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熟年の“愛の作法”は「60歳で諦めるのではなく、60歳からいよいよ集大成となる」…女医が教える「中高年の性」を最高にする「型」の存在

集英社オンライン / 2023年7月15日 16時1分

健康寿命が70歳を超えた人生100年時代だからこそ、高齢者になったからとセックスを諦めるのは、もったいない! これまで誰も教えてくれなかった中高年の【愛の作法】を『女医が導く 60歳からのセックス』(扶桑社)から一部抜粋・再構成してお届けする。

セックスは「才能」ではない

アダルトビデオで数多くのセクシー女優と共演するベテラン男優は、何百人、何千人もの女性とセックスするなかで、「このタイプの女性なら、おそらくこういう体位がいいだろう」といったふうに観察力、洞察力、想像力を磨き、実践に生かしているはずです。

しかし、多くの経験を積むことができるプロと私たちでは、事情が異なります。普通の人にとって、セックスで「百戦」することは容易ではありません。人によっては「十戦」、いや「一戦」しか経験がないかもしれません。



そこで重要となるのが、やはり「型」なのです。本来ならば実践を通じて得られる洞察力と想像力を、「型」を学んで身につけるわけです。

ただし、セックスは武道やスポーツとは違い、師匠やコーチに教わったり、練習することができません。ですから、多くの場合はアダルトビデオなどを見て、そのまねから始めることになります。

とはいえ、必ずしもその手本が正しい道筋とは限りません。なかには、しっかりと型を学んだ熟練の男優だからこそできる型破りな手技や愛撫をまねて、自分もできたと勘違いしてしまう人がいます。型が身につく前に型破りをまねたところで、それは形なしでしかありませんし、相手から「ただのがさつで乱暴な人」とみなされるでしょう。

最高のセックスに至る「セックス道」の身につけ方

では、私たちは何を手本に型を学べばいいのでしょう?

それはまず第一に、医学的データに基づいた知識です。特にセックスの分野では、個人の経験を基にした、さまざまな言説がインターネットを中心に数多く見受けられます。そのなかには、非科学的で怪しげな言説も少なくありません。しかし、性の悩みはプライバシーや尊厳にかかわるデリケートなものなので、誰にも相談できず一人で抱え込んでしまい、最終的に信憑性に欠ける高額な情報商材などをつかまされてしまうこともあります。

だからこそ、まずは医学的な知識を学ぶこと、特に物事の「平均値」を知ることが大切です。たとえば、身長や体重に平均値があるように、性やセックスにおいても平均値を知ることで、自分が今、どういう状態なのかを客観視できるからです。

もしもEDで悩んでいるのなら、「EDは60代の日本人男性なら2人に1人が発症しており、その原因にはどういったものがあるのか」といったデータを知れば、打開策も考えられます。また、性交痛に悩んでいるのなら、「日本人の何%が何歳から、どの程度の性交痛を感じているのか?」といったデータに積極的に触れていきましょう。信頼できる医学的データに触れることで、コンプレックスを煽るだけの偽情報や悪質な広告に惑わされなくなります。なかには、第三章でお話ししたように、「お前のアソコ、臭いな」などとコンプレックスを刺激して相手を支配しようとする人もいるので、そうした悪意の呪縛から自由になるためにも、正しい知識を身につけることが有効です。

なにも、これまでの人生で培ってきたオレ流セックスをすべて否定するわけではありません。そこにこだわる前に、まずはもう一度、基盤となる型を学ぶ。正しい知識やデータに触れる。その上で、自分なりの経験を加えてアレンジし、型破りを目指すべきです。健康寿命が70歳を超えた今、60歳はまだ発展途上といえます。慢心することなく型を身につければ、それが自信となって目の前の相手に集中できる―これこそが、60代からの「セックス道」です。

