レジェンドAV監督、カンパニー松尾が「サニーデイ・サービス」のドキュメンタリーを撮影。ナレーションは小泉今日子で小宮山雄飛ら10人以上がコメント…「●●撮り手法」も採用?
集英社オンライン / 2023年7月7日 17時1分
CDデビュー30周年を迎えるロックバンド「サニーデイ・サービス」のドキュメンタリー映画を撮り上げたのは、AV監督のカンパニー松尾。「ハメ撮り」のレジェンドは、なぜ音楽ドキュメンタリーに挑み、そこに何を注ぎ込んだのか?(文中敬称略)
「人間・曽我部恵一」に興味を持って始動
サニーデイ・サービスは、1990年代に「渋谷系」の一角を成すバンドとして一世を風靡。解散、再結成、メンバーとの死別などを経て、現在も活動を続ける3人組だ。
彼らを追った映画『ドキュメント サニーデイ・サービス』(7月7日公開)を監督したのは、カンパニー松尾(57歳)。自らカメラを持って女優と絡む「ハメ撮り」の手法を確立し、独自の“ロードムービー的AV”で熱いファンを持つAV監督だ。
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カンパニー松尾
「俺はAV監督を35年間続けているんですけど、もともと音楽が好きで、90年代からパラダイス・ガラージの豊田道倫さんのライブドキュメンタリーを撮ったりしてたんです。
その豊田さんと接点があったのが、サニーデイ・サービスの曽我部(恵一)さん。俺は最初のCDから買っているファンなので、あいさつをしたことはあったんですけど、仕事に結びつくことはなかったんです。
それがつながったのは、2019年。昔、MV(2001年『ブロッサム』)を撮った川本真琴さんから直電が入ったんですよ。『新曲のMVを頼みたい。曽我部さんが走るだけのMVを撮ってほしい』と。
突飛な依頼だけど、アーティストの直電は断れない(笑)。雇われ監督と出演者として、曽我部さんと仕事をしました」
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曽我部恵一/『ドキュメント サニーデイ・サービス』より
そこで興味を持ったのは、「人間・曽我部恵一」だった。曽我部はヴォーカル&ギター、ソングライターとして多くの名曲を生み出した鬼才で、リスペクトするミュージシャンや文化人も多い。
「アーティスティックな人だと思ってました。でも、違うんですよ。『何で、この仕事を受けたんですか?』と聞いたら、『何でも受けるんですよ。ギャラをもらえるなら』とか言っていて、『この人、面白いな』と(笑)。普通の人間というか、ちゃんとした“人”なんだなと思ったんです」
そして、『劇場版BiSキャノンボール2014』などで仕事をともにしたSPACE SHOWER FILMSのプロデューサー・高根順次氏に、長編ドキュメンタリーの企画を持ちかけた。
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コロナ禍で想定外の長期撮影に
まず考えたのは、どんなドキュメンタリーにするか。
「バンドのドキュメンタリーには、大きく言うと、ツアーを追った『ツアー・ドキュメンタリー』と、過去の歴史を紹介する『バンド・ドキュメンタリー』があって。
サニーデイは、2018年にドラマーの丸山晴茂さんが亡くなって、新ドラマーの大工原幹雄さんが加入した最初のツアーが控えていたので、そのふたつの中間というか。ツアードキュメントに、歴史の話をうまく挿入していく構成をイメージしました」
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ツアーは当初、2020年5月から3カ月程度の予定だった。その前に東京で取材しておきたいと、4月4日、東京・飯田橋のボート場に曽我部を呼んだ。
「曽我部さんがボートを漕いでいる冒頭のシーンを撮ったんです。それがちょうど1回目の緊急事態宣言が出る前で、その撮影中にツアー中止の電話が入った。だから散り際の桜の中で、曽我部さんがボーッとしてる。実際、大変だったと思いますよ。
曽我部さんは『ROSE RECORDS』を主宰して全部自分たちでやっているので、コロナでライブがキャンセルになったら、多大なるダメージを受ける。
その後、移動して違うシーンの撮影の予定があったけど、前を走る曽我部さんの車から『キャンセルをお願いします』とLINEが来て、いきなり中止になりました」
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『ドキュメント サニーデイ・サービス』より
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『ドキュメント サニーデイ・サービス』より
次に撮影したのは、下北沢のカレー店で働く曽我部の姿だ。
「『カレーの店・八月、開店しました』とTwitterで発信されているのを見て、行ってみたんです。そうしたら曽我部さんが、カレーを出して普通に接客していて(笑)。
本当はもっと宣伝してからオープンしたかったらしいんですが、経営していたカフェバーがコロナで営業できなくなって、前倒しで始めたと。『とにかく日銭を稼がないと』と言っていましたね」
その後、無観客での配信ライブや、客数を制限しての有観客ライブなど、コロナ禍でも活動を続けるサニーデイを約1年半にわたって追い続け、2時間25分の『ドキュメント サニーデイ・サービス』が完成した。
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『ドキュメント サニーデイ・サービス』より
決まり画で、決まりの言葉は聞かない
特徴的なのは、メンバーへのインタビューが、彼らが運転する車中や、立ち寄った飲食店で行われていること。その裏には、「なるべく本人たちに語らせない」というこだわりがあったという。
