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タスクを早く処理できない原因は心のクセ? 「とっちらかる人」が仕事上手になるためのコツ

集英社オンライン / 2022年5月16日 8時1分

「仕事へのやる気はあるのに、つい遅刻してしまう」「タスクの締め切りを破り、いつも上司に怒られる」といった悩みを抱えている人は、実は少なくない。やる気とは裏腹に結果が出ないとき、どう対応したらいいのだろうか。産業医の森しほさんに話を伺った。

遅刻、締め切り遅延、電話でのミス……やる気と結果のミスマッチに苦しむ人々

——先生が日頃、会社員の方から受けている「仕事がうまくいかずに困っている」という相談の中には、具体的にどのような内容が多いのでしょうか。

「タスクを早く消化できない」「仕事の段取りが悪い」といったお悩みはとても多く、本人が困って相談に来られるケースもあれば、周囲の人から相談されるケースもあります。



例えば「何度も注意されているのに遅刻癖が治らない」という方。遅刻について上司に叱責されて反省文を提出していたり、処分もあり得ると厳しく指導されていたりするのに、なかなか改善できないというのです。

遅刻する理由は「朝出かける直前にいろいろと用事ができてしまうから」とおっしゃいます。一例を挙げると「朝の情報番組で冷蔵庫の掃除テクニックが放送されていたので、つい冷蔵庫の整理を始めてしまった結果、遅刻した」という具合です。

この方のクセは、目の前に出現したタスクにすぐに取りかかってしまうこと。他人から見れば、冷蔵庫の整理は、遅刻してまで行うほどのタスクではないのですが、本人は大真面目です。

——こうしたクセは、他の業務にも現れるのでしょうか。

そうですね。この方は仕事の能力は高いのに、優先度が高い業務を後回しにして優先度が低い業務に取りかかってしまうことが多々あるとのこと。

重要な業務に取り組んでるときに、偶然通りかかった他部署の人に「給湯室が散らかっているからきれいにしたら?」と声をかけられると、重要な業務を脇に置いて掃除を始めてしまうこともあったとか。

優先順位の高さを判断できずに仕事をしていると、当然ながら重要なタスクの締め切りを守れなくなってしまいます。

——電話に関する業務が苦手な方も多いと聞きます。電話対応に関する相談もありますか?

あるとき「仕事に行くのがつらい。仕事のことを考えると眠れない」と悩んでいる方がいらっしゃいました(※)。彼が心身に不調を来した直接的な原因は、電話対応に関する大クレーム。彼はもともと電話対応が苦手で、電話をとってメモを取りながら話を聞き、上司に報告するといった流れをこなすことが難しく、いつも頭が混乱してしまうのだそうです。

そんな彼が先日、電話で難しい質問を受けてしまい、保留にして調べていたところ、突然の来客があって電話を長時間放置してしまった……というのが大クレームの概要でした。

これをきっかけに、彼はさまざまな「苦手」によって、生きづらさを感じていたと吐露。電話が苦手という特徴を掘り下げていくと、「マルチタスクが苦手」や「耳から聞いた指示が残りにくい」という問題も明らかになりました。口頭で手順を説明されると右から左に抜けてしまい理解できず、上司からは「仕事の覚えが悪い」と指摘されていたのです。

こういった悩みを抱えている方は、決して仕事へのモチベーションが低いわけではありません。むしろ真面目で実直にお仕事に向き合っている方ばかりです。

※相談者が特定されないよう、表現に配慮しています。

苦手な業務が多いからといって「ADHD」だと悩む必要はない

——こうした相談をされる方には、何か共通点があるのでしょうか。

こうした困りごとを抱える方の中には、「ADHD(注意欠如・多動症)」と診断される方もいます。ADHDは、活動に集中できないなどの「不注意」と、待つことが苦手などの「多動-衝動性」が平均水準よりもひんぱんに見られる特性で、発達障害の一種です。この傾向が12歳以前より認められる場合には、発達検査などを行って診断します。

