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「教育者としての絶望」…防衛大現役教授による実名告発を東京新聞・望月衣塑子記者が読む。「戦争への道は、その資格のない人たちに武器を与え、予算を与えることから始まる。今の自衛隊には…」

集英社オンライン / 2023年7月11日 7時1分

2023年6月30日に防衛大学校の等松春夫教授が衝撃的な告発を発表した。防大、防衛省の構造に警笛を鳴らすこの論考を有識者たちはどのように読んだのだろうか。東京新聞の望月衣塑子記者が語る。

防衛大学校のおかしな仕組み

等松春夫教授のインタビューと論考「危機に瀕する防衛大の教育」を一気に読んでしまった。

それから、ゾッした。まず思ったのは、とにかく記者会見を開いてもらいたいということ。あまりにも衝撃的な内容だったので、うかがいたいことがたくさんある。他の大手メディアの記者も同じように感じているのではないだろうか。


東京新聞の望月衣塑子記者 写真/野辺竜馬

一般的に、防衛大学校といえば幹部自衛官の入口であり、将来的には自衛隊の中枢を支えることになる人材を育成するための大学(に相当する機関)と、イメージされている。私自身もそうだった。

ところが、等松教授によれば、防大における学究カリキュラムの最大の特徴でもある「防衛学」を教えている教官のほとんどは、現役の自衛官が「自衛官としての階級」を「研究者としての立場」にスライドさせておこなわれているというのである。

自衛隊で1佐以上の階級なら「教授」、2佐・3佐なら「准教授」。

これは、どう考えてもおかしな仕組みだ。どれぐらいおかしいのかは、立場を逆にすればわかる。たとえば、今回の告発者である等松春夫さんは政治外交史の専門家で、防衛大学校・国際関係学科の教授だ。よって、仮にこの立場を自衛隊にスライドした場合、等松さんは1佐(諸外国の軍隊における大佐)の階級を与えられることになる。

そんな馬鹿な!

「人権侵害常習犯の差別主義者」という批判が「公正な論評」と裁判で認定されてしまった【1】作家の竹田恒泰氏を、幹部候補生向けの講演者として呼ぶような自衛官教官であっても、もし、そんな決定が下されれば激怒するのではないか。

小銃を担いだことも、撃ったこともない、匍匐前進も知らない教授が、なぜ1佐として部隊を指揮する立場を得られるのか。できるはずがないだろう。

自衛官教官の補職は、その「できるはずがないもの」と構造は同じなのだ。等松教授が「1佐」として部隊を指揮できないのと同様に、1佐の武官の皆さんも、ルーティンの人事でいきなり大学にやってきて、なおかつ「教授」として学生たちに質の高い講義をおこなうことなどできないはず。等松教授の論考で書かれているのは怒りというより、教育者としての絶望だろう。

安倍政権から続く「軍拡路線の拡大」に大手メディアは…

安倍政権以降、政府と自民党はただひたすらに「軍拡」を目指してきた。安倍氏から菅氏、岸田氏と総理が替わっても軍拡路線に突き進むばかり。そして驚くべきことに、読売新聞を始めとした一部の大手メディアは、敵基地攻撃能力の保有や防衛費の増額に拍手を送っている。

写真/野辺竜馬

1つ、等松教授の言葉を振り返りたい。

〈近年、日本をめぐる安全保障環境が悪化する中、政府は防衛予算を大幅に増額することを決定しましたが、メディアは本質的な問題から目を逸らし、相も変わらず防衛予算の額や兵器や装備の性能の話に終始しています。
いくら予算と兵器・装備が増えても、それを扱う人間が質量ともに揃わなければ防衛力の強化は絵にかいた餅に終わるでしょう(…)現代の安全保障はたんに兵器と人間の頭数が多ければよいというものではありません。
刻々と変化する安全保障環境と技術革新に柔軟に対応できる、想像力と論理的思考力を持つ幹部自衛官がいなければ、自衛隊を十全に機能させることは不可能です〉【2】


等松教授がおっしゃる通り、武器や防衛予算をいくら増やしても、それを扱う人間が育っていなければ、意味がないのだ。ところが現実には〈幹部自衛官になるべき若者を養成する中枢である防大では、受験者の激減、学生の質の低下、パワハラ、セクハラ、賭博、保険金詐欺、補助金詐取、いじめやストレスからの自傷行為など、憂慮すべき事態が立て続けに起きる異常な事態〉【2】が続いている。

こんな状況で、自衛隊がまともに機能するとは期待できない。問題があるなら、まずは立ち止まり、ゼロベースで考えることが大切ではないのか。戦争への道は、その資格のない人たちに武器を与え、予算を与えることから始まる。今の自衛隊には、増えた予算や武器を扱う能力など、到底、備わっていないのではないかと思う。

【1】 竹田恒泰氏が、ツイッターに「差別主義者」や「教育現場に出してはいけない人権侵害常習犯」などと書かれて名誉を傷つけられたとして、山崎雅弘氏に550万円の損害賠償と投稿削除を求めた訴訟。一審は、竹田氏が講演や著書で侮蔑的な表現を繰り返しているとし、「一定の批判は甘受すべきだ」と竹田氏の請求を棄却した。その後、二審も一審の判決を支持し、最高裁は竹田氏の上告を退けた。

【2】等松教授の論考『危機に瀕する防衛大学校の教育』より。


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