自称・精神年齢8歳の俳優・佐藤二朗(54歳)「ものすごい勇気を持って“ウンコ”ってつぶやいているわけではない。本当につぶやきたいから、心から漏れてるだけ」
集英社オンライン / 2023年7月25日 17時1分
俳優として、ドラマや映画、コマーシャル、バラエティ番組のMCとして、活躍中の佐藤二朗さん(54歳)。フォロワー数200万人超えのTwitterは、ユーモアたっぷりのつぶやきで溢れ、ひそかな“中毒者”が増え続けているといわれる。2023年6月20日に初のコラム集『心のおもらし』(朝日新聞出版)を刊行した佐藤さんに話を聞いた(全2回の1回目)。
ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズなど「コメディの鬼才」といわれる福田雄一監督作品の常連であり、昨年はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に、主人公・北条義時(小栗旬)と対立する比企能員役で出演した佐藤二朗さん。北条対比企の最終局面が描かれた「比企能員の乱」のシーンの放送後は、SNS上で「ただの面白オジサンじゃないことがよくわかった」、「最後の最後まであがくところに凄みを感じた」とその演技が絶賛された。
テレビではドラマでのコミカルな役柄、バラエティでのユーモラスな人柄でお馴染みだが、近年は映画『はるヲうるひと』(21年)や『さがす』(22年)でコメディとは真逆なシリアスな役を演じ、強烈なインパクトを残している。いったい俳優・佐藤二朗とは、何者なのか?
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正直、自分でもわからないんです
――ドラマやバラエティ番組での面白いオジサンというイメージがある一方で、映画『はるヲうるひと』や『さがす』の中にはまったく別人の“佐藤さん”がいます。どっちが本当の佐藤さんなのでしょう?
両方とも僕なんでしょうね。『さがす』は出演だけですが、脚本・監督も務めた『はるヲうるひと』に関しては「なんでパブリックイメージと真逆の作品を作るんですか?」って何度も聞かれましたが、正直、自分でもわからないんです。
ただ、僕が出演している『幼獣マメシバ』シリーズの信頼しているクリエイターであり、プロデューサーの永森裕二さんがどこかの取材で言っていたことに、なるほど、と思いました。
「佐藤二朗は面白いオジサンというイメージがある。それはその通り。酒席ではただのバカなおっさん(笑)。でも、書くとほの暗さが出てくる。つまり、彼の内在するもの、本来やりたいことは喋っても出てこない。書くと出てくる。それが面白い」
たしかに最初に監督した映画『memo』(08年)では強迫性障害を描いて、2作目の『はるヲうるひと』では女郎の話を書いたのですが、どちらも人間の内圧の話ですからね。まあ、故意にパブリックイメージと逆のものをやってやろうという思いが多少はありましたが、自分ではそんなに意識していないんです。
斎藤工が僕のことを買い被ってくれていて……
――フォロワー数が200万人超えのTwitterや著書『心のおもらし』では、「ウンコ(大便)」「オナラ(屁)」「チンチン」などと「下ネタ」だと敬遠されそうなワードが頻発しています。(「計算外の放屁、計算尽くの放屁」「僕がウンコになった日」などはいずれも書籍に掲載されたコラムのタイトル)。精神年齢8歳を自称しているとはいえ、佐藤さんは54歳の“立派なオジサン”。一歩間違えばドン引きされてもおかしくないと思いますが……。
普通は引かれますよね(笑)。
――ただ、女性を含め、若い世代から多くの支持を集めています。何か秘訣はありますか?