近年は「大人のADHD」という言葉もあり、大人になってから診断を受けるケースも増加しました。しかしADHDの厳密な診断基準を満たしていなくても、「生きづらさ」を感じている方はいらっしゃいます。たとえば以下のような困りごとですね。

・思考が散らかりがち
・ミスが多い
・場にそぐわない発言をしてしまう
・目の前に現れたタスクをつい優先してしまう
・聴覚よりも視覚優位
・計算はとても速くて正確

こういった特性を「発達障害」「ADHD」「グレーゾーン(ADHDの診断は下りないものの、近しい特性が見られる状態)」という言葉に結びつける方もいますが、そもそもこの分類には意味がないと考えます。

ADHDだからといって、ADHD専用の対処法があるわけではありませんし、グレーゾーンだからADHDの方よりも日常生活で支障を感じにくいわけでもありません。グレーゾーンにはグレーゾーンの辛さがあります。一人ひとり、得意なことや苦手なことがそれぞれ違うため、その方に合った対処が必要です。

精神は物理に勝る! 能力のデコボコは「仕組み」で解決

——今の話を受けて「自分はADHDやグレーゾーンかも?」と感じた方は、どのように対処すればよいのでしょうか?

「気合いで性格を変えよう」なんて考える必要はありません。得手不得手は誰にでもありますし、特性そのものは欠点ではありませんから。

大切なのは、日常生活で困った場面をしっかりと掘り下げて、トラブルを防ぐ仕組みを考えていくこと。意識を変えるのではなく物理的な仕組みを作って対策しましょう。

【仕組みで解決した事例】(困りごと/対処法)

仕事の締め切りを守れない
・タスクを細分化して細かく締め切りを設定する
・上司に進捗のチェックを依頼する

タスクの優先順位を判断できない
・重要なタスクを付箋に書き出してPCに貼る
・周囲の人にもタスクを見える化する

寝坊が多い
・家族や友人に電話で起こしてもらう

テレビの情報に気を取られて遅刻する
・朝はテレビをつけない

電話対応で聞くこととメモを取ることが苦手
・電話対応用のメモ用紙を作る(相手の名前、連絡先、要件を記入するフォーマット)

指示を聞きながらメモを取ることが難しい
・動画や写真を撮影して、視覚的に理解できるようにする

こちらでご紹介している事例はあくまでも、私が患者さんと向き合う中で見出した解決策であり、万人に効果があるとは限りません。しかし、似たような悩みを抱えている方にとっては参考になるのではないでしょうか。

「しっかりしないと」と自分を追い込まないで!

「しっかりしないと」と気を張り続ければ、自分が疲弊してしまいます。あなたはすでに十分にがんばっているからです。疲れ果ててしまわないよう、できる限り周囲を巻き込んでミスを防ぐ仕組みを構築してみましょう。「困った時は人に相談する」「ミスやトラブルの原因を一緒に考えてもらう」などは、当たり前に思えるかもしれませんが、非常に大切な取り組みです。

「自立」とは自分一人で物事を解決することではなく、「頼れる先をたくさん持つこと」だと思います。特定の人に頼りすぎるとその相手も疲れてしまいます。日頃から多くの人と良好な人間関係を築いておき、都度頼るようにすることは、社会人として大切なテクニックといえるでしょう。

日頃から感謝の気持ちを伝えておくこと、率先して周囲をサポートすることを心がけていれば、あなたが頼ることを先方が不快に感じることはありません。

とはいえ困りごとを抱えている方は、小さい頃から忘れ物やミスで怒られている方が多く、人とのコミュニケーションに不安を感じてしまいがちです。周囲の人に頼ることが難しい場合、頼ることがストレスに感じる場合には、勤務先の産業医や街の心療内科・精神科へ、気軽に相談してみましょう。

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