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『バカ』『飛ばすぞ』…若い社員には躊躇するが、40代にはこれくらい言ってもいいだろう…パワハラ被害者は圧倒的に40代のベテラン社員ばかりだった

集英社オンライン / 2023年7月10日 17時1分

いわゆる「氷河期世代」と呼ばれる時代に就職をした今の40代。「40代になればきっと肩書きがつくと信じていた」が、それも訪れず何者にもなれなかったと嘆く彼らの現実とは。『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』 (ワニブックスPLUS新書)から一部抜粋・再構成してお届けする。

パワハラ被害者は40代男性が圧倒的に多い

日本労働組合総連合会(連合)が実施した調査で、パワハラ被害者は圧倒的に40代男性が多く(42・4%)、次いで30代女性と50代女性(35・2%)だったことがわかりました(「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」より)。

上司・部下という構図から「パワハラ被害者=若手社員」をイメージしがちですが、実際には40代のベテラン社員が主たる被害者です。



パワハラの内容については、4割以上が「脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言などの精神的な攻撃」で、パワハラの行為者は、「上司」が77・5%と圧倒的に多く、「先輩」33・3%、「同僚」23・6%、「後輩」7・2%と続いています。

おそらく若い社員には「パワハラになるかも」と躊躇しても、40代なら「これくらい言ってもいいだろう」と思っている上司が多いのでしょう。実際、私の周りの「パワハラに遭った知人」もすべて40代。職場で、みんなの前で、日常的に上司に暴言を吐かれ、孤軍奮闘を余儀なくされていました。

40代男性が受けたパワハラ実例…
【証言8大手銀行勤務のユウキさん(仮名)40代後半】

「まるで見せしめでした。部下たちがいる前で、毎朝怒鳴られる。最初のうちは、自分をスケープゴートにして、若い社員たちに活を入れているんだろうと思ったので、頭には来るけど、さほど深刻に考えませんでした。ところが、だんだんとエスカレートしていった。人間って、一度でも『バカ』とか相手を冒涜する言葉を使うとたががはずれるんです。『飛ばすぞ!』とまで言われましたから。

部下がハラスメントされるくらいならと、必死で正気を保とうと努力しましたけど、もう無理でした。あんなふうに部下の前で罵倒され続けたら、部下を指導することもできません。だから、部下の後始末を自分でこっそりやったりしてね。そうしているうちに上司の前に行くと、震えが出るようになってしまったんです。

おそらく私の変化に周りも気づいたのでしょう。同僚から、『お互いうまくやろうぜ』と言われてしまった。ヤツは励ましたつもりだったのかもしれません。でも、ああ、やっぱり自分がダメなんだと、自分が嫌になりました。『もう、無理。このままだと潰される』と思って、異動願を出しました。

管理職が自ら異動を願い出るということは、昇進拒否です。悔しいけど、そうするしかなかった。とにかくあのときは限界でした」

ユウキさん(仮名)は厳しい就職戦線を乗り越え大手銀行に就職。封建的な空気が残るその職場で、最後の最後まで耐えました。同期にも、先輩にも、後輩にも、会社にも相談しませんでした。「そんなことをしても無駄。立場が悪くなるだけ」と考えた。いや、そう思わせる空気を職場で感じたのです。

お互いうまくやろうぜ──。同僚は一体、どういう意味でこの一言をかけたのでしょうか?

「おまえも大変そうだけど、オレたちも大変なんだよ」と、自分たちも同じようにパワハラを受けていると言いたかったのでしょうか?

あるいは、「おまえのやり方にも問題があるから、もう少しちゃんとやれよ」と、暗に彼にも問題がある、と言いたかったのでしょうか?

真相はわかりません。しかし、ひとつだけ確かなのは、〝傍観者〟である同僚もまた、「パワハラに結果的に手を貸している」という、歴然たる事実です。

日本特有のいじめ構造「四層構造」

実は傍観者がパワハラを加速させる構造は、日本特有のものと考えられています。「子どもの世界は大人世界の縮図」と言われますが、1980年ごろから日本も含め世界の国々で、「子どものいじめ」に関する研究が蓄積されました。その中で、日本には欧米とは異なる独特の「いじめの構造」があることがわかりました。

欧米のいじめでは、「強い者が弱い者を攻撃する二層構造」が多いのに対し、日本では「いじめる人、いじめられる人、はやし立てる人、無関心な傍観者」という4種類の人で構成される「四層構造」がほとんど。四層構造では強者からの攻撃に加え、観衆や傍観者からの無視や仲間はずれといった、集団内の人間関係からの除外を図るいじめが多発します。

