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なぜオレオレ詐欺はアジアでだけ起こるのか。騙される親子の特徴…「高学歴親という病」と経済教育の失敗

集英社オンライン / 2023年6月16日 12時1分

高学歴家庭では比較的親が高収入で金銭的に余裕があるため、適切な経済教育をほどこさない傾向にあるという。それが大きな歪みを生み出している現代の問題を『高学歴親という病 』(講談社+α新書) から、一部抜粋・再構成してお届けする。

高齢女性のもとに息子さんをかたる男から電話

「振り込め詐欺(オレオレ詐欺)の実態と予防策について」
そんな特集のテレビ番組を、大学生の娘と観ました。警察が取り締まりに力を入れているけれど、近頃はいっそう巧妙になってきていました。詳しい個人情報を入手したうえで電話をかけてくるので、つい騙されてしまうようです。実際に被害に遭われた方が出演なさっていたのですが、その再現ビデオに私たちは顔を見合わせました。



高齢女性のもとに息子さんをかたる男から電話がかかってきました。最初はただの雑談だけで終わらせ、信用させたうえ、2回目の電話でお金を請求されたそうです。

副支店長になるまで一生懸命頑張ってきた息子が…

「オレだけど、仕事でお客さんに損失を出させてしまった。今日中に80万円補填しなければ、大変なことになってしまう」

それを聞いた親御さんは、疑いもせずに急いで言われた口座に80万円振り込みました。

「そのときの心境は?」
インタビュアーの質問に、女性とその夫は口を揃えてこう言いました。

「副支店長になるまで一生懸命頑張ってきた息子が、こんなことで支店長の座につけなくなったらかわいそうだと思った。もう無我夢中でした」

40代の息子の”ミス”にポーンと80万円も出すのか

銀行の副支店長であれば、すでに40代は超えています。そんないい大人の息子に「ミスしちゃったの? かわいそう!」と80万円もポンと出すなんて。

娘はすぐさま「うわ~、ありえない!」と声をあげました。

「そもそも自分のミスなのに、なんで親に電話するわけ? そんなの私だったらありえないし、電話したとしてもお母さんに『それで?』って言われて終わりそう」と首を横に振っています。

その通りです。もし娘をかたる悪人から同じような電話がかかってきたら、私はきっとこう言います。

「ほう、それは大変だったね。え? 支店長になれない? そもそもあなたが支店長になりたいと思うことにびっくりするね。うちの家の子にそんな価値観が育ったとは……。なんか、えらいやん!」

たぶん悪人は面喰らって電話を切るでしょう。

振り込め詐欺は欧米ではあまり聞かれない

ところで振り込め詐欺は欧米ではあまり聞かれない犯罪です。聞くところによると、この類の親ごころを刺激する詐欺は、日本、韓国、中国など東アジア特有の犯罪だそうです。警察庁によると2020年の息子などになりすます「振り込め詐欺」被害は6407件、被害総額は126億1000万円と恐ろしい額です。

この犯罪、私は極めて日本的な親子の共依存関係が根底にあると感じます。親が子を「かわいそうだから」「心配だから」とすべて手助けしてしまう様子が透けて見えます。私たち日本人は、もしかしたら振り込め詐欺被害に遭いやすい親子関係を形成しているのかもしれません。

金銭感覚がズレている高学歴親

さて、米国では、子どもの誕生日に祖父母などの親族が株を買ってあげる慣習があります。よって、子どもにとって投資は身近なものです。お金を自分の力で増やしていくことなど、早くから経済教育を受けます。そうやって金銭感覚が養われていくため、大学に行きたい高校生は自分で奨学金を獲得すべく良い成績を取ろうと必死です。

一方、日本の子どもは「お金はほしいときにほしいだけ親からもらう」「大学は親が行けというから行くけど、特にこれを勉強したいというものはない」などと平気で発言します。塾代や習い事にかかる費用など、月に数万円ものお金を親に払ってもらっている自覚はまったくありません。わがまま勝手に「今日は行きたくないから休む」と言ってしまう子どもは、その習い事1回分の料金を稼ぐための労働がいかほどのものか理解しているようには見えません。

