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非暴力のガンディーが今、インドで超政治利用されている実態…兵器爆買い、マイノリティ弾圧、やりたい放題政権に「なんでやねん!」

集英社オンライン / 2023年6月27日 0時1分

人口が中国を抜いて世界一になったインド。人口の約半数が30歳未満のインド経済はここ数年で急成長を遂げている。しかし、実は事情通ほど「これほど食えない国はない」というが一体なぜなのか。『インドの正体-「未来の大国」の虚と実』(中公新書ラクレ)から一部抜粋・再構成してお届けする。

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活発な兵器の購入…世界第3の軍事力を持つインドの恐怖

経済成長のおかげで、軍事費も増えつづけている。GDPに占める割合でいえば、およそ2.5~3パーセント程度で大きな変化はなく、けっして背伸びをしているわけではない。とはいえ、長くGDP比1パーセントの枠に固執し、経済もゼロ成長のつづいてきた日本とは対照的だ。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータベースによると、インドの軍事費は2014年に日本を抜き去り、17年にロシア、19年にはサウジアラビアを上回った。GDP同様、アメリカ、中国の2強とは格段の差があるとはいえ、軍事費では、すでに世界第3の軍事大国となっている(図表20)。


図表20 主要国の軍事費の推移(米中除く)。『インドの正体-「未来の大国」の虚と実』より

これだけの潤沢な予算があれば、当然、人員と装備を充実させることが可能になる。もともとインド軍は、人員としては多く、今世紀初めの時点でも126万の規模を誇っていた。しかし、2022年の『ミリタリーバランス』によると、現在では中国に次ぐ146万人もの正規兵を抱えている。

じつは、インドにはこれ以外に、中央警察予備隊や国境警備隊などの「準軍隊」が160万人もいる。これもくわえると、中国を上回る世界一の人員ということもできる。ただ前述したように、インドがこれまで抱えてきた脅威は、中国、パキスタンであったこともあり、そのほとんどは陸軍に偏重している。それでも海軍7万、空軍14万という兵力は、日本の海上自衛隊4万5000、航空自衛隊4万7000を凌駕する規模だ。

急速な軍事費の伸びは、もちろんこの多くの兵士の福利厚生向上にも使われているが、世界が注目するのは、活発な兵器の購入だ。とくにこれまでは日陰の存在だった空軍や海軍は、ここぞとばかりに最新鋭の兵器調達に乗り出した。

これまで旧ソ連時代の戦闘機ばかりだった空軍は、次世代戦闘機としてフランスのラファールを選定し、2021年、緊張のつづく中国との前線に配備した。海軍は、冷戦期に導入されたイギリス製空母の退役を先送りして、「騙し騙し」使いつづけていたが、2013年にロシアから新たに空母を取得した。

さらに2022年には、ついに初の国産空母も就役した。このほか、核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル、アグニVの開発も進む。宇宙分野への進出にも積極的だ。アメリカ、ロシア、中国に次いで、2019年には対衛星破壊兵器(ASAT)実験に成功している。軍事面で、インドがもはや侮れない存在になってきているのは明らかだ。

インド観光キャンペーン「信じがたいほどのインド」…たしかに信じがたい国

このように、経済力や軍事力のようなハードパワーの向上が著しいのはたしかだが、インドは世界のひとびとを惹きつける魅力、いわゆるソフトパワーの源にも恵まれている。

あの白亜のタージ・マハルをはじめとして、インドは長い歴史と文明を通じ、複数の宗教と文化が織りなすなかで培われた多くの世界遺産を誇る。インド政府が観光キャンペーンとして掲げる「インクレディブル・インディア(信じがたいほどのインド)」というのは、けっして誇張ではない。インドを旅していると毎日、想像できないことをいくつも目にするし、自分自身が体験する。世界中の多くの若いバックパッカー、年配のツアー客らを魅了してやまない国だ。

インドは、かつてあのビートルズも修行した、ヨガ発祥の国でもある。モディ政権は、ヨガを5000年のインドの伝統が生んだ貴重な贈り物だとして、国連に働きかけ、6月21日を「国際ヨガの日」と定めさせた。以来、世界各国のインド大使館が中心となって、ヨガの普及に努めている。

世界一の映画大国であることもよく知られている。映画産業の中心地、ムンバイは「ハリウッド」にちなんで「ボリウッド」と称される。歌って踊るインド映画が人気なのは、いまや南アジアとインド系住民の多い国にかぎらない。「きっと、うまくいく」(2009年)、「ダンガル きっと、つよくなる」(2016年)、そして「RRR」(2022年)など、欧米や日本でも記録的な興行収入となる映画は多い。

平和主義者のガンディーを重んじる「マイノリティ弾圧国家」の矛盾

スパイスの効いたインド料理も、世界各地で人気を博している。筆者はスイスのアルプスの観光地でインド料理店を見つけて、仰天したことを覚えている。

ナンで食べるお馴染みの北インド・カレーだけではない。日本でも、南インドの米で食べるサラッとしたカレーや、魚介の出汁が特徴のベンガル・カレーなどを提供する店があちらこちらにある。それに舌鼓を打つのはインド人、インド系住民だけではないのは、日本語のレストラン・ガイドブックがいくつも出ているのをみればわかるだろう。

これらにくわえて、インドには誇るべき思想や理念のシンボルがある。インドの政治指導者たちが、事あるごとに世界に向けて強調するのが、「ガンディーの国」というアピールだ。

非暴力を実践した平和主義者であり、宗教間の融和を説いたマハトマ・ガンディーは、インドのモラル、良心を体現する偶像として位置づけられている。1988年の核実験、中国やパキスタンに対する軍事力増強と対決姿勢、モディ政権下のヒンドゥー・ナショナリズムとマイノリティ弾圧といった動きは、これとまったく矛盾するように思えるかもしれない。

偉大なガンディーは、どんな政治指導者にとっても、引証する価値がある

ところが興味深いことに、モディ首相やBJPは、カシミール問題や対中政策などをめぐって、初代首相のネルーの宥和的な政策を否定するものの、ガンディーには称賛を与え、対外的にも、ガンディーをインドのシンボルとして誇りつづけている。

モディ首相は、故郷を同じくするガンディーが独立運動の拠点としたサバルマティ・アシュラムに、安倍晋三、習近平、トランプといった各国首脳を招いた。また、ガンディー生誕150年となる2019年10月2日の米ニューヨークタイムズ紙には、「なぜインドと世界にはガンディーが必要なのか?」と題する文章を、自身で寄稿までしている。

そこからうかがえるのは、ガンディーの独立を導いたナショナリズム、糸車でカーディー(綿布)を織ったスワデーシー(国産品愛用)運動、人間と環境の調和を求める主張などを切り取って、モディ政権のナショナリズムや経済的自立、再生可能エネルギーの推進策と結びつけようとする思惑である。偉大なガンディーは、どんな政治指導者にとっても、引証する価値のある偶像なのだ。

ガンディーはインドが世界と接するときの貴重なツール

もちろん、モディ政権のパキスタン空爆や、ムスリム、ジャーナリスト、その他反体制派の抑圧といったニュースが、インドの国際的イメージを傷つけているのは間違いない。非暴力と平和主義、自由、寛容、多様性のあるインドはどこへ行ったのか? 厳しい問いが、とりわけ欧米から投げかけられているのは事実だ。

モディ政権が、ガンディーの偶像を放棄せず、むしろ積極的に、ガンディー主義(の一部)にコミットしていることをアピールさえしているのは、そうした批判を意識したものともいえるのかもしれない。ガンディーは依然として、インドが世界と接するときの貴重なツールでありつづけている。

2022年12月から、インドは世界主要20カ国・地域(G20)の議長国となったが、モディ政権は各種会合をデリーだけでなく、インド各地で開催すると発表した。

その前月のG20サミットで、インドネシアから議長国を引き継ぐにあたり、モディ首相は、「仏陀とガンディーの聖地」で、平和への強いメッセージを発すると述べるとともに、「皆さんは、インドの驚くべき多様性、包摂的な伝統、文化的豊かさを十分に体験されることでしょう」と胸を張った。G20をインドの魅力を世界に知らしめる機会にすることができると考えているのである。

『インドの正体-「未来の大国」の虚と実』 (中公新書ラクレ)

伊藤 融

2023/4/7

902円

208ページ

ISBN:

978-4121507938

この「厄介な国」とどう付き合うべきか?

「人口世界一」「IT大国」として注目され、西側と価値観を共有する「最大の民主主義国」とも礼賛されるインド。実は、事情通ほど「これほど食えない国はない」と不信感が高い。ロシアと西側との間でふらつき、カーストなど人権を侵害し、自由を弾圧する国を本当に信用していいのか? あまり報じられない陰の部分にメスを入れつつ、キレイ事抜きの実像を検証する。この「厄介な国」とどう付き合うべきか、専門家が前提から問い直す労作。

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