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【インタビュー連載 会いたい人に会いに行く!】第1回 綿矢りささん(作家)が中島恵さん(フリージャーナリスト)に会いに行く【後編】

集英社オンライン / 2022年5月18日 15時1分

今いちばん会いたい人に、作家が直撃インタビュー! 職人、役者、ミュージシャン、アスリート……さまざまな分野の方々に、作家の洞察力が切り込みます。ひと味違ったインタビューをお楽しみください。

作家が「今いちばん会いたい人」にインタビューするこの企画。
第1回は、芥川賞作家・綿矢りささんが「中国の人々を知る手がかりとしてご著書や記事を愛読している」という、フリージャーナリストの中島恵さんにお話を伺いました。
20代で経営者に? 中国人の働くモチベーションは? ……中国人の「今」に迫ります!


【前編】 より続きます。

構成/編集部 撮影/冨永智子 (2022年1月21日 神保町にて収録

中島恵さん 右:綿矢りささん

もう全部持っている人でも、もっとお金持ちになりたい

綿矢 次の質問です。中国ではめまぐるしい変化が起きているため、5年刻みで世代の特徴が語られているというのが面白いなと思いました。「95后(ジウウーホウ)」(1995~1999年に生まれた世代のこと)と呼ばれる世代が、お金を借りてでも使う世代と呼ばれ、何が出てくるかわからないガチャガチャなどにも躊躇なくお金を使うのに驚いた、前の世代の中国の人は物を買うのにすごく用心深かったのに、と中島さんがご著書に書かれていたのがとても印象に残りました。国外旅行などのレジャーも厳しくなった昨今、労働やお金稼ぎのモチベーションはどこに向かうのでしょうか。

中島 やはり、もっと良い暮らしがしたいということが、中国人のモチベーションだと思います。もっと贅沢がしたいとか、もっといい服が着たい、もっといいものが食べたい、もっと自慢したい……。もう全部持っている人でも、もっとお金持ちになりたい、というのが、モチベーションになっていると思います。

綿矢 中国では、エネルギッシュな欲求がある人の方が良いとされているんですか? 良い暮らしがしたい、という気持ちを外に出しても浮かない雰囲気が中国にはあるんでしょうか。

中島 中国でも、本当に洗練されている人々の間では、そういう人は浮いてしまうと思います(笑)。「土豪」(トゥーハオ)という言葉があって、「成り金」という意味なのですが、そういう人を軽蔑するような傾向も都市部では出てきています。でも、中国は広いので、多くの人はよい暮らしをするために、がんばっているんじゃないでしょうか。一見してわかりやすい「お金持ち」になることへの憧れも、まだあると思います。高級腕時計を身に着けたいとか。

綿矢 ブランド品の人気が継続しているということですね。

中島 エルメスを買いたいとか、そういう層もまだまだいますね。

綿矢 “絶対にあれを買いたい!”という気持ちがやる気につながるんですね。エルメスなどに拮抗するような国内のブランドは出てきているのですか?

中島 アパレルや靴などいろいろな国内ブランドも台頭してきましたが、世界的に通用するブランドは少ないです。若い人が好んで中国のブランドを使っているので、それがいずれは世界的に有名になっていく可能性はあると思います。
まだあまり目立たないですが、今、日本にも中国のアパレルブランドがけっこう進出してきているんですよ。中国の化粧品は日本の女子高生や大学生の間でも有名になっていますよね。

綿矢 はい、私も好きです。「花西子 Florasis」というコスメブランドが私は好きで、「毛戈平(MAOGEPING)」のコスメも気になっているのですが、こちらは日本ではなかなか買えません。気になったきっかけは、こちらのコスメを使って化粧をしてる人の大変身の動画を見たからでした。中国の伝統的なモチーフや色を使ったコスメが、今、中国でたくさん売られていますが、日本に実店舗がなかったり、アマゾンで買えるけれど割高だったり、代行でしか買えなかったりします。

中島 まだ中国人のネットワーク以外に大きく広がっていないんですね。池袋の火鍋店とかもそうですが、中華料理、中華食材なども、在日中国人のネットワークの中で広がって、それが少しずつ、感度の高い日本の若者にも浸透していっている感じです。

綿矢 今後、どれくらい実店舗が出てきて、ネットでも気軽に買えるようになるのか、注目しています。

中島恵さん

20代でいきなり経営者に

中島 中国の若いデザイナーや経営者は、欧米や日本に留学している人が多いんです。中国の90年代生まれの人たちは、世界中のセンスの良いものを学んでいる人が多くて、そのデザイン力と中国の資本力をミックスして、新しいブランドを次々と立ち上げています。最近見ていて、若い経営者が本当に多いな、と感じます。

