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“多様化”が牛丼屋から“早さ”を奪う? 「松屋」の券売機、注文までにボタン操作が16回必要は本当か? デジタル券売機の複雑化の真実

集英社オンライン / 2023年6月29日 12時1分

“注文までに16回のボタン操作が必要だった…”――牛丼チェーン「松屋」の券売機の使いづらさがTwitterなどで話題になっていたが果たして本当なのか。実地調査と、飲食店コンサルタント・笠岡はじめ氏への取材を通して、松屋の券売機事情の実態に迫った。

わかりづらさ、ボタン操作数の多さ…指摘が相次いだ券売機

“松屋の券売機は使いづらい”。
あるTwitterユーザーが2023年4月25日につぶやいたツイートとその写真がネットを騒がせた。

Twitterに載せられていた写真は松屋が導入しているデジタル券売機を写したもので、画面下には左からオレンジ、青、赤の順で大きなボタンが表示されている。ツイートが指摘していたのは、「決済ボタン」のようにも見える右下の赤色のボタンが実は「全取消」で、肝心の決済ボタンは左端の目立たないオレンジ色のボタンだったという点だ。しかもその表示も「注文す」と文字が途中で途切れており、ここにも批判が集まっていた。



騒動を受けてか、松屋は話題のツイートから10日も経たないうちに券売機のユーザーインターフェース(UI)を改善したようで、現在決済ボタンは右下に大きく表示され、文字欠けも修正されている。

だが、批判はこれだけではない。なんと“牛丼1杯と半熟玉子頼むだけで16回のボタン操作が必要だった”と、決済ボタンまわり以外でも松屋の券売機の使いづらさが問題視されたのだ。

そこで今回は、本当に注文までに16回もボタン操作がかかるのかを検証すべく、「牛丼1杯(今回は並盛り)と半熟卵トッピング」という条件で、実際に松屋の券売機を検証。また、比較対象として「すき家」と「吉野家」の注文方式についても検証した。

選択肢が多すぎる! 松屋の券売機操作で感じた戸惑い

今回は東京都大田区にある松屋を訪問。

お店に入ってすぐ目に入るのが、入り口付近にある縦長の大画面タッチパネル方式の券売機。パネルにはデカデカと「店内」と「お弁当」の二択のボタンが表示されている。まずは「店内」を選択。すると次の画面に「牛めし」「丼」「盛り合わせ定食」「セット券」など、料理ジャンルの一覧ボタンが表示された。今回は牛丼を求めて「丼」のボタンを選択する。

しかし、次に表示された丼商品の一覧ページに牛丼の姿はなかった。これは松屋が牛丼を「牛めし」と呼んでいるためで、常連にとっては当たり前だろうが、牛丼をあまり食べない筆者は早くもここでつまづいた。気を取り直して、今一度画面左下にある「戻る」ボタンを押して探し直すことに。

改めて料理ジャンルの一覧から「牛めし」をチョイスする。すると様々な種類の牛めしが表示されたので、そこから定番の「牛めし」を選択し、さらにそこから並サイズを選択した。
だが、次の「半熟卵」探しでまた壁にぶつかった。牛めしを選ぶと自動でサラダや豚汁のセットの一覧ページが計2ページ分表示されるのだが、そこに半熟卵がなかったのだ。

お新香などとセットになった半熟卵はあったが、単体の半熟卵がない。後ろに並び始めた他の客の視線に焦りを感じ始めたところで、ようやくセット一覧ページの上部にある「もう一品」という項目のボタンに気がつく。ここを押すことでようやく単品の半熟卵を選択できた。

「注文する」ボタンを押すと今度は、「dポイントカードの有無」を聞かれたので「いいえ」を選択。すると「現金」「交通系IC」「クレジットカード」「QR決済」「電子マネー」と決済方法の一覧が表示された。現金を選択して金額を入れると、ようやく「決済」にたどり着けた。

結論として、スムーズにできた場合、10回程度の操作で注文確定できるようなので、16回というのは大げさだったようだ。しかし、不慣れだった筆者は誤操作をしてしまったこともあり、今回は合計14回のボタン操作が必要だった。

座席でタブレット注文の「すき家」、口頭注文を貫く「吉野家」

次は大田区の「すき家」を訪問。この店舗は座席に置いてある専用タブレットで注文するスタイルだった。

注文の行程は以下の通り。まずは最初に画面に表示されている「注文開始」を押すと「牛丼・お食事・サラダライト」「カレー」「うな丼・タコライス・牛カルビ丼・その他丼」といった料理ジャンルの一覧ボタンが表示された。そこで「牛丼・お食事・サラダライト」を押すと、お目当ての「牛丼」が出てきたのでこれを選択。そこから「並盛り」を選択し、「注文リストに追加」を押した。

すき家はタブレットの上部に各料理のジャンルに飛べるボタンの一覧が表示されているので、そこから「おかずアルコール」のボタンを選択、そこから「サラダ・単品」を押すと、目的の半熟卵である「おんたま」を発見したので選択。あとは「注文を確定する」を押せば完了だ。ちなみに支払いは商品受け取り時にレジで行う。

合計ボタン操作数は9回と、松屋より多少減った回数だ。

ただ、松屋よりも画面の案内がわかりやすく、あまり迷わずサクサクと進むことができた。さらに自分の座席でゆっくり注文できるため、松屋のときのように後ろに並ぶ客のプレッシャーを感じることがないのは、安心材料として大きかった。


最後に訪れたのは大田区の「吉野家」。

吉野家は現在デジタル式の券売機を導入しておらず、店員へ口頭で直接注文するスタイルだ。まずは座席の脇に備え付けられている縦長のメニュー表を開くと、オススメ商品などがいくつか並んでいたが、すぐに定番の牛丼メニューのゾーンを発見。そして、メニューの下部に小さくトッピング一覧も表示されていたので、牛丼の並盛りと半熟卵を1回で注文できた。

結論として牛丼チェーン大手3社の注文方法を比較すると、やはりネットで言われているように松屋の券売機が一番複雑でやっかいな印象を受けたのは間違いない。

需要の多様化と、デジタルゆえの自由さが複雑化を招いたか

ここからは松屋の券売機事情に関して、飲食店コンサルタントとして数多くのメニュー戦略をサポートしてきた笠岡はじめさんに話を伺った。

「今回話題になった“操作の複雑化問題”ですが、私は松屋だけではなく、2018年ごろから導入されはじめた、これら“デジタル式券売機”を使う外食チェーン全体に共通する問題だとみています」(飲食店コンサルティング会社・飲食店繁盛会の笠岡はじめさん)

デジタル式券売機の複雑化の理由はどこにあるのか。

「大盛り、小盛り、肉多め、肉少なめ、味噌汁をつけるか否かなど、消費者の需要が多様化したことですね。こうした客ごとの細かな好みのオーダーに応えるためと、なにで支払うかという会計方法の多様化やポイント対応の有無も、複雑化に拍車をかけています。

そしてよくも悪くも、デジタル券売機は物理的なボタン数に制限がないので多様化にどんどん応えられてしまいます。ですが、実際に注文する消費者の立場で見ると、選択肢が膨大になって、頼みたい商品になかなかたどり着けないというストレスを与えてしまっているのです」

笠岡さんは、企業はただ選択肢を増やすだけではいけないと指摘する。

「松屋の券売機のUIは、多様化した需要をそのまま提示していますが、必要なのは“基準”です。たとえば料理のカテゴリのなかでも、主役と脇役のカテゴリをわかりやすくしたり、ひとつのメニューを選択したら関係がないボタンは表示しないようにしたり、選択肢を狭めていくプログラムを導入する必要があると思います。

とはいえ、デジタル券売機はこうした改善を比較的すぐ反映できるところが強みでもあります。実際、今回松屋は批判ツイートが話題になってから、わりとすぐに決済ボタンの改良を行っていますよね。これはボタンがデジタルなので元プログラムの配置調節をすれば、すぐに全国の店舗に反映できたからです」

松屋を含む牛丼業界の券売機事情は、今後どうなっていくのだろう。

「デジタル券売機は導入されてから、まだ日が経っていないシステムです。今回のような批判は、手探りでデザインしている松屋にとっては貴重な改善材料なので、結果的にありがたかったはずです。

一方のすき家ですが、業界NO.1の資金的余裕を生かして、現在はデジタル券売機と座席のタブレットの2軸で効率のいい方法を探っている状態です。松屋の券売機の今後を見て方向性を固めていくつもりかもしれませんね。吉野家に関しては高騰する人件費をかけてでも、オールドスクールなやり方を貫くことで他社との差別化を図ろうとしているので、デジタル方向にはあまり進まないかもしれません」

デジタル化したことでほぼ際限なく情報が表示できてしまう最近の券売機。ゆえに“情報の手綱取り”とも言えるメニュー表示の改善は、松屋にとって今後も大きな課題になっていきそうだ。

取材・文/TND幽介/A4studio

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