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元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第2部】台湾、過激派反政府デモで大混乱

集英社オンライン / 2023年7月20日 11時1分

中国の台湾侵攻について、各国の軍事・外交専門家は「問題は、侵攻のあるなしではない。それがいつになるかだ」と話す…。なにをきっかけに侵攻を決断し、どのような準備に着手するのか。元陸上自衛隊最高幹部が、台湾侵攻を完全にシミュレーションした『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』より、一部抜粋・再構成してお届けする。

中国・台湾・アメリカ・日本の軍事能力など様々な情報を基に分析を行い、もっとも可能性があると思われるシナリオに基づいて中国軍の台湾進行及び日本への波及、アメリカの参戦などのシミュレーションを行った。展開しているシナリオは、本書(第1部)で触れた図上演習の成果(日本政府の対応)を反映している。『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』より

【Xデーマイナス数ヵ月~1ヵ月in 台湾】

( 台湾 )
台北市及び近隣都市では、現政権の経済政策や国連復帰など、外交政策に反発した市民グループが大規模デモなどの反政府活動を活発化させていた。加えて過激派が政府機関・銀行・通信インフラなど公共施設に爆発物を仕掛けテロ活動を行い、治安情勢の悪化に拍車をかけた。

野党の一部は、「混乱の原因は総統の国連演説などの外交政策にあり、大陸との融和政策に転換すべきだ」と主張し、市民デモに参加していた。さらに議員の一部は国会議事堂入口にバリケードを築いて実力で国会審議を阻止し、総統の退陣を要求した。

台北市では、混乱を防止するために、21時以降の夜間外出禁止措置が取られるなど、市民生活に大きな影響を及ぼす事態となっている。

○月○日、台北市重慶南路一段の総統府近くで、デモ隊と警官隊が激しく衝突しデモ隊側に多数の死傷者が発生した。

この際、中国から台湾に留学していた中国人学生が巻き込まれて2名が死亡する事案が発生し、中国外交部報道官が台湾当局に強く抗議する声明を出した。台湾政府はデモの首謀者や過激派の一部に中国政府の指示を受けたグループが組織的に関与していると非難した。

こうした反政府運動はあっという間に台湾全土に拡大。一部は先鋭化し、大陸との統一を叫んで軍施設を襲うなどエスカレートしていった。台湾総統府は、このまま過激行動が収まらない場合、戒厳令も辞さないと警告を発した。

台北市、台南市、高雄市などでは警察による反政府組織の摘発が開始され、総計2000人を超える容疑者が検挙された。中国外交部報道官はこの中に中国人留学生や中国国籍の人間が含まれていることを重視し、「きわめて重大な事件で傍観するわけにはいかない。速やかな釈放と人権の保護を要求する。それが行われない場合には断固たる措置を取る」と声明を出した。続けて国防部報道官も「抑圧された台湾同胞を解放する用意がある。これは中国の内政問題であり、他国の介入を断固阻止する」と発表した。

中国のあるマスコミは、「台湾市民の90%以上が大陸との統合を望んでいる」という、台湾市民の世論調査なるものを伝えた。
SNS上には「台湾市民は大陸との統合を望んでいる」「政府はデモ参加者を逮捕し、強制収容所に収容し殺している」など、明らかに偽情報と思われる記事が溢れた。

台湾政府は「中国による認知戦」であるとし、惑わされることなく冷静さを保つように市民に呼び掛けている。

台湾外交部や国防部など政府機関のホームページが改竄される事案が発生した。その後、外交部・国防部・財政部・経済部をはじめとする政府機関、中央銀行などに集中的にアクセスして機能不全に追い込むDDoS攻撃が行われて決済が一時停止するなどの障害が発生した。

台湾西部の主要都市では発電所や変電所のコンピューターにサイバー攻撃が仕掛けられ、大停電が発生した。都市ガス施設に対して爆破テロが発生し、家庭向けのガス供給に重大な障害が起きた。

