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〈「ギフテッド」と呼ばれる人たち〉3歳で機械式時計の仕組みを熟読、小4で英検準1級…IQ154の少年が学校に行けなくなった理由とは

集英社オンライン / 2023年7月24日 10時1分

特異な秀でた才能を持ち、様々な領域で3〜10%程度いるとされる「ギフテッド」と呼ばれる人々。とびぬけた能力の裏側にある苦悩とは? 「学校はありのままでいられない場所」と話すIQ154の少年・小林都央さん(11)が語った、学校に通うことの“つらさ”と、「選択的登校」に辿り着いた現在を、人気連載を書籍化した『ギフテッドの光と影 知能が高すぎて生きづらい人たち』(朝日新聞出版)より、一部抜粋、再構成してお届けする。〈サムネイル写真:朝日新聞社提供〉

学校に行っても何も学ばない」

取材の前に都央(とお)さんがまとめてくれた「なぜ学校に行きたくないか」というチャート図がある。

「時間の無駄→行っても何も学ばない→つらいだけ」



「知っている→楽しくない→つまらない→つらいだけ」

だから、やりたいことを家でやりたい、そのほうが有意義と書かれている。都央さんに とって学校は「ありのままでいられない場所」となった。毎日登校することが負担になり、泣いて帰宅する日もあった。

どんな時に学校がつらいと思うのか。

授業で、海の生き物を描いて色を塗りましょうと先生が言った時、都央さんは、白いチンアナゴを描いて提出した。すると、先生からは「色を塗っていない」と言われてしまっ た。「白という色ですよ」と言ってもなかなか理解してもらえず、そこで諦めた。「自由に描いていいよ、と言われても理不尽な枠を決められているようだった」と感じた。

算数の時間に、指定された解き方以外のやり方を見つけても、言われた解き方の通りにしないといけない。

黒板は先生が書いた通りに書き写さないといけない。
「それが当たり前なんだから」。「言われたこと以外はしてはいけない」。そんなことを言われ、自分のアイデアを諦めることもある。がやがやと様々な音がする教室にいるだけで疲れてしまう。好奇心を抱くものを学びたいと思っても、それが叶わない。

ヘアドネーションのために髪を伸ばしていると、「なんで女子が入ってくるんだよ」と言われた。左右違う色の靴下をはいていくと「おかしい」と揶揄(やゆ)される。都央さんは「じゃあなんで左右同じ色をはいているのか、逆に聞き返したりします。たいてい答えられないです」と振り返る。

自分で考えた漢字の法則について説明している都央さん〈写真/朝日新聞社〉

登校する時も、下校した時もつらそうな表情をしていた。「普通」の枠に押し込められ、そこから外れると指摘される。そんな学校生活を過ごす都央さんを見て、純子さんは「『自分らしさ』や『自分が好きなこと』を見つける機会が少なくなってしまうのは悲しいこと」と感じるようになった。

そうして、毎日登校するのではなく、疲れた時には「リフレッシュ休み」をとる。週に何日か学校に行く「選択的登校」という方法をとった。純子さんは悩みながら都央さんの思いを尊重したという。

「学校に行くのが当たり前で、なんとかして学校へ行かせようという風潮がある中で、息子にとって学校があんまり勉強できる場所じゃないようで。息子はすごく勉強したいのに、教室はザワザワしていたり、自分の学びたいことができなかったり。息子を見ていると、学校に行くことが解決法ではないと気づきました。自分の思い込みや世間体を気にして学校になんとしても行かせようと思わないようにしました」

二人でどうしたらいいのかと対話を重ねながら、選択的登校というスタイルにたどり着いたという。

幼稚園で全元素を暗記

幼少期の都央さんは、様々なものに興味を持った。漢字は3歳ごろから路線図で読めるようになった。初めて書いた字は「品川」だった。点字を覚え、フォントやピクトグラム(絵文字)に興味を持ち、歯車のおもちゃで遊ぶのも大好きだった。大人向けの機械式時計の本が愛読書だった。

