務省ならびに人民銀行は289行に2兆7000億円弱(1335億元)を注入した。砂漠にジョウロで水をやっても何ほどの効果も期待できないが、信用不安をとりのぞこうと当局も必死なのだ。

政権中枢に経済通がいない

それでも中国のあまたある銀行の闇を解決出来る見通しはない。
5大銀行は中国工商、中国建設、中国農業各銀行に中国銀行、そして交通銀行である。ついで有力なのが浦東発展銀行、上海銀行など。これらは国有もしくは公有であって倒産の心配はないが、地方銀行、郵貯のたぐいから農村などの信用組合などは、「信用」の看板があっても信用できないのだ。

第一に中国の人口動態の激変である。農村から都市への移住が激しく、地方銀行の疲弊がある。第二に地方政府の債務の「融資平台」で債権デフォルトの爆発がみられる。

これを「隠し債務」というが、公式に900兆円(45兆元)。このため政府は地方債起債の再開を黙認し、ハイテク都市建設債とかグリーン債とか、じつに適当な、しかも薔薇色の投資だと銘打って金利8%以上のおまけ付きで売り出した。運転資金であって新規投資のためでないことが明らかだから一般民衆はそっぽ、国有企業や保険会社が買わされている。悪循環である。

共産党の直接管理としたため見通しはますます暗い


第三はネット銀行が興隆し、若者ならびに都市生活者がネット上に口座を開設、既存の銀行から預金を取り崩した。

第四はもっと本質的な中国の汚職文化である。銀行トップが融資先から賄賂をとって、不正融資と知りながら裁決するのだ。これらは不動産開発などに振り向けられた。

第五に不正融資先の多くがマフィアなど犯罪集団で、地元の共産党幹部とグルになっているため将来の焦げ付きがわかっていても断れないという地方の暗黒面が反映している。

中国政府は「救済合併」という手段で倒産銀行をほかの地方銀行に押しつけ、事態の沈静化を計った。しかしマグマはくすぶり続けている。その一方で、倒産した不動産デベロッパーに巨費を注ぎ込んで、救済を図るとはナニゴトカと、預金者の不満が爆発寸前である。

習近平は独裁皇帝、なにごとも自らが決済する。それゆえ直面する金融危機にあたって、強権的立場をさらに強化した。経済政策は国務院の専管だった。これを取り上げ共産党の直接管理としたため見通しはますます暗い。


自分の権力のもとに総てを集中させる党独裁熱中症候群

経済通の李克強も王岐山も周小川も不在となった、かろうじて対米交渉をやってきた劉鶴もお払い箱、習近平独裁3期目の政権中枢に経済通がいない。

にも拘わらず党が金融行政を直轄するとしたため、党中央に「中央金融委員会」と「中央金融工作委員会」を設置した。

また中国銀行保険監督管理委員会を基礎に国務院に「国家金融監督管理総局」を新設した。改革の第1弾は銀行員の給与引き下げだった。従来、職員の給料は公務員の2倍以上あった。

習近平は行政組織をいじくるのが好きで、軍のシステムをまず7大軍管区から5大戦区として、次に4大総部(総政治部、総参謀部、総後勤部、総装備部)を15の部局に分割した。軍人の不平たらたらだったが、要するに自分の権力のもとに総てを集中させる党独裁熱中症候群に取り憑かれているからだ。

すなわち中央軍委の「7大部・庁」となったのが中央軍委弁公庁、中央軍委聯合部、中央軍委政治工作部、中央軍委後勤保障部、中央軍委装備発展部、中央軍委訓練管理部、中央軍委国防動員部である。

習近平独裁への忠誠を競うような組織改悪

中央軍委「3大委員会」は中央軍委紀律検査委員会、中央軍委政法委員会、中央軍委科学技術委員会である。

そして「5大弁公室・署・局」とは中央軍委戦略計画弁公室、中央軍委改革・編制弁公室、中央軍委国際軍事合作弁公室、中央軍委審計署、中央軍委機関事務管理総局。それぞれが細かな任務も分からずに右往左往していた。