たとえば作品作りにおいては「万人がいいと思うもの」を目指すことを簡単にあきらめるべきではないと思うし、もしそんな作品が作れれば素晴らしいことだと思うんですが、僕という人間に関しては、全方位から好かれようなんて全く思ってないし、やりたいことをやる、書きたいことを書く、ということしか考えてないです。
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よく「若者に愛されるためにはどんなことが必要ですか?」みたいなことを聞かれますが、僕自身、若者に気に入られようとは微塵も思ってないし、なぜ受け入れられるか自分でも分からないです。結果、色んな世代の方々が面白がってくれるのなら、大変嬉しいことではありますが。
1つ言えるとしたら僕の場合は精神年齢が低いことがいいほうに働いてくれているというか。最近はドラマや映画の撮影現場でも、ふと気付くと「えっ、この現場、上から2番目?」とか「オレ、一番上じゃん」みたいなことがよくあります。そういう立場になると、若い俳優さんも緊張するだろうし、普通はなかなか周りに人が寄り付かなくなるものです。でも、俳優仲間の斎藤工が僕のことを買い被ってくれていて、勝手にこんな分析をしてくれたことがありました。
「二朗さんは、あえてバカなことを言ったり、あえてふざけたりして、若い俳優たちが近づきやすい、話しやすい状況を作り出している」
まあ僕的には無意識で、深く考えてはいないんですけどね(笑)。
ガラケーじゃないと書けないんです。
――俳優や映画監督、脚本家として幅広く活躍されていますが、今回の著書はWebでの連載をまとめたコラム集。忙しいなか、書き続けることは負担にならなかったですか?
映画脚本も含めて、僕の中に、どうにも書く欲求があるんです。演じることとは別の欲求というか、”別腹”ですね。
――ほぼ“ガラケー”で書かれたと聞いて驚きました。
慣れですね。逆にデジタル方面には疎いので、ガラケーじゃないと書けないんです。話が飛んでしまいますが、よく街で「佐藤二朗さんですか?」と、声をかけられることがあります。あるとき静岡で女子高生たちが少し離れたところで「あの人、佐藤二朗に似てない? でも、こんなところにいるわけないか」って噂話をしているのが聞こえてきたことがありました。
僕みたいな普通のオジサンは、似ている人がいても不思議ではないですから。でも、彼女たちは僕がガラケーを出した途端、「あっ、佐藤二朗だ!」って、ガラケーを使っているか否かで判断していましたね(笑)。
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――書くことも好きとのことですが、書くことが俳優業に生かされるようなことはあるのでしょうか?
それはあんまりないですね。だから、やっぱり別腹なんです。どこかで関連しているのかもしれないですが、それは無意識のなかでのことで、僕の目に見えるものとしてはないと思います。
ただ、書くことで発見はありますよね。さっき少し出た若い人との距離感というか付き合い方という点では、人の名前の呼び方って面白いなと思って。自分が無意識にやっていたことを、コラムで改めて文字にして気づいたのですが、ちょっとした呼び方の違いでその人との距離が一気に縮まったり、いつまで経っても縮まらないことってあるじゃないですか。
『鎌倉殿の13人』でご一緒した坂東彌十郎(やじゅうろう)さんのことを、僕は当初「坂東さん」と呼んでいたら、ご本人から「ヤジュでいいですよ」と言われましたが、いきなり「ヤジュ」はさすがにハードルが高い。それを察して坂東さんは「ヤジュさん」でいいですよ、と言ってくれましたが、呼び方が変わっただけで心の距離が縮まった気がしましたし、現場での芝居もやりやすくなったようなところがありました。もちろん、敵対する役であれば一切口を利かないやり方もあって、これはいい悪いではないんですけどね……。
上の名前より下の名前、「さん」付けより「呼び捨て」の方が距離が縮まる。でも、急に距離を縮めようと呼び捨てにすると、“事故”に遭うこともあります(笑)。無意識でやっていることも書くことで改めて感じることがあって、そういう意味ではどこかで演じることに生かされている部分はあるのかもしれません。
僕はある部分では気が小さいんだけど、ある部分では神経が切れている。
――Twitterの人気の高さについて思うことはありますか。
最初は宣伝目的で始めたんですけど、ツイッターも書く欲求を吐き出す一つのツールだと考えていいんだと思ってやってます。そうしたらありがたいことにあれよ、あれよという間にフォロワーが増えていたという感じで。
妻からは「やめとけ」と言われながら、半分酔っぱらってよくのろけツイートをしてしまいます。リプでは「心温まりました」「癒やされました」って言ってくださる方もいますが、妻は「なんやこれ、ケッ」って思う人も絶対にいるからなって言うんです。僕も、その通りだと思います。だって、僕だって自分と同年代のオヤジがそんなつぶやきをしてたら、「何言ってるんだ。頭おかしいんじゃない」って思いますから。
まあ「ケッ」って思う人がいて当然で「佐藤二朗のTwitterは嫌い」という人がいるのが自然。それはそれでいいかなって思います。
――Twitterでは息子さんのこともかつてはネタにされていました。幼少期はウンコ、オナラ、チンチン、と一緒に喜んでいても、少しずつ成長してくると「お父さん、やめてよ」とはならないんですか?
完全になってますよ。たまに息子と商店街を歩いていて「お父さん、そろそろウンコ言おうか?」などと言うと「恥ずかしい」「もう、やめて」って言うんです(笑)。さすがに息子も大きくなり、ウンコもチンチンも喜ばなくなり、そこは嬉しさ半分、寂しさ半分ですが……。
精神年齢は完全に抜かれてしまい、息子も物心がついてきたので、息子のことは書かないように、と妻と約束してます。コラムなどで書くことがなくなると、どうしても自分の身の回りの話が多くなりますが、極力、息子のことは書かないようにしてます。
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――坂東彌十郎さんのことをどう呼ぶべきか迷われたり、酔ったなかで余計なツイートをして俳優仲間の山田孝之さんに注意されたりなんてこともあったみたいですが……。下ネタやノロケを自由にツイートすることは、自らをテンパリストでビビリと自認する佐藤さんにとっては勇気のいることではないですか。
たしかに以前、俳優仲間からも「佐藤二朗は気が小さい俳優。そこがいい」みたいなことを言われたこともあります。ただ、気の小さいビビリが、清水の舞台から飛び降りるみたいに勇気を出してツイートしているわけではなく、全然そこに勇気はいらないんです。
一般論になってしまいますが、気が小さい人とか、こういう人、ああいう人っていうのは本当に一概には言えないなって思いますし、僕はある部分では気が小さいんだけど、ある部分では神経が切れているっていうか。
そういう意味では、気が小さい部分と、神経が切れている部分の差が激しいんですかね。「気が小さい」ことにより、普段の生活では困ることがたくさんありますが、気が小さいからこそできる芝居があるかもだからいいやと自分を受け入れてます(笑)。でも、本当のところは自分ではわかりません。
ただ、ツイートに関しては、ビビりの人がものすごい勇気を持って「ウンコ」ってつぶやくわけではなくて、そこにはなんのハードルもない。本当につぶやきたいから、つぶやいてる。それだけのことなんです。
取材・文/栗原正夫 撮影/井上たろう スタイリスト/鬼塚美代子(アンジュ)
ヘアメイク/今野亜季(A.m Lab)
『心のおもらし』(朝日新聞出版)
佐藤 二朗
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/07/13072933795552/400/jorosaoto.jpg)
2023年6月20日
1,870円
344ページ
978-4023322882
俳優・映画監督・脚本家、そしてバラエティ・教養番組のMCとして、その姿を見ない日はないほど幅広く活躍中の佐藤二朗氏。フォロワー数200万人超のTwitterは、ファンに笑いや安らぎのひとときをもたらし、仕事も家事も育児も世の中も、全ての疲れを吹っ飛ばしてくれると、ひそかな“中毒者”が増え続けています。本書は、そんな佐藤氏初となるコラム集。
Twitterでもおなじみ、意味不明のようで滋味すら感じられる「酔っ払いネタ」やオリジナリティが過ぎる「妻」の毒舌考、「永遠の精神年齢子ども論」などに加え、日々の出来事へのやさしくも鋭い考察、表現者としての“ジローイズム”が満載。また、衝撃的な未発表作品含む脚本5作も収録。未だ見ぬ「佐藤二朗」と、安心安全安定の(ちょっと不安で危険でもある)いつもの「佐藤二朗」と、あらゆる角度から出会えるであろう一冊です。
装画は、佐藤氏の永遠のバイブル『ザ・ワールド・イズ・マイン』の作者であり、出演映画『宮本から君へ』)の原作者、漫画家の新井英樹さんの描き下ろし。「つぶやき」の吹き出しも新井さん直筆という特別仕様。
内面は「永遠の約8歳児」とはいえ、いろいろ漏れてしまうお年頃。その中から、本書は「心」のおもらしに限定しているのでご安心ください。
吹き出したり、今日のモヤモヤ・イライラがどうでもよくなったり、一緒にとことんいじけてみたり、しんみりしたり、家族をいとおしく思ったり、佐藤二朗氏の出演作が何倍もおもしろくなったり。そうこうしているうちに、いつしか、あなた自身も感情をおもらししてしまうかもしれません。
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