定時を超えた業務は「自発的行為」…もはや地獄のブラック教育現場と、全てを教師に丸投げした国・自治体・学者の大罪
集英社オンライン / 2023年7月5日 12時1分
教員不足の原因は、長時間労働を生み出す「給特法」にあった!? なぜ学校は業務量の抑止力を失ったまま、長時間労働への道を進んでいくことになったのかを『先生がいなくなる』(PHP新書)から一部抜粋・再構成してお届けする。
定時を超えた業務は「自発的行為」とみなされる
教職の「特殊性」を根拠に、給特法は給料月額の4%分を「教職調整額」として支給するよう定めている(第三条第一項)。
1966年度に文部省(当時)が実施した「教員勤務状況調査」で、1週間の時間外労働が小中学校において平均で2時間弱であったことから、4%という数値が算出された。
そして教職調整額を支給する代わりに、「時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」(第三条第二項)。「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」には、一部の限られた臨時の業務(いわゆる「超勤四項目」と呼ばれ、校外実習などの実習、修学旅行などの学校行事、職員会議、非常災害等を指す)を除いて、「原則として時間外勤務を命じない」ことが明記されている。
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給特法の下では、教職調整額の支給と引き換えに、賃金と労働時間の関係性が切り離された。どれだけ労働に従事しても、給与は変わらない。2006年の文部科学省の資料では、定時を超えた業務は、その「内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない」(中央教育審議会の資料「教員の職務について」中央教育審議会「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」第8回議事録・配付資料「教員の職務について」、2006年11月10日)。
定時を超えた業務は「自発的行為」とみなされ、正式な時間外労働として取り扱われることはない。
これが第一に、現場での時間管理を不要にした。残業時間をカウントする直接的な意味がなくなり、その結果、残業時間数がわからず、またその増大も見えないままとなった。1966年の「教員勤務状況調査」以降、国による同様の調査は、2006年の「教員勤務実態調査」まで40年もの間、実施されることはなかった。
自治体のコスト意識の欠落…無定量の労働が強制されることはないはずが
第二に、国や自治体側のコスト意識を欠落させた。学校に新しい教育内容や課題を突きつけたところで、残業代が発生しないため、国や自治体は身銭を切ることがない。
給特法制定当時、文部省(当時)は無定量の労働が強制させられることはないと考え、一方で日本教職員組合は無定量の勤務の強制が現実化すると危惧していた(広田照幸「なぜ、このような働き方になってしまったのか:給特法の起源と改革の迷走」、内田良・広田照幸他『迷走する教員の働き方改革:変形労働時間制を考える』岩波ブックレット、2020年)。
結果的には後者が正しく、こうして学校は業務量の法的な抑止力を失ったまま、長時間労働への道を進んでいくこととなった。
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なお、コスト意識の欠落については、私たち教育学者も同罪である。これまでたしかに一部の教育学者の間には、教員の長時間労働を危惧する声もあった。だが総じて、教育上のさまざまな課題を論じる際に、その目線はいつも子どものほうに向けられていた。
サービス提供側(=教員)の人的資源の制約を前提にして、子どもへのサービス内容を検討すべきであった。だが、人的資源の制約よりもサービス内容の充実を優先させる形で、教育を語り、構想してきた。
こうして「○○教育」が新たに生み出され、次々と現場に降りていった。私たち教育学者は、教員の長時間労働を解消するどころか、むしろ長時間労働に荷担してきた。国や自治体からも、学者からも歯止めがかかることなく、教員には新たな業務が課され続けてきた。
生徒の下校時刻は18時台?
