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IT化を拒み、わからないことは若手に丸投げしてきたおじさん社員の末路…やがて居場所はなくなり、早期退職推奨面談に迫られる

集英社オンライン / 2023年7月7日 8時1分

AI技術の急速な進歩は誰にも止めることはできない。環境が劇的に変わっていく中で、仕事のスタイルはどう変えざるを得ないのか。AIを効果的に使うために必要なこととは。『仕事がなくなる!』(幻冬社新書)より一部抜粋・再構成してお届けする。

未来の仕事を先取りしないと、取り残される

誰もが年を重ねると保守的になり、変わることを怖がる傾向にありますが、それはなぜだと思いますか?

おそらく若い頃に比べて好奇心が薄れてしまうので、新しいことを知ろうという意欲が減ってしまうからでしょう。また年を取るにつれ、体のあちこちが痛くなったりして体のメンテナンスにかける時間が増えるので、仕事をする時間も必然的に減ってしまいます。



かたや、ITやAI技術の進化により、一つのスキルで一生食べていけるような時代は終わりました。何歳になろうが、退職間近になろうが、誰しも新しいことを取り入れていかないといけなくなったのです。

「中高年になっても老体に鞭打って、新しいことを学ばなくてはならないのか?」

そんな声が聞こえてきそうですが、中高年であっても、変わろうとする意欲が若者より旺盛であれば、われわれは経験の数においては若者に負けないわけですから、対等に張り合うことはできるはずです。




変わることを恐れる中高年の末路

昔は新卒で入社した会社で、定年まで働くのが普通でしたし、私もそうでした。

でも2022年にマイナビ(就職・転職情報を提供する会社)が「初めて仕事を辞めたとき」のことについてアンケートをしたところ、3年以内に辞めた人の割合は、なんと66.4%でした。私が入社した60年前からすると、隔世の感があります。

一方で少子化に伴い、若者を優遇する企業も年々増えていますし、中高年に対し、早期退職を促す企業も多くなっています。結果として、同じ会社で定年まで働き続けたい中高年は、若者と競争することになってしまいます。

保守的で変わることを恐れる中高年は若手から敬遠され、結果が出せず会社に居場所もなくなり、肩身の狭い思いをする一方で、同じ中高年でも、自ら変わろうと知識を貪欲に吸収しながら新しいことに挑戦し、失敗から学び、若手から教えを請おうとする人たちは、それまでに重ねた経験との相乗効果もあって、どんどん伸びていくでしょう。

あなたは変わることを恐れたり面倒くさがったりせず、変化することに意欲を持っていますか?

取り返しがつかないほどの大きな〝実力の差〞に

一見、些細な違いに思えます。でも、この意識の差が、ほんの1、2年で、取り返しがつかないほどの大きな〝実力の差〞になってしまうのです。

私自身、現在84歳ですが、興味を持っているAIについて、研究者と話し合う時間を定期的に持ち、時代に取り残されないよう常にアップデートを心がけています。

新しいことを知るということは、いくつになっても、とてもエキサイティングなものですし、「前のめりになって、変化を楽しむ」ということを一度味わうと、習慣になります。中高年のみなさんにも、ぜひとも変化することをもっと楽しんでほしいと思っています。



AIが持ち得ない「感性」をフル活用する

経済学者の成田悠輔さんは著書『22世紀の民主主義』(SBクリエイティブ)で、「人間の政治家はいらない。AIにすべてを任せてしまえばいい」と発言されています。

家やオフィスや街で発する言葉、表情、心拍数など国民一人ひとりのあらゆる情報をインターネットや監視カメラで吸い上げ、膨大な民意データを収集する。それを解析して国民が生活のなかで何を重視しているか、何を社会に期待しているかを探る。その上で国内総生産や健康寿命の目標値を考慮し、アルゴリズム(計算手順)に従って最適な政策を選択していく――成田さんはそんな「無意識データ民主主義」を主張します。

たしかに昨今の政治家の体たらくを見れば、絵空事とは言え、AIに任せたほうがマシかもしれないと、つい思いたくなることはあります。

このアイデアは、実際にすべての政策立案、遂行の判断をAIに任せたら、社会はどの程度うまく回るのか、国民はおとなしく従うのか、行政官はどういう仕事をすればいいのか、そもそもAIが導く結論は正解なのか――、そんなことをあれこれ想像させます。

少なくとも、これからの民主主義のあり方を考える上では示唆に富んだ〝思考実験〞かもしれません。


数年前にAI採用をやめたアマゾン

政治をAIに任せてしまえばいいという発想と同様、会社の経営もAIに任せればいいのではないかと考える人もいるようです。

しかし、組織の規模や仕事の内容にもよりますが、AIに会社の経営を委ねるのは難しいでしょう。その理由は、大きく二つあります。

一つは、AIそのものが必ずしも正解を導くものではないということです。それはAIに何を学習させているか、その内容次第で正しく判断できるものと、そうではないものに分かれるからです。

AIは、正しいと教えられた答えを導き出すのは速くて正確ですが、あくまで収集したデータの範囲内でのことです。データの範囲外のことについて、人間の能力を遥かに上回るスピードで最適解を出すなどということはできません。

AIはチェスや将棋の名人に勝ってしまうほど、精度が進化しています。チェスや将棋においてAIが人に勝つのは、ゲームのルールがはっきり決められているため、正解に辿り着きやすいからです。

米国アマゾンは、数年前にAIによる採用プログラムの開発をやめたといいます。過去の履歴書のデータをもとにした採用プログラムを組んだところ、履歴書が性や人種によって不当に差別されることがわかったからです。

