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不思議な本との出会いが、中学1年生に飲み物ビジネスを始めさせるが、友達から「サギじゃん、ズルじゃん、悪いことじゃん」と言われ…

集英社オンライン / 2023年7月17日 13時1分

経営学者の岩尾俊兵さんが上梓した『13歳からの経営の教科書「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』(KADOKAWA)は、主人公やそのクラスメイトの成長を通して、経営マインドやスキルについて学べる一冊だ。その一部を抜粋、再構成してお届けする。

不思議な教科書と出会った中学生

主人公のヒロトは中学一年生。ある日図書室で『みんなの経営の教科書』と書かれたうす茶色い背表紙の本を見つける。そこには次のようなことが書かれていた。

〈世の中は経営であふれている。自分が思いついたことをやってみるにも、経営はかならず必要だ。それに、経営が上手ければ、お金を稼ぐこともできる。世の中、お金ばかりじゃないけれど、でもお金だって大事だ。お金があればお菓子だってサッカーボールだって最新のゲームだって買うことができる。もちろん、夢とか幸せとか、お金で買えないものだってたくさんあるけれど。〉



〈テレビ、ソファー、テーブル、フライパン、電子レンジ、花瓶、お菓子......などなど。これらは何らかの「組織」や「会社」によって作られたものばかりだ。そして、それを可能にするのが「経営」だ。ビジネスを実現するには「天才」でなくてもいい。大事なのは「経営」だ。〉

なんとなく「経営」に興味がわいたヒロト。

〈量と内容がまったく同じジュースでも、激安スーパーで買ったら50円だったものが、自動販売機だと100円以上したりする。これも自動販売機のジュースには「いつでも、どこでも、冷たい飲み物を飲める」という良いことがあるからだ。〉

という記述を読み、激安スーパーで麦茶を1本50円で仕入れる。そして、いつも通っている理髪店の敷地内で麦茶を販売させてもらえないか、店主に相談することにした。

『13歳からの経営の教科書「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』より

いざ麦茶販売にチャレンジ!

ヒロトが話し終わると、店主は、ばんっ、ばんっ、と、力強くひざを叩いた。「なんか面白そうじゃないの。別に敷地の端っこを貸すだけでしょ? いいよ、やってみなよ」

その返事をきいて、ヒロトの表情がぱあっと明るくなった。「本当ですかっ。やった、ありがとうございます」これでついにビジネスが始められる。そう思うとヒロトの声にも一層力が入った。

「つめたーい麦茶はいかがですかー?」

ヒロトは、通りがかりの人たちに、そう呼びかけた。しばらくすると、優しそうなおばあさんが話しかけてきた。みると、すこし足を引きずっているようだ。

「あら、麦茶ねえ。これは、いくらなの?」80歳くらいだろうか。銀色に近い白髪で、目じりが下がっている。

「えっと、あれっ? 決めてないやっ」
「あら? それじゃあ、買えないわね」
ヒロトは、ちらっと、自動販売機を見た。麦茶は140円だ。それよりは安いほうがいいだろう。
「んー、じゃあっ、100円でどうでしょう?」
「いいわね。じゃあ、ひとつちょうだい」
そのおばあさんはヒロトに100円をわたすと、麦茶を1本取って、その場で飲み始めた。

「あら、美味しいわ」
「ありがとうございますっ」

そういって、ヒロトは100円玉をにぎりしめた。自分の力で手に入れた100円。お小遣いでもらうよりもなんだか重く感じる100円。

それからも、麦茶の売れ行きは良かった。ときどき、「コーラとかないの?」と、きかれたりしたし、こっちから話しかけても逃げられてしまったり、近くの自動販売機のほうを選ぶ人もけっこういた。お釣りのことを考えていなかったために、お札しか持っていない人に売りそびれたこともあった。

それでも一日を通して麦茶はぼちぼち売れ続けたし、途中で、部活帰りの高校生5人組がひとり1本ずつ一気に買ってくれるというラッキーもあった。

1000円が2000円に。初めてビジネスができた日

そうして、日が暮れるまでに、麦茶は全部売り切れた。

1000円で買った麦茶が2000円になったのだ。ということは、2000円引く1000円で、ちょうど1000円の儲けだ。たった1日で1か月分のお小遣いと同じだけ稼げた。

それに、なんだか楽しかった。自分が考えたことが、ちゃんとビジネスになったのだ。今日一日だけでもいろんなことがあった。まるで冒険だった。

空のバケツを両手で振りながら、ヒロトはスキップして帰った。これからは週末に必ずここで麦茶を売ってみようかな?

