アダルトメディア研究家としてエロや風俗カルチャーの歴史を追い、今年2月には『日本AV全史』を上梓した安田理央氏(55歳)。20代から多くのアダルト雑誌に関わり、AVや風俗について執筆してきた安田氏だが「最近、以前のように仕事への意欲がなくなっちゃって困ってるんだよね……。気づいたらチャットGPTに官能小説を書かせることに熱中して、1日が終わっちゃったり」と嘆く。詳しく話を聞いてみた。
「自分だけは性欲はなくならないと思っていたのに…」チョコボール向井、カンパニー松尾らアダルト業界のレジェンドたちが打ち明ける50代「性欲の壁」
集英社オンライン / 2023年6月16日 17時1分
シリーズ累計部数684万部突破の養老孟司先生の『壁』シリーズ。現代人の抱えるさまざまな問題の根本について語られているが、男にとって重大なあるひとつの「壁」がある。それこそが50代で迎える「性欲の壁」だ。今回、AV業界に携わる3人の男性に、この高くそそり立つ壁について聞いた。
「40代までは性欲がなくなることはないと思っていたが…」
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フリーライターでアダルトメディア研究家の安田理央氏
「ふたりの子どもは成人していて、そのうちひとりは家を出たこともあって、以前のようにがむしゃらに働く必要がなくなったのも大きいかもしれない。
だけどそれ以上に深刻なのが、AV女優に対して性的な興奮を心の底から感じなくなってしまったこと。
性的興奮はアダルトな記事を書くときにはすごく大事で、特にビデオのレビュー執筆の場合、それがないと女優のエロさを読者に訴えかけられない。それなのに自分自身の心が動いてないから、書いていて後ろめたさを感じちゃうんですよね……」
仕事柄、風俗店などに行く機会も多かったが、「そこにお金や労力を使うのがなんかもったいないなという気分が強くなり、行かなくなった」という安田氏。
その代わりに自分に課していることはあるという。
「自慰行為だけは気づいたらやるようにしています。でもいずれはそれもなくなって枯れていきそうな気はしますが……(苦笑)」
このまま黙って枯れてしまっていいのか……安田氏はそんな問いに達観したように、こう答える。
「40代のころまでは、自分だけは絶対に性欲はなくならないと思ってたけどな。50代前半になって性欲の減退を感じて亜鉛やマカを飲みましたが、効果を実感せず。
さらにコロナ禍で家にこもる日々が続いて、失いゆく性欲も『こういうものだ』と受け止めるようになりました。
以前は風俗店のポイント集めにハマってたのに、今では妻とPayPayのポイント情報を共有するのが楽しみ。まぁ、皮肉なことに性欲がなくなった今が一番、夫婦円満ですね」
そう話す安田氏は性欲の壁を乗り越えようとはせず、壁沿いを歩いているといえるのかもしれない。
「フェチアイテムが勃起の助け」
では、日本のAV業界に“ハメ撮り”を定着させ、自身の代表作『テレクラキャノンボール』が劇場公開されるなど、自らが出演する作品でAVシーンに多くの影響を与えたアダルト業界のレジェンド、カンパニー松尾氏(57歳)はどうだろうか。
「もちろん年々、性欲は落ちていますが、自分が撮りたいものへの意欲はまだまだある。
僕の場合はTバック、ミニスカ、ストッキングという勃起直結のフェチアイテムがあるから、それに救われてるのかもしれない。
野球選手が『今日は肩が上がんないなー』と思っても、ユニフォーム着てブルペンに立ったら、肩が上がっちゃうみたいな。
みなさんも自分だけのフェチアイテムを見つけておくといいですよ」
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AV界のレジェンド監督、カンパニー松尾氏
今でも現役でハメ撮り作品を撮るという松尾氏だが、40代後半で性欲の壁にぶち当たったことがあるという。
「『テレクラキャノンボール』の撮影でどうしても発射できなかったんです。それを他の監督に打ち明けたら『まさかカン松さんが!?』と驚かれました。
僕自身も落ち込んだけど、それ以降はイケなくてもそれでよしとしよう、と思うようにしました。発射がないとエロとして完結しないことはない。それはそれとして受け入れよう、と」
男優は撮影のために、食生活など健康に気をつかっているイメージがあるが、松尾氏は?
