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なぜスーパー銭湯で売れる? 創業111年の老舗メーカーが「もみじ饅頭」の自販機販売にこだわる理由

集英社オンライン / 2023年6月22日 12時1分

広島県の名産品と知られる「もみじ饅頭」。県内にもみじ饅頭メーカーは20社ほど存在しするが、唯一、これを自販機でも販売しているのは創業111年の老舗・紅葉堂だ。生菓子を自販機で売るという“奇策”は必ずしも効率的でないのだが、ここにこだわるのには、同社社長の熱き想いがあった。

世界初の「もみじ饅頭」自販機

「えー、何これ?」
「こんなのあるんだ!」

二人組の女性が自動販売機を指差しながらはしゃいでいる。すると今度は30〜40代と見られる男性がやってきて、クールな表情で自販機のボタンを押していた。

広島県の玄関口である広島空港の搭乗ゲート付近に、広島銘菓「もみじ饅頭」の自販機があるのをご存じだろうか。恐らく“世界初”であろう、この自販機を開発したのは、厳島神社のある宮島に本店を構える紅葉堂だ。


広島空港にある、もみじ饅頭の自販機

紅葉堂は1912年創業の老舗もみじ饅頭メーカー。2023年度の売上高は約3億8000万円を見込む。広島県内にもみじ饅頭メーカーは20社ほど存在し、市場全体の規模は100〜120億円とされている。その中で紅葉堂は決して大きな会社とはいえない。

ただし、他にはないヒット商品がある。それが「揚げもみじ」だ。もみじ饅頭に衣を付けて揚げたものだが、珍しさと食べ歩きの手軽さも相まって、02年に発売してすぐに人気に火が付いた。今では年間100万個も売れる、宮島を代表するスイーツである。

この商品を発案したのが、紅葉堂5代目で、現在の社長である竹内基浩さん(48)。“奇襲戦法”が自分の持ち味だと語る竹内さんが放った新たな矢が、もみじ饅頭の自販機だった。

「愛媛県は蛇口をひねるとみかんジュースが出るという都市伝説がありますよね。
広島でもああいうのをやりたかった。『わしら広島県民はもみじ饅頭なんて自販機で買ってるよ』と言ったら、県外の人は驚いてくれるんじゃないかなと思って」

紅葉堂の竹内基浩社長

ネタのように聞こえるかもしれないが、自販機での売り上げは伸びていて、今期は2500万円に達する勢いだ。コロナ禍で会社が苦しんだ時の救世主にもなった。

現在の設置台数は広島県内に28台。25年までには100台を目指すと竹内さんの鼻息は荒い。なぜ自販機ビジネスに本腰を入れようと思ったのだろうか。

ヤフオクで購入したタバコの自販機を改良

きっかけは、他愛もない雑談だった。

先述の「揚げもみじ」は、本店の券売機で購入するシステムになっている。以前、竹内さんはその機械メーカーの担当者から「もみじ饅頭を自販機で売ったらどうですか?」と半ば冗談で言われたことがあった。その場はそれで終わったが、竹内さんは「いや、これは面白いかも」と思い直し、すぐさまネットオークションの「ヤフオク!」で旧式のタバコの自販機を1万円程度で落札。それを改良してもみじ饅頭をセットできるようにした。

タバコの自販機を改良した初号機

「当社のもみじ饅頭1個入りの箱と、昔のタバコ箱のサイズが似ていて、もしかしたらいけるんじゃないかと。ボロボロの自販機を買ったけど、ちゃんと動いたので、それが初号機になりました」

19年2月、宮島の本店と、馴染みのあった「宮島シーサイドホテル」のロビーに設置。客の反応は上々だった。

「すぐ横でも饅頭を売ってるから、別に自販機で買わなくてもいいのですが、やっぱり皆、試してみたいんですよ(笑)。それと自販機のボタンを押すと、取り出し口から商品がニュルっと出てくる動作が面白くて、お客さんは喜んでいましたね」

商品の取り出し口

もみじ饅頭の自販機を突然始めたことに、同業者からは「お前、また妙なことやっとるの」と呆れられたが、竹内さんはどこ吹く風だった。

コロナ禍でゴーストタウン化した宮島の“希望”に

「興味を持ってもらえそうだ」と手応えを得た竹内さんは、宮島の外にも自販機を広げることに。人づてに取引先などを紹介してもらい、台数を増やしていくと、次第に飲料メーカーから「うちと一緒に出しませんか」といったオファーが来るようにもなった。

