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残念すぎる先生…働き方改革意識ゼロのブラック教育現場「そもそも時間・コスト管理していないから実態わからない」の末路

集英社オンライン / 2023年7月4日 12時1分

小学校教員採用試験の倍率は過去最低を更新し続けており、倍率が1倍台、「定員割れ」の地域も出始めているという。その原因とされる「教師の長時間労働」、そして、教師の長時間労働を生み出す「給特法」という法律に迫った『先生がいなくなる』(PHP新書)より、ブラック職場と言われる実態について一部抜粋・再構成してお届けする。

学校現場においてはまずもって勤務時間管理の徹底を図ることが必要

子どもの学校滞在時間の課題は、2019年1月の中央教育審議会答申「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」においても、随所で指摘されている。



たとえば、「登下校時間をはじめ各学校における活動時間の設定も、必ずしも教職員の所定の勤務時間を意識したものになっていなかった」(12ページ)、「学校における教師の勤務時間と児童生徒の活動時間は表裏一体の関係にある。登下校時刻の設定や部活動(中略)教職員の勤務時間を考慮した時間設定を行う必要がある」(20ページ)との記述がある。

答申では、上記の課題を含めて、勤務時間の管理こそが最重要事項として示された。答申本文の14ページに整理された5つの課題の一つ目に「勤務時間管理の徹底と勤務時間・健康管理を意識した働き方の促進」が掲げられ、「今回の学校における働き方改革を進めるに当たり、学校現場においてはまずもって勤務時間管理の徹底を図ることが必要である」と主張されている。

答申に合わせて、文部科学省は「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定した。文部科学省のウェブサイトに公開されている「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドラインの運用に係るQ&A」では、「『超勤四項目』以外の業務も含めて、しっかりと勤務時間管理を行うことが、学校における働き方改革を進めるために不可欠」であることから、「『超勤四項目』以外の業務のための時間についても『在校等時間』として勤務時間管理の対象にすること」として、従来の「教員の自発的行為」との解釈を変更させた。

図2-4「在校時間」の管理における「見えない残業時間」。『先生がいなくなる』より

公立校では2020年4月から改正給特法の下で「在校等時間」の概念による勤務時間管理が始まった。定時外の勤務は1か月で45時間以内、1年間で360時間以内などの上限規定が設けられている。上限規定は労働基準法の下で働く民間の労働者の基準にならったものである。ただし、定時を超えて業務を遂行したとしても、それは労働基準法上の時間外労働、すなわち割増賃金(残業代)支払いの対象とはみなされない。在校等時間による時間管理が始まったとは言うものの、在校等時間の範疇から除外されてしまう業務がある(図2-4)。

業務が、正式には記録・申告されない可能性

一つが、自宅等で行う持ち帰り仕事である。これは、学校の業務は学校内で終えることが原則であることから、もともと在校等時間の概念に含まれていない。平日の帰宅後あるいは土日に、まったく管理されない形で学校の業務に従事している可能性がある。

もう一つが、休憩時間中の業務である。文部科学省の定めでは、「『在校等時間』には、実際に休憩した分の時間を含まない」(「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針に係るQ&A(令和3年6月時点)」)、すなわち、所定の休憩時間であっても業務に従事した場合にはそれを在校等時間としてカウントする。ところが、45分の休憩時間全体が、誤って、在校等時間から丸ごと差し引かれるケースが報告されている。明白な教育活動にたずさわっていながらも、時間数としてカウントされていない可能性がある。

また上記に関連する根本的な問題として、これまで長らく時間管理が希薄であったことにより、時間管理が始まったとしても、あるいは時間管理にともなって上限規制が適用されるがゆえにこそ、定時外の仕事をはじめとするさまざまな業務が、正式には記録・申告されない可能性が生じうる。みずから過少申告したり、管理職が教員にそのように依頼したりすることさえ想定される。

以上、①持ち帰り仕事の時間数、②休憩時間中に働いた時間、③過少申告により削られた時間が、改正給特法の下で新たに開始された「在校等時間」の管理において生じうる「見えない残業時間」である。

「見えない残業時間」の実態

残業時間が見えなくなることを危惧して、私は2021年11月に共同研究のプロジェクトとして、「学校の業務に関する調査」をウェブ調査により実施した。調査対象者は公立小中学校の教員で、株式会社マクロミルのモニターを利用した。性別と年齢層については母集団と同じ構成比で回答者数を割り当てて、全体で小学校教員466人、中学校教員458人から回答を得た。回答者は、フルタイム(正規採用ならびに常勤講師)で年齢が20代~50代の教諭・指導教諭・主幹教諭に限定している。

調査時期は、全国的に新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が低水準で推移していた2021年11月20日(土)~28日(日)の9日間に定めた。うち5日間が土日・祝日であり、教員が比較的回答しやすいよう設計した。

労働時間に関する質問は、2021年11月第2週(11月8~14日)を指定し、回答を求めた。第2週が定期試験等特別な期間である場合は、前後の適当な通常業務の週を想定するよう指示した。なお11月8日(月)~14日(日)は、全国的に新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が低水準で推移していた時期である。11月14日(日)時点における全国の新たな感染者数は126人、7日間の平均は173人であった。

①持ち帰り仕事の時間数…1日平均50分

まず、学校内での勤務時間と自宅などへの持ち帰り仕事の時間数を、1日当たりの平均値で見てみよう(図2-5)。

図2-5 平日または土日における1日あたりの学内勤務時間数と持ち帰り仕事時間数。『先生がいなくなる』より

平日の学校内での業務時間は、小学校が11時間9分、中学校が11時間35分で、持ち帰り仕事は、小学校が56分、中学校が50分であった。土日については、学校内での業務時間は、小学校が59分、中学校が2時間47分、持ち帰り仕事は、小学校が1時間21分、中学校が1時間28分であった。