こうなってしまうのは、お金の有り難み、つまり「お金の価値」を、親が子どもに叩き込んでいない、それをやる煩わしさを避けているからです。にもかかわらず、なぜか「これだけ子どもにお金をかけているのだから、見返りとしていい大学・いい会社に入って高収入になってほしい」と期待しています。

お金は湧いてくるもの――そう子どもが思ってしまうかもしれない

この様子は、大きな歪みに映ります。子どもにお金の価値を理解させなくてはいけないのに、高学歴家庭では適切な経済教育をほどこさない傾向があります。親が高収入で金銭的に余裕があるからです。

そんな人たちが口にするのは以下のような言葉です。

「自分が受けた恩恵を子どもには受けさせたい」
「自分は塾に通わせてもらって中高大と私立を卒業したから、子どもにもそれを味わわせてやりたい」

このように自分の良かった経験を子どもにさせたい人もいれば、自分自身が富や学歴を手にするのに苦労した高学歴親のなかには、貧しかったことがトラウマになっている人もいます。彼らはこう言います。

「子どもに苦労させたくない」
「お金の苦労はさせたくない」

前者、後者ともに、子どもの塾代は惜しみません。経済教育を受けなくても成功する子どもはいるのでしょうが、私のところにやってくる親子は明らかにつまずいています。子どもにお金をつぎ込んだことが裏目に出ています。

お金は湧いてくるもの――そう子どもが思ってしまうかもしれないという戒めが、特に足りないようです。

こづかい制を敷いていない家庭が多い

具体的な話をすると、こづかい制を敷いていない家庭が多いのです。子どもが何かほしい、これが必要なんだと言えば、お母さんはその内容をあまり精査せずお金を渡してしまいます。もっと言えば、たとえば3000円ぐらいのものが欲しいと言われると、5000円札1枚を渡して終わります。おつりの2000円はバックしなくてもよいことになります。

百歩譲って必要なものを買ってあげるのは良しとしても、対価交換できる以上のお金を与えるのはいかがなものでしょう。

このゆるゆるの経済観念は、そのまま子どもに伝播するようです。私が出会った子どもで、親の財布からお金を盗んだり、万引きするといった金銭トラブルを起こしたケースのほとんどが、こづかい制ではありませんでした。いわゆる「大人の引きこもり」と言われる成人男性で「親のすねがなくなるまでかじる」と言い放つ人もいます。私が「親のすねがなくなって、お金がなくなったらどうするの?」と言うと、黙り込んでしまいます。

経済教育の失敗が大きいと思います

端的に言えば、経済教育の失敗が大きいと思います。上述したように高収入世帯が多いため、いわゆる「子ども費」が無限大に膨らんでしまうのです。

子ども費とは、子ども一人を成人させるまでにかかるお金を指します。「インターネットによる子育て費用に関する調査報告書」(Like U)によると小学生にかかる子育て費用は食費、教育費などを含め月平均約10万円だそうです。年間にすると120万なので、世帯年収400万なら子ども費は約30%と幅を取ります。ところが年収1000万なら家計に余裕があるため、どんどんお金を使ってしまう傾向があります。そういった親御さんたちは「子どもの幸せのためにも、お金で苦労させたくない」とおっしゃいます。

しかし、それが良いことだと私には思えません。どんなにお金があってもリミッターを設定し「子どもにはそれ以上は使わない」と決めておくほうがいいと考えます。そのリミッター設定のひとつの方法が「こづかい制」です。

月々決められたお金しか使えない。大きなものを買いたかったら貯蓄する。そんな当たり前のことを子ども時代から経験させることが大事です。そういった経験を積んでいない子どものなかから、カード破産をしたり、サラ金地獄に陥る大人が生まれるのだろうと想像します。

『高学歴親という病 』(講談社+α新書)

成田奈緒子

2023年1月20日

990円

192ページ

ISBN:

978-4065302125

ノーベル賞科学者山中伸弥氏、推薦
「子育ては『心配』を『信頼』に変える旅――同級生の成田先生の言葉が心に響きます。
僕は成田先生を医師、小児脳科学者、そして人として、とても信頼しています」

山中伸弥氏との共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』が
ベストセラーになった子育ての第一人者・成田奈緒子医師、待望の続編。

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