4600万円を国際ロマンス詐欺で騙し取られて1週間1500円で過ごす2児のシングルマザー。なぜマッチングアプリで出会った自称フランス人イケメンにハマってしまったのか?
集英社オンライン / 2023年6月24日 18時1分
SNSやマッチングアプリで恋愛感情を抱かせ、金銭を騙し取る「国際ロマンス詐欺」の被害が急増している。なぜ被害者は、会ったこともない相手に騙されてしまうのか。被害総額4600万円の女性の驚くべき心理とは…。(前後編の前編)
被害者は真面目で誠実、いわゆる「いい人」が多い
深刻化する「国際ロマンス詐欺」被害の実態を受けて警察や政府関係機関は注意を呼びかけているが、いまだに大金を奪われ、泣き寝入りする老若男女が続出している。被害相談を受ける国民生活センターによると、2022年度の相談件数は941件で、このうち男性が6割に上った。
被害額は数百万円から多い時で5000万円を超えるケースも報告されており、被害後に自己破産するケースも少なくない。そんな被害の実態をまとめた『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)の著者で、ノンフィクションライターの水谷竹秀氏に話を聞いてみると、知られざる被害者像が見えてきた。
ーー国際ロマンス詐欺の取材を始めてから、これまでに何人ぐらいの被害者にお話を聞かれましたか? その中で最も大きかった被害額についても教えてください。
水谷(以下略) 取材を始めたのが今からちょうど3年ぐらい前になります。それから現在まで十数人に取材をしました。大半は女性です。男性の被害者のほうが多いようですが、プライドが高いからあまり公にしたくないのか、男性被害者のほうが取材に応じてくれる人を探すのが難しいです。
被害額が最も大きかったのは4600万円です。
その被害者は起業家の美穂さん(仮名)という方で、取材をした当時、48歳のシングルマザーでした。
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都内マンションで被害を語る美穂さん
ーーどのようにして彼女を見つけたのですか? また被害者の共通項などありましたら教えてください。
被害者は、いわゆる「いい人」が多いと思います。真面目で誠実な人。だから人を疑わないといいますか。あとは、夫婦関係が悪化していたり、マッチングアプリがうまくいかずに孤独を感じていたりとか、人生において悩んだり、失望感を覚えているタイミングに犯人からアプローチをされ、心の隙をつかれてしまうケースが散見されます。
被害の事実については、やはり恥ずかしいと感じている人が多く、だから身内や友人にはあまり言いたくない。「そんな見ず知らずの相手にどうして振り込んでしまうの?」「バカじゃない!」という視線に晒され、ただでさえ傷ついているのに、さらに自己嫌悪に陥るからです。そのためか、Twitterで匿名アカウントを作成し、やり場のない怒りや心境を吐き出している人が少なくありませんね。
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4600万円を失った美穂さんのTwitterアカウント(取材当時)
4600万円を失った美穂さんは、「国際ロマンス詐欺被害者」というアカウントでつぶやいていたので、ダイレクトメッセージを送ってみたところ、意外にもすんなり取材に応じてくれました。
マッチングアプリで出会った
自称フランス人イケメンにハマり…
ーーお会いしてみて、どんな雰囲気の方でしたか?
印象的だったのは、取材の場所に指定されたのが美穂さんの自宅だったことです。都内の高級マンションでした。一般的には初対面の異性を、取材とはいえ自宅にはあまり呼ばないですよね? 少し警戒心が薄い方なのかなと思いました。
4600万円を失っていると聞いていたので、高級腕時計を身につけていたりとか少し派手な女性を想像していましたが、白いパーカーにジーンズ姿という質素な装いで、起業家というよりは、どこにでもいる一般的な中年女性という雰囲気でした。
ーーそんな方がどうして4600万円も騙し取られるのでしょうか? しかも被害者は皆、犯人に会ってもいないのに大金を振り込んでしまうと聞きます。
美穂さんは、「ポール」という名の自称フランス人のイケメンとマッチングアプリで知り合いました。自己紹介をしてすぐにLINEへ移行し、やり取りをするうちに間もなく、暗号資産(仮想通貨)への投資を勧誘されます。
彼女は暗号資産なんてやったことなかったので、最初は怖がるのですが、「私たちは一緒により良き未来を歩みたい」「美穂を抱いて寝たい」といった愛の囁きが届き、分刻みのメッセージ交換で徐々に心を許してしまうのです。でも、そもそも美穂さんは、ポールのことを好きになったわけではなかったのです。
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マッチングアプリでマッチしたイケメン自称フランス人
ーーポールに恋愛感情を抱いていないにもかかわらず、4600万円も騙し取られたと。それはこれまで知られてきた「ロマンス詐欺」には該当しませんね。
はい、その通りです。恋愛感情を抱かせるのがロマンス詐欺の特徴ですが、最近は、暗号資産やFXといった投資に勧誘して、金銭を騙し取る投資詐欺も横行していて、後者も犯人は容姿端麗な写真を使って被害者にアプローチしてくるのですが、そこに恋愛感情がなくても成立してしまうのです。
ーー恋愛感情を抱いてしまうから、犯人の言葉を信用してしまい、あの手この手でお金を引っ張られるイメージがあるのですが、恋愛感情を抱いていないのになぜ金銭を詐取されてしまうのでしょうか?
美穂さんの場合は、試しに暗号資産を購入してみないかと誘われます。ポールの指示通りに日本最大の暗号資産取引所への登録を行い、「テスト」と称して暗号資産を購入。すると暗号資産の価値が上がり、「あなたはこれだけ儲けました」と伝えられる。つまり、ポールの指示通りにスマホを操作しただけで「収益が得られた」と錯覚させられるのです。
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スマホの画面を見せながら詐欺被害について語る美穂さん
そこで次は実際の投資を勧められる。美穂さんは手持ちの100万円を投資し、しばらくすると暗号資産の値上がりを示すチャートが送られてくる。そこで8万円を稼ぐ。その結果でポールを信用してしまい、「今は相場がいいから」「元金が多ければ多いほど儲かります」などとそそのかされ、どんどん振込み続けるのです。
その過程で美穂さんは、コロナ融資や友人から借りたお金を使ってしまいます。
ところが、ある程度儲けが出たところで、引き出そうとすると、取引所から「出金のためにはリスク保証金が必要」というメールが届き、さらに追加の現金を要求される。ここで重要なのが、これまで振り込んだ現金と儲けの分を引き出すためには、その保証金を支払わない限りは取り戻せないと思い込まされている点です。資金繰りができなくなった美穂さんは、会社を経営している父親に頼んで2700万円を借り、それも使ってしまった。
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美穂さんが父親に借りた2700万円の入金記録
今度は「税金の支払いが必要です」と言われ、さすがに詐欺に気づくのです。それにしても、と思いますが、美穂さんとポールとのトーク履歴を全て追っていくと、途中からポールに「兄弟にはお金を借りれないのか?」などと脅迫まがいのメッセージを送りつけられ、恐怖心を抱き、冷静な判断を失っているようにも見えます。
1週間の生活費を1500円に切り詰める現状
ーー美穂さんのお父さんは会社の社長とのことですが、美穂さんはわりと恵まれた家庭環境で育っているのでしょうか?
取材を始めてすぐに、美穂さんは幼少期の頃、父親から虐待を受けていた過去を打ち明けてくれました。高校の時に家出をして、アルバイトを掛け持ちし、24歳の時に結婚をします。ところがその相手が無職のプー太郎で、やがて離婚。その後は1人でマッサージ業を営みながら、子供2人を育ててきました。
離婚後も男性とのお付き合いはあったようですが、話を聞いていると、彼女は男性に貢いでしまうところがありますね。助けてあげたくなるというか。それがポールへの投資に繋がった部分は否定できないと思います。
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ポールと名乗る男から送られてきた自撮り写真
ーーそれだけの大金を騙し取られた美穂さんはその後、どうなりましたか?
1週間で1500円しか使わないとか、相当切り詰めた生活をしていましたね。子供2人のうち1人は大学を卒業し、もう1人はまだ学生だったのですが、物品のネット販売で稼いだお金でなんとか卒業させられたようです。
騙し取られた総額は4600万円なのですが、そのうち彼女が使った自分のお金は200万円程度です。あとは友人の借金やコロナ融資、父親の借金です。大金を注ぎ込んでしまう被害者には意外とこのパターンが多く、自分が使ったお金はそれほど多くないのですが、親の遺産や貯金を注ぎ込んでしまった結果、被害額が膨れ上がってしまう。
美穂さんは、借金の返済ができなかったので、弁護士に頼んで自己破産しました。この影響で父親とも縁が切れてしまったようで、自己嫌悪に陥りまくり、一時期は「人間をやめたい」とまで言っていました。
犯人はトーク履歴を退出してしまい、特定できないので、借金とやり場のない怒りだけが彼女には残ってしまいました。Twitterにもそんな心境を綴っていました。今もネガティブになりがちですが、少しずつ、前向きには生きているようですね。
#2につづく
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