「サプリは飲んでません。効きが緩めの勃起薬はたまにお世話になります。あと、撮影前日はしっかり睡眠は取ることを意識したり、毎日ストレッチしてます。
42歳で撮ったドキュメンタリー作品『YOGA』に出演したインストラクターさんから、ストレッチは心と体をつなぐと教えてもらったんです。
薬の力を借りないで、自分の体の現状を受け入れることもまた、心と体をつなぐことかなって思いまして」
体力と勃起力が続く限り「ハメ撮り作品は撮り続ける」と松尾氏。彼はいまだ性欲の壁を登り続けている。
「60歳でまた性欲が戻るんじゃないかと期待」
最後に話を聞いたのは、6000本以上のAVに出演した伝説のマッチョ男優、チョコボール向井氏(56歳)。男優を引退後の2017年、脳卒中に倒れ、左手足に麻痺が残るも、幡ヶ谷で「chocoball family」というバーを経営している。
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現役時代は6000本以上のAVに出演したチョコボール向井氏
「僕の中では40代がピークで(射精は)10回1セットが当たり前。42歳で現役引退する前までは、1日最大3現場をまわり、その撮影の合間にセフレの家で休憩がてら一戦するような暮らしでした。
そして51歳のときに脳卒中を起こし、左半身に麻痺が残って一時期は勃起力さえも失いましたが……結果的によかったと思っています」
何がどうよかったというのか。
「AV男優として絶頂期だった30代は年収2000万円以上で、ロレックスを買っていい部屋に住んで、ベンツを年に1回は買い換えるような贅沢三昧の生活。
40代でプロレスラーになって、新宿二丁目で店を始めたら暴飲暴食の日々で、自分の体なんて顧みなかった。
それが大病を患って自分の体と向き合えるようになったんです。
勃起力が戻ったのはここ2、3年。麻痺が残ってる右側の力がないからなのか、右曲がりなんですけど……これはこれでいいのかなと(笑)」
かつての性欲を失った向井氏。現在は食生活に気づかい、健康づくりのための毎日ジムに通っている。
「シュワちゃん(アーノルド・シュワルツェネッガー)が『パンプ(筋トレで筋肉が大きくなること)はカミング(性交渉のこと)だ』と言っていて、若い時はその言葉の意味がわからなかった。でも今ならわかります。筋トレは筋肉の勃起だと!」
そう話す向井氏だが、密かに「60歳になったらまた性欲が戻るんじゃないかと、淡い期待を抱いてます」と笑う。
老いてこそ人生。向井氏はまだまだ男として壁を突き破る可能性を信じている。
テストステロン分泌量と性欲の関係性
これまではアダルトシーンで活躍する男たちの声を拾ってきたが、一般男性はどのようにこの“壁”に挑むべきなのか。
内科泌尿器科の「マイシティクリニック」の院長で男性の健康寿命に深くかかわる男性ホルモン「テストステロン」の研究者として、熟年期障害の治療や高齢者の健康を守る取り組みを数多く実践してきた平澤精一先生に聞いた。
「男性の性欲や意欲の低下は男性ホルモンである“テストステロン”の減少が原因です。
10代後半〜20代前半をピークに減少し始め、40代に入るとその分泌量は急激に下がります。
これは生物学上、避けられない宿命です。その結果、意欲、やる気、性欲なども一気に減退する。
ただし、同じ40代〜50代でもテストステロンの分泌量が下がらないように意識して生活すると、比較的その現象をおさえることができます」
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そのテストステロンの減退を抑えられる生活習慣とは?
「普段からテストステロンの維持・上昇を意識した生活を送ることです。
具体的には、
『喫煙や深酒をしないようにする』
『ロードバイクのような前傾姿勢になる自転車に長時間乗って前立腺を圧迫しないようにする』
『タンパク質、ネバネバ食品を取り入れたバランスのいい食事と質のいい睡眠を心がける』
これらを意識することで、テストステロン値が維持されやすくなります」(平澤先生)
また、テストステロン値を上昇させるために重要な栄養素が亜鉛だ。
「亜鉛の含有量が最も多い食べものは牡蠣。亜鉛はサプリでも補うことができます。
それとアスタキサンチンという抗酸化物質の摂取も大事。アスタキサンチンは緑黄色野菜や果物に多く含まれるビタミンCや、サーモンの赤身、エビやカニなどの赤い甲羅に含まれており、老化予防の効果が実証されています」
エロの第一線にいる猛者たちでもぶつかってしまうほど、50代のとって性欲の壁は高く険しい。
だが、いつまでも現役でいようという気持ちこそが、男にとって大事なのかもしれない。
取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班
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