このように学校は、半世紀にわたって労働時間の管理がきわめて脆弱なままに、日常の業務が回されてきた。
それを象徴するのが、教員の定時と子どもの学校滞在時間との関係である。2010年代半ばの頃、私はある教員組合のイベントに参加し、長時間労働について議論を重ねる中でさまざまな意見を拝聴した。当時の私は、教員の部活動指導における過重負担について問題提起している最中であった。
そこでの参加者の声から、「そもそも子どもの下校時刻が、教員の定時の時間を超えていることが根本的に問題だ」という認識に至ったことを、はっきり記憶している。私にとっては新鮮な情報であったと同時に、あまりにも根本的な次元で理屈が通っていない事態が起きていると感じた。
先に言及した「A中学校学校生活のきまり」を思い起こしてほしい。「最終下校時刻」が「4月から10月は18時30分、11月から3月は17時30分」と記されていた。部活動の練習のために、生徒の下校時刻が、教員の終業時刻を超えていると推測される。A中学校では、生徒が教室への入室を完了するのが8時ちょうどであるから、教員もどんなに遅くともその時間には勤務が始まっているはずである。
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教員が善意で無給のまま生徒の教育活動に時間を割いている
そこで仮に、教員の始業時刻も8時ちょうどだとしよう。
公立校教員の所定労働時間は7時間45分であり、途中に45分間の休憩が設けられている。フルタイムの場合、少なくとも8時間30分は学校に滞在し、終業時刻は16時30分となる。ところが、生徒の「最終下校時刻」(しばしば「完全下校時刻」とも称される)は、4月から10月は教員の終業時刻を2時間も超えている。11月から3月でさえ、1時間の超過である。
給特法では、ごく一部の業務を除き、時間外労働を命じることはできない建前になっている。時間外労働が命令されうるのであれば所定の終業時刻を過ぎた後に生徒の指導に従事することも想定できるが、現行法下ではそれはありえない。
教職員でシフトを組んでいるというならば対応が可能かもしれないが、そのような運用もない。結局のところ終業時刻を過ぎてからは、教員が善意で無給のまま生徒の教育活動に時間を割いている。
顧客(生徒)の滞在時間が、従業員(教員)の就労時間よりも長く設定されている。根本的にあってはならないことが、常態化している。それにもかかわらず、そうした時刻設定は、対外的な文書を含めさまざまな文書に明確に記載されている。あまりにも堂々と、矛盾した状況がまかり通っている。
「子どもの登校完了時刻と教員の始業時刻が同じ」という意味不明さ
下校時刻だけではない。そもそも全国的に、子どもの登校完了時刻と教員の始業時刻が同じであるケースが多く見られる。
子どもが登校を完了しているということは、それよりも前の時刻に、子どもは学校に到着している。すなわち、教員もまた子どもの登校完了前に、業務を開始させている可能性が高い。
とりわけ小学校では、低学年であればなおのこと、教員は子どもから目を離すことができない。子どもの登校完了前から教室に入り、当日の授業等の準備をしつつ、子どもを迎え入れる。
東京都が2018年6月にユーチューブ上に公開した、「東京の先生の一日」と題する作品がある。紹介文によると「この動画では、東京で教員として働く魅力とやりがいを垣間見ることができます」という。動画は、「児童が登校するまでの間は、どんなことをしていますか?」との問いかけから始まる。子どもの登校完了前から、業務がスタートしていることが確認できる。
動画の中で、ある小学校教諭は、「教室に入ったときに、さわやかな空気が入るように換気」をしたり、「何の活動があるのかっていうのを、子どもたちにわかりやすいように、視覚的に黒板に表したり、今日1日の時間割を貼ったりする活動をしています」と回答している。
別の小学校教諭は、「当番の子たちといっしょに、朝の挨拶活動」を行うことが大事な教育活動の一つであると述べている。
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根本からして、時間設定がまちがっている
いずれにおいても、子どもが登校するまでの間に何らかの作業を行っていることが、所与の前提とされている。これは、東京都に限らない。全国の学校で、子どもの登校完了前に、教員の業務は始まっている。
学校における子どもの生活は、朝と夕刻における教員の定時外の業務が前提となって、組まれている。
本来であれば、始業時刻→子どもを迎え入れるための準備→子どもが登校→授業等の業務→子どもが下校→各種業務→終業時刻という流れ、すなわち、教員の始業から終業までの中に子どもの学校滞在時間が設けられるべきである。
ところが現在は、その逆で、子どもの登校開始(一人目が学校に到着する)から下校完了(最後の一人が学校を出る)までの中に、教員の始業・終業時刻が設けられている。根本からして、時間設定がまちがっている。
『先生がいなくなる』 (PHP新書)
内田 良、小室淑恵、田川拓麿、西村 祐二
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2023/5/16
1,078円
208ページ
978-4569853468
◆教員不足の原因は、長時間労働を生み出す「給特法」にある!
◇教育現場を残業地獄から救う方策を各専門家が徹底議論!
近年、「教員不足」が加速している。
小学校教員採用試験の倍率は過去最低を更新し続けており、倍率が1倍台、「定員割れ」の地域も出始めている。
その原因は、ブラック職場と指摘される「教師の長時間労働」、そして、教師の長時間労働を生み出す「給特法」という法律にある。
給特法の下では教師はいくら働いても「4%の固定残業代」しか得られず、そのために「定額働かせ放題」とも揶揄されている。
この状況を一刻も早く改善するため、現役教諭、大学教授、学校コンサルタントら専門家が、「給特法」の問題点の指摘および改善策を提案。
教育現場を残業地獄から救うための方策を考える。
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