世界一熱い美食の街、スペインのサンセバスチャン。美食が金を生む、日本が見習うべき美食の街づくりとは?
集英社オンライン / 2023年6月27日 11時1分
世界中のフーディーが注目する日本の食文化。日本の観光ビジネスをさらに加速させるにはガストロノミーツーリズムを構築する必要があるという。日本が見習いたい世界有数の美食の街はどう発展していったのか? 柏原光太郎氏の『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論 ――時代はガストロノミーツーリズム――』(発行:日刊現代)(発売:講談社)より一部抜粋・再構成してお届けする。
世界有数の美食の街はいかにして発展したか
20世紀から21世紀に移り変わる時期、欧米ではかつてのフランス料理、イタリア料理から、スペイン料理へトレンドは移り、いまでは南米料理の中でもペルー料理、北欧料理へと移っています。
「世界のベストレストラン50」でここ数年、トップレベルにいるのはそれらのレストランです。
2023年1月に、何度も1位に輝いたことのあるデンマークのレストラン「ノーマ」が、エル・ブジ同様に閉店するというニュースが世界中を駆け巡りました。世界中から客が訪れるとはいえ、北欧のレストランが閉店することが世界中のニュースになるなんて20世紀には考えられなかったことでしょう。
ちなみにノーマは2023年3月から5月まで、京都でポップアップレストランを開催しましたが、1泊2食付きとはいえ、ひとり約25万円でした(ディナーのみの場合は10万円以上)。しかし、現地に行くことを考えれば安いし、そもそも現地でももう味わえないと考えるフーディーたちが殺到。発売後、わずか10分ほどで完売しています。
また、同じデンマークのフェロー諸島でミシュランの星を獲得したレストラン「コックス」は、ミシュランから「世界で最も遠隔地にあるレストラン」の称号を受けていたのに、「自分のレストランで食事をするためだけに来てほしい」と考え、さらに遠くへ移転。グリーンランドの北極圏に位置し、船かヘリコプターでしかいけない場所であらたに開業しました。しかし、そんな辺鄙な場所でも、美味しいものを食べられるならフーディーたちは出かけるのです。
その流れを作った先進的なレストランがエル・ブジであることは間違いありませんが、もうひとつ、美食の街・サンセバスチャン(ドノスティア=サン・セバスティアン)の発展も大きな要因だといわれています。
私もサンセバスチャンには、コロナ禍になる前の2019年までに3度、訪れています。
最近、日本各地で「××市(県)のサンセバスチャン」というフレーズを聞きませんか。
食を使って町おこしをしようとすると、どうしてもサンセバスチャンの成功例に学ぶことになります。サンセバスチャンは世界中で食を使った町おこしに成功した随一の例だからです。
※「世界のベストレストラン50」とは、世界中の食通や批評家からなる審査員によって選出される、世界最高峰のレストランランキング。
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写真はイメージです
サンセバスチャンの特徴
サンセバスチャンはスペイン北部、バスク州にあり、「ビスケー湾の真珠」といわれるほど風光明媚な場所。欧米の人たちにとってはリゾート地として有名です。
バスクはフランスやスペインと違ったバスク人の居住地として、かつては過激な独立運動も起こった地域ですが、バスク語がスペイン語とともに公用語とされています。そのため、サンセバスチャンの正式名称は、バスク語のドノスティアとつなげた「ドノスティア=サン・セバスティアン」となるのですが、通常はサンセバスチャンと呼ばれているので、この本の中ではそう表記したいと思います。
サンセバスチャンの特徴は、3つ星レストランを筆頭にしたファインダイニングと旧市街を中心とする伝統料理店やバル(居酒屋)がともに存在することです。
たとえばサンセバスチャンには、スペインで3つ星を獲得したレストラン7店のうち、アルサック(ARZAK)、アケラレ (AKELARRE)、マルティンベラサテギ(Martin Berasategui)の3店があります。3つ星以外の星の数も合わせると、ミシュランの星は合計19。サンセバスチャンは平方メートル当たりのミシュランの星が最も多い街のひとつとなっています(1位は京都です)。
ミシュランの星付きのレストランはバスク料理といっても、フランスやエル・ブジの影響を受けた「新バスク料理」を提供する店が多いのですが、星はなくても、ビスケー湾で獲れた豊富な海の幸を活かしたシーフード料理と内陸部のエブロ川流域の谷で獲れた山の幸を使った「海バスク・山バスク」と呼ばれる伝統的なバスク料理を提供し、食いしん坊たちに支持されているレストランも同時に存在しています。
それがサンセバスチャンの食文化を深いものにしているのです。
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写真はイメージです
バル街がサンセバスチャンを美食の街として発展させた
その代表的なものがバルです。バルは日本でいう居酒屋のようなもので、マドリッドのような都会の場合、広場を囲むようにバルが十数軒あります。朝から営業しているところも多く、朝はカプチーノ(スペインではコンレッチェ)とパン、昼はボカディージョといわれるサンドイッチ類を提供し、夜になるとタパスと呼ばれる小皿料理とワインを出すのです。
サンセバスチャンの旧市街には伝統的なバスク料理レストランと100軒以上のバルがひしめいています。そして、サンセバスチャンのバルで食べられる料理がピンチョスです。
ピンチョスはバスク地方で生まれた、タパスを進化させたもので、「コース料理のミニチュア版」といえるほど精緻なフィンガーフードになっています。
しかもサンセバスチャンが美食の街として栄えた理由のひとつが、バル街を中心にしたサンセバスチャンのシェフたちの「ある決断」に隠されているといわれるのです。というのは、彼らは、自分たちのレシピを自ら、積極的に公開したのです。つまり、レシピのオープンソース化です。
これまで料理のレシピというものは、どこの国でも門外不出。弟子から弟子、店から店へと伝えられ、真似されないようにすることが当たり前でした。ところが、サンセバスチャンのシェフたちは、レシピをライバルや仲間と共有することで、街全体を活性化させようとしたわけです。
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その結果、観光客は事前に情報がなくて、行き当たりばったりで目についたバルに入ったとしても一定以上の味を楽しめることになり、「失敗した!」と思うことがなくなります。仕事でサンセバスチャンを訪れ、数時間だけ自由時間があった場合でも美味しい記憶が残るというわけです。
しかし、レシピが共有されたとしても味は最終的にはシェフ固有のもの。レシピ通りに作ってもプロと素人では同じ味にはならないように、シェフたちは共有化されたがゆえにいっそう、自分自身の独自の料理を作り上げようと研鑽を重ねていきました。
このように研究熱心なシェフたちが多数現れたこともあり、2009年にはサンセバスチャン郊外に、ヨーロッパ初の私立4年制料理専門大学「バスク・クリナリー・センター(BasqueCulinary Center 通称・BCC)」もできました。
『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論 ――時代はガストロノミーツーリズム――』(発行:日刊現代)(発売:講談社)
柏原 光太郎
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発売日:2023年5月26日
価格:1,870円(税込)
単行本(ソフトカバー) : 272ページ
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日本各地に「美食経済圏」を構築せよ!
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大軽井沢経済圏、北陸オーベルジュ構想、瀬戸内ラグジュアリーツーリズム……。
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