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白馬に乗った写真をアイコンにしている56歳男性にマッチングアプリで会ってみたら‥「足立区とか埼玉とかとは面倒で付き合えない」

集英社オンライン / 2023年7月20日 18時1分

マッチングアプリをやめられない人たちを取材し、その心理を描いた『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』(朝日新書)。同書からアイコンの自己演出が過剰すぎたり、リアルな自己像とかけ離れている男性の実態を一部抜粋・再構成して紹介する。

いったい、どこの貴族の末裔ですか

乗馬服をビシッと決めて白馬にまたがったエイジさんの姿は、アイコン写真の海でも異様に目立った。しかもその騎乗姿がブーツも帽子もジャケットも、一式高級品で揃えているらしくかなり本格的なのだ。

どんな人なのかとエイジさんのプロフィールを読むと、「56歳。職種:経営者。趣味は乗馬、ハワイでのゴルフ、油絵、ヴァイオリン」。

どこかの貴族の末裔?



だって乗馬ってあの衣装やブーツを揃えるだけでかなり高額で、そのうえ馬の騎乗にもかなりお金がかかるとか……。そのうえ油絵とかヴァイオリンとか優雅すぎて生活が想像できない。顔写真は颯爽とした品がいいおじさまで、プロフィールを見るとバツイチの成城住まい。きっと資産家の御一族なのだろう。年収1500万に釣られてか「いいね!」も100近くついていた。

足跡をつけたその夜、マッチング通知が来た。メッセージ付きだ。

5年前に妻と死別し、子供2人は自立して、今は広すぎる一軒家に一人暮らしで食事もハワイ旅行も淋しくて虚しいと書いてある。何度かメッセージを重ねて会ってみると予想通り土地持ちの資産家で、小さな会社のオーナーでもあって働かなくても資産は充分あるらしい。

「妻も亡くなり息子や娘も独り立ちして経営の仕事も後輩に任せたので、趣味に打ち込もうと思ったが……。もともとが無趣味なので絵を習ったり乗馬をやったり、何をしてもあまりうまくいかなくて。馬はまだ1人ではまたがれない正真正銘の初心者。実力がないから、せめて形から揃えようと高い乗馬服を一式揃えたが、腰痛で2回しか通っていない」

足立区とか埼玉とかの人は面倒で付き合えない

エイジさんはそう苦笑する。白馬の王子様は形だけだが、金も時間も自由に使える恵まれた身分というのは確かだ。

港区女子……というより猛禽類の成城女子が群がる格好の標的になりそうだが。

「僕は足立区とか埼玉とか家が遠い人とは面倒で付き合えない。だから成城から徒歩圏内か車で15分以内のエリアでお相手を探している」

え? となると成城高級住宅地圏の住人しか無理な気がするのだが(しかも私は成城か
ら徒歩圏内どころか電車で1時間以上)。

そしてさらにエイジさんの背景を聞いてみると、遺産相続で揉めたくないので相手もある程度、資産がないと難しい、と言う。つまり成城近辺に住む資産、土地持ちの富裕なお家柄のお相手を探しているわけだ。そんなやんごとなき女性がマッチング・アプリなんかで見つかるのだろうか?

その高くそびえたつ条件を、最初からプロフィールに明記しておいてくれないと無理! これまでのマッチング・デート歴を聞いてみると、あまりお気に召さなかったご様子だ。

「みんな家が遠いし、バツイチでスーパーのレジ打ちのパートをしているとかナースさんとか、話は楽しかったけどまったく条件に合わない。家が川越とかだと会いに行くだけで1日が終わってしまう」

あまりに条件が厳しすぎる。窮地のヒロインを助けに来る白馬の王子のアカウントはこの際丸ごと捨てて、成城居住、資産・土地持ち女性限定という条件で、結婚相談所に頼むほうがよさそうだ。

千葉のスポーツスクールで働く47歳のマークさん

アイコンの自己演出が過ぎたり真逆だったりリアルな自己像と離れていると、マッチン
グもいい結果にはならない。

この問題はインスタでリアルとはかけ離れた、キラキラな自己演出した投稿ばかりするインスタグラマーたちの空虚さにも繫がる。私はこの現象をアバター丸投げ化と呼んでいる。

例えば女性にウケるマーヴェリックみたいなパイロットの制服を着た写真や、筋肉を見せてフィットネスをする写真をアプリのアイコンにすれば、そのインパクトだけでかなりの「いいね!」が稼げる。だが仮にそれでマッチングできたとしても、うまく付き合っていける確率はかなり低い。アバターのバリューがひとり歩きしても、近くで見るとその後ろに隠れた本人を逆に小さく貧相に見せるからだ。

もう1人、プロフィールのアバターとのギャップが大きすぎて衝撃を受けた人がいる。

千葉のスポーツスクールで働く47歳のマークさんだ。アイコンの写真は青空の下で純白のテニスウェアを着てラケットを持って立っている笑顔の若々しい男性。小麦色に日焼けしていて白い歯が眩しく、青春映画の一コマのように爽やかでかなり目立っている。

そして自己紹介は「××のスクールでテニスのインストラクターやってます。休みの日も自分の練習や試合に打ち込んでいて、テニス一筋でまったく出会いがないので登録してみました。結婚まで視野に入れたお付き合いができる人を募集しています」。