では、具体的にどういったことが必要なのでしょうか?その説明に入る前に、セックス道における「心得」をお話しします。

心得①「今できること」にフォーカスする

熟年のセックスでは、「できなくなったこと」よりも「今できること」に焦点を当てましょう。

加齢に伴い私たちの体力や筋力は低下し、さまざまな体の変化が生じます。男性ではEDの有病率が上がり、女性はエストロゲンが低下し、腟の潤いが減少し、性交痛が生じることもあります。若い頃には何の苦労もなくできていた体位やプレイが困難にもなります。

ベッドの上でそんな現実を目の当たりにすると、「もう自分は終わってしまった……」と切なさや悔しさ、無力感やコンプレックスに苛まれることがあります。逆に、「いや、まだだ!まだオレはできる!」と加齢に抗いたい反骨心が芽生えることも。そして、女性を抱きかかえたまま挿入する「駅弁」など体に負担のかかる体位を試みて、あえなく腰を痛めてしまう中高年男性は少なくありません。

しかし、考えてみてください。「若い頃と同じようなセックスをできなくてはならない」という決まりはどこにも存在しません。もしこれが短距離走なら、「学生時代は100mを12秒で走れたのに、今は24秒かかってしまう。いかんいかん!今も12秒で走れるようにならなくては!」と考える人は、ほとんどいないでしょう。ところが、セックスに関しては「若い頃のようなたくましい勃起や激しいピストンが60代になっても必要なんだ」と考える人が多いようです。当然ながら、目標の設定そのものに無理があります。

ここで大切なのは、過去の自分と比較するのではなく、「今の自分にできること」に目を向けることです。もし今、糖尿病で勃起に問題があるのなら、「おヘソにつくほど勃起しなくては」などとかつての自分を思い出すのではなく、今の自分が少しでも勃起が高まる方法を探しましょう。

もし中折れに悩んでいれば、少しでも勃起力を維持できる方法を考えてみましょう。何歳になっても「今、できること」に焦点を当て、自分なりの「ゴールデンゴール」を設定しましょう。どんなに小さな目標でも構いません。ひとつひとつ目標を達成し、以前よりも少し硬くなった勃起を目にすれば、自己肯定感が高まり、過去と比較して弱気になっていたときよりも、見違えるように元気になっているはずです。

心得②「今、この瞬間」を味わう

「今、この瞬間」は、セックスを楽しむために大切なキーワードです。

「挿入直前ED」になってしまう人の大半は、「また前回のように、挿入前に萎えてしまったら嫌だな……」といった過去の記憶や不安にとらわれてしまい、目の前で起きている「今、この瞬間」のセックスを存分に味わっているとはいい難い状態です。

ストレスや不安に意識が支配されると、脳の「扁桃体」という部位が活性化され、ストレスがさらに増大します。扁桃体は、脳の左右にある神経細胞の集まりで、感情の処理や直感力、またストレス反応に重要な役割を担っています。

セックスの最中、「また失敗をしたらどうしよう」と不安に駆られると、この扁桃体が活性化し、不安を増幅してしまいます。その結果、不安が現実となってしまう、つまり、「挿入直前ED」になってしまうのです。

このような「心ここにあらず」の悪循環から脱却するためには、意識を「今」に向けなくてはなりません。この状態を「マインドフルネス」といいます。

マインドフルネスは、「今、この瞬間、自分が経験していることに対して、一切の判断をせず、ただ意識している心の状態のこと」とも説明されます。1970年代からアメリカで研究が進み、瞑想や呼吸法などにも用いられ、米国のGoogleでは「マインドフルネス研修」も行われているようです。そして、痛みの治療の現場でも、「今、この瞬間」に集中する考え方は、認知行動療法の一環としてしばしば用いられます。

ただし、このマインドフルネスは一朝一夕でできるものではなく、日常のささいな行動を通じて「今、この瞬間」を味わうトレーニングをしていきます。たとえば、毎日歯磨きをする際に歯の一本一本を意識しながら「あ、今は前歯を磨いているな」「歯茎がくすぐったいな」と、感覚そのものにフォーカスします。歯磨きはせいぜい5分や10分ほどの短い時間ですが、その間、脳は不安から一旦切り離された状態になっています。歯を磨き終わったあと、再び不安やストレスを思い起こしたとしても、次第に不安と距離を置くことができるようになります。

セックスにおいても同様に、「今、この瞬間」の感覚に集中すれば、不安やストレスから解放されて、快感を享受できるようになります。もしセックスの最中に不安にのみ込まれそうになったら、目の前の相手の肌のぬくもり、香り、声、息遣い、目の動きなどひとつひとつに集中してみましょう。「あ、今彼女の肌がうっすら汗ばんでいるな」「目をぎゅっとつぶっているな」など、頭のなかで言葉にして確認するのもよいでしょう。

最初はうまくできなくても、日常生活から「今、この瞬間」を意識するトレーニングを積んでいれば、やがてセックスにも応用できるようになるはずです。

セックスは相手あってのもの。パートナーの反応が気になるのは当然ですが、相手の表情や反応ばかりをうかがっていると、挿入直前EDの負のループから抜け出すことが難しくなります。「今、この瞬間」を生きるには、自分自身の快楽を置き去りにはできません。

若い頃に挿入直前EDが少ないのは、自分自身の欲望に正直だからだとも言えます。中高年になると経験がある分、相手の反応が気になりすぎる側面もあるのです。相手を優先するあまり自分の快楽から目を逸らしているから、今、目の前にあるセックスの快感に没頭できず、挿入直前EDに陥ってしまうのです。

心得③セックスは「自分らしさの総本山」

社会に出ると、自分の思いだけではどうにもならない出来事や人間関係のしがらみがあります。人生の辛酸を味わってきた中高年なら、いくつも思い当たることでしょう。

一方、セックスは限りなくプライベートな行為です。もちろん恋人や配偶者といった相手は存在しますが、社会や他者からの影響が極めて少ない環境で行うものです。相手以外、誰からも見られず、誰からも評価されません。「今の愛撫はよかった」「このクンニリングスはいまいち」というような評価が、第三者から付与されることはありません。セックスを評価するのは、相手、そしてほかならぬ自分自身です。

話は少し逸れますが、人知れずSMプレイを好む紳士淑女も数多くいます。私の友人、知人にもSM愛好家がいます。SMにはハードなものから、ソフトなものまでさまざまなプレイがありますが、相手に無理強いをせず、二人の命に関わらない限り、タブーはありません。

しかし、社会生活を送る上で、「鞭を使ってほしい」「縛ってほしい」と口にすることは、やはり憚られるものです。「実は、自分がSM好きなんて言ったら、驚かれるんじゃないか」と、他人からどう思われるかが気になる人もいるでしょう。

普段は性的な気配を一切出さず、大人としての務めをまっとうする彼ら彼女たちにとって、SMプレイは他人の目を気にせず、「本当の自分」をさらけ出せるかけがえのない時間なのです。スパンキング(手の平で臀部を叩く行為)をしても緊縛をしても、誰も何も言いません。「気持ちよかった」「今度は違う場所でしてみたい」と意見を交わすのは、自分とパートナーの間だけです。

どうにもならない出来事やしがらみにとらわれがちな社会人にとって、性の営みとは、自分らしさを体現できる聖なる場であり、とても自己肯定感の高まる行為です。SMに限らず、どこまでも自分の生き方や考え方を追求できるセックスは、「自分らしさの総本山」。だからこそ、60歳で諦めるのではなく、60歳からいよいよ集大成となるのです。

心得④パートナーとは「対等な関係」であれ

セックスは、パートナーと二人だけで行う「究極の共同作業」といえます。

年齢を重ねると会社では管理職になったり、独立をするなど社会的地位が増します。会社でもプライベートでも、気がついたら自分以外のメンバーは全員年下という状況も当たり前になります。そのような場では、年上という理由だけで、相手が自分に対して敬意を払ったり、ことさら丁重に接することもあります。それはそれでありがたいものですが、一方で、誰かと対等な関係で何かを一緒に成し遂げる経験が減ってしまうことに、一抹の寂しさを覚える人もいるでしょう。

