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元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第4部】石垣島への攻撃開始…空港、発電者がダウン

集英社オンライン / 2023年7月20日 11時1分

陸上自衛隊の第三師団長、陸上幕僚副長、方面総監を務めた元陸将・山下裕貴氏が中国の台湾侵攻を完全にシミュレーションした『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』より、台湾有事が日本にどう波及するかを考察したその一部抜粋・再構成してお届けする。

中国・台湾・アメリカ・日本の軍事能力など様々な情報を基に分析を行い、もっとも可能性があると思われるシナリオに基づいて中国軍の台湾進行及び日本への波及、アメリカの参戦などのシミュレーションを行った。展開しているシナリオは、本書(第1部)で触れた図上演習の成果(日本政府の対応)を反映している。『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』より

【Xデー:上陸日】

中国海軍掃海艦艇の後方を航行する揚陸艦や輸送艦などに向け、丘陵地帯や山地・森林地域に巧妙に隠掩蔽された陣地から台湾軍の対艦ミサイル“雄風Ⅱ型”が多数発射されたが、艦隊防空システムを搭載した中国版イージス艦によりその多くが撃墜された。それでも数発が防空網をかいくぐって護衛のフリゲート艦とミサイル駆逐艦に命中し、これらの艦は大破した。



次いで、トンネル型バンカーなどに隠されて温存していた台湾空軍の戦闘機が発進し、スタンド・オフ(射程外遠距離)攻撃で空対艦ミサイルを発射したが、中国軍の艦隊防空システムにより迎撃され、その防空網を破ることはできなかった。

前日、数隻の中国海軍掃海艇が機雷掃海作業中に触雷し沈没したが、おおむね上陸正面の掃海作業は完了しており、予定通り第一波の部隊が台北市・台中市・台南市正面の海岸に上陸を開始した。

第一波で上陸した海軍陸戦旅団の多数の大隊戦闘群で海岸堡を確保させたのち、第二波の機械化合成旅団などの重戦力を上陸させ空港・港湾などを確保する。第三波以降の部隊は確保した空港・港湾を利用して揚陸させる計画である。

上陸海岸では、残存している防御部隊の台湾軍と上陸部隊の中国軍との間で激しい地上戦闘が開始された。

上陸地域近傍の市街は、爆撃・砲撃により炎上し激しい炎を噴き上げ、その黒い煙が空を覆った。海岸では破壊された戦車や装甲車が燃え上がり、焼け焦げた兵士の死体が散乱してさながら地獄絵図の様相を呈していた。

台北市東部の平野部には中国軍空挺兵旅団が降下し、台湾軍の首都守備隊と激しい戦闘に突入していた。空挺兵旅団は空挺戦車や歩兵戦闘車を装備しており、台湾軍はじりじりと市街地へ圧迫されていた。中国軍空中突撃旅団は桃園空港にヘリコプター部隊による「ヘリボン攻撃」を行った。台湾軍の空港警備隊と市街戦を繰り広げ、管制塔や格納施設、周辺市街地域を占領した――。

以上が中国軍の台湾侵攻シミュレーションの一部である。

台湾有事は日本にどう波及するか

台湾有事は日本にどのような形で波及するのだろうか。

台湾と与那国島の海峡は約110キロしかなく、日本と台湾の位置関係はきわめて近い。東シナ海側から太平洋に出るためには、この海峡を含め、日本の南西諸島周辺を通過する必要がある。中国の軍事戦略上重要な第1列島線である(地図参照)。

さらに在日米軍基地は米軍の台湾支援の作戦基盤となっている。米軍が作戦行動を開始すれば、事態の推移により集団的自衛権を行使することになり、さらに事態が悪化すれば武力攻撃事態に発展していく。

『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』より

想定される日本への波及する3つのシナリオ

日本への波及は次の3つのシナリオが想定される。

1・日本へ直接波及
2・米軍の行動に関連して波及
3・台湾の行動により波及

まず日本への直接波及である。

台湾侵攻の支作戦として考えられるのが、第1列島線に近づく日米艦隊の接近を阻止し中国海軍の太平洋への進出航路の安全確保を目的とした拠点確保である。

この場合は治安出動から武力攻撃事態が認定され、自衛隊が行動することが予想される。日本への直接波及(侵攻)はハイブリッド戦から開始されると予想される。

ハイブリッド戦とは、2014年に発生したウクライナ東部紛争でロシア軍が行った作戦である。〈破壊工作、情報操作など多様な非軍事手段や秘密裏に用いられる軍事手段を組み合わせ、外形上「武力攻撃」と明確には認定し難い方法で侵害行為を行うこと〉と防衛白書では解説している。