つまり、AIが学ぶ過去のデータが潜在的に差別や偏見を含んでいれば、AIの最適解に偏りが生じるのです。

AIによるローン審査が厳しく扱う外国籍女性

イタリアの銀行では、AIでローン審査を実施したところ、外国籍の女性が審査に通りにくいことがわかったそうです。このケースはバイアスを軽減するアルゴリズムを新たに組み込むことで公平性が改善されたと言いますが、結局AIは、何を学習させたかを人間が十分に理解した上で使わないと、危険な結果を導き出すこともあるのです。

仮に経営をAIに任せるとなった場合、それなりの規模を持った会社であれば、未来にどのような変化が起こり得るかも含め、気が遠くなるほど膨大なデータを学習させなくてはなりません。

環境の変化や商品の需要動向、世代別の消費指向、従業員の人間性、心理傾向や行動パターン、技術開発の見通し、取引先の事業展開等々……あまりにも集めるべきデータの範囲が広すぎますし、しかも常に変化しているので、それらを完全に近い形で収集するのは不可能です。

AIが正確な経営判断をしていくに足るだけの十分なデータを集め、偏りのないプログラムを組むのは至難の業でしょう。

AIには責任がとれない

二つ目の理由は、AIには責任の取りようがなく、かつAIが導いた判断そのものには、人の心を動かす力は内在されていないということです。

AIは、その判断に誤りがあって会社に損害を与えたとしても、責任を取れません。会社に損害をもたらした場合、AIを代行して代表者が責任を取って謝罪するしかありませんが、基本となる判断も指示もAIに依存しているわけですから、代表者の言葉を信じる人はいないでしょう。

一方、経営のトップが自らの頭と意思で判断し、指示したものであれば、当然説得力もありますし、責任の重みも違います。

私が社長として伊藤忠商事の巨額の不良債権の一括処理と無配を決めたときは、株主、取引銀行、会社OBをはじめ、社内外の反対にあいました。

「人員削減や不動産の売却で、少しずつ損失を埋めていくべきだ」というのが大半の主張でした。しかし、このままでは腐ったりんごのように会社は衰退し、根本から信用を失ってしまいかねない。そんな危機感を抱いた私は、「将来は必ず収益を上げて、高い配当を実現するので、ついてきてほしい」と方々に頭を下げ、説得を重ねました。

もしAIが経営判断の決定権を担っていたとしたら…

ときには「会社がつぶれたらどうするんだ! 責任を取れるのか」と大株主たちから強い口調で詰め寄られました。イギリスやドイツなど海外の株主や債権者、投資家などには、財務担当専務と一緒に、必死で説明をして回りました。このときも厳しく経営責任を問われ、何度も決裂寸前の口論になりました。

しかし結果的には、マーケットは不良債権の一括処理を評価してくれました。激しく私たちを責め立てた投資家や株主のなかには、説明の翌日には株を買ってくれた人もいて、私自身感動したことを今でも覚えています。

このような状況のとき、もしAIが経営判断の決定権を担っていたとしたら、どうなったでしょう。

ここからはSFの世界です。私が自分の頭ではどうするべきか判断できず、AIが不良債権の一括処理と無配を最適解として出したとしましょう。

そのとき、私がAIの指示に従って周囲を説得するには限界があります。なぜなら自らの頭と意思によって出した結論であればこそ、私は強い信念と情熱を持って相手を説得できる。しかし、ただおとなしくAIの判断に従って仕事をするだけなら、人の心を動かす情熱など持ち得ません。

AIによる会社経営は、まだSFの世界の話

相手を是が非でも説得しようという気迫も生まれません。その結果、不良債権の一括処理と無配の判断は大勢の意見によって引っくり返され、不良債権はそのままに、無難な道を選択する可能性が高くなるでしょう。

仕事は、能力や人間性を前提とした信頼の上に成り立つものです。AIが経営にまつわるすべてをこと細かく判断し、従業員はそれにただおとなしく従うだけであれば、社員間の関係性は希薄なものになります。

上司が何か指示を出しても、それがAIの判断によるものであれば、部下と上司の間に信頼関係は生まれません。互いの能力を認め合うなかで生まれるはずの社員同士のつながり、連帯感といったものもなくなるでしょう。

またAIの奴隷のようになって仕事をするだけでは、仕事へのモチベーションも生まれず、会社はやがて活力を失いかねません。

個人がシンプルなビジネスモデルの商売をするなら、AIに経営の主要な部分について判断を任せることはあり得るかもしれません。ただ、規模がそれなりに大きく、業務内容が複雑で多岐にわたっているような会社であれば、AIに経営判断を委ねるのは危険すぎます。

この先、AIが驚くほど高度な進化を遂げればわかりませんが、それはもう少し先の話になるでしょう。

今の段階ではAIによる会社経営は、まだSFの世界の話だと思います。ただし今後は、経営以外の多くの仕事には、AIがこれまでの社員以上の力を発揮することは間違いないでしょう。

『仕事がなくなる!』 (幻冬舎新書)

丹羽 宇一郎

2023/5/31

990円

192ページ

ISBN:

978-4344986947

昨今のAIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。世間では「リスキリング」がもてはやされているが、簡単に身につくスキルを学んだところで、一瞬でAIに追い抜かれてしまう。人生100年時代といわれる昨今、AIを超える働き方をするにはどうすればいいのか。著者は「AIが持ち得ない、人間独自のもの」に注力すればいいのだと力説する。現状維持の働き方を続ける人は、仕事どころか、居場所もなくなる!

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