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元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第1部】中国経済の崩壊、台湾は国連総会に参加申請…

集英社オンライン / 2023年7月20日 11時1分

戦地となる台湾周辺の地形を分析し、政府首脳も参加する机上演習(ウォーゲーム)のコーディネーターも務める元陸上自衛隊最高幹部が、台湾侵攻を完全にシミュレーション。中国の指導者・習近平はなにをきっかけに侵攻を決断するのか。『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』より、一部抜粋・再構成してお届けする。

中国・台湾・アメリカ・日本の軍事能力など様々な情報を基に分析を行い、もっとも可能性があると思われるシナリオに基づいて中国軍の台湾進行及び日本への波及、アメリカの参戦などのシミュレーションを行った。展開しているシナリオは、本書(第1部)で触れた図上演習の成果(日本政府の対応)を反映している。『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』より

台湾侵攻完全シミュレーション〈Xデーまで〉

2024年1月に行われた台湾総統選挙に合わせて、中国は台湾周辺地域において大規模な軍事演習を行った。SNSを活用して民進党の頼正巌候補(仮名)を誹謗中傷し、世論調査にも関与するなどして、親中国的な国民党候補を勝たせる輿論戦・情報戦を展開した。

しかし結果は民進党の頼候補が僅差で勝利し、第8代中華民国総統に就任した。

対中国強硬派かつ独立志向の強い政権が誕生したことを受けて、中国は台湾に対する戦狼外交(好戦的な発言に基づく外交)を強化した。台湾と国交を持つグアテマラ、バチカン、ハイチ、パラグアイ、エスワティニ、ツバル、セントビンセント及びグレナディーン諸島、セントクリストファーネイビス、ベリーズ、マーシャル、パラオ、ナウル、セントルシアの13ヵ国に対して援助外交を展開し、切り崩しを図った。

台湾は、面積が日本の九州よりやや小さい3万6000平方キロメートル、人口はオーストラリアとほぼ肩を並べる2300万人、GDPは世界第22位(2021年、以下同)、貿易輸出総額は第16位、ICパッケージ産業は第1位の国にもかかわらず、国連未加盟であるがゆえに多くの世界機関に加入していない。

西側諸国を中心として、世界における台湾の重要性から、世界保健機関(WHO)、国際海事機関(IMO)、国際民間航空機関(ICAO)などの国際機関に加盟、あるいはオブザーバーとしての参加を認めようとしているが中国が強く反対している。加えて中央アジア、アフリカ、中南米の国々に対して経済援助や軍事援助し、その見返りに台湾の加盟に反対するよう強く働きかけている。

中国はSNSを通じて「台湾政府は圧政を敷き、市民の自由を奪い、一部の政治家が利権を貪り、富裕層を厚遇している」との偽情報を拡散させていた。世界中に中国は正義、台湾は悪とのイメージを植え付けようと認知戦を展開していたのである。

「自由民主主義」の国・地域が2012年の最大42ヵ国・地域から、34にまで減少(2021年)し、権威主義体制の国家が増えたことも中国による認知戦の効果を増幅していた。

中国国内では不動産バブル崩壊の後遺症から抜け出せず、機械部品などの輸出産業で新興国からの追い上げを受けていた。半導体など先進工業産業の競争激化、急成長するアジア各国の追い上げ、それに伴う生産基盤の流出などによって、経済成長が大きく後退していた。

加えて国内の経済格差拡大、環境破壊、急速に進む高齢化、農村地帯の旱魃、地震や台風災害の多発によって農業生産が大打撃を受け、国民の不満は臨界点を迎えようとしていた。

