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陰謀論にはまってしまう人に共通する、自分と似た考えの人が肯定するものは正しいと信じる「大きな勘違い」…人間は情報や知識を理性ではなく欲望のまま選ぶ生き物

集英社オンライン / 2023年7月6日 8時1分

人生100年時代といわれる昨今、年をとってもAIに駆逐されない働き方をするにはどうすればいいのか。『仕事がなくなる!』(幻冬社新書)より、著者の丹羽宇一郎氏が「AIが持ち得ない、人間独自のもの」に注力すればいいのだと力説するわけとは。一部抜粋・再構成してお届けする

#1

フェイク情報に踊らされ、陰謀論めいた見解に傾く人

コロナ禍においては、「インフォデミック(infodemic)」という概念が注目されました。インフォデミックとは、情報(information)と感染症の広がりを意味するエピデミック(epidemic)を組み合わせた造語で、SNSなどを通して不確かな情報と正確な情報が広まる現象のことです。



コロナ禍が広がっていく過程においては、ウイルスの特性、ワクチン接種やマスクなどの対策に対して、何が正しくて何が間違っているのか定かではないさまざまな情報が溢れ、どの情報に接しているかによって、立場や意見が大きく分かれました。なかにはフェイク情報に踊らされ、陰謀論めいた見解に傾く人もたくさんいます。

このように、真実とフェイクが入り交じったSNSなどによる大量の情報が、人々の意識や考えを混乱させる現象は、世界中で起きています。

アメリカのトランプ前大統領の発言が象徴的ですが、日本でも新型コロナウイルスに関しては、何が本当かわからないという状況がSNSによって増幅されました。

まさに「anything can happen」。どの情報が正しいかわからず、膨大な情報の海のなかで的確な判断をすることがいかに困難か、しみじみ感じている人も多いでしょう。



人間の「理性の血」と「動物の血」

そうなると何よりも大事なのは、自分の頭できちんと考え、正しく判断し、行動することです。そのためには「自分の価値判断の基準」をいかに広げるかがポイントになります。

そのために必要なのは、まずは読書。本を読むことで思考力を身につけ、ものごとを冷静に見つめ、きちんと判断する力を培う。読めば読むほど、不可解な「人間の本質」についても理解できるようになります。次に音楽などの芸術に接して感性を研ぎすまし、想像力を広げ、直観力を磨く。そしてさまざまな立場や異なる見解を持った人たちと、できるだけ多く接し、彼らの言うことに耳を傾ける。そうした努力で「自分の価値判断の基準」を広げていくのです。

「自分の価値判断の基準」が確固たるものになれば、バランスのとれた判断ができますから、この情報はおかしいとか間違っているといった、情報に対するリテラシーが高くなるのです。

玉石混淆の情報に惑わされないために、もう一つ大事なことがあります。それは、人間が持っている「動物の血」を律することです。

人間には本質として、「理性の血」と、自然の本能とも言える「動物の血」が入り交じっています。

自分の欲望を土台にし、そこから見たい世界を切り取っている

どれほど理性的な人であっても、根底には必ず動物の血が流れています。動物の血は、ときとして自分が生き延びるために人の命を奪うことまであり、それゆえ常に理性の血によってコントロールされなくてはなりません。

際限のない欲望、快楽、怒り、嫉妬、憎しみといったものは、動物の血がなせるものです。そうしたものがあるからこそ人間らしさも生まれるのですが、それがコントロールできないほど表に出てくるのは問題です。戦争は、その典型例とも言えるでしょう。

では、情報リテラシーと動物の血との間には、どのような関係があるのでしょうか。

先ほど、情報リテラシーを高めるには動物の血を律する必要があると述べたのは、自分の欲望に従って情報に接していると、偏った正しくない情報に傾く危険があるからです。

人間には本質として、自分が見たいものだけを見、知りたいものだけを知ろうとするという傾向があります。つまり人は、自分の欲望を土台にし、そこから見たい世界を切り取っているのです。

たとえば、株の運用益で生活をしている人が、政府の金融緩和策によって株価が上がり、大きな利得を手にすることがあれば、もしその対策に明らかな弊害があったとしても、その経済対策を全面的に支持するでしょう。


自分の意見が多くの人から肯定されることで正しいものだと勘違いする

SNSの普及は、そうした脳の傾向に拍車をかけています。いわゆる「エコーチェンバー」という現象がそうです。

エコーチェンバーとは、SNSを利用する際、自分と似た興味・関心を持つユーザーをフォローし、次に自分から同様の意見を発信すると、また自分と似た意見が返ってきて増幅される状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえたものです。

ときには根拠のない陰謀論のように、自分の意見や思想が多くの人から肯定されることで、それが正しいものだと勘違いすることも起こります。エコーチェンバーによって、自分の意見や考えは揺るぎない正しいものとして固定されていくのです。