今までにないスポ根系だ。

前田大然選手に似た濃い目の顔立ちもガッチリしたスタイル

きっと汚れていない誠実な人に違いないと期待して「いいね!」を送る。マッチングしてからのメッセージは普通の自己紹介で始まり、3つのスポーツクラブを掛け持ちしていること、朝から晩までのレッスンで休みが月に3、4日しかないこと、それでも時々、ベテランの試合に出て上位入賞することなど教えてくれた。ここまでは予想通りのスポーツ熱血キャラで好印象。

しかし一つ、大きな疑問があった。

テニスのインストラクターは一般的にモテる。テニスだけでなくゴルフもフィットネスも、生徒に信望があってカッコいいお手本を見せられる「先生」は大抵モテる。特に初心者や主婦、若いOLなどが多いクラスでは、ルックスはそこそこでも先生の御威光で取り巻きができることが多い。だから自分の生徒と付き合ったり結婚したりする人は多い。

マークさんは千葉の名門のスクールで専任コーチとして教えているし、サッカー日本代表の前田大然選手に似た濃い目の顔立ちもガッチリしたスタイルも体育会系っぽい感じで、テニスへの情熱は現役選手並みに熱い。初心者や高齢者にも真剣に教え、信望も得ているという。

そんなモテ要素がたくさんありながら、なぜ47歳まで未婚だったのか?

年収400万円、暇な時だけ呼ばれる「2番目の男」

LINE移行してから3日目、レッスンが休みの日にカフェで会おうということに。だが残念なことにその日、マークさんのイメージが変わってしまった。良くないほうに。

彼が爽やかなスポーツマンから一変したのは、私の疑問を本人にぶつけた時だ。

「コーチってモテますよね? なぜ今までシングル一筋だったんですか? 独身がポリシーだったんですか?」。するとこんな答えが返ってきた。

「テニスコーチは給料が安いから、掛け持ちしてもボーナスがない分会社員の年収とは違う。がんばっても400万円ちょいぐらい。嫁さんが高収入でないと子供を養うのも大変だし……それに俺はいつも2番目の男だから」

一瞬、「2番目の男」の意味がわからなくて、もう一度聞き返す。

「都合がいい男というか、相手が暇な時だけ呼ばれるみたいな……。そういうのが多くてもう慣れてるけど」

暇な時だけ呼ばれる……ピンときた。つまり生徒の主婦の不倫相手として夫がいない日、呼ばれるということだ。マークさんに確認すると曖昧にぼかしていたが、否定はしなかった。スクールの生徒の不倫相手。あまりにもありがちな話かもしれないが、「スラムダンク」や「テニプリ」のように爽やかで誠実と信じてマッチングしたスポーツマンが、人妻の浮気相手とは残念すぎる。

マークさんとはもはやこれまで、と考えていた矢先、さらなる打撃が襲ってきた。2日後の深夜、突然LINE電話が……。

「レッスンのあとマッサージをしてもらった。今終わったんだけど、これから君の家行ってもいい? 車で行くから住所を教えて」

最大限にギョッとした。テツさんとはまだ一度、カフェでお茶をしただけで、次に会うとも付き合うとも約束していない。なのに突然家に行くよってどういうこと?

「これからってもう深夜ですよ。わかってます?」
「うん。明日はレッスン休みだから泊まれるよ」

ついに本性を現した恐怖のヤリモクコーチ。つまり、これは彼がいつも生徒の主婦や取り巻きたちに使っている誘い方なのだろう。結婚相手を募集と言いながらマッチング相手にもこんな方法を使うとは。爽やかな青空の下のスポーツインストラクターというアバターで、これまでどれぐらい婚活女性を罠にかけたのか?

誰もが目を留めるほどキラキラすぎるアイキャッチなプロフィール写真を見たら、「いいね!」をする前に立ち止まって考えてみてほしい。それは最大限にイメージを美化させたアバターであって、あなたが会うのは美化を剝がした「中の人」なのだ。

『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』 (朝日新書)

速水 由紀子

2023年6月18日

979円

280ページ

ISBN:

978-4022952226

結婚相手を見つけ、2人で退会するのがマッチングアプリのゴール。しかし本書では、このアブリ世界に彷徨い続け、婚活より自己肯定感の補完にハマり抜け出せなくなってしまった男女を扱う。アプリで次々に訪れる流動的な人間関係の刺激は、中毒性が強い。相手をどんどん乗り換え続けることで生きる糧を得ている人々、離婚や失恋でトラウマを抱え、婚活と名乗りつつセフレ的な付き合いしかできなくなった人々、等身大な自分を見失って500の「いいね!」をコレクションし、自己肯定感の上昇のみを求める人々。マッチングアプリの婚活沼に依存するディープな住人たちを、「マッチング症候群」と名付ける。 * 恋愛をメンタルを不安定にするリスク要因と捉える20代にとっては、言い争いや修羅場、負の感情の存在しないアプリは心地よい理想の場。 * 年代が上がるにつれて利用期間が長くなり抜けにくくなる→40代50代は婚活ではなく、孤独な老後の友人達を増やすだけ * 特に数々の恋愛で目が肥え妥協できなくなっているアラフォー女性たちにとっては、イケメンな富裕層経営者やハイスペックなモテ男とマッチングし、会って食事できることほど自己肯定感を上げてくれることはない。その本命になるのはほぼ絶望的だが、高級店でディナーを奢ってもらい言葉上手に口説かれて舞い上がれる。「自分はまだまだイケてる」と信じられる…etc.

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