台湾政府は、これらの社会インフラへの攻撃は中国政府の扇動によるものであるとし、国際社会に中国の攻撃を止めるように訴えた。

国家反逆罪にあたる事案も多発していた。台湾軍の秘密文書が中国の商社社員に渡される事件や、中国軍侵攻時に降伏する契約の締結などである。2022年には、台湾陸軍の大佐が約250万円の賄賂を受けとり、「戦時には中国のために力を尽くす」などと書かれた「降伏承諾書」に署名していたことも発覚している。台湾の国家安全部は軍と協力して利敵行為の調査を強化した。

中国軍演習場で台湾の飛行場や日本の石垣島の飛行場を模した簡易な施設

( ロシア )
ロシアとウクライナは数年前に停戦状態になっていたが、ロシア軍は突如、ウクライナ東部地区及びベラルーシ国境付近で大規模な演習を行うとNATO諸国に通告した。東部ウクライナ国境付近には10万以上の部隊が集結しているのが確認されている。

在欧米軍を含むNATO軍は警戒態勢に入った。ウクライナの大統領は激しく反発し、予備役の緊急動員を開始した。

ロシア国防省は、東部軍管区の南樺太、択捉島及び国後島を中心にクリル諸島防衛を目的とした「ボストーク演習」を行うと発表した。

報道官は西側記者の質問に答え、「第18機関銃砲兵師団(北方領土駐留部隊)に増援する形で行い、各種ミサイル、戦闘機、艦艇を含む兵員約5万人が参加する」と説明した。

( イラン )
イラン外務省は「欧米諸国がこれ以上自由な経済活動を妨害する制裁を継続する場合には、核関連施設の再稼働を行う。また自衛用としての核弾頭の開発を進める」と発表した。

イラン国防省はイラン軍及びイラン革命防衛隊の警戒態勢を最高度に引き上げ、「イスラエルが我が国の研究施設を攻撃した場合には、ホルムズ海峡を封鎖する」と警告した。ホルムズ海峡が封鎖されればタンカーの航行ができなくなり、西側のエネルギー戦略に大打撃を与えることになる。

これを受けイスラエル政府高官は、イランの言う研究施設とは核関連施設で、施設への攻撃の可能性を否定しないと発言し世界に衝撃を与えた。

アメリカ国防総省はイランがホルムズ海峡を含むペルシャ湾一帯で大規模な軍事演習を開始したことを明らかにした。演習にはイランの精鋭部隊である革命防衛隊の小型艦船数十隻が参加しているという。米軍との接触は起きていない。

( 中国 )
中国国防部報道官が「現在実施中の大規模演習は数ヵ月間続く。けっして他国を攻撃する目的ではなく、あくまでも中国防衛のための演習である」と声明を出した。

福建省の複数の港湾には大規模な兵站施設が開設されていた。一部の港湾では多数の鋼管が集積され、海底パイプライン敷設用の専用船が確認されている。

台湾が領有する金門島は対岸の福建省厦門市からわずか10キロほどの位置にあり、1958年の第二次台湾海峡危機(後述)では大陸から大量の砲弾が降りそそいだ。その対岸の厦門でこの日、港の燃料タンクが爆発する事件が発生した。中国国防部は「台湾の情報機関によるものであり、許しがたい攻撃である」と声明を出した。

翌日、厦門市内で広範囲に停電が発生。これについても中国外交部は「台湾の反動分子による組織的な攻撃であり、この行為の責任はすべて台湾当局にある」と主張した。

東部戦区司令部の報道官は「軍関連施設及び通信・電気施設付近で不審なドローンを発見し、これを撃墜して調査したところ台湾のものであることが判明した。厦門における一連のテロ行為は台湾の分裂主義者によるものであることは明白だ。我が軍は断固たる措置を取る」と強く警告した。