中国軍が、戦略上の要点である石垣島に侵攻することを想定すると、以下のような事態の進展が予想される。

第一段階は、日本本土及び沖縄本島から石垣島を分離することである。海底ケーブルの切断や大規模なサイバー攻撃を行い、同島と外部とのあらゆる通信やデータ送受信を遮断する。さらにサイバー攻撃によって新石垣空港の管制装置がダウンする。次いで作戦開始前に潜入した工作員によって石垣発電所を送電不能とし全島停電に陥らせる。

第二段階は、石垣島沖数十キロに遊弋するタンカーや貨物船からの電子戦攻撃である。警察や海上保安庁の使用する無線、一般の携帯電話に障害を発生させ通話できない状態とする。唯一警察用携帯電話のメール機能だけを残し、そこに偽メールを送信して警察官を誘き寄せる。警察官が集まったところで、仕掛けておいた爆弾を爆発させるのである。

第三段階は、偽装した民間航空機を新石垣空港に着陸させ、武装勢力「琉球独立団」などと偽って日本語の堪能な特殊部隊を送り込む(クリミア併合時のリトル・グリーン・メンに相当)。彼らが潜入工作員などと協力して、短期間に石垣市を占拠しその勢力下に置く。次に海上の貨物船に待機していた武装集団主力が装甲車両などとともに上陸し、陸上自衛隊を武装解除し侵攻基盤を確立する。

この一連の作戦行動は外形上どこの国による武力行使か確認することができない。サイバー攻撃も電子戦も見えない敵からの攻撃だからだ。

時間の経過とともに既成事実を積み上げていき、平和維持の名のもとに中国軍が進駐し、最終的には、中国政府が石垣島の独立を保障するということになるだろう。自動参戦の軍事同盟であるNATOと違い、日米安保条約はアメリカ政府の意思決定と連邦議会の承認が必要である。日米安保発動と米軍来援までにはかなりの時間がかかる。そのため当面は自衛隊単独で戦わなければならない。

東シナ海海空戦に突入

次に想定されるのは、台湾周辺地域での米軍の軍事行動が結果として日本へ波及する場合である。二つのパターンが考えられる。一つは重要影響事態、もう一つは存立危機事態である。

重要影響事態とは、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等、我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態のことである。対処する外国軍の後方支援活動を行い、連携を強化することが想定されている。

支援の対象となるのは「日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍」、「国連憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊」及び「その他これに類する組織」で、国連軍等が想定されている。

インド太平洋軍は台湾海峡の危機に対して、第7艦隊の艦艇や空軍の偵察機を派遣することになるだろう。

横須賀の在日米海軍基地の駆逐艦や巡洋艦が東シナ海に進出し、搭載哨戒ヘリが警戒監視活動に従事していたとする。その哨戒ヘリが中国軍艦艇や航空機との偶発的な事件により撃墜・不時着した場合、米海軍は自衛隊に捜索救助を要請する。また、燃料などの補給支援も要請される。

この場合政府は重要影響事態の認定を行い、自衛隊に捜索救助活動及び後方支援活動を命ずることになる。

日本は直接的には中国軍と交戦していないが、後方支援活動としてこの段階で台湾有事に巻き込まれている。

重要影響事態で後方支援活動中に事態がエスカレートし、中国軍が米海軍艦艇や航空機を攻撃した場合には、存立危機事態が認定される。自衛隊は米海軍艦艇を守るために武力行使することになり、米軍とともに中国軍と直接戦闘する。

存立危機事態は集団的自衛権の行使であり、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義付けられている。

2014年7月の閣議決定により、存立危機事態が認定され集団的自衛権を行使する以下の3要件が示された。

①我が国に対する武力攻撃が発生したこと。又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと


政府が示した8事例の中に「武力攻撃を受けている米艦防護」がある。

1・邦人輸送中の米輸送艦の防護
2・武力攻撃を受けている米艦防護
3・周辺事態における強制的な船舶検査
4・アメリカに向け日本上空を横切る弾道ミサイル攻撃
5・弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護
6・アメリカ本土が武力攻撃を受け、日本周辺で作戦を行う米艦防護
7・国際的な機雷掃海活動への参加
8・民間船舶の国際共同護衛


最後に、台湾の行動によって波及する場合を見てみよう。

台湾軍が中国軍と海空で戦火を交え、残存艦艇及び航空機が我が国へ避難してきた場合には、そのときの日本政府の対応如何によっては直接日本が攻撃される可能性がある。

台湾が中国軍の侵攻を食い止めるには、アメリカの参戦が不可欠である。1958年8月から10月の金門島砲撃事件では、アメリカは後方支援のみで直接軍事力を行使しなかった。この当時は、中国軍に比較してまだ中華民国軍(台湾軍)のほうが軍事的優位にあった。しかし現在軍事的優位は逆転し、圧倒的に中国軍優位となっている。

台湾としては、どうしてもアメリカを参戦させる必要がある。そのため最大限の努力を払うだろう。アメリカを軍事的に参戦させるためには日本を巻き込み、日米安保条約を発動させることである。台湾が、残存する海空戦力を日本の南西諸島に避難させることも考えられる。

