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「育てられたように育てたい」「自分を認めてくれなかった母親の呪縛から逃れられない」自由に遊ばせるイベントで子供に指示を出しまくる高学歴親たちの身勝手

集英社オンライン / 2023年6月16日 9時1分

高学歴な親ほど子育てに悩むというのは本当なのだろうか。多くの実例に接し、いくつかの理由と傾向を明らかにした『高学歴親という病 』(講談社+α新書) から、一部抜粋・再構成してお届けする。

#2

4~5年前くらいから、子どもが自分から工作を始めなくなった

ある親子イベントに参加した日のことです。
「子どもたちがさ、何かおかしいのよ」

木工工作の体験コーナーを提供している女性が主催者の方に訴えている内容が気になり、つい首を突っ込んで話を聞かせてもらいました。

何年も前からこのイベントに参加されているこの女性によると「4~5年前くらいから、子どもが自分から工作を始めなくなった」というのです。

床に敷いたビニールシートの上には、いろいろな形をした木片を山のように置いてある。それらを自由に使って、ボンドで貼り付けて好きなように作っていくという、いかにもワクワクする体験コーナーです。子どもを自由に遊ばせて「親は離れたところから見守りましょう」がコンセプトでした。子どもたちは「わーい!」と飛びついて、ガシガシ作り始める――そんな姿が見られました。


親がべったりと子どもに張り付いたまま離れない

ところが、女性が話したように子どもたちはなぜか「途方にくれる」ようになってきました。この変化に呼応するように、親がべったりと子どもに張り付いたまま離れないケースが目立ってきました。結果、途方にくれる子どもに親が指示して木工作品を作らせてしまうのです。

「ほら、その出っ張った角に、あっちにある丸い木片だよ。ううん、それじゃない。その隣のやつ。そう、それをくっつけたらいいんじゃない?」

そんなふうに、永遠に指示を出していました。それに子どもは素直に従うのです。
以前なら子どもが木片をどんどんくっつけていって、気づいたら自分の背を越える巨大作品になってしまい、「持って帰れなーい!」なんていう面白いことも結構あったそうです。

子どもがどんどんおかしくなっている

「でも、最近はそういうのもまったくなくなったわね。電車に乗るときに恥ずかしいとか、家に置く場所がないとか、大人はいろいろ考えるのでしょうね」
体験コーナーの提供者である女性は残念そうでした。

実はこれ、2016年の話です。その後、また子どもが飛びつくようになったとは聞きません。この女性や、子どもにかかわって三十数年になる私は、日本の子どもの姿を縦断的に見続けています。それゆえ「子どもがどんどんおかしくなっている様子」がよく見えます。

これに対し、現在進行形で子育て中の親は、自分の子どもと同じ年齢群しか見られません。つまり、見方が横断的なため「みんなそうじゃん」とそこまで気になりません。

女性は6年前に「工作をしなくなったのは4~5年前」と指摘しているので、少なくとも10年ほど前から確実に変化しているのです。

多くの親は子どもを自由に泳がせることができない

これは怖い。かなり警戒しなくてはいけない。何か手を打たなくてはと考えたとき、修正すべきはやはり大人、親のほうだという結論に達しました。

大人に見守られつつ自由に泳がされることで、子どもは初めて自分で考えて行動できます。その結果、時に失敗して叱られたり、怖い思いをしたり、恥をかいたりします。このことが記憶に残って「以前はこうして失敗したから今回はこうしよう」と修正できます。このトライ&エラーを繰り返すことで成長し、脳内に「抑止力」も作られるのです。

ところが、多くの親は子どもを自由に泳がせることができない。自ら考える力、課題解決能力や主体性を、実はわが子に植え付けていないどころか奪っているのではないか。そんな疑問を持ち続けてきた私はこの後、親たちが内面に抱える問題を突き止めるのです。

見事にへこんでしまったグラフ

親子イベントを訪ねた翌年の2017年のこと。

「うわっ、やっぱり見事にへこんでるね~」

そのグラフを見た私は、思わず声をあげました。私が勤務する文教大学教育学部の学生2人が、親の養育態度を「親自身の自己評価」と「子どもから見た親の客観的評価」という2つの角度からあぶりだす調査を開始。5つの領域で10項目に分かれた心理検査(TK式診断的新親子関係検査)の第1回目の結果に、目を見張りました。

・親が子を拒否する態度である「不満」「非難」
・親が子に対し支配的になる「厳格」「期待」
・親が過度に世話を焼き、過保護といわれる状態になる「干渉」「心配」
・親が子に服従するような態度になる「溺愛」「随順」
・親が子に伝えたことと、実際の行いが異なる「矛盾」「不一致」

『高学歴親という病』より

グラフをよく見ると「干渉・矛盾・溺愛」の3つがぺこんと落ち込んでいる

検査の平均値を表したのが十角形のグラフです。得点が低いほど子育てに問題があることを示しています。50パーセンタイル(統計の代表値)より上は安全域とされ、その方の子育てはOKです。20~50パーセンタイルは中間域。20パーセンタイルより下は危険域なので、子育ての見直しが必要です。

グラフをよく見ると「干渉・矛盾・溺愛」の3つがぺこんと落ち込んでいることがわかります。協力してもらった親子は6組と数は少ないものの、この3つがとくに低く、危険領域に近くなっています。

上述したように「干渉」は口出ししすぎる、世話を焼きすぎること。「矛盾」は、親の言動が子どもから見ると矛盾に感じてしまうこと。最後の「溺愛」は字の通り、猫かわいがりして過度に甘やかすことです。