このままでは国民の不満が共産党政権に向けられ、一党支配の基盤が崩壊しかねない。政府内にも経済政策の失敗を理由に現執行部の失脚を狙う幹部がいる。

習近平は、あらゆる障害を排除して政権基盤を盤石にする必要に迫られていた。

【人民解放軍の状況】

一方、人民解放軍は202X年に目標とする強軍化(機械化、情報化、インテリジェント化)を完成していた。統合作戦能力を高め、「情報戦下の局地戦に勝利できる軍(リアルタイムでネットワーク化された軍による地域戦争に勝利する)」を創造するという目標を達成していた。

陸軍は部隊のコンパクト化・高機動化及び装備の近代化を推進し、兵站能力を高めた。

海軍は3個の空母機動部隊の運用化、潜水艦及び揚陸艦艇の増勢、陸戦隊の近代化を行い、アメリカの第7艦隊をも凌駕する外洋海軍を完成し、着上陸侵攻能力を高めた。

空軍は警戒監視能力を高め、第5世代の戦闘機の開発を進めて能力の近代化、爆撃能力の強化を図り、西太平洋域において米空軍に比肩する能力を獲得した。

ロケット軍は核を搭載する弾道ミサイルに加えて中距離弾道ミサイル及び対艦弾道ミサイルを増勢するとともに、迎撃が困難な極超音速ミサイルの実戦配備を進めた。

これにより対米核抑止能力は格段に向上していた。

戦略支援部隊は、宇宙戦能力、サイバー・電子戦能力を強化し、加えて民間人で構成する数十万人のサイバー空間作戦団を編成して飛躍的に能力を拡大した。東部戦区は大規模な統合演習を毎年実施して統合作戦能力を高め、隷下部隊の即応態勢を高レベルに維持していた。

東部戦区陸海空軍基地内及び福建省内にある軍管理地域には新たに弾薬・燃料の事前集積場が整備され、各軍の継戦能力は大幅に向上した。

他方面戦区では、特に北部戦区・南部戦区の合成旅団(歩兵部隊や戦車部隊などの混成部隊)、及び統合センター直轄部隊の東部戦区への機動訓練を統合演習に合わせて実施し、戦力集中能力の向上を図った。加えて予備役、海上民兵の動員訓練を実施し、最大動員数を5日間で約40万人まで引き上げた。

連合後方勤務保障部隊司令部は、沿岸地域を航行する船に対し、同司令部の情報系である海上無線を常時傍受させるように命じた。海外航路を航行する船は南シナ海及び第1列島線内に入った段階で同様に傍受させた。

【Xデーマイナス数ヵ月】

202×年〇月〇日、台湾の頼総統がオブザーバーとして国連総会への参加を要請し、両岸の平和安定の演説を行うとの声明を出した。さらに、台湾海峡の平和維持のため、米軍主導の多国籍軍の駐留をアメリカに要請した。

この台湾の動きに中国政府は激しく反発し、台湾周辺で大規模な軍事演習を行って圧力をかけ、国連総会での台湾の演説に断固反対するとの趣旨の発表を行った。

( 北京 )
習近平総書記は、台湾の国連演説と多国籍軍駐留の要請は許容の限度を超えていると判断した。習総書記は中国国内における強権的政策によって政敵をもぐら叩きのようにつぶしてきたが、それでも、浜の真砂が尽きないように反習近平派はなくならない。4期目の主席の座に就かなければ習近平自身に身の危険が及ぶことになる。この国では、権力の座にあるか、石もて追われるか、二つにひとつなのだ。

習総書記は、台湾統一を行って自身の政権基盤を確固たるものにし、歴史に名を残すのはいまだと決心した。

北京市内の統合作戦指揮センターでは、習近平中央軍事委員会主席以下の委員と、人民解放軍の主要幹部が集まり、台湾解放作戦の作戦会議が行われていた。

「それでは説明します」

統合参謀部の作戦部長が口火を切った。

「台湾解放作戦について。敵台湾軍は、陸軍3個軍団10個旅団基幹の総兵力約9万。海軍、戦闘艦20隻。空軍、戦闘機320機をもって抗戦すると判断されます。これに対して我が人民解放軍は、第1次上陸部隊の2個集団軍40個合成旅団及び3個海軍陸戦旅団、第2次上陸部隊の1個集団軍を合わせ総計42万の地上部隊。これに加えて海軍、戦闘艦40隻。空軍、戦闘機1000機をもって解放作戦を行います。