どうやって歯車がかみ合って動くのか、仕組みがわかるのが大好きだった。

幼稚園のころには分子に興味を持ち、すべての元素を英語と日本語で暗記した。「世の中のすべてのものは元素でできているので、こういうふうに結合することによってこういうものが生まれるみたいなことがわかるのがとても楽しかった」と都央さんは記憶している。純子さんに元素のクイズを出してくるが、難しくて答えられなかったという。幼稚園のころからパソコンに触れていた都央さんは、元素クイズを自動で出すゲームのプログラムを自作して遊んだ。

台風が近づいているというニュースを見ると「台風はどこで発生するんだろう」。雨が降ると、「降ってきた水はどこへ行くんだろう」と、疑問が次々と湧く。純子さんは「なんで?」といつも都央さんに問いかけられた。大人でも答えられないようなたくさんの疑問。純子さんは「とにかく常になんで、なんでと聞かれて、ちょっと私がパンクしそうになったので、ノートに書いて自分で調べてみてと伝えました。私の逃げ場のようにつくったノートです」。そう言って見せてくれた当時のノートには、都央さんの頭に浮かんだ疑問が並んでいた。

「なぜタイヤは黒い?黒じゃなくてもいい?」

「どうして赤い火より青い火のほうが熱い?」

「なぜ日本には大統領がいないの?」

そして、図鑑などで調べた自分なりの答えが書き込まれていた。

機械式時計の仕組みを書いた本を熟読していた3歳の都央さん〈写真/母・純子さん提供〉

集団生活の中のストレス、身体に現れた変調

好奇心が旺盛な都央さんに体調の変化が現れたのも、幼稚園のころだった。

日曜日の深夜に嘔吐(おうと)繰り返した。救急車で運ばれたこともある。だが、疑われた感染症ではなかった。

その後も日曜日になると吐くことが続き、「心理的なもの」と診断を受けた。幼稚園での集団生活がストレスになっているようだった。夜にうなされることもあり、ドッジボールがある日は体調が悪そうに見えた。

後から、ボールが無秩序に動くルールが嫌で、体が拒否反応を起こしているとわかった。
都央さんは「どんなルールでみんなが動いているかがわからなくて、怖いな、嫌だなっていう気持ちが強くなったんです。みんながランダムに動いて、ボールが自分めがけて飛んでくるのも怖かった」という記憶がある。ドッジボールがある時は、トイレに逃げ込んだ時もあった。

みんなと遊んで気づいた「違い」

そのころから、周囲との違いも感じるようになったという。

「自宅で遊んでいる時は感じなかったのですが、幼稚園でみんなと過ごすようになって、ちょっと周りの人と話が合わないとか、周りの人が好きなことが自分はあまり好きではないとか、思うようになりました。ほかの友達が遊んでいるものもあまり面白いと感じられないなということもありました」(都央さん)

元素のことなどを話しても興味を持ってもらえないため、気持ちをセーブしながら周りの人と話していたという。

それまで、純子さんは都央さんのことを「ちょっと変わっているところがある」と思っていた。敏感で靴下は同じメーカーのものしかはかない。ただ、初めての子育てで他の子どもと比較はできず、「少しこだわりがあるのかな」と感じていた。周囲から「ギフテッド」の存在を教えてもらったのは、そんな時だ。知人に勧められ簡易的な検査を受けたところ、IQが高いとわかった。小学1年の時に受けた検査でIQが154だった。

5歳の時、ローマ数字を掛け合わせた公式をホワイトボードに書き込んでいた都央さん〈写真/母・純子さん提供〉

「息子のつらさを初めて知った」

IQが高いとわかった時にはどんな心境だったのか。

純子さんは「息子がギフテッドかもしれないってわかった時に、お母さんって自分の子どもがお友達と同じように遊んで、同じように進学して、と知らず知らずのうちに思っているんだなって気づかされました。『普通じゃない、人と違う』ということが当時は不安でした。違うということを認めたくないという気持ちもありました」と当時の思いを語る。

同時に、IQを検査してくれた医師から、IQに差がある子どもたちと過ごすということは、学年が異なるクラスで過ごすようなものだと教えてもらった。「学年が違うクラスで過ごすような感覚が日常なのは、それは息子にとって苦痛だなと、やっと息子のつらさがわかりました。IQが高いのは、いいことだと思ったこともあるのですが、話が合わない、関心事が合わない集団に日常的にずっといるっていう息子のつらさを初めて知った気がします」(純子さん)