と、次の瞬間、「......ヒロトじゃん」背後からリンに話しかけられ、ヒロトは我に返った。

リンは陸上部の練習からの帰りだろうか、体操服姿だ。

「あっ、リン。ひさしぶり? じゃないな。こんばんは?」
「......うん、こんばんは。で、何してんの?」
ヒロトはすこしだけ緊張した。リンの質問に厳しさを感じたからだ。

「えっ、いやあ何も。リンは?」
「......あのさ、ここ、私んち」
「あっ、そうだっけ」

ちょうど青果店の前を通り過ぎたところだった。

「......あのさ、うちの前でバケツ振り回されると危ないんだけど」
「えっ? ああ、これ? 振り回してないよ。ごめん、ごめん」
「......あと、走るときはちゃんと前向いて走りなさいよ」
「あー、そっか。でも、走ってないよ。スキップ、スキップ、ははっ」
「......言い訳しないで。同じことでしょ」

こうなったらもうどうしようもない。逃げるが勝ちだ。「まっ、次から気を付けるからさっ。じゃあねー」そういって、ヒロトはその場から走った。

その日もヒロトは帰り道に近所の激安スーパーに寄った。明日もまたこの「麦茶ビジネス」をおこなうためには仕入れをしないといけない。といっても、明日はコーラや、スポーツドリンク、缶コーヒーも少しは揃えておく必要がある。そうヒロトは学んでいた。

だから正確には「飲み物ビジネス」だ。麦茶以外の飲み物もあれば、きっともっと早く売り切れて、残りの時間は遊んでいてもよくなるだろう。

そんなことを考えるのも、ヒロトにとっては初めてのことで、けっこう面白い。結局、ヒロトは今日の儲けの1000円全部を明日のための飲み物代、仕入れ代に使った。

“飲み物ビジネス”は詐欺なの?

翌日の日曜日も、日が昇りはじめた頃に、ヒロトは駅前に向かった。やるべきことは土曜日と同じだ。

「つめたーいお茶、ジュース、コーヒー、なんでもありまーす。冷たい飲み物はいかがですかあ」

しばらくして今日も1人、2人。そして1本、2本、と、売れ始めた。飲み物を売り始めて30分くらいしたころ、リンがヒロトのほうに向かってきたのが見えた。ヒロトは面倒になる予感がして、とっさに売り物を隠そうとあたりを見回したが、そんな都合のいい場所はなかった。

「......やっぱり、なんか悪いことしてんのね」
「いやあ」
「......昨日も何かやってたよね? ほんとは見てたんだから」
もうこれは逃げられないとヒロトは悟った。しかたなく、ヒロトはこの飲み物ビジネスについて説明した。しばらく間が空いて、リンが口を開く。

「......そんなの、サギじゃん、ズルじゃん、悪いことじゃん」
リンらしい反応ではある。リンはとにかく決まったこと以外は悪だと思っているからだ。

「へっ? ズル? ちがうよ、ビジネスだってば」
「......あやしい。だって50円のものを100円で売ってるんでしょ? テンバイとかっていって、ニュースでみたことある」
「えと、50円のは麦茶だけで、ほかのは60円とか......。80円くらいのもあるよ」
「......そういうことじゃないよ! ひとをだましてるんだね」
「いや、いや、これはちがうよ。テンバイ? じゃないよ」
「......ともかく、先生に言うから」
「ちょ、ちょっと待ってよ。誤解だよ。ちゃんとしたビジネスだってばっ」
「......明日、先生に言うからね!」
「そんなあ」

ヒロトだってやっかい事は嫌いだ。先生がどんな反応をするのか、わかったもんじゃない。

「......じゃあ、あんたがもうこんなことしないって約束するなら、先生にだけは言わないでいてあげる」
「わかった、わかったよっ。もうやらないからゆるして、ね?」

......こうして、ヒロトの夢は1日でやぶれてしまった。

1000円が2000円になって、そのうち1000円がまた飲み物になったから、儲けはほとんどないに等しい。あとには、ヒロト1人では飲み切れないほどの飲み物と、日曜日の最初のほうに売れた代金二百円だけが残った。
「なーんだ、これじゃあ、意味ないや」

家に帰ると、ヒロトはそうつぶやいた。「ちえっ。こういうこと、先に教えといてよっ」いいながら、ヒロトはまた『教科書』を開いた。そのうちに、「リーダーシップ」という項目に目がとまった。

『13歳からの経営の教科書「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』より


〈まずは自分が常に相手に何かを与えること。そして素晴らしい夢を語ることが必要だ。〉

「............ふうん」

どっと疲れがやってきて、そのままヒロトは夕飯の時間まで眠ってしまった。

『13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』
(KADOKAWA)

岩尾俊兵

2023年6月29日

1,760円

296ページ

ISBN:

978-4041125687

500mlのペットボトルの水が100円なのに、なぜ2Lの水も100円?
物語(小説)を楽しく読むだけで、自然と学べる「ビジネス」と「生き抜く力」!

(あらすじ)
中学校の図書室に忘れ置かれた不思議な『みんなの経営の教科書』と出会い、
ヒロトは仲間と共に社会の課題に向き合う――。

“人は誰でも自分の人生を経営している。だから、すべての人にとって経営は必要不可欠”
という強い思いから、中学生から社会人までが楽しめる物語形式で書き下ろされた、
これからの時代に必要なビジネス素養が身に付く本。

※本書は前から物語、後ろから“教科書”を読むことができます

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