そんな中高年にとって、パートナーと対等な関係で自分らしさを追求するセックスという営みは、とても貴重な場となります。

ですから、二人が互いに自分らしさを発揮できる場を形作るためには、そこに上下関係や主従関係を持ち込むのはご法度です。よく見かけるのが、セックスの主導権をすべて男性が握っているケースです。女性には「セックスをする/しない」の選択権がなく、セックスは夫の一方的な性欲に応えるだけの「お務め」と化すことも珍しくありません。

お話ししたとおり、女性の場合、更年期に女性ホルモンのエストロゲンの量が低下することで腟分泌液の量も減って、性交時に痛みを感じることも増えますが、これは正常な反応です。そのような妻の変化に見向きもせず、性欲のはけ口にし続けた夫に対して、妻が性交痛を訴え、やがてセックレス化するカップルは少なくありません。中高年になって子育てが一段落し、「いよいよ夫婦生活も再開」と思った矢先、妻から「もうお務めは卒業させてください」と言われてショックを受けるといったケースもあります。

事実、中高年における配偶者間のセックスレスは進んでおり、臨床心理士の荒木乳根子氏が行ったパートナー間のセックスレスに関する調査によれば、50代のセックスレス(月1回未満)の割合は、2000年が45%だったのに対し、2012年ですでに77%にまで激増していました。もちろんセックスレスの原因はさまざまですが、そのひとつの要因に女性側がノーと言えるようになったという考察もあります。

セックスはプライベートなものですから、他の家庭の様子はなかなかうかがい知れないものです。そのため、夫婦の上下関係が、「こんなものか」と長期間にわたって固定化されてしまう側面があります。しかし、本来セックスは対等な関係で行う「共同作業」です。どちらが上、下ということはありません。長年、セックスの主導権を自分だけが握り続けた結果、ある日、愛想を尽かした妻に卒業宣言されてしまう……そんな事態だけは、なんとしても避けたいものです。

心得⑤体力の低下は「知恵」で補う

加齢に伴う体力の低下は抗いがたく、若い頃のようなセックスが困難になります。しかし、若い頃のセックスが唯一の正解ではありません。熟年は熟年なりの知恵と工夫でカバーすればいいのです。

ED治療薬やビガーなど勃起を補助するアプローチはもちろん、体力や筋力を必要としない体位や愛撫の方法、アダルトグッズなどプラスアルファの楽しみ方まで、知恵と選択肢は無数にあります。こうした知恵を知っているか知らないかでは、セックスの楽しみや可能性に雲泥の差が生じます。

ぜひパートナーと話し合い、いろいろと試してみましょう。いくつになっても挑戦と成長が、生きる張りをもたらします。ただし、怪我のリスクも増えていくので、あくまで正確な知識に基づいた、安全な行為であることが条件です。

体力の低下を補うために試した体位が、「こんなこと、これまで感じたことがなかった」ほど、新たな快感をもたらしてくれるかもしれません。今まで恥ずかしさもあって手を出してこなかったアダルトグッズに、「なんだこれは!」と新鮮な驚きを覚えることもあるでしょう。

必要は発明の母です。やむにやまれぬ性生活の知恵が、思わぬ未知の扉を開けてくれることは珍しくありません。


『女医が導く 60歳からのセックス』 (扶桑社新書)

富永喜代

2023年7月1日

1,056円

200ページ

ISBN:

978-4594094850

「性」は「精」であり、「生」に通じる――
人生最高の夜は、60歳から


中高年の性生活に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』が大人気の著者が導く、熟年ならではの性との向き合い方。

健康寿命が70歳を超えた人生100年時代。
中高年だからといってセックスを諦めるのは、もったいない!
熟年期の不安は「肌のぬくもり」が解消する。
これまで誰も教えてくれなかった中高年の【愛の作法】

人生最高の夜を迎えるための「熟年の【愛の作法】」とは――

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