第一段階は台湾国内における法律戦、宣伝戦、情報戦、テロ戦等により台湾市民の反政府意識の高揚及び継戦意識の低下を図ります。次に大規模サイバー攻撃及び電子攻撃による作戦準備電磁打撃を行います。これらは、いわゆる『超限戦』の作戦範囲です。

第二段階は、上陸準備打撃として、敵の戦略目標に対し巡航ミサイル及び戦域ロケット攻撃を行います。引きつづき敵機甲部隊に対する気化爆弾等による航空殲滅攻撃を行います。

第三段階、これらの戦果の下、北部方面軍として東部戦区第73集団軍の3個海軍陸戦旅団基幹が第一波として桃園市から苗栗市にわたる海岸に上陸し、第二波上陸の合成旅団群をもってさらに南北に進攻させ戦果を拡張させます。

南部方面軍として第72集団軍の合成旅団群を台南市北部海岸に上陸させ、台湾の防衛組織の“背骨をへし折り”崩壊させます。なお、作戦にあたっては、都市周辺地域の獲得を優先し、市街地中心部を避けて占領地域の拡大と戦力の損耗回避に努めます。

この際一部の部隊をもって中央方面軍として台中市正面海岸に上陸させ、台北市と台南市を分断します。最後に第2次上陸部隊として第71集団軍を送り込みます」

この間、前面のスクリーンには中国大陸からの戦力投射、台湾海峡を渡り台湾内陸への進撃経路などの作戦図が投影されていた。

説明を受け、習近平主席が重い一言を口にした。
「諸君。いよいよ中華民族の偉大なる復興を実現する時が来た」

○月○日、台湾統一が決定され、隠密裏に侵攻作戦の準備が開始された。中国政府は「国防法」により戦略物資の備蓄命令を関係国営企業に命じた。戦略物資の中には、リチウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、タングステンなどの希少金属31種が含まれていた。

経済的な動員準備も開始されたのである。

( ハワイ )
オアフ島キャンプ・スミスにある米インド太平洋軍司令部では、司令官のロバートソン海軍大将(仮名)が情報部長及び統合情報センター士官からの報告を聞いていた。それは極東地域に展開する米軍の情報機関が収集した電波情報・ヒューミント情報や日本の情報本部からの情報であり、いずれも中国軍の特異な活動を示すものであった。

「中国軍の兵站組織が福建省などの港湾地区に建設され、軍需物資が大量に送り込まれているのだな」

司令官は、情報部長のほうにゆっくりと顔を向けた。

中国軍は台湾侵攻基盤を整備するために、弾薬、燃料、食料・飲料水、衛生用品、被服などの物資を集積するための兵站基地を建設し、物資の緊急増産を開始していた。

「輸血用血液、代替血液、抗生物質などの医薬品を軍が緊急調達しているために、民間医療機関に影響が及びはじめています。またSNS上では、軍が戦争を始めるのではないかとの情報が流れています」

ロバートソン司令官は緊急の4軍司令官会議を招集するとともに、日本の統合幕僚長及び韓国軍の合同参謀本部議長とテレビ会談を開催し、中国軍の動きについて認識の共有を図ることにした。

中国軍は西太平洋地域で、インド太平洋軍の戦力を凌駕する巨大な戦力を保有している。インド太平洋軍としては、中国軍に立ち向かうためには、米軍の他の統合軍からの戦力増強と日韓の協力が必要だった。

( 東京 )
防衛省では和田誠一防衛大臣(仮名)以下が防衛会議を開催していた。会議では中国軍の活発な活動に対する自衛隊の対応方針が審議され、装備品の稼働率向上、即応態勢の維持、警戒監視態勢の強化が決定された。