4大総部体制では軍を動かすのは総参謀部であり装備品、武器の開発、保管などは装備部だから汚職の巣と言われた。総政治部が権力を持っていた。

現在の15の部局では、いったい誰が、どの軍人が軍を掌握しているのかが不明となり、結局効率的な軍の運営という目標ではなく習近平独裁への忠誠を競うような組織改悪である。

チャイナウォッチャーのなかに中国の体制を「地方分権的全体主義」と呼ぶ人がいる。「習思想」などと意味不明の個人崇拝体制で行政と経済政策が、最高指導部管轄となれば、国務院以下の中央官庁の存在意義はどうなるのか?

いうまでもなく行政機構は無力化し、無骨格状態となり、党中央独裁、いや個人独裁の毛沢東時代と変わらなくなる。

香港とマカオの「一国二制度」の方針を揺るがさずに貫徹すると唱えながら(すでに反古となっているが)、「法に基づく統治を堅持する」とした。香港とマカオの自治を踏みにじったが、「法に基づく統治」と言うのは、その後、勝手に作った共産党支配の合法化のための「新法」を指す。

政策に柔軟性を希求するのは無謀だろう

台湾についても「新時代の党の台湾問題解決の基本方策を貫徹し、独立反対、祖国統一促進を貫き」、「祖国の平和的統一への道を歩む」などと「平和的統一」の美辞麗句を並べただけだった。

そして金融、治安、ハイテクが共産党の直接管理となった。ここが一番重要なポイントである。

西側の制裁に対抗し、習近平が統制を強化する目的がある。つまり国務院がこれまで専管事項としてきた分野も共産党直轄になったわけだ。

治安では公安、国家安全部と戸籍の管理を共産党内務工作委員会へ移管する。金融では人民銀行と金融監督部署が共産党のふたつの委員会に権限移管され、科学技術と教育部門が党の専門委員会の直轄となる。

人事面では新首相に経済のド素人、李強が任命された。前任の李克強は北京大学経済学博士号。続投が決まった易鋼(人民銀行総裁)はイリノイ大学博士号を持つ専門家だった。

国家副主席には韓正が選出された。王岐山前副主席は完全な引退に追い込まれた。しかし人民銀行総裁に居座ることになる易鋼は中央委員候補からもすべり落ち、もはや飾りでしかない。胡錦濤時代に人民銀行総裁だった周小川にはやや独自政策の裁量権があったが、金融も共産党直轄となれば、政策に柔軟性を希求するのは無謀だろう。まして経済の回復なんて!

中国は米国と並ぶ「特許大国」となったそうな

こうみてくると以下の報道がいかに白々しいか。

中国は米国と並ぶ「特許大国」となったそうな。実態は研究論文と申請件数のおびただしさで、他人の論文の剽窃や横取りも多い。ただしこれからもつれるであろう難題は、日本や米国と中国との共同出願による特許がかなり存在することである。中国と共同研究をすること事態が間違いだったのである。

とくに中国の特許はEV、スマホ、太陽光パネル、電池、レアメタルなどの先端分野に集中している。中国はこれら共同特許も解釈変更で中国の特許としている。トヨタは中国との共同特許が30件、まるで人質ではないか。

筆者が『日米先端特許戦争』を書いたのは1983年で、そのときから防衛直結特許は非公開とすべきだと主張してきたが、2022年になってようやく国家安全保障に関する特許の非公開が決まり、予想される特許収入は国が保証するという制度ができた。39年かかった。

国際学会での論文数では米国を抜いて中国が1位である。以下、韓国、台湾、日本とつづき、技術大国だった日本の地位低下が顕著になった。10年後に日本人のノーベル賞受賞者はいなくなるかもしれない。

米国企業での問題は、研究者の中に圧倒的に中国人が多く、わけてもテスラの技術陣は中国人が過半である。つまり中国人エンジニアが不在となると、世界各地で生産効率が下降する。一方、中国のBYDがついにテスラの売れ行きを抜いたのである。

西側企業の中国撤退が続いている

BYDはバッテリーメーカー・比亜迪公司の子会社で、前身は西安秦川自動車だった。同社倒産後、比亜迪が買収し2003年に設立した。2010年には日本の金型メーカーオギハラの館林工場を買収した。中国政府のEV補助金を受け、EV販売数では世界一となった。

それにしても脱炭素、環境保護という左翼運動の余波で世界の自動車メーカーがEVに傾斜したことは、ガソリンエンジンが主力の日米独の自動車産業を落日に追い込んだ。しかしEVの今後の発展が電池技術にあるばかりか、充電の必要があるから電気需要が増大することも明らか。発電には石炭、原油、ガスが必要であり、脱炭素にはならないという皮肉な結論がでる。EU諸国は2035年のガソリン車撤廃目標を降ろした。ハイブリッド車は残るのである。

また太陽光発電は寿命10年、雨が降ると役に立たずあちこちで不評な上、熱海の山崩れの原因とされ、勢いが削がれた。太陽光パネル生産も中国が世界一だった。

西側企業の中国撤退が続いているうえ、日米欧は中国へのハイテク輸出を規制し、米国はブラックリストを公表し、日欧にも協力を要請した。とりわけ半導体装置では日本とオランダが米国と協議し輸出停止を申し合わせた。

海外マネーの逃避が続出している

欧米ファンドも中国から引き揚げをはじめ、中国をのぞく新興工業国家群への投資に分散、米ファンドの日本向け投資は中国へのそれの2倍近くになった。ベトナム、インド、マレーシア、豪州などへ、ハゲタカファンドのKKRやブラックストーンなどの巨大ファンドが投資対象を切り替えた。この2つのファンドは日本への投資拡大を目論んでいる。

中国株への投資も海外マネーの逃避が続出している。アリババ、JD、美団など中国のハイテク企業株から足を洗っているのだ。

かような情勢変化に直面する中国が5%成長を遂げるという習近平の方針は、張り子の虎(ペーパータイガー)としか言い様があるまい。

国際金融危機!米中メルトダウンの結末(ビジネス社)

宮崎 正弘

2023年5月17日

1,650円

248ページ

ISBN:

978-4828425313

米国・シリコンバレー銀行の経営破綻から始まり、米国の銀行、数行から1日に400億ドルが預金口座から蒸発した。
IT系のベンチャー企業に無理な融資を行い、焦げ付きが生じたと言われている。
さらにクレディスイス銀行、ドイツ銀行などEUの金融大国にも危機が飛び火。中国の資産家や企業も打撃を受ける事態に!
世界経済のバブルが弾ける。そのとき日本経済は生き延びられるか?ドル基軸体制は、いつまで持つのか?
国際資本の伏魔殿の最新情報!

GAFAM黄金時代の終わり/中国経済の大陥没/ウクライナの怪しいマネーが招く大混乱
次の世界恐慌が目前に迫る。


[本書の内容]
ジャック・マーに帰国をうながした中国政府/米国主導だったグレートゲームは終了する?
米国の分裂状態は悪化する/政権中枢に経済通がいない
金融も共産党直轄になるなんて!/海外マネーの逃避が続出している
米国の対中制裁「ブラックリスト」は651社/中国のZ世代は何を考えているのか
それでも中国への油断は禁物/「ドル基軸体制の終焉」が警告され始めた
●もくじ
プロローグ リーマンショックの惨状を超える未来の国際金融の疑獄図
第1章 SVB、シグニチャー銀、クレディスイスの破綻は「金融恐慌」前夜
第2章 米国は中国に勝てるのか?――GAFAMの黄金時代は終わった
第3章 ウクライナの伏魔殿が導く大混乱
第4章 中国経済の大陥没が起きる
第5章 グローバル・パワーとして振る舞いだした中国
エピローグ 大きく揺らぐドル基軸体制

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください