エスパーのように他人の心を読み、記憶や思考を盗む「読心術社会」が私たちに訪れてもまったく不思議ではない根拠
集英社オンライン / 2023年6月26日 11時1分
私たちの日常にはまだ浸透していないが、SF小説や映画などで描かれてきたテクノロジーの多くが現実のものになりつつあることをご存じだろうか。リアルタイムで相手の心理を分析したり、他人の「夢」を読み取ったり――。元JAXAの工学博士で、宇宙ビジネスコンサルタントでもある齊田興哉さんが最新テクノロジーとビジネスの動向をまとめた『空想が実現する時代のビジネス地図』より、一部抜粋、再構成してお届けする。
リアルタイムで相手の心理を分析できる技術は実現済み
日本では「人は見かけによらない」「人面獣心」「口蜜腹剣」などという言葉が昔からある。人間誰しも「相手の考えていることがわからない」と悩んだり、困惑したりしたことはあるだろう。
例えば、好意を寄せている相手との初めてのデートで、「今日は楽しかったね!」と言うと、相手も「うん」と返事をしてくれた。しかし、どうにも表情がうつむき加減だったとき……。ほかにもビジネスでクライアントに商品をプレゼンする場面。先方は笑顔で何度も頷き、関心があるように見え、「すごいですね」「いいですね」とお褒めの言葉も数多く飛び交った。その一方、クライアントが何度か話題を変えて別の話をしたり、予定時間よりもやけに早く終了したりしたとき……。
このようなことがあると、次にどうしたらよいのか、計画や戦略を立てづらくなる。意中の相手に「もう一度LINEしたら嫌がられるかな?」「既読スルーされたらどうしよう」と心配したり、営業先の反応を昭和スタイルの上司に報告すれば、「足で稼いでこい」とばかりに何の戦略もなくゴリ押しの営業をさせられたりと、次の一手がわからず、踏み出せない状況になった経験をした方も多いのではないだろうか。
実は、このような悩みや課題が解決できる時代が来ている。映画『メカニカル・テレパシー』など、SF作品で相手の心を読むことができるように。
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例えば、アメリカのAffectivaという企業がある。MIT Media Labからスピンアウトした企業で、AIを使って人の表情や感情を分析できるテクノロジーを有している。AffectivaのAIは、膨大な人の表情と感情のデータをディープラーニングしている。そして、映像から人の顔の34のフェイスポイントを分析することで感情を察知できるのだ。
これはアプリとして展開されているため、パソコンやスマートフォン上でのリモート会議でも活用することができる。しかも、リアルタイムで把握できるというのがすごい。マイクをオフにして発言していない参加者の表情から感情を分析することもでき、会議全体の雰囲気も分析できるのだ。
ペットを対象としたテクノロジーもある。メルボルン大学は、犬や猫の感情をAIで分析するテクノロジーを有し、「Happy Pets」というアプリを公開している。使い方は、スマートフォンでペットの表情を撮影するだけ。ペットの画像をAIが分析し、幸せ、怒り、中立、悲しみ、恐怖の5つのパターンをパーセンテージで表示するのだ。
このように人や動物の表情から本心を読み解ける世界はすでに実現している。ただし、現時点では課題も残っている。それは、リアルタイムかつ対面のシーンに対応していないことだ。おそらく未来は、対応できるようなるだろう。その場合は、6月23日配信記事「メガネ型のスマホを待ちわびる人に知ってほしい「スマートグラス」という夢のデバイスが持つ計り知れない威力」で言及したスマートグラスが必要不可欠だろう。スマートグラスに取り付けられる小型のカメラで相手の表情を読み取り、本心をクラウド上のAIが分析し、結果をレンズに表示するという仕組みが考えられる。
他人の「夢」は読み取れる
人の心理を読むテクノロジーはこれだけではない。「サイコダイブ」という言葉を聞いたことはあるだろうか。
サイコダイブとは、人の精神(サイコ)へと入り込む(ダイブする)こと。もう少し平たくいえば、人の脳へと入り込み、その人の記憶や考えていることを盗み出すことだ。もしかしたらサイコダイブは、テレパシーと類似点や共通点があるので包含関係にあるといえるかもしれない。
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サイコダイブを描いた代表作といえば、夢を見ながら眠っている人の潜在意識の中まで入り込んで、アイデアなどを盗むことが描かれているSF映画『インセプション』が有名だろう。世界ではすでに『インセプション』で描かれたサイコダイブに近い研究が行われている。
サイコダイブの研究は「脳情報デコーディング」とも呼ぶ。2001年あたりには、fMRI(磁気共鳴機能画像法)というMRI装置を使った脳のどの部分が機能しているかを知ることができる方法で、脳情報デコーディングを研究している例が多かったようだ。ある画像を人が見ているときの脳の状態をfMRIでスキャンしたデータをデータベース化する。そのデータベース化されたデータを使えば、人が見ている画像を推定することができるというものだ。
ほかにも2013年にATR脳情報研究所の神谷之康氏らの研究チームが実施した、寝ている人が見ている夢を解読する研究もある。寝ている被験者が夢を見ていると思われるタイミングで起こし、どんな夢を見ていたのかをヒアリングする。そのときに、fMRIでスキャンしたデータと照らし合わせることで、60%ほどの的中率を得ることができたというのだ。
また、2019年にベルリン工科大学とチューリッヒ工科大学などの研究チームは、眼球の動きから人がどのようなことを思い出しているのかを推定できるシステムを検討している。人は写真などを脳で想像するときに、その写真を見ているかのように眼球が動くのだという。その眼球の動きを追うことでどのような画像を想像しているのかを推定できる機械学習アルゴリズムが可能だというのだ。
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実際に美術館で20枚ほどの絵画を見てもらい、その後、何も書かれていないホワイトボードを見ながら、絵画を思い出してもらう実験を行ったところ、被験者の眼球の動きから高い精度でその絵画をシステムが検索することができたという実験結果もあるのだ。
最近では、2022年に大阪大学で人が想像する画像をディスプレイに表示させるテクノロジーの開発に成功している。これは、被験者が見た画像を頭蓋内脳波から推定する「脳情報解読技術」というテクノロジーを利用している。ちなみに、頭蓋内脳波とは、脳の表面もしくは深部に設置した電極(頭蓋内電極)で計測した脳波のことだ。
SF映画のような形にまでは到達していないが、それに近い形での研究が着々と進んでいる。人の想像していることや考えていること、記憶にアクセスし、それを読み取り、可視化するテクノロジーというものは実際にあるのだ。
社会が疑心暗鬼に陥る!?
相手の心理や記憶を読み取れるテクノロジーが普及すれば、恋愛においてもビジネスにおいても、無駄のない効率的な行動を取ることができそうだ。相手に好意がないとわかったら、早く次の恋愛に移れるし、ビジネスでも商談がまとまらなそうであれば、何度も企業へ往訪し折衝する無意味な機会も減る。
また、友人関係なども限定的になるだろう。幅広く浅い人間付き合いをする人が激減し、深く狭い人間関係へと移行する時代となるだろう。
犯罪捜査にも大いに役立つだろう。サイコダイブにより入手できる脳内情報が物的証拠や状況証拠以上の証拠となり、犯人逮捕に繫がる。冤罪も起こりえない世の中になるだろう。そして、警視庁の科学捜査研究所(科捜研)の科学捜査のやり方や組織のあり方まで変えてしまうかもしれない。
ほかにも認知障害、認知症、アルツハイマー病の患者に役立てられる可能性はないだろうか。これらの患者は、記憶を蓄積することができない。そのため、会話が成立しない傾向にある。そうした患者に過去の記憶をリアルタイムにうまくフィードバックさせることで、あたかも認知関連の病気を患っていないかのようにできるのではないかという期待も生まれる。
負の影響も伴う
一方でこのテクノロジーは、先述したように有用性は高いが、負の影響も大きいだろう。自分の内心、内面が裸になるようなものだからだ。
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そのため、人は性悪説的な心理へと移行するかもしれない。もしかしたら、離婚なども増えるかもしれない。政治家はどのように記者会見や所信表明などをするのだろうか。
そのためのパーソナルセキュリティ、プライバシー保護のテクノロジーが開発されることも十分予想される。家の内部を見られないようにカーテンを閉めるようなテクノロジーだ。テクノロジーが進化すると、それとともに失う負の影響も伴うことを忘れてはならない。
脳情報へのアクセスを防御したり、脳情報を暗号化したり、そのようなセキュリティ技術も開発される必要があるだろう。そうでないと、人の心の中がすべて読み解かれて、心も身体もすべて丸裸にされたような形になってしまう。
企業の経営層にサイコダイブし、機密情報を盗めばインサイダー取引が可能になるし、経営ノウハウや営業秘密も漏洩してしまう。また、優秀な人材をヘッドハンティングしなくとも、サイコダイブによって能力を流用することだってできるかもしれない。このようなシーンを考えてみても、サイコダイブに関連するさまざまなビジネスが想像できるのではないだろうか。
文/齊田興哉 写真/shutterstock
『空想が実現する時代のビジネス地図』
齊田興哉
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2023年6月23日
1,760円
239ページ
978-4763140609
“今なら”激変する未来に先回りできる!
SFはフィクション(虚構)からファクト(現実)になった。
テクノロジーは日々進化している。
VRやドローンのように、ここ数年で急激に普及したものもあれば、自動運転車やスマートグラスのように実現までの過程が度々話題になるものもある。
メディアでは話題になることは少ないが、SF(サイエンスフィクション)で描かれてきた「夢のようなテクノロジー」がすでに実現されていることをご存じだろうか。
・人に代わって働いてくれる「家事/育児ロボット」
・着るだけで空を飛べる「ジェットスーツ」
・危険から身を守ってくれる「バリア」
・人よりも優れた判断ができると期待される「AI政治家」
・365日24時間健康状態を管理してくれるデバイス
などのテクノロジーがすでに実現している。
さらには、宇宙まで直通で行くエレベーターや海中都市、表情から相手が考えていることを読み取る技術など、人類の暮らしを激変させるテクノロジーが実現しつつあるのだ。
本書では、元JAXAの宇宙ビジネスコンサルタントである著者が、進化するテクノロジーと変わるビジネスの未来を徹底予測。
新しいビジネスを創出するヒントと、最先端技術の動向を見通す1冊。
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