いわば「集団による個の排除」です。その結果、被害者は孤立し、「自分が悪いのでは?」と自分を責める傾向が強まっていきます。

もちろんこれは、「子どものいじめ」研究の中で確認されたものですが、いつだって子ども社会は大人社会の縮図です。

「さわらぬ神にたたりなし」という言葉があるように、いじめを目撃しても「自分には関係ない」と放置したり、遠くから乾いた笑いを浮かべながら見守ったり。あるいは、「倫理委員会に報告したら、報復措置をとられるかもしれない」と考えたり。

そんな見て見ぬふりをする同僚たちの行動が、いじめられている人をさらに追い詰める。誰にも言えなくなる。逃げる気力も失せる。そして、傍観者は傍観者にさらに徹していくのです。

「人」より「企業」を優先した2020年執行の「パワハラ防止法」

日本では、やっと、本当にやっと2020年6月1日より改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」が施行されました。パワハラ防止法では、具体的な防止措置を企業に義務化し、厚生労働大臣が必要と認めた場合、企業に対して助言や指導、勧告が行われるようになりました。

しかし、罰則の規定はなし。国際労働機関(ILO)の「働く場での暴力やハラスメント(嫌がらせ)を撤廃するための条約」ではハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的危害を引き起こす行為と慣行」などと定義し、それらを「法的に禁止する」と明記しています。

しかし、日本は「禁止」の文字を最後まで入れませんでした。

「法的に禁止」→「損害賠償の訴訟が増える」という流れが予想されるため及び腰になった。日本は「人」より「企業」を優先したのです。

ジェンダー問題しかり、最低賃金しかり、ハラスメントしかり……。どれもこれも「人の尊厳」という、ごく当たり前に守られるべき問題なのに、正面から向き合おうとしないのが、「僕たちの世界です」。

「上にも下にも気を遣わなきゃならないという絶望」が
リスクを最大限に下げる

最後の体育会系世代の40代は嘆きます。上にも下にも気を遣わなきゃならない、と。

世の中ハラスメントが多過ぎ、ただでさえキャリアが弱い自分は若い世代への対応が難しいのに、と嘆く人もいます。たしかに気を遣うのは疲れるかもしれません。

でも、「気遣う」とは相手を尊重すること。相手を「人」として見ていること。それはパワハラの加害者や傍観者に欠けている、極めて大切な心の力です。

ですから「上にも下にも気を遣わなきゃならない──という絶望」は、ある意味において職場の希望なのです。その希望がある限り、みなさんがパワハラの加害者になることはありません。上司に嫌われる勇気があれば、傍観者になることもありません。

人が疑いもなく「自分は相手より上」と考えたとき、人間の残虐な部分が表出するのです。過剰なプレッシャー、人間関係の悪さ、長時間労働などが、パワハラの引き金になることだってあります。そのリスクを最大限に下げるのが、「上にも下にも気を遣わなきゃならない」という絶望です。

ただし、気遣いは疲れるし、ときに過剰な気遣いが人間関係を悪くすることもあります。なので、「気遣い」を「目配り」にしてください。そこに心はいりません。

そして、もしパワハラらしき行為が見えたら、「あの……若い社員の間でパワハラじゃないかって噂が……」と〝上〟に警告し、「我慢しないで相談センターに相談したほうがいい」と〝下〟にアドバイスしてください。「上にも下にも気を遣わなきゃならない」という絶望は、「上からも下からも頼られる人」にあなたを変えるのです。

そして、もしあなたがパワハラにあったら、逃げてください。

前述のユウキさんは異動願いを出し、出世はなくなりました。今は地方の小さな支店の副支店長です。上司は年下です。しかし、幸いなことに彼は今の生活に100%満足はしてないけど、7割は楽しめていると話します。

「僕は逃げた。でも、逃げる勇気を最後に持てたことだけよかったと思っています。逃げたことで少しだけ強くなれたように思います」

ユウキさんはつじつま合わせに成功していました。パワハラにより命の危機にさらされる人たちは多いので、彼が今、こうやって元気にいられて本当によかったと心から思います。

もう一度繰り返します。もしあなたがパワハラにあったら、絶対に逃げてください。パワハラをするような愚かな上司のせいで、人生壊されてたまるもんか。たかが「仕事」なのですから。

『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』
(ワニブックスPLUS新書)

河合薫

2023年6月8日

1375円(税込)

‎328ページ

ISBN:

978-4847066931

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