和田大臣が各幕僚長に指示した。

「現状では中国軍が台湾に侵攻するとの明白な判断材料はない。しかし、万が一を考えて各自衛隊は警戒態勢等を厳にしてもらいたい」

情報本部通信所及び海空自衛隊の電子情報収集機などが、中国軍の動きについて情報収集と監視活動に全力を傾注することになった。中国軍の異常な動きに対処するため、2週間に1回の予定で開催されていた安全保障会議4大臣会合はここのところ数日おきに開催されていた。

国家安全保障会議は日本の安全保障に関する重要事項及び重大緊急事態への対処を審議するために内閣におかれた機関であり、議長は内閣総理大臣である。4大臣会合のメンバーは総理、官房長官、外務大臣、防衛大臣。これに官房副長官、安全保障局長、内閣情報官、統合幕僚長が加わり、関係省庁局長、陸海空幕僚長、官邸幹部が陪席する。

日本政府としては、中国軍の動きが大規模な演習なのか、台湾侵攻準備なのか判断しかねていた。

警察庁では在日中国人及び華僑に不穏な活動、いわゆる対日有害活動が行われていないかを、また公安調査庁では破壊活動防止法の調査対象団体等に関する調査活動を強化していた。

(続く)

『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』 (講談社+α新書)

山下裕貴

2023年4月19日

990円

216ページ

ISBN:

978-4065319598

「問題は、侵攻のあるなしではない。それがいつになるかだ」
中国の台湾侵攻について、各国の軍事・外交専門家はそう話す。
中国の指導者・習近平はなにをきっかけに侵攻を決断するのか。
その際、まず、どのような準備に着手するのか。
アメリカ・台湾はその徴候を察知できるのか――。
元陸上自衛隊最高幹部が、台湾侵攻を完全にシミュレーションした!
陸上自衛隊の第三師団長、陸上幕僚副長、方面総監を務めた元陸将・山下裕貴氏は、沖縄勤務時代には与那国島への部隊配置も担当した。中国人民解放軍、米インド太平洋軍、そしてもちろん自衛隊の戦力を知り尽くす。戦地となる台湾周辺の地形も分析し、政府首脳も参加する机上演習(ウォーゲーム)のコーディネーターも務める、日本最高の専門家で、本書はいわば、「紙上ウォーゲーム」である。

中国と台湾を隔てる台湾海峡は、もっとも短いところで140キロもある。潮の流れが速く、冬場には強風が吹き、濃い霧が発生して、夏場には多くの台風が通過する、自然の要害である。
ロシアによるウクライナ侵略では、地続きの隣国にもかかわらず、弾薬や食料などの輸送(兵站)でロシア軍は非常な困難に直面し、苦戦のもっとも大きな原因となった。
中国は台湾に向け、数十万の大軍を波高い海峡を越えて送り込むことになる。上陸に成功しても、その後の武器・弾薬・燃料・食料・医薬品の輸送は困難をきわめる。
「台湾関係法」に基づき、「有事の場合は介入する」と明言しているアメリカも、中国の障害となる。アメリカ軍が動けば、集団的自衛権が発動され、同盟国の日本・自衛隊も支援に回る。
つまり、自衛隊ははじめて本格的な戦闘を経験することになる。
日米が参戦すれば、中国は台湾、アメリカ、日本の3ヵ国を敵に回し、交戦することを強いられる。
それでも、習近平総書記率いる中国は、「必勝」の戦略を練り上げ、侵攻に踏み切るだろう。
そうなったとき台湾はどこまで抵抗できるのか。
アメリカの来援は間に合うのか。
台湾からわずか110キロの位置にある与那国島は、台湾有事になれば必ず巻き込まれる。与那国島が、戦場になる可能性は高い――。
手に汗握る攻防、迫真の台湾上陸戦分析!

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