自由に遊ばせる目的の催しで干渉しまくる親

これらが子育ての三大問題であるというひとつの結果は、私自身がずっと感じてきたことと一致しました。この調査に協力してくれた親子を含むアクシスの会員さんにも、病院の外来で出会う親子にも散見される要素でした。ちなみに協力してくれた親子は、私たちアクシスがかかわることですべての値が見事に良くなりました。それについては後の章で詳述することにします。

思い起こせば、木工工作で「ほら、その出っ張った角に」と指示した母親も同じです。自由に遊ばせ見守るのが目的のイベントに参加しているにもかかわらず、干渉しまくるという矛盾がうかがえます。親御さんたちはわが子への愛は非常に深い。ただ、少しだけ愛情の方向性や表現方法が間違っているのです。

「育てられたように」育てようとする高学歴親

では、干渉・矛盾・溺愛の三大リスクを抱えるのは、どんな親でしょうか。

ある自治体の支援機関で、ヤスコさんという女性に出会いました。会社員で役職に就き、輝かしいキャリアを積んでいました。夫も一流企業勤務。私立中学校に通う長女と、同じく私立の小学校に通う次女を育てる、絵に描いたような高学歴夫婦でした。

それなのに中学校に通う長女の暴力に悩んでいました。気に入らないことがあると暴れ出すため、ヤスコさんも娘に手を上げてしまうと言います。

最も衝撃的だったのは、長女が次女の制服をハサミで切ってしまったことでした。切り刻まれたスカートやブラウス。泣き叫ぶ次女。ヤスコさんは激しい怒りにかられ、長女に暴力をふるってしまいました。

私は正しい子育てをしようってずっと思っていました

実はヤスコさん自身、妹と2人姉妹で実母との間に深い確執がありました。長女であるヤスコさんは必要以上に厳しい態度をとられていたのに対し、妹は明らかに贔屓されていました。感情の起伏が激しい母親の矛先はヤスコさんに向かっていました。母親の機嫌を損ねないよう気を遣う長女に対し、次女である妹は何をしても許されるのです。母親からの愛情が感じられず、辛い子ども時代を送っていました。

「すごくしんどかった。だから、私は正しい子育てをしようってずっと思っていました。自分と妹が育てられたような育て方をしてはいけない。私はちゃんとした子育てをするんだ。そう思いました」

実母を反面教師にしてきたはずなのに、結局おまえは同じ子育てをしていたではないか――切られて布の山になった制服が、ヤスコさんがやってきたことを全否定しているかのようでした。

自分を認めてくれなかった母親の呪縛から逃れられない

とはいえ、ヤスコさんは特異な母親ではありません。子育て中のお母さん、お父さんの多くが、「自分の親は子どもをすぐに叩く人だったから、私は叩かないようにしよう」「話を聞いてくれなかったから、僕は聞く耳のある親になろう」と一度は決意します。ところが、自分が経験したパターンしか知らないため、つい育てられたように育ててしまいます。自分の親の子育てに疑問を持っているのに、無意識のうちに親を真似てしまいます。

ヤスコさんと話をすると「自分はダメな人間だ」と自己肯定感の低さやコンプレックスが見受けられました。高学歴で社会的な地位もあるのに、自分を認めてくれなかった母親の呪縛から逃れられないのです。常に不安がつきまとうので、感情が乱されやすい傾向にありました。

夫のほうは、私との面談に一度だけやって来ました。妻に言われ嫌々ながら、だったのでしょう。険しい表情で持論を語り始めました。

「仕事は管理職です。私の中のポリシーに従って人付き合いというか、人とのかかわりをすごく考えてやってきた。私が築き上げた人間関係のルールというものとは、娘は真逆の行動をしている」

いかに自分が正しくて、いかに娘が悪いか語りだす父

そう言って、自分の娘がいかに間違っていて、自分が正しいかをとうとうと語るのです。

「娘が幼少期のころも、私が良かれと思っていることを伝えたり、注意しただけなのに、娘からは反抗されるし、妻からは虐待に近いからやめなさいと叱られた。まったく承服しかねる。次女は私が言ったことを聞き取ってそのように行動して、学校でもうまくやっている。それなのになぜあの子だけ許容してあげないといけないのか。全く理解できない。だから、これ以上長女を受け入れる気はありません」

そして、最後に言った言葉が衝撃的でした。

「この子が生まれることが予測できていたなら、私は妻と結婚しなかったと思います」

自分の価値観が絶対なのでしょう。自分と異なる意見に対し非常に頑(かたく)なでした。

ほかにも、自分は親にスパルタで育てられたが、その教育のおかげでここまで来たという「生存者バイアス」がありました。サバイブ(生存)した、つまり何らかの苦しみを乗り越えた自身の感覚のみを基準として判断してしまうのです。サバイブできなかった側の気持ちを考えられないため、娘にも厳しく接していました。
その点は、高学歴で優秀な父親に見られる特徴のひとつでしょう。

さて、ここまで読まれた皆さんは、自分たちの子育てを否定されたと感じるかもしれません。しかし、私は親御さんたちの不安を煽りたいのではなく「正しい知識を持ってかかわれば、いつからでも子育てはやり直すことができ、子どもは良く育ちますよ」と言いたいのです。

『高学歴親という病 』(講談社+α新書)

成田奈緒子

2023年1月20日

990円

192ページ

ISBN:

978-4065302125

ノーベル賞科学者山中伸弥氏、推薦
「子育ては『心配』を『信頼』に変える旅――同級生の成田先生の言葉が心に響きます。
僕は成田先生を医師、小児脳科学者、そして人として、とても信頼しています」

山中伸弥氏との共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』が
ベストセラーになった子育ての第一人者・成田奈緒子医師、待望の続編。

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