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芸名の由来は千代田区役所勤務だったから。カンヌでその名を世界に轟かせた役所広司。日本映画界の至宝のキャリアを振り返る−「似た役柄はひとつもない」

集英社オンライン / 2023年6月28日 11時1分

『パリ、テキサス』などで知られるドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』で、カンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞し話題となった役所広司。その輝かしいキャリアと素顔をひもとく。(トップ画像:AP/アフロ)

仲代達矢の無名塾出身

カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を日本人が受賞するのは『誰も知らない』(2004)の柳楽優弥以来、2人目となる。「やっと柳楽君に追いついたかな(笑)」と受賞の喜びをコメントした役所広司だが、彼は常日頃より朴訥なユーモアを忘れることなく、その上で日本映画および業界全体の向上を願い、訴え続けてきている。

仲代達矢主演の舞台を見たことで役者の道を志すようになり、仲代主宰の俳優養成所・無名塾に入塾。前職が千代田区役所勤務だったことから“役所広司”の芸名を仲代から与えられた彼(役が広がるように、との願いも込められているとのこと)は、同塾の公演に参加しつつ、1980年にドラマ・デビューを果たした。



1983年のNHK大河ドラマ『徳川家康』の織田信長で一躍注目されるようになり、翌年にはNHK新大型時代劇『宮本武蔵』に主演し、エランドール新人賞を受賞。1987~1995年の『三匹が斬る!』シリーズも好評であった。

映画では伊丹十三監督『タンポポ』(85)の白服の男役が評判となり、森﨑東監督『女咲かせます』(87)では松坂慶子の相手役に抜擢されて好演。そして山下耕作監督『アナザー・ウェイ―D機関情報―』(88)で映画初主演を果たす。

主演作『うなぎ』(1997)がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。今村昌平監督と
ロイター/アフロ

映画において彼が大きく飛躍したのは1990年代半ばで、まずは細野辰興監督『大阪極道戦争 しのいだれ』(1994)、続いて原田眞人監督『KAMIKAZE TAXI』(1995)に出演した。特に後者は、現代日本社会のひずみを見据えるペルー帰りの日本人を好演し、毎日映画コンクール主演男優賞を受賞している。

そして1996年には周防正行監督『Shall we ダンス』(1996)、細野監督『シャブ極道』(1996)、小栗康平監督『眠る男』(1996)の三連打で、その年の主演男優賞を総ざらいした。1997年も森田芳光監督『失楽園』(1997)が大ヒットしているし、また今村昌平監督の『うなぎ』(1997)がカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞している。

取材で垣間見たお茶目な素顔

このように作品や受賞歴などを羅列していくだけで、本文が終わってしまいそうなほど名作話題作ぞろいの役所広司ではあるが、驚かされるのはどれひとつとして似た役柄がないこと。たとえば同じ細野監督のヤクザものでも『しのいだれ』(1994)と『シャブ極道』(1996)は全然キャラクターが違うし、最近演じた西川美和監督作『すばらしき世界』(2021)での元ヤクザ役も同様だ。

『KAMIKAZE TAXI』以降、名コンビを組み続けている原田監督も、『突入せよ!「あさま山荘」事件』(2002)『わが母の記』(2012)『日本のいちばん長い日』(2015)など毎回イメージが異なる役柄をオファー。『関ケ原』(2017)では特殊メイクを駆使して徳川家康のタヌキ親父っぷりを巧みに体現した。

多くの作品でタッグを組んでいる黒沢清監督(左)と
Capital Pictures/amanaimages

ちなみに筆者が役所に取材させてもらうようになったのは1990年代半ばから。1997年の傑作スリラー『CURE』(1997)で取材会場へおもむく途中、ばったり役所と監督の黒沢清氏が一緒に道を歩いているところに遭遇したときには、彼が茶目っ気たっぷりに両の手を掲げながら、「こちらが『CURE』を撮られた黒沢清監督です!」と紹介してくださった。

そのときの満面の笑顔からは、監督に対する信頼と作品に対する満足感があふれかえっていたことを記憶している。もちろんその後も黒沢清&役所広司の名コンビは『カリスマ』(99)『降霊』(01)『ドッペルゲンガー』(03)など傑作秀作群を生み出していった。

いつの取材だったか、「本当は脚本をじっくり吟味して出演するかどうかを決めたいんですけど、残念ながら今の日本映画界にはそんな時間の余裕はない。そうなると自分が信頼する、もしくは一緒に仕事してみたい監督の作品に進んで出てみようと思うんです」と語ってくれたことがあった。

それゆえか、彼の出演作品は総じて監督との信頼関係によって、自身の演技も魅力も存在感も倍増しているものが多い気がする。何よりも日本在住の監督で役所広司と仕事したくない者などひとりもいないだろうし、今ではヴィム・ヴェンダースのような海外の名匠・巨匠からも注目されるほどなのだ。

海外の作品にも積極的に参加

2006年、コンペティション部門に出品された『バベル』を引っ提げカンヌ国際映画祭に出席。(役所の右隣から)ケイト・ブランシェット、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督、ガエル・ガルシア・ベルナル、菊地凛子
ロイター/アフロ

2000年代以降、海外進出を果たす日本人俳優が続々出てくるが、役所広司もロブ・マーシャル監督『SAYURI』(2005)、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督『バベル』(2006)、フランソワ・ジラール監督『シルク』(2007)といった海外作品に出演している。ただし、そのラインが継続しなかったのは、日本の映画製作サイドが彼を手放したくなかったからかもしれない。

彼自身、『ガマの油』(2009)で監督デビューを果たしたり(監督第2作も待望しています)、三池崇史監督『十三人の刺客』(2010)『一命』(2011)、杉田成道監督『最後の忠臣蔵』(2010)、三谷幸喜監督『清須会議』(2013)、小泉堯史監督『蜩ノ記』(2014)『峠 最後のサムライ』(2022)など、時代劇映画の出演に俄然積極的なのも、混迷を続ける昨今の日本映画界の中で、自分が一体何をやれるかに腐心し続けていることの証左ではないか。

今年は『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(2011)以来のコンビとなる成島出監督(彼は『大阪極道戦争 しのいだれ』『シャブ極道』の脚本家でもあった)の『ファミリア』(2023)『銀河鉄道の父』(2023)に続けて主演し、改めてその存在感を広く映画ファンに示してくれた。

そこに来て、今回のカンヌ男優賞受賞の吉報である。
こうなると一刻も早く『PERFECT DAYS』(2023/公開日未定)を拝見し、世界のYAKUSHOの好もしい貫録を、大いに堪能させていただきたい。

文/増當竜也

役所広司

1956年生まれ、長崎県出身。『KAMIKAZE TAXI』(1995)で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。『Shall we ダンス?』(1996)、『眠る男』(1996)、『シャブ極道』(1996)で国内主演男優賞を独占。東京国際映画祭主演男優賞を受賞した『CURE』(1997)、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『うなぎ』(1997)など、国際映画祭への出品作多数。2012年、紫綬褒章を受章。近年では『三度目の殺人』(2017)、『孤狼の血』(2018)、『峠 最後のサムライ』(2022)、『ファミリア』(2022)などに出演し、『すばらしき世界』(2021)では、シカゴ国際映画祭最優秀演技賞、キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞を受賞。今後は2023年7月期TBS日曜劇場「VIVANT(ヴィヴァン)」に出演予定。ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』(2023)でカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。日本を代表する俳優として活躍している。

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