綿矢 日本よりもお金持ちというか、経営者になる人の年代が若いと、ご著書にも書いてありましたね。

中島 日本に来た中国人留学生は、日本の有名企業にも就職していますけど、最近は就職するだけじゃなくて日本で起業し、20代でいきなり経営者になる人も増えています。

綿矢 そんなに若いうちから成功するのは、日本人だとなかなか難しいですよね。

中島 そうですね。中国と日本ではいろいろなことの世代が10歳以上違いますね。たとえば役職でも、日本で部長と言ったら40代、50代が中心ですけど、中国では30代も多いんですよ。

綿矢 中国のドラマを見ていても、時々混乱しちゃいます。すごい若い社長が社内を歩いて、周りの社員がバーッと頭を下げてるシーンなんかを見ると、こういう設定が中国の人は好きなのかな、異常に若い社長が格好良く見えるのかなと思っていた時期もあったのですが……

中島 現実なんです。

綿矢 オドロキです(笑)。若くても地位があるというのを一種の理想像として描いているのかと思っていましたが、ほんまにいるんや、と驚きました。日本ではそんな人なかなか見かけませんものね。

中島 コロナ前、中国人が日本に旅行に来たとき、日本の店員さんたちは、中高年はお金を持っていて、若い人達はあまりお金を持っていないだろうという先入観があるので、若い人がブランドショップに入ってきてもそっけない、ということがあったらしいのですが、日本に旅行に来られるような中国人の中には、若くてもお金を持っている人がかなりいるんです。

綿矢 インスタで、日本に来た中国の若社長がすごい散財しているのを見ましたが、60代くらいの子どもを育て終わった人のような消費の仕方をしていて、信じられないような気持ちになりました。国の違いを感じました。

ダメになったらすぐ次へ

綿矢 ところで、これから中国ではどんなことが流行りそうですか? 2022年に火が付きそうな流行がもしあれば知りたいです。

中島 流行を予測するのはちょっと難しいですね。中国は変化が激しいので、ワーッと人気になったと思ったら、すぐにワーッと引くということもよくあります。

綿矢 熱しやすく冷めやすいという感じですか?

中島 そうですね。ブランドなども、ワーッと売れてワーッとダメになることが多いのですが、でも中国の人はダメになっても全然めげなくて、すぐに次のブランドを立ち上げるんですよ(笑)。

綿矢 めげないんですね(笑)。

中島 変化に対して柔軟ですね。今やっている商売がうまくいかなくなったら、すぐやめて、全然違う業界に行く人も多いです。日本人は一つのことに対して、こだわりや執着が強いですよね。日本では、30年同じ仕事をしてきた人が、マスクが売れるからといって、明日からマスクを作ろうとは考えないと思いますが、中国ではそんなことはないです。ひらめいたら、即、実行です。

綿矢 生きる力というか、バイタリティがあるんですね。インフルエンサーはまだたくさんいるんですか?

中島 いっぱいいます。一部の儲けすぎた人は、先ほど話した「共同富裕」政策により摘発されましたが、ほとんどの人は問題ないので、そのままやっています。
インフルエンサーといえば、昨年の東京オリンピックで活躍した中国人選手の家まで行って、木に登って家の中のことを実況中継したり、なんていうこともありましたね。

綿矢 けっこう過激ですね!

中島 そこまでやってでも、注目を集めたいという人も中にはいます。

綿矢 なるほど。パパラッチ並ですね。

締めつけ? それとも格差是正?

中島 それと、今の中国について、政府が締めつけを強化しているので、国内にはすごく不満が溜まっているだろう、という見方をする人も日本にはいますが、私が見たところ、必ずしもそうではなく、たとえば政府による塾の禁止やゲームの制限は、多くのお母さんの望みでもあるわけですね。
一部のお金持ちは子どもに高い教育費をかけられますが、貧困層は子どもの教育にお金をかけられない。社会全体のことを考えて、格差を是正していこうというのが今の政府の方針で、それを支持する人も多いのです。

綿矢 柔軟に対応していくのも、生活力の一つかもしれませんね。
海外の情報には、どれくらいアクセスできるのでしょうか?