人工衛星で中国を監視している米民間団体が、「新疆ウイグル自治区にある中国軍演習場で台湾の飛行場や日本の石垣島の飛行場を模した簡易な施設が造られ、その施設を標的とした爆撃訓練が行われていた形跡がある」と発表した。

中国国内に滞在している台湾国籍の商社員や学者が、反間諜法により身柄を拘束される事案が多発していた。

日本は台湾への渡航を禁止…日韓豪で共同作戦

( 台湾 )
台湾政府は「厦門の事件は中国による自作自演の偽旗作戦である」と主張し、全軍に非常勤務態勢を命じた。アメリカ政府に台湾有事を念頭においた緊急協議を要請、日本政府とも協議を希望すると声明を出した。

台湾海軍基地、主要港湾で無人水上艇が、台北市や台南市の海岸では特殊潜航艇と潜水具が発見された。台湾警察当局は、中国軍による偵察や工作員の潜入の可能性があるとして警備体制の強化と捜査を開始した。

台湾の軍事産業を標的とする大規模なサイバー攻撃があり、重要データ、社員の個人情報などが流出し、一部の生産機械が止まった。

( 東京 )
各国政府は在台湾の自国民に帰国するよう指示を出し、台湾への新規渡航を禁止した。アメリカ政府は、日本、オーストラリア、韓国政府に各国国民を保護するための共同作戦について協議を求めた。

日本政府は安全保障会議緊急大臣会合を開催。台湾の在留邦人の輸送について議論し、自衛隊に邦人輸送の準備命令を出した。

統合司令官の命令に基づき、航空自衛隊航空総隊は宮古島・石垣島に輸送機を展開した。海上自衛隊自衛艦隊は輸送艦2隻を石垣島に、陸上自衛隊陸上総隊は中央即応連隊及び西部方面航空隊のヘリ部隊を与那国島にそれぞれ派遣した。

アメリカは「台湾を防衛する義務がある」と牽制

( ハワイ )
台湾の混乱事態収拾と中国の介入阻止のため、アメリカ政府は国連安保理の緊急会合開催を求めた。同時にホワイトハウスの報道官は会見で「台湾関係法により、中国の武力侵攻が発生した場合には軍事力行使も辞さない」と主張した。これには明らかに大統領の決意が反映されていた。

アメリカ海軍は2個空母打撃群をインド洋に展開させていたが、1個群を急遽、太平洋地域に向かわせた。

インド太平洋軍司令部報道官は記者会見で、「福建省港湾に確認されている多数のレイバージ(敷設専用船)は大陸側から台湾側への海底パイプライン敷設の準備だ」と指摘した。海底パイプラインは1日あたり約3キロから5キロの進度で敷設することが可能で、台湾海峡140キロを敷設完了するのに1ヵ月程度を要する。大陸から台湾への海底パイプラインは3本だと見積もられた。

インド太平洋軍司令部では司令官以下多数の幹部が参加し作戦会議を行った。

「いま台湾侵攻作戦が開始されたとして、1ヵ月でパイプラインで燃料を送ることが可能になるわけだな」とロバートソン司令官が兵站部長に確認した。
「はい。なお、飲料水は上陸後、台湾本島で確保可能です。食料及び弾薬は海上輸送に限られ、そこが弱点であることに変化はありません」

作戦部長が補足した。

「台湾海峡は水深が浅く、海底は砂で、潜水艦の行動には厳しい条件です。したがって主として空対艦ミサイルや地対艦ミサイルにより補給船を攻撃することになります」
「地対艦ミサイルなど陸上から攻撃できる兵器を早急に台湾に供与する必要がある。国防総省に要望してもらいたい」