日本は「中立国」なのか

中国の台湾侵攻は国対国の戦争であるとの立場に立つのなら、日本政府は戦時国際法により中立国の義務を果たすことになる。戦時国際法とは交戦当事国とそれ以外の第三国との関係を定める国際法である。中立国は戦争に参加してはならず、また交戦当事国のいずれにも援助してはならず、平等に接する義務を負う。

義務とは次の3項である。

回避義務:中立国は直接、間接を問わず交戦当事国に援助は行わない
防止義務:中立国は自国の領域を交戦当事国に利用させない
黙認義務:中立国は交戦当事国が行う戦争遂行過程において不利益を被っても黙認する

第二次世界大戦時、永世中立国のスイスは自国領空を侵犯した航空機は連合軍、枢軸軍を問わず撃墜した。日本が台湾の艦船や航空機を攻撃することは考えられず、領空侵犯があっても最寄りの飛行場に強制着陸させることになるであろう。艦船についても、人道的な措置として寄港拒否はしない。

中国は、一つの中国の原則のもと、日本に逃避した艦艇や航空機は自国の国有財産であるとして返還要求すると予想される。日本政府が中国の要求を呑み、返還することは考えられない。そんなことをすればアメリカはもとより多くの諸国の強い反発を招くことになる。

日本政府が返還を拒否すれば、中国は「台湾問題は内政問題である。日本の対応は中立国の義務ではなく、中国艦艇の拿捕及び航空機の占有である」として激しく反発するだろう。

対抗措置として、尖閣諸島の確保を目指して部隊を派遣するか、日本へ避難した艦船・航空機を精密誘導兵器によって攻撃する可能性がある。この場合、日本政府は武力攻撃事態に認定して自衛隊に防衛出動を命じ、自衛隊は直接中国軍と交戦することになる。

インド太平洋軍は、アメリカ政府の軍事介入の意思決定が迅速に行われることを前提にして台湾有事の全般作戦計画を立案し、日本との共同作戦計画を策定する。そして、台湾との共同作戦計画を策定するか、できなければ台湾軍の防衛構想を承知する必要がある。

インド太平洋軍の作戦目的は、中国の台湾占領意図を粉砕し、核戦争への拡大を抑止することである。在日米軍基地は重要な作戦基盤であり、日本の自衛隊の協力は作戦上、必要不可欠の要素となる。

『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』 (講談社+α新書)

山下裕貴

2023年4月19日

990円

216ページ

ISBN:

978-4065319598

「問題は、侵攻のあるなしではない。それがいつになるかだ」
中国の台湾侵攻について、各国の軍事・外交専門家はそう話す。
中国の指導者・習近平はなにをきっかけに侵攻を決断するのか。
その際、まず、どのような準備に着手するのか。
アメリカ・台湾はその徴候を察知できるのか――。
元陸上自衛隊最高幹部が、台湾侵攻を完全にシミュレーションした!
陸上自衛隊の第三師団長、陸上幕僚副長、方面総監を務めた元陸将・山下裕貴氏は、沖縄勤務時代には与那国島への部隊配置も担当した。中国人民解放軍、米インド太平洋軍、そしてもちろん自衛隊の戦力を知り尽くす。戦地となる台湾周辺の地形も分析し、政府首脳も参加する机上演習(ウォーゲーム)のコーディネーターも務める、日本最高の専門家で、本書はいわば、「紙上ウォーゲーム」である。

中国と台湾を隔てる台湾海峡は、もっとも短いところで140キロもある。潮の流れが速く、冬場には強風が吹き、濃い霧が発生して、夏場には多くの台風が通過する、自然の要害である。
ロシアによるウクライナ侵略では、地続きの隣国にもかかわらず、弾薬や食料などの輸送(兵站)でロシア軍は非常な困難に直面し、苦戦のもっとも大きな原因となった。
中国は台湾に向け、数十万の大軍を波高い海峡を越えて送り込むことになる。上陸に成功しても、その後の武器・弾薬・燃料・食料・医薬品の輸送は困難をきわめる。
「台湾関係法」に基づき、「有事の場合は介入する」と明言しているアメリカも、中国の障害となる。アメリカ軍が動けば、集団的自衛権が発動され、同盟国の日本・自衛隊も支援に回る。
つまり、自衛隊ははじめて本格的な戦闘を経験することになる。
日米が参戦すれば、中国は台湾、アメリカ、日本の3ヵ国を敵に回し、交戦することを強いられる。
それでも、習近平総書記率いる中国は、「必勝」の戦略を練り上げ、侵攻に踏み切るだろう。
そうなったとき台湾はどこまで抵抗できるのか。
アメリカの来援は間に合うのか。
台湾からわずか110キロの位置にある与那国島は、台湾有事になれば必ず巻き込まれる。与那国島が、戦場になる可能性は高い――。
手に汗握る攻防、迫真の台湾上陸戦分析!

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