中島 政府は国民にとって不都合な情報は遮断していますが、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)を使って、海外のサイトなどに接続することは可能です。中国に住んでいる日本人もこれを使っています。
中国人も、たとえば中国国内でアメリカのニュースサイトはあまり見られなくても、VPNを使えば見られますし、アメリカに住んでいる中国人の友達経由で、間接的にアメリカの情報も入ってきます。
日本では「中国人は情報統制されている」という報道から、自国に都合の悪い情報はすべて手に入らないのだろうと思い込んでいる人がいますが、必ずしもそうではありません。

綿矢 友達同士や知人同士などの横のつながりや広さが、ずいぶん発達しているのかもしれませんね。中島さんは文化面や経済面からフラットに中国のことを伝えていらっしゃるので、「こういうカルチャーなんだ」と先入観なく読めました。そういう日本の書籍は少なく、中国人の内面を知りたいと思っている私みたいな読者は路頭に迷っていましたので、ありがたかったです。

中島 こちらこそ、私の本に目を留めてくださって、うれしいです。日本で中国のことといえば、政治や外交、マクロ経済に関する話題が多いですね。あとは「中国崩壊論」とか。中国人に直接取材して書いたものは少ないですが、私は中国人の生活や考え方、生き方などをもっと日本人に知ってほしいですし、中国人を身近に感じてほしいと思っています。

綿矢 そうですね。ネットなどで見ていると、意外と笑いのツボとか似てるんじゃないかと感じています。中国の文化や流行ってるもの、今の若い子たちの考えることを知りたいと思ったときに、その手段があまりなくて、残念に思っていました。中島さんが書かれているようなことをテーマにした本って、意外と少ない気がします。ハードルがあるのでしょうか?

中島 そんなことはないと思いますよ。日本では単に、中国の悪口を書けば本が売れる、と思っている筆者が多いので、文化的な情報は少ないのかもしれません。
でも、ネットの発達により、10年前に比べれば、中国の社会や文化に関する情報もずいぶん日本に入ってくるようになり、中国の存在感が増す中で、日本のメディアも変わってきていると思います。

綿矢りささん

カルチャーギャップと恋愛

中島 日本の20代や30代の若いライターやジャーナリストが、もっと中国について、バイアスをかけずに書くようになってほしいと思います。
それに、綿矢さんのような人気のある若い小説家が中国の等身大の話、たとえば、中国人留学生と日本人の女の子の恋愛などを書いてくだされば、もっと身近に感じられるようになるのではないかな、と思います。私たちのようなノンフィクションの分野の書き手にはできないことを、ぜひ綿矢さんにお願いしたいです。
そういえば、昔は中国人女性と日本人男性の恋愛や結婚が多かったですが、今、経済力が逆転して、中国人男性と日本人女性の恋愛が増えているんですよ。

綿矢 そうなんですね! 知らなかったです。舞台は中国ですか、日本ですか?

中島 私が知っている例は日本で、日本の大学のキャンパスなどで最近よくあるようです。今はファッションなどの面で、中国に憧れて、中国に関心を持っている日本の女子大生も多いですね。綿矢さん、日本人と中国人の恋愛小説をぜひ書いてください!

綿矢 面白そうですね。キュンとするポイントとかがちょっと違いそう(笑)。生活習慣や文化など、違っているところと似ているところ、両方ありそうですね。

中島 カルチャーギャップとか、障害があればあるほど、盛り上がってストーリーも面白くなるのではないでしょうか(笑)。日本に住んでいる日本人男性と中国人女性のカップルで以前、お味噌汁の中にパクチーが入っていて喧嘩になったという、面白いエピソードも聞きました。

綿矢 パクチーもネギも同じ薬味的な役割ですが、やっぱり違和感ありますよね(笑)。

中島 中国人は北京と上海でも食文化が相当違うので、中国人同士でもよく文化の違いでもめるんです。中国の北の人と南の人の結婚と、中国人と日本人の結婚は同じぐらい文化が違うと思います。
国際結婚なら「仕方がない」と許せる場合もありますが、中国人同士だと逆に「許せない!」となって離婚に至るケースも……。中国にも嫁姑問題もあります。中国はとにかく国土が広く、さまざまな人がいるから面白いんですね。

綿矢 春節に食べる料理も、北の人と南の人とで違うと聞きました。日本でもお雑煮の作り方など地方によって違いますが、国が広い分もっと違いがあるかもしれませんね。
お話、とても面白かったです。大変勉強になりました。今日はどうもありがとうございました。

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