販路拡大と並行して自販機の種類も変えた。今のメインは冷蔵用で、もみじ饅頭2個入り(260円)および3個入り(390円)の箱で売っている。

瀬戸内レモン味のもみじ饅頭(2個入り)

自販機ビジネスを始めて約1年。広島市の中心街にも設置できるようになったタイミングで、世の中を新型コロナウイルスが襲う。観光地である宮島は壊滅的な打撃を受けた。廿日市市の調査データによると、過去最高の来島者数を記録した19年の465万7343人に対し、21年は約60%減で、過去最低の188万2351人に。紅葉堂をはじめ多くの地元商店は営業できる状況ではなかった。

そんな中で、もみじ饅頭の自販機は“希望”だった。

「宮島はゴーストタウンになりました。そうした絶望的な状態でも、自販機用のもみじ饅頭を作ることができたのは会社にとって救いでした。実際、広島市内で買ってくれる人も結構いましたし、毎日の仕事と売り上げがあるのは本当にありがたかった」

最も売り上げが大きいのは広島空港で、2番目がアストラムラインの本通駅。ともに人が多く集まる立地である。ただし、その次がスーパー銭湯という意外な場所だった。

「冷たいもみじ饅頭なので、風呂から上がって、牛乳でも飲みながら食べてくれる人が多いようです」と竹内さんは説明する。

順調に見える自販機ビジネスだが、ここまでは苦労の連続で、今も課題がある。まず、商品の補充はすべて自社で行なっている。なので週に3日、自販機を順番に回って、商品を入れ替える。少し前までは竹内さんがこの業務を担当し、クルマで広島中を走っていた。

本通駅の自販機。売り切れ商品もあるが、すぐに補充はできない

「商品の管理が一番大変。賞味期限は2週間ですが、1週間ごとに全部入れ替えます。その前に売り切れても補充はできないため機会損失になります。逆に売れ残っていても商品は入れ替えるから今度はロス品に。1台1台状況が異なるので、その管理に苦労していますね」

もう一つ、商品が自販機内部に詰まってしまうことがある。紙箱の厚さや材質を変える工夫をしてきたが、それでも時折起きてしまう。それを回避するために、構造の異なる新しい自販機の導入を徐々に進めているところだ。

自販機でもみじ饅頭を売り続ける理由

自販機ビジネスに参入してから4年が過ぎたが、追随する企業はまだいない。

「たまたまうちのパッケージの大きさが自販機に合うものでしたが、わざわざ他社がパッケージの形状を変えることはないと思います。さらに大手は販売網もしっかり持たれているから、自販機販売の必要性を感じないかもしれません」

しかも、商品補充の手間が大変だとくる。それなのになぜ紅葉堂は自販機でもみじ饅頭を売り続けているのか。そこには竹内さんの切実な思いがある。

「広島といえばもみじ饅頭だよね」と言われるが、地元の人たちはほとんど食べてないと痛感する。土産品ではなく日常菓子としても愛してもらいたい。それが竹内さんの願いだ。だから気軽に買える自販機を作った。

「ビジネスマンが営業で差し入れに使ったり、部活動帰りの子が小腹を満たすために食べたりと、広島の人たちの生活に溶け込んでほしい」

だからこそ、地元客しかいないようなスーパー銭湯で売れていることが、竹内さんにとって何よりもうれしい。もちろん、より地元に根付かせるためのハードルは高い。競合がコンビニのスイーツになるからだ。価格競争は厳しいが、味で勝負できるよう企業努力する。

紅葉堂本店。今では平日でもにぎわう

もみじ饅頭の生地は地産地消にこだわっていて、広島・世羅町で育てられている「純国産鶏もみじ」の卵と、瀬戸内海産の小麦粉を使う。さらには最近、あんこの工場を宮島に建てた。菓子屋として優れた商品を生み出したいという意地がある。もみじ饅頭の味わいをとことん追求していく。

周囲をあっと驚かせる、紅葉堂の次なる奇襲に期待したい。

取材・文/伏見学

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