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男装の姉と弟の子づくりを描く『古事記』『日本書紀』のヤバすぎる関係…わけがわからない、男も子が生める世界

集英社オンライン / 2023年6月24日 19時1分

男同士の恋愛や性愛関係を描いたBL(ボーイズラブ)というジャンルが近年大人気だ。しかしその人気は近年に始まったものではなく、日本神話の時点にまで遡っても存在していたと考えることもできるらしい。日本の歴史に脈々と受け継がれてきたBL文化を『ヤバいBL日本史』(祥伝社新書)から一部抜粋・再構成してお届けする。

男装のアマテラスと弟のスサノヲの子作り

『古事記』『日本書紀』で私が最も惹きつけられるシーンは、男装のアマテラスと弟のスサノヲの子作りの様を描いた箇所です。

と、書くだに、あらゆる意味でヤバい感じがします。

以下、『古事記』に沿って説明すると……スサノヲは、黄泉国の母イザナミを慕って泣いてばかりで、命じられた海原を治めないために、父イザナキに追放を命じられます。そこで姉のアマテラスに暇乞いをしに高天原(神々の住む世界。アマテラスが主宰する。よみ方は「たかあまのはら」説もあり)に向かったところ、「我が国を奪いに来たのか」と恐れた姉は、髪を、男の髪型である”みづら”に結い直し、左右のみずらと鬘、左右の手には、それぞれ大きな勾玉をたくさんつないだ玉飾りを付け、鎧の背には千の矢が入った矢入れを背負い、胸には五百本入りの矢入れを装着、強靱な防具を身につけ、弓の内側を振り立てて、堅い地面を股が埋まるほど踏み込んで、迎え撃ちます。




ターミネーター張りの重装備で、威嚇している感じ

男装した上、武装したわけで、今でいうなら、防弾着に連射銃、銃弾を体中に巻く……というターミネーター張りの重装備で、威嚇している感じでしょうか。

「何のためにのぼって来た」
「よこしまな気持ちはありません」
「ならば、お前の潔白はどう証明する?」

姉とのそんな問答の末、スサノヲはこう提案します。

「互いに”うけひ”をして子を生もう!」

これ以上はないほど幻想的で美しい「子作り」

“うけひ”とは「神意を伺うための呪術的な行為」(三浦佑之『口語訳 古事記[完全版]』)で、あらかじめ条件を立ててから、神意を仰ぎ、事を判断する占いのことです。

ところが二人は前提となる条件を決めぬまま、さっそく子作りを始めます。
その子作りが、これ以上はないほど幻想的で美しいのです。

それぞれ天の安の河をあいだに挟んで向かい合って、まずアマテラスがスサノヲの腰に佩く十拳の剣を乞い受けて、三段に打ち折り、玉音もゆらゆらと天の聖なる井戸で振りすすぎ、嚙みに嚙んで吹き出した息吹の霧の中に、三柱の女神が生まれる。

玉がゆらゆらと音を立てるのも揺れ動く二人の営み

次に、スサノヲがアマテラスの左のみずらに巻いた大きな勾玉の玉飾りを乞い受け、同じように玉音もゆらゆらと天の聖なる井戸で清めた上で、嚙みに嚙んで吹き出した息吹の霧の中に男神が生まれた。さらにアマテラスが右のみずらに巻いた玉飾り、鬘に巻いた玉、左手に巻いた玉、右手に巻いた玉も、それぞれ乞い受け、そのたびに同じようにすると、それぞれの息吹の霧から男神が生まれ、合計五柱の男神が生まれる……。

互いの持ち物を交換し、それをもとに子を生むという、体外受精のような出産行為であるわけですが、二人が装飾品を一つずつ外していく様は、愛し合う男女がネクタイやピアスを外して性行為の準備段階に入るかのよう。玉がゆらゆらと音を立てるのも揺れ動く二人の営みを伝えるかのようでエロティックです。

見た目は男同士の姉弟婚…あまりに美しい

アマテラスがスサノヲからもらい受けた剣と、スサノヲがアマテラスからもらい受けた玉は、それぞれ男性器と女性器を表すでしょう。相手の剣もしくは玉を、それぞれ乞い受けて嚙みに嚙み、生まれる命……禁断の姉弟婚というだけでなく、セックス全般ということから見ても、これ以上、優美に幻想的に描いたシーンはないのではないか。

しかも繰り返すように、この時、姉は男装かつ武装している。
見た目上は、男同士の性愛行為と言えます。

“うけひ”の前提条件が決められていなかったため、このあと、スサノヲが勝手に勝利宣言し、アマテラスの食殿にクソをしたり、聖なる機屋に逆剝ぎにした馬を投げ入れて、驚いた機織女が機織道具で女性器をついて死んでしまい、アマテラスは天の岩屋にこもってしまうという悲劇が待っているわけですが……。

アマテラスとスサノヲの姉弟婚を、男同士の体外受精のように描くこのシーンは、古代人の妄想力というか、一種、BL趣味のようなものを浮き彫りにしているように思います。

優れた神は女の「生む力」も具有する…男も子を生みます

ちなみに日本神話では男も子を生みます。

アマテラスと幻想的な子作りをしたスサノヲもそうですが、二人の父のイザナキは、死んだ妻イザナミを黄泉国に追った帰り、穢れを清めた道具や目鼻から多くの神を生み出しています。

最後にイザナキが左目を洗った時に生まれたのがアマテラス、鼻を洗った時に生まれたのがスサノヲです。

偉大な神は、女の「生む力」も具有しているというわけです。

ついでにいうと、子を生む男神は日本神話以外にも登場します。たとえば北欧神話の『エッダ』には、「男のくせに子供を生んだ神がここに来ているのは、ちと解せないぞ」(松谷健二訳『エッダ/グレティルのサガ 中世文学集Ⅲ』)というセリフがあります。

『ヤバいBL日本史』 (祥伝社新書)

大塚ひかり

2023/5/1

1,034円

232ページ

ISBN:

978-4396116798

BLは日本史の表街道である

BL(ボーイズラブ)、すなわち男同士の恋愛や性愛が描かれた作品は、近年のエンタメ業界で存在感を高めている。
こうしたBL作品を理解するうえで欠かせないのが、「妄想力」を土台とする「腐の精神」だ。
そして、これは突然変異で生まれたものではなく、日本の歴史に脈々と受け継がれてきた精神であると著者は言う。
本書は、『古事記』から『万葉集』『源氏物語』『雨月物語』といった古典文学や史料を題材に、「腐」を軸とした鮮やかな解釈で、新しい歴史観を提供するもの。
院政期に男色ネットワークが築かれた本当の理由や、男色の闇にあった差別と虐待の精神史など、これまで語られてこなかった日本史の本質を描き出す。

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