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『ドキュメント サニーデイ・サービス』より
「アーティストのメッセージは、詞とメロディに込められている。その背景や解説も気になるけど、あんまり本人から聞きたくない(笑)。歴史も、バンドが解散していたりすると、『あのときは、こうでした』という烙印を押してもいいと思うんですよ。
でもサニーデイは、今も続いているバンド。決定的な烙印を押すようなことはしたくなかった。だからメンバーには申し訳ないけど、車で運転しながら話してもらうくらいでいいだろうという感覚でした」
その一方で、腰を据えて行っているのが、関係者インタビュー。90年代から交流があるホフディランのふたりや、やついいちろう、MVディレクターの山口保幸、雑誌『BARFOUT!』の編集者だった北沢夏音ら10人以上が、サニーデイについて語っている。ナレーションは、曽我部が過去に楽曲提供をした、小泉今日子が担当。
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ホフディランの小宮山雄飛/『ドキュメント サニーデイ・サービス』より
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編集者の北沢夏音/『ドキュメント サニーデイ・サービス』より
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Never young beachの安部勇磨/『ドキュメント サニーデイ・サービス』より
「付き合いの濃い人たちは、昔のこともよく覚えている。話が面白くて、歴史パートが長くなりました。小泉さんは、詳しくは言えないけど、僕に対する認識もあって意外でしたね(笑)。
完成した映画を曽我部さんに見てもらったら、『面白い!』と。自分のドキュメンタリーを見て、『面白い!』っていう本人はなかなかいないと思うけど(笑)。自分としても好きにやらせてもらったので、満足です」
3カ月ほどで完成の予定が、編集も含めると2年近くにおよんだ『ドキュメント サニーデイ・サービス』。作業を通して改めて感じた、サニーデイの魅力とは?
「僕は1stアルバムの『若者たち』(1995年)が、今でも一番好きなんです。その前のデビュー直後はギターポップで、はっぴいえんど的なフォークロックになって、そこにラップ的な要素が加わり、いきなりロックンロールに(笑)。
曽我部さんがいろんなカルチャーを吸収するごとに、それらを通過した音楽がちゃんと出てくる。それは恐ろしい才能だと思いました。
あと今回感じたのは、バンドをやる難しさ。ラップならDJとラッパーのふたりでできるけど、ロックバンドは最低3人で、楽器も3つ必要。音を出すのも、そこらで出せないから、スタジオに行かなきゃいけないわけですよ。
そう考えると、コスパが悪い(笑)。でも、そういう尺度で測れない魅力がある。ライブシーンで生演奏の迫力も、映画館で感じてもらえたらうれしいです」
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「ドキュメンタリスト」としての力
実は、今回の作品にも松尾らしいAVの撮影手法が用いられているという。
「『ドキュメント サニーデイ・サービス』も、目指したのは、1対1のハメ撮りシステム。車でメンバーに話を聞いたのも、AVと同じですよ。AVでは、助手席に女の子が座ってるだけ。
スタジオで照明を当ててインタビューしなかったのも、ずっとAVで、そうじゃない撮り方をしてきたから。一部の人にしかわからないと思うけど、そういう手法が、この映画のいろんなところに継承されているんです」
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自然体の言葉を引き出すインタビュー、インサートされる風景カット、ウォン・カーウァイ作品を彷彿とさせる広角映像やストップモーションなど、随所に“カンパニー松尾らしさ”が感じられる。
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古くからのファンもビギナーも、サニーデイの歴史や魅力を知ることができ、ライブシーンには興奮と感動も。そこには、女優のリアルな人間性と生々しい性を撮り続けてきた、「ドキュメンタリスト」としてのカンパニー松尾の力が生きている。
後編では、彼のAV監督としての35年の歴史やAV業界の変化などを聞いていく。
取材・文/泊 貴洋
撮影/村上庄吾
場面写真/©2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS
編集/一ノ瀬 伸
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『ドキュメント サニーデイ・サービス』(2023年)
監督/カンパニー松尾
ナレーション/小泉今日子
出演/サニーデイ・サービス(曽我部恵一、田中貴、大工原幹雄)、丸山晴茂、渡邊文武、藏本真彦、新井仁、杉浦英治、北沢夏音、やついいちろう、山口保幸、小宮山雄飛、ワタナベイビー、夏目知幸、安部勇磨
配給/SPACE SHOWER FILMS
1992年に曽我部恵一、田中貴らを中心に結成され、今年、CDデビュー30周年を迎えるサニーデイ・サービスのドキュメンタリー映画。コロナ禍の全国ツアーに密着しながら、メンバーや関係者による証言でバンドの歴史を振り返る。新旧の貴重なライブシーンや、カンパニー松尾ならではの映像美も見どころ。
7月7日(金)渋谷シネクイントほか全国公開
公式HPはこちら https://films.spaceshower.jp/sunnyday/
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