参考までに、2016年の文部科学省による「教員勤務実態調査」の結果も記載した。「教員勤務実態調査」は、毎日勤務時間を記録する形式で、大変丁寧な調査である。私たちの調査は平日と土日それぞれの1日当たりの平均的な数値を回答してもらうのみである。そのため、2016年から2021年への変化としては読み込まないほうがよい。文部科学省は2022年度にも継続の調査を実施しており、また私たち自身も2025年度あたりに同じ質問を用いて継続の調査を予定している。

学内の勤務時間数は、退勤時刻から出勤時刻を引いた値である。休憩を取った時間数は考慮していない。なお、文部科学省の「教員勤務実態調査」では、出勤・退勤時刻とは別に、「学内勤務時間」の数値(小学校は11時間15分、中学校は11時間32分)が公表されており、多くの報告書や報道等ではその数値が参照されている。他方で、先行する各種調査では、一般に出勤時刻と退勤時刻を用いて勤務時間数が算出されることが多いため、それら各種調査に合わせる形で本章では、文部科学省の「教員勤務実態調査」についても、出勤・退勤時刻のほうを用いることとした。

②休憩時間中に働いた時間…「休憩できない」以上に、それが「見えていない」

実質的な休憩時間の平均値は、小学校が9.4分、中学校が14.6分であった。休憩時間の内訳は、小学校と中学校のいずれも「0分」が約半数を占めている。所定の「45分」以上の休憩を取っているのは、小学校で5.6%、中学校で11.8%にとどまっている(図2-6)。

それ以上に深刻なのは、職場の正式な休憩時間帯を「知らない」が小学校で29.2%、中学校で26.6%にのぼった。そもそも休憩を取るべき時間帯さえ把握していない。これでは、休憩を取ろうにも、取ることはできない。

北海道教職員組合が発表した2021年の「9月勤務実態記録」(組合のウェブサイトに調査結果の詳細が掲載されている)によると、道内のアンケート調査の結果、学校単位で見ると、休憩時間中の業務を実際に把握しているのは、全体の36.3%にすぎず、残りの63.7%は把握していないという。

先の休憩時間の平均値(小学校が9.4分、中学校が14.6分)を、所定の「45分」から差し引いた値、すなわち小学校で35.6分、中学校で30.4分の労働が、在校等時間に反映されていない可能性がある。「休憩できない」以上に、それが「見えていない」ところに、問題の核心がある。

図2-6 平日の休憩時間。『先生がいなくなる』より

③過少申告により削られた時間…管理職への忖度

勤務時間の過少申告のプロセスには、大きく分けて二つの可能性がある。一つが、管理職から要請されるパターンである。もう一つが、みずから過少申告するパターンである。

管理職から要請されるパターンについては、「この2年ほどの間に、書類上の勤務時間数を少なく書き換えるように、求められたことがあるか」という質問を出した。その結果は、小学校教員の15.9%、中学校教員の17.2%が、そのように求められたことがあると回答している(図2-7)。

図2-7 過小申告を求められたことがあるか。『先生がいなくなる』より

また、みずから勤務時間を少なく報告するケースもある。管理職に忖度して過少申告することもあれば、長時間労働の者に要請される産業医との面談を回避するために過少申告することもある。

「勤務時間数を、正確に申告する予定か」との質問に対して、小学校の場合、平日の勤務時間については教員の12.2%が、土日の勤務時間については勤務した教員のうち43.0%が、中学校の場合、平日の勤務時間については教員の14.0%が、土日の勤務時間については勤務した教員のうち27.6%が、「いいえ」と回答している。小学校と中学校いずれにおいても、土日は正確に申告しない状況がしばしば起きている。以上が、「見えない残業時間」の実態である。

半世紀のツケを返す道のりは長い

在校等時間の概念により、勤務時間管理が始まったとはいえ、依然として学校内の勤務時間は長く、持ち帰り仕事も多い。休憩時間中も仕事に追われる。その一方で、積み重なった長時間労働の時間数は、必ずしも正確には申告されない。

こうした現況を受けて、民間企業の管理職の中には、「こんなことは、ありえない。なぜ、こうなってしまうのか」と、心から不思議そうな表情を浮かべる人もいる。時間管理の意識があまりにもゆるい学校を見れば、そう感じるのも当然だろう。

ただ、よくよく考えてみれば、少なくとも半世紀にわたって、学校では時間意識もコスト意識も欠落したままに、日常の勤務が続いてきた。民間企業とは、働き方の意識とその蓄積が、決定的に異なっている。それをふまえると、むしろこれからようやくスタートなのだろう。半世紀のツケを返す道のりは長い。

『先生がいなくなる』 (PHP新書)

内田 良、小室淑恵、田川拓麿、西村 祐二

2023/5/16

1,078円

208ページ

ISBN:

978-4569853468

◆教員不足の原因は、長時間労働を生み出す「給特法」にある!
◇教育現場を残業地獄から救う方策を各専門家が徹底議論!


近年、「教員不足」が加速している。
小学校教員採用試験の倍率は過去最低を更新し続けており、倍率が1倍台、「定員割れ」の地域も出始めている。

その原因は、ブラック職場と指摘される「教師の長時間労働」、そして、教師の長時間労働を生み出す「給特法」という法律にある。
給特法の下では教師はいくら働いても「4%の固定残業代」しか得られず、そのために「定額働かせ放題」とも揶揄されている。

この状況を一刻も早く改善するため、現役教諭、大学教授、学校コンサルタントら専門家が、「給特法」の問題点の指摘および改善策を提案。
教育現場を残業地獄から救うための方策を考える。

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