作戦会議では、サンディエゴの第3艦隊の1個空母打撃群をハワイまで進めることが決定された。

( 中国 )
中国政府は、人民解放軍に最高度の警戒監視態勢を取らせるとともに、不測の事態に備え東部戦区及び南部戦区に部隊を増援すると発表した。このため両戦区以外の戦区から隷下の合成旅団の派遣を命じた。同じく、人民解放軍予備役部隊に予備役の緊急招集及び2ヵ月以内に80個合成旅団の編成を行うよう命じた。

南京市の東部戦区司令部では司令員の林暁春上将(仮名)が参謀長に準備状況を確認していた。

「貨物船を除き、作戦準備はおおむね予定のとおりです」
「貨物船の徴用は、連合後方勤務保障部隊がまもなく開始する。そうなれば我々の侵攻意図が明白になるな」

○月○日までに、東部戦区に隷下部隊を含めて50個合成旅団、南部戦区に同じく30個合成旅団が集結した。

連合後方勤務保障部隊によって1000トン以上の貨物船・客船が徴用された。船は福建省等の各港湾に集められ、その数は大小1000隻を超えた。

( アメリカ )
アメリカ政府は米軍の防衛態勢を平時のデフコン5からデフコン3に引き上げた。さらに中国政府に対して「台湾海峡の緊張を高める動きに断固反対する。アメリカは台湾を防衛する義務がある」と牽制した。

インド太平洋軍は、アラスカ州エルメンドルフ空軍基地の第11空軍の2個戦闘飛行隊を嘉手納基地に移動させた。

『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』 (講談社+α新書)

山下裕貴

2023年4月19日

990円

216ページ

ISBN:

978-4065319598

「問題は、侵攻のあるなしではない。それがいつになるかだ」
中国の台湾侵攻について、各国の軍事・外交専門家はそう話す。
中国の指導者・習近平はなにをきっかけに侵攻を決断するのか。
その際、まず、どのような準備に着手するのか。
アメリカ・台湾はその徴候を察知できるのか――。
元陸上自衛隊最高幹部が、台湾侵攻を完全にシミュレーションした!
陸上自衛隊の第三師団長、陸上幕僚副長、方面総監を務めた元陸将・山下裕貴氏は、沖縄勤務時代には与那国島への部隊配置も担当した。中国人民解放軍、米インド太平洋軍、そしてもちろん自衛隊の戦力を知り尽くす。戦地となる台湾周辺の地形も分析し、政府首脳も参加する机上演習(ウォーゲーム)のコーディネーターも務める、日本最高の専門家で、本書はいわば、「紙上ウォーゲーム」である。

中国と台湾を隔てる台湾海峡は、もっとも短いところで140キロもある。潮の流れが速く、冬場には強風が吹き、濃い霧が発生して、夏場には多くの台風が通過する、自然の要害である。
ロシアによるウクライナ侵略では、地続きの隣国にもかかわらず、弾薬や食料などの輸送(兵站)でロシア軍は非常な困難に直面し、苦戦のもっとも大きな原因となった。
中国は台湾に向け、数十万の大軍を波高い海峡を越えて送り込むことになる。上陸に成功しても、その後の武器・弾薬・燃料・食料・医薬品の輸送は困難をきわめる。
「台湾関係法」に基づき、「有事の場合は介入する」と明言しているアメリカも、中国の障害となる。アメリカ軍が動けば、集団的自衛権が発動され、同盟国の日本・自衛隊も支援に回る。
つまり、自衛隊ははじめて本格的な戦闘を経験することになる。
日米が参戦すれば、中国は台湾、アメリカ、日本の3ヵ国を敵に回し、交戦することを強いられる。
それでも、習近平総書記率いる中国は、「必勝」の戦略を練り上げ、侵攻に踏み切るだろう。
そうなったとき台湾はどこまで抵抗できるのか。
アメリカの来援は間に合うのか。
台湾からわずか110キロの位置にある与那国島は、台湾有事になれば必ず巻き込まれる。与那国島が、戦場になる可能性は高い――。
手に汗握る攻防、迫真の台湾上陸戦分析!

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