このように人は情報や知識といったものを、理性ではなく、自分の欲望に従って選びとる生き物だという認識を持つ必要があります。

たとえば、政治や社会の問題といったものが、一つの意見でまとまることはまずありません。必ずさまざまな意見や立場があります。そこには客観性を持って理性的に考える人がいる一方で、社会が損害を被ったとしても、自分の立場や利得だけを考えて意見を主張する人もいます。後者の場合、こう考えたほうが自分にとって得だというような、動物の血を優先しているわけです。

理性の血を忘れ、感情に任せて情報に接すると、それらに対して正しく向き合えなくなるのです。年老いた親がいつのまにか陰謀論を信じるようになっていて驚いたという話を耳にすることがありますが、加齢で自制心が弱まり、理性の血が動物の血に負けてしまったのかもしれません。

おかしな情報に振り回されないためには、幅広い知識や、ものごとをバランスよく見るセンスを身につけるだけでなく、動物の血をコントロールする術も身につけておく必要があるということです。

自制心の強い子どもは、勉強や仕事において成果を上げる

動物の血をコントロールするのは自制心です。この自制心が人生にどのような影響を与えるかを調べた「マシュマロ実験」という有名な実験があります。元スタンフォード大学教授で、現在コロンビア大で心理学を教えるウォルター・ミシェル教授が、1970年に子ども時代の自制心と社会的成果の関連性を調査したものです。

マシュマロ実験は186人の4歳児が机と椅子があるだけの部屋に一人ずつ通され、実験者が子どもにマシュマロを一つ差し出し、「私はちょっと用がある。食べてもいいけど、15分後に戻ってくるまでに我慢できれば、もう一つあげる。私がいない間に食べたら、もう一つはなしだよ」と言って部屋を出ていき、その子どもたちの行動を観察するというものです。

一人残された子どもたちは、マシュマロを見ないように目をふさいだり、机を蹴ったり、小さな縫いぐるみのように撫でたりして、誘惑に抗います。15分間我慢して二つのマシュマロを手に入れた子どもは、全体の約3分の1でした。

その後、40年にわたって追跡調査をすると、二つ目のマシュマロを手に入れた子どもは、大学進学適正試験(SAT)のスコアが平均点より210ポイントも上回っており、45歳のときは自分の希望する仕事に就いていたり、社会的・経済的地位が高い人の割合が目立って高かったのです。

このことから自制心の強い子どもは、そうではない子どもと比べ、勉強や仕事において成果を上げる割合が明らかに多いことがわかりました。

その後、別の専門家が再現試験を行ったところ、二つ目のマシュマロを手に入れられるかどうかは「子どもの育つ社会的・経済的背景」も影響することもわかりましたが、それでも自制心と社会的成果には、一定の関連性があるのは確かだと思います。

欲望は、「我慢する」のではなく「律する」

自制心があれば、それだけ努力ができる力があるわけですから、仕事で成果を出しやすくなるのは当然と言えます。もっとも、自制心を持つことの意義はそれだけではありません。

仕事で壁に阻まれたり、困難な状況に陥ったりしたときは、しばしば忍耐が求められます。耐える力、すなわち自制心とは、言い換えれば自分に打ち勝つ力です。

このとき、自分に打ち勝つ力のある人ほど、普段から自分を律する習慣を持っているはずです。

動物の血を優先させ、欲望の赴くままに生きれば、自分勝手な振る舞いになり、周囲との軋轢が生まれ、最後は孤立してしまうでしょう。

自分の欲望を「律する」という姿勢を忘れず、自分に勝つ力を備えている人は、荒ぶる動物の血を手なずけることができます。

一方で「我慢する」という感覚だと、ストレスがたまったり、心が折れてしまうことがあるかもしれません。ですから「我慢」よりは、「いい按配に整える」という感覚を伴う「律する」姿勢のほうが、動物の血をうまくコントロールできるように思います。

自分を上手に律する習慣を日頃から身につけていれば、仕事において成果を上げやすくなるだけでなく、困難な出来事があったときにも、必ずや役に立つはずです。

『仕事がなくなる!』 (幻冬舎新書)

丹羽 宇一郎

2023/5/31

990円

192ページ

ISBN:

978-4344986947

昨今のAIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。世間では「リスキリング」がもてはやされているが、簡単に身につくスキルを学んだところで、一瞬でAIに追い抜かれてしまう。人生100年時代といわれる昨今、AIを超える働き方をするにはどうすればいいのか。著者は「AIが持ち得ない、人間独自のもの」に注力すればいいのだと力説する。現状維持の働き方を続ける人は、仕事どころか、居場所もなくなる!

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