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〈一人親家庭や育児疲れの親の受け皿にも〉学童でも施設でもシェルターでもない、子どもショートステイ…新宿の古民家「れもんハウス」に行ってみた!〈こども家庭庁設置で注目・求められる“居場所”〉

集英社オンライン / 2023年7月22日 13時26分

高層ビルに囲まれた一角にある東京・新宿区の住宅街。その中にある古びた2階建ての木造住宅を私が訪ねたのは、今年6月末のことだ。表札には手書きで「れもんハウス」とある。この日、知人から“居場所”と称する変わった空間があると聞き、見学をさせてもらうことになっていた。玄関先で出迎えてくれたのは、「れもんハウス」を運営している「一般社団法人青草の原」代表の藤田琴子氏(31)だ。“居場所”とは一体どんな所なのか――。

全国で加速する子どもの居場所づくり

子どもの貧困対策をはじめ、家庭や学校に息苦しさを感じている子どもが孤立しないようにと、これまで各地域の地方公共団体や民間などが、さまざまな形で取り組んできた活動の1つが「こどもの居場所づくり」だ。


表札はポストに手書きで「れもんハウス」と書かれていた

例えば、子ども食堂、放課後児童クラブ、放課後等デイサービスなど、さまざまな形の“居場所”が全国に存在するが、この「れもんハウス」は誰もが自由に過ごせる多目的な場を提供する、いわゆるフリースペースといったところ。だが、「れもんハウス」が他の“居場所”と違う点は、利用者が「子ども」だけに限らないことだと藤田氏は話す。

「ここでは『あなたでアルこと、ともにイルこと』というテーマを大切にしているため、支援する人とされる人を分けたくないとの思いからスタッフを「イルひと」と呼んでいます。例えば5歳くらいの幼児から、大学生、さらには子どもとお母さんが一緒に利用したり、30代、40代の大人の方が仕事帰りに寄ったりと、うちに来る人の年齢はさまざまです。

歌舞伎町などで子どもに声をかける団体があって、そこのシェルターがいっぱいだから泊まらせてほしいと言われることもあれば、みんなとご飯を食べながら交流するために来てくれる会社員もいます。とくに宣伝しているわけではないので、基本的には誰かの紹介で来る人が多いですね。居場所を求めて来る子どもから、活動に賛同してくれて顔を出してくれる大人など、いろいろです」

取材に応じる藤田氏

こうした居場所づくりが全国的に加速したのは令和3年12月、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」が閣議決定されてからだ。

基本方針では、すべてのこどもが安全で安心して過ごせる多くの居場所を持つことの重要性が掲げられている。今年4月、こども家庭庁が設置されたことで、今後もさらに居場所づくりが本格的に加速していくだろう。

知られざる子どもショートステイとは

藤田氏によれば、この「れもんハウス」の特徴は、居場所を提供するフリースペースの役割と、もう1つ「子どもショートステイ」という事業を同時に担っていることだと説明する。

「子どもショートステイとは保護者の都合で、昼や夜に子どもを養育できない事情がある子を預かる公的な制度です。例えば、親の病気や事故、冠婚葬祭や出張などで子どもの面倒をみる人がいないとき、最長7泊を限度に、子どもを預けることができます。また、育児疲れや育児不安に悩むお母さんも、子どもを預けられるんです。今、全国の各自治体にはそうした制度があり、うちは新宿区に登録して、子どもを預かっています」

花壇をいじる藤田氏

新宿区のホームページによれば、ショートステイは生後60日〜18歳未満までの子を、預けることができる制度。2歳以降の子は協力家庭に預けることになる。協力家庭とは一定の条件を満たした家庭で、保育士や教員、看護師などの子どもに関する資格所持者、もしくは区が定めた認証研修を受けた者が協力家庭として登録できる。この「れもんハウス」も、協力家庭として新宿区に登録をしており、区から紹介された子どもを受け入れている。

「ショートステイは1日3000円で利用できますが、所得に応じて無料になるケースもあります。ショートステイを受ける際、国や自治体から委託費を受けますが、十分ではないので民間の助成金や寄付などで運営をしています」(藤田氏)

ショートステイを利用する際は、まず利用者と協力家庭の“顔合わせ”を行う。そこでお互いの希望や雰囲気などを確認するという手順を踏む。宿泊を伴う際、「れもんハウス」ではスタッフが最低2人常駐するという。

そんな「れもんハウス」の中へ実際に入ってみると、ごく普通の家庭にあるような、ありふれた日常が広がっていた。玄関横には台所があり、慌ただしく夕食の準備をする女性。奥には約20畳のリビングルームがあり、ローテーブルが4つ置かれている。リビングでは、ギターを弾く子、テレビゲームに興じる子、漫画に夢中になっている子など、中学生から専門学校生の男女が思い思いに自由な時間を過ごしていた。この他、1階には6畳程度の居室が1つ、2階には5畳ほどの居室が2つある。

「れもんハウス」のリビング

「ご飯できたよ。誰か運ぶの手伝って」

夕方、台所に立つスタッフの女性がリビングに向かって声をかけると、くつろいでいた青年が立ち上がり、夕食の準備を手伝う。

「〇〇君、そろそろ塾の時間でしょ」「〇〇ちゃん、これ片付けなきゃダメじゃない」

リビングでは藤田氏が子供たちに声をかける姿もあり、歳の離れた男女が、まるで家族のような共同生活を送っているように見えた。

中1の息子を預けた母親に話を聞いた

利用者の1人、山田渡君(仮名)は現在中学1年生。藤田氏から「塾の時間でしょ」と促されていた少年だ。新宿のショートステイ制度を使い、昨晩はここに泊まったという。

「ここには大人も子どもも、いろんな人が出入りしていて、1人にならないからすごく楽しいです」(山田君)

利用者の山田君(仮名)

彼の母はエンジニアだという。出張が多いため子どもを「れもんハウス」に預けている。
その山田君の母親にも話を聞いた。

「最近、職場が変わったばかりで、今度の仕事は1週間近く出張することもあります。そのため、こうしたショートステイ制度は大変助かっています。実は最初は、別の協力家庭にお世話になるはずでした。ところが私の出張直前、突然先方の具合が悪くなったとキャンセルになってしまったんです。でも、出張の日程を遅らせるわけにはいかない。困り果てていたところ、『れもんハウス』が受け入れてくれたんです。

それ以来、ここを利用させてもらっていますが、何よりも子どもがここをとても気に入