1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

7年で出生数20%以上激減、高齢者割合G7断トツ1位…誰が日本をこんな国にした「30年後に残るのは本州だけ」

集英社オンライン / 2023年8月1日 8時1分

出生率が年々下がり、人口激減を迎えた日本は、移民問題を正面から議論する時期をとっくに迎えているが、それができないまま社会全体が回らなくなっている。このまま日本は一体どうなってしまうのか。『人口亡国 移民で生まれ変わるニッポン』(朝日新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

薄れた人口危機意識

世界は多重危機の時代に入った。コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、資源エネルギーの高騰と世界的なインフレ、そして従来からある気候変動も危機感が高まっている。

日本もそうした重層化する危機に翻弄される中で、本来、日本の未来に最も大きな影響を与える課題に対しては逆に危機感が薄まっている。その危機とは「人口問題」に他ならない。



2017年に刊行した拙著『限界国家―人口減少で日本が迫られる最終選択』(朝日新書)では巻頭推薦文を故堺屋太一氏に執筆していただいた。同氏はその中でこのように記している。

「実際、人口減少こそは、2020年代の日本が直面する最大にして喫緊の重要問題である。このことは、全国の人口減少の進んでいる地域、いわゆる『限界都市(地域)』に一カ月も住み、現地の産業や文化、生活に携わってみれば、誰もが痛感するはずだ」

人口減少は何をもたらすのか?同氏はこのように指摘する。

「人口が減少することは、あらゆる産業が不活発になり、規模が縮小し、営業が困難になるだけではない。不動産は無価値になり、結婚は難しくなり、友達も相談相手も、お祭りやイベントも、慰め合う相手もいなくなることである」

そして、今後の予測としてこのように述べる。

『東京を除く』日本のほとんどの地域が危機に曝さらされている

「今や『東京を除く』日本のほとんどの地域が、そのような危機に曝さらされている。恐らく2020年の東京オリンピック・パラリンピックの空騒ぎのあとでは、東京にも人口減少の脅威が、確実に押しかけて来るだろう」

では実際はどうなったのか?

2022年5月1日現在の東京都が発表した「東京都の人口(推計)」では、東京の人口は対前年同月比で2万2595人の減少となった。コロナ禍により人口の流動性が高まっているものの、東京にも本格的な人口減少が迫っていると言えるだろう。

全国レベルではより深刻な状況が生まれている。

2022年9月16日、厚生労働省は2021年の「人口動態統計(確定数)の概況」を発表した。出生数は81万1622人と前年より2万9213人減少し、合計特殊出生率は1.30で前年の1.33より低下した。コロナ禍によって少子化に一層拍車がかかったことが明らかになった。

7年で20%以上の出生数の激減という事実

今後の見通しはさらに厳しい。日本総合研究所は2022年11月、2022年の出生数(日本人)は、前年比5.1%減の77万人前後となる見通しを発表した。16年以降、出生数は年率3.5%減のペースできたが、22年はそれを上回る減少率となる。

同研究所の藤波匠上席主任研究員は「2015年の出生数は100万人を超えていた中、わずか7年で20%以上減少してしまう」と危機感をあらわにする。

7年で20%以上の出生数の激減という事実は決して軽視できるものではない。堺屋太一氏の予測を超えて人口減少の大波に日本はすでに飲み込まれているのである。

2023年、岸田文雄政権は異次元の少子化対策を行うと発表したが、これまでの各政権も少子化対策を重要政策としてとらえ、多様な事業が行われてきた。しかし、一時的な効果はあっても、結局は人口を増やすどころか維持すらもできなかった。2020年代になり、人口激減の段階に入った以上、今後の少子化対策で多少の改善が見られたとしても、人口増加へ転じることは決してないと言い切ってよいだろう。

高齢者雇用の割合は29.1%とダントツでG7トップ

振り返れば日本の人口は2008年を境に減少に転じている。生産年齢人口(15〜64歳)で見れば、1995年を境に減少に転じた。生産年齢人口は1995年時点の8716万人から1200万人以上減少し、2021年には7450万人となった。

日本はこの生産年齢人口の大激減を女性活躍の推進と高齢者雇用促進、IT技術の活用でしのいできた。女性の就業率は2005年には58.1%だったが、2021年には71.3%に達し、就業者数は2021年には3002万人となった。また高齢者の雇用も増加が続いた。2020年の高齢者の就業者数は、2004年以降、17年連続で前年に比べ増加し、906万人と過去最多となった。

では今後も、女性と高齢者の就労拡大で乗り切れるのだろうか?

女性の就労率はすでにOECDの中でトップクラスに近づいている。2020年、OECD諸国の中で日本は38カ国中13位ですでにオーストラリア、カナダ、米国よりも高いレベルとなっている。

一方、高齢者雇用の割合は29.1%とダントツでG7(主要7カ国)でのトップ。2位のイタリアの23.6%を大きく引き離している。しかし、団塊の世代が後期高齢者になる2025年以降、介護人材の需要が急速に高まり、労働力不足は一層深刻さを増していく。労働者として活躍していた高齢者が、次第に介護を必要とする時代へと変わっている。残された伸びしろには限りがあるのは明らかだ。

30年後に残るのは本州だけ

2023年、国立社会保障・人口問題研究所は2070年までの人口予測を発表しているが、予測可能な限り、人口減少が停止することや増加に転じることはない。さらにその先も同じ状況が想定されている。つまり、現在、日本に生きている人の大多数は一生のうちに「今年は日本の人口が増えました」というニュースを聞くことはない。

国立社会保障・人口問題研究所の予測では、2056年には9965万人と1億人を割りこむ。2056年と言えばはるかに遠い未来のように思えるが、コロナ禍の影響もあり、数年前倒しになると予測されている。そうなれば25年程度でそれが現実となる。

ではこれから減少が予測される2500万人とはどのような規模なのか?

九州の人口が約1400万人、北海道が530万人、四国が370万人であることを考えれば、ほぼ九州、北海道、四国の合計に近い人口減少がこれから30年強の間に一挙に起こることになる。つまり今、本州に住んでいる人口しか残らないということだ。しかも、世界一の日本の高齢化は2040年を超えて続いていく。

高齢化の象徴「人形村」

その日本の高齢化は世界でも広く知れわたっている。

筆者はアメリカのベテラン・ジャーナリストの日本での取材を支援したことがある。ナショナル・パブリック・ラジオの記者、アイナ・ジャッフィ氏が関心を持ったのが四国の山奥にある「人形村」だった。

それは徳島県三好市の標高800メートルの名頃集落で、100体以上の人間を真似たかかしが村のあちこちに置かれている。かかしは言ってみれば、人がいなくなった村の「バーチャルな村民」と言えるかもしれない。

大阪から故郷の名頃に戻った女性がこつこつと作り始め、数十名の村落の人口をはるかに超えるかかしが限界集落となった村のあちこちに置かれている。一見、シュールともいえるこの光景をアメリカ人の記者は高齢化日本を象徴する場所と考えた。

人里離れたこの場所を訪れ、これらの人形を作った女性作家と会った記者は、作家との対談を通して人形村の様子を全米に報じた。

他の国ではめったに見られない葬儀会社やお墓の宣伝

高齢者ばかりが住む場所が増え続ける日本の現実は極めて厳しい。地震、台風に加えて異常気象による洪水や山崩れが多発する日本。一度、災害が起これば若者がいない社会では助かる命が助からない。高齢者同士で助け合うには限界があることは明らかだ。高齢者の村で人形を作って賑わいを演出しても人形が高齢者を助けてくれることはない。

高齢化の進行と終わりのない人口減少を筆者は「見えない大津波」と呼ぶが、人口減少は社会のさまざまな基盤を根こそぎ奪い取っていく。学校、会社、交通インフラ、商店街、村、町が消えていく。

そうした中で増えるのは葬儀会社だ。他の国ではめったに見られない葬儀会社やお墓の宣伝が、テレビやさまざまな広告媒体を通じて繰り返し行われている。今の日本では当たり前でだれも驚かなくなったが、そのこと自体、異常であり、そのことを目にした外国人には異様な光景と映る。彼らは高齢化のもたらす意味を理解し、日本の行く末に不安を感じるだろう。

「見えない大津波」が単に葬儀会社が増えるだけなら、それほど大騒ぎする必要はないのかもしれない。しかし、人口減少によって、従来受けられたサービスが受けられなくなり、人びとの暮らしに大きな影響を与える。

路線バスで見れば、2010年度から2018年度の間に東京からスペインのマドリードの距離に相当する1万788キロが廃止された。全国の鉄道網の廃止と共に人びとの暮らしはますます不便になっていく。

安易な考えは一種の「姥捨て山」の発想ではないか

本来、人口維持には欠かせないと思われる病院も同様だ。厚生労働省は人口減少への対応として病院の閉鎖を進めようとしている。2019年9月、市町村などが運営する公立病院と日本赤十字社などが運営する公的病院の25%超にあたる全国424の病院について「再編統合について特に議論が必要」とする分析をまとめ、再編すべき病院名を公表した。

とりわけ深刻なのは介護人材の不足だ。

高齢者が増えると同時に全国で介護施設が急速に増えた。しかしそこで働く人材不足が終わる様子はない。給料を上げれば就業者が増えるという意見もあるが、そもそも若者の数が減少している以上、他の産業とのパイの奪い合いが起こるだけだ。

ロボットを活用しようという意見もある。しかし、命にかかわる分野ですべてロボットが人間に置き換わることは可能だろうか。体調が変わりやすく身体能力の低い高齢者への細かな気配りができ、さまざまなニーズに対応できるのは人間しかいない。

そもそもそれを高齢者自身は望んでいるのだろうか?サービスの一部の支援であればまだしも、人間よりロボットに世話をしてほしいと願う高齢者はいないだろう。高齢者の世話は人手不足だからサービスが行き届かなくても仕方がない、ロボットに代替させればよいという安易な考えは一種の「姥捨て山」の発想ではないか。

文/毛受 敏浩

『人口亡国 移民で生まれ変わるニッポン 』(朝日新書)

毛受 敏浩

2023年6月13日

935円

256ページ

ISBN:

978-4022952240

"移民政策"を避けてきた日本を人口減少の大津波が襲っている。GDP世界3位も30年後には8位という並の国になる。まだ、日本に魅力が残っている今、外国人から移民先として選ばれるための政策をはっきりと打ち出して、この国を支える人たちを迎えてこそ、将来像が描ける。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください