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〈実話・ブラック社畜の生活〉便器いっぱいに飛び散る鮮血、それをバレないように掃除する日々…上司の恫喝、同僚の裏切り「それでも自分の無能さに嫌気がさすばかり」

集英社オンライン / 2023年6月29日 18時1分

藁をもすがる思いで受けたデザイン事務所に内定。無事に就職先も決まって両親を安心させることができてよかったと思っていた玄田小鉄氏。それが地獄の始まりとは知らず…広告業界でデザイナーとして勤務し味わった過酷な労働環境を『ブラック企業で生き抜く社畜を見守る本』(ワニブックス)より一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

鬱になっていった同僚たち

ブラックな環境だったので、メンタルを病んでいく同僚たちが後を絶ちませんでした。

デザイナーを志す人はセンスがある人が多く、その反面繊細で環境の変化にも弱く、相手からの言動を気にする人も多いです。それだけ周囲がよく見えているのでデザイナーとしての適性がある人ばかりでした。



しかし、繊細なデザイナーが広告業界で働くことはとても大変です。広告業界には平気で暴言を吐く昭和を引きずった大人たちがいます。彼らの言葉はデザイナーの心を最も簡単に破壊します。さらに、無限につづく修正地獄もデザイナーの精神を蝕んでいきます。

こうして何人もの同僚たちがメンタルをやられて退職へと追いやられていきました。

不眠症を発症し、毎日遅刻しつづけ試用期間でクビになった人。
ストレス性の蕁麻疹と喘息が発生して働けなくなった人。
上司からの過剰なパワハラによって対人恐怖症となり電話にも出ることができなくなった人。
理不尽な罵声を浴びせられつづけ躁鬱を発症し、通勤しようとすると急激な頭痛により出社できなくなった後輩。

上司の無意味とも取れる修正指示に納得できず、イライラが抑えきれなくなり、事務所のガラスを割って逃亡した後輩など、多くの精神疾患の患者たちをそばで見てきました。

しかし、見ているだけで何も助けになることはできなかったです。
壊れていく姿を見て、明日は我が身だと思い、自分の身の安全を考えることで精一杯でした。
こうやって働いている間にも同僚たちの精神は蝕まれ続けています。

後輩の裏切り

精神がやられるのは、会社や上司のせいだけではありません。時に同僚や同世代の人が原因で精神が蝕まれることもあります。

以前、鬱で辞めていった後輩がいました。彼はその後無事に就職先が決まったようで、別業界のデザイナーとして勤めています。無事に次の職場が決まり良かったと僕も胸を撫で下ろしました。

ただ、1年未満で辞めていったので、実績もないのにどうやって内定をとったんだろうと少し不思議に思っていました。

それで彼のSNSからポートフォリオサイトを覗いてみると、そこには見覚えのある作品が掲載されていました。僕が広告賞に応募していた自主制作作品がいくつも掲載されていたのです。

後輩とは広告賞の制作物をラインで送り合っていたのですが、まんまと作品を盗まれていました。後輩は僕の作品を自分の作ったものとして面接時にアピールしていたようです。

信頼関係が築けたと思っていた後輩だけに、裏切られたショックは大きいものでした。また、こんな不正を平気で働く人が、世の中をうまく渡っていると思うと悔しくて仕方ありません。

人の作品を盗用することは経歴詐称にもあたるのですが、広告業界ではそのあたりのモラルが欠落している人が一定数います。他者を蹴落としてでも、不正を働いてでも成功を手にしてやろうとする人がいます。そういう人と遭遇するたびに僕の心は擦り切れていきます。

一生つらいままの奴隷生活からの脱却が生んだ文化

こういう浅ましい心を持つ人が広告業界に多いのは、業界の文化のせいだと思っています。

広告業界では、普通に働いているだけだと一生つらいままの奴隷生活を送ることになります。

そこから抜け出すために、賞を獲って箔をつけることが必要です。しかし、広告の賞はデザインが優れているだけでは獲ることはできず、企画が重要視されます。そのためデザイナーは優秀な企画者(プランナー)との結び付きを強く求めます。プランナーに企画をすべて考えてもらい、ただ言われたデザインをするだけの作業マシーンに成り下がるデザイナーも現れます。僕はそんなので獲った賞なんて自分の実績とは言えないと思います。

しかし、周囲のデザイン事務所や制作会社の知り合いはどんな手段を使ってでも獲れればいいという考えの人がほとんどでした。そうなってくると、顔が広く、節操もなく周囲の人と飲んでコミュニケーションをとっている人が評価されてしまいます。自分の仕事に誇りを持たない、そんな姿勢の人が多いせいで不正を生み出していると思います。

僕は自分が今までいた環境がとても恵まれていたんだなと痛感しました。田舎にいる友人たちはとても穏やかで、純粋な人が多いです。大学からの友人も志高く努力を積んでいて、決して誰かを蹴落とそうなんてことはしません。

純粋な人たちに囲まれて育ってきたので、広告業界のどろどろとした人間関係に嫌気が差します。

さらに、僕が広告賞を獲ったことや、YouTubeでの活動をどこからか嗅ぎつけて、すり寄ってくる人が現れてきました。その度に、これまで僕の周囲に現れては消えていった人たちの嫌な思い出が呼び戻され、距離をとりたくなってしまいます。

そうして僕はどんどん孤独になってしまいます。

でも中には悪どさを感じず、純粋にクリエイティブが好きなんだなと思える人たちもいます。最近はそういう人たちとの関わりや仕事も増えてきて毎日が充実しています。

自分の無力さが嫌になる

周囲の人たちによって精神を蝕まれていますが、結局この状況を受け入れているのは自分で自分自身にも原因があるということです。

最初の頃は、上司のせいでメンタルがやられていると思っていましたが、だんだんと考えが変わりました。

同じ職場にいるということは僕も上司も同レベルの人間であり、上司もブラックな環境にいる社畜。その下にいる僕も当然社畜です。

だったらほかの環境に移ればいいけど、そうしないのは易々と動けないからです。圧倒的な実力があれば、ホワイトな環境にも行けますし、今の職場でもうまく立ち回り、ブラックな労働を回避できるはずです。

結局、自分に能力も才能もないので、身を粉にしながら働いて、代理店からの無茶な仕事の依頼を断ることもできずに疲弊しつづけています。

もっと自分の能力を発揮できる場があるはずで、頑張ればそこへ行けると思っていましたが、甘い考えでした。そんな都合よくベストな環境が揃うわけがないです。今いる環境で高いパフォーマンスを出しつづけることが大事です。

そんな自分の無能さが嫌になります。

ブラックな環境によって自分の能力が損なわれていると思っていましたが、そんなことはなかったです。劣悪な職場に集い、社畜をしているのは、その人自身にも問題があるからだということが見えてきました。(もちろん会社側にも問題はあると思います)

自分の敵は自分自身です。環境のせいにするのではなく、自分と向き合い打開していかなければと思うようになりました。

限界を迎える肉体と精神

自分自身の体と心に起きた変調についても記しておきます。自分では、このブラックな環境に順応したと思っていますが、冷静に俯瞰するとかなり危ない状態だった、いえ、今もそうであることに気づきます。

メンタル疾患は心だけの病気ではなく、睡眠不足によって脳がリフレッシュできないことによる体の病気でもあります。

泊まり込み勤務による軟禁生活がつづいたときは、睡眠不足に加え、太陽の光を浴びる機会も減り、体をほとんど動かさなくなってしまいました。そうするとどんどんネガティブな思考になっていき、泊まり込み勤務終盤には死にたいと思う時がありました。

こんな仕事を繰り返して一体何になるんだろうか?今自分がやっていることは正しいんだろうか?もっといい職場があるのではないのか?いろんな思いが巡った挙げ句、何も考えられなくなり、時間だけが過ぎていきます。

どう考えても体は赤信号を発していて、異変を感じつづけているのに、忙し過ぎて病院に行く暇もなく体と心がどんどん蝕まれていきました。

日によっては、気がつくと夜になっていて日中の記憶が飛んでいるということもありました。たまに出社している時も仕事が嫌過ぎて、通勤の間の記憶が抜けていたりします。気がつくと仕事が始まっていて、心を無にしながら業務を繰り返します。記憶を失うことで自衛していました。

さらに繁忙期は、コーヒーを毎日大量に飲んでいました。朝にブラックコーヒーを2杯、日中に2杯、夜に2杯、深夜に2杯。そうしないと眠気が限界で瞼が自然と落ちてきてしまいます。

カフェイン中毒だったのでしょう。度重なるストレスもあって、胃腸が荒れてしまい、血便をすることも増えました。便器いっぱいに鮮血が飛び散り、それをバレないように掃除しました。

『ブラック企業で生き抜く社畜を見守る本 』(ワニブックス)

玄田小鉄

2023年5月31日

1430円(税込)

‎単行本(ソフトカバー):192ページ

ISBN:

978-4847073175

手取り16万で週7勤務、当然のように残業代なし、婚活も勝算なし……

動画をアップする度に「早く逃げて!」「ご自愛ください……」
「笑ったらダメと思いつつ笑っちゃう」の声多数!!

「ブラック企業で生き抜く社畜を見守るチャンネル」にて5万人以上に見守られている“社畜系YouTuber”が、動画では黒すぎて言えなかったことをすべて吐き出す漆黒のブラックエンターテイメント(※実話です)。

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