そして、IQが高い人は、ほかの人よりもセンサーが敏感で、相手が何をしてほしいかを察知することに優れ、それに応えようとして疲れてしまうとも聞いた。

授業の内容は、都央さんにとって学びが多いとは言いがたいものだったという。「授業は淡々と受けて、教室にいればいいので楽だなと思う一方で、楽しい時間ではないのでつらい場所でもある」とこぼす。

学校でつらい思いをする都央さんを見て、入学や進級のたびに担任の先生へ都央さんの個性について手紙を書いて理解を求めた。幸いなことに担任の先生もギフテッドについて調べ、理解してくれる努力をしてくれた。スクールカウンセラーも理解を示し、相談に乗ってくれるという。純子さんは「集団生活や行事など学校でしか学べないこともあると思います。息子がやりたいことの時間も取りつつ、負荷はかけないように学校に行く日も作ろうという試行錯誤の中で今のスタイルになった」という。

一番ワクワク…3Dとプログラミングを独学

ただ、都央さんにとっては、周りの小学生のように週に5日、一日6時間の授業を受けることが「時間のロス」に感じてしまうこともある。「自分が興味のあることをしている時が一番ワクワクする」と言い、いくつかの夢中になっていることがある。

その一つが、3D映像をつくること。その様子を都央さんが見せてくれたことがある。パソコンで専用のソフトを開き、どのような絵をつくり出すか決めていく。1コマずつアニメーションの動きを設定し、動きや色を指定していくと、3D作品ができあがっていく。ソフトの言語は英語で、手早くマウスでクリックしていくため、一目見ただけではどのような操作をしているのか到底理解できなかった。複雑なボタンを何個も押して解説してくれるが、私は同じ操作をすることすら難しかった。都央さんは、自分で興味を持ち、YouTubeで外国の人が解説してくれる動画を探して独学で学んでいったという。

パソコンに向かって説明してくれている都央さんの目はきらきらと輝き、とても生き生きとしていた。学校に関することを質問した時とは全く違う表情だった。作曲した作品や過去につくった3D映像を見せてもらい、こんなにすごい才能が学校現場では評価されないもどかしさも感じた。

プログラミングを使って動画を作る都央さん〈写真/朝日新聞社〉

プログラミングも都央さんの得意なことの一つだ。21年に開かれた小学生向けのプログラミング大会では、小学4年で決勝に進出。一人暮らしの祖母のために考えた買い物アプリを発表し、特別賞を受賞した。翌年にも同じ大会で、5千件を超える応募作品の中からトップに選ばれた。AIが文章を作成するアプリをChatGPT(対話型AI)がリリースされる前に独自に制作し、決勝に進出した。

学校の授業とは別に、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学がギフテッド向けに開いている授業にオンラインで参加した。そのプログラムでは、座学で公式などを学ぶのではなく、実験や工作の中からそのメカニズムを学ぶ仕組みになっている。

ローラーコースターを制作する中で、物理のエネルギーについても併せて学ぶ。なぜローラーコースターの動きが維持できるのかなど、理由を体感しながら学ぶことができたという。九九やドリルなど、プロセスに意味がないものを覚えるのは苦手だという都央さんは、理由とともに仕組みがわかるこのプログラムがとても面白いのだという。このプログラムのテストで最優秀の成績を収めたとして賞状が贈られた。

都央さんは「学校に行ってない、サボっている、頑張っていないとか言われるのですが、自分なりに頑張っているんだというのを知ってもらいたい」と話す。

(年齢は2023年3月時点のものです)

文/阿部朋美
写真/朝日新聞社・ご家族提供

『ギフテッドの光と影 知能が高すぎて生きづらい人たち』

2023/5/19

1,540円

208ページ

ISBN:

978-4022519078

没頭しやすい、情報処理が速い、関係づくりが苦手…
高IQが「生きづらい」のはなぜ?

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なぜ彼らは困難を抱えるのか? なぜ教育はその才能を伸ばさないのか?
朝日新聞デジタルで500万PVを超え、大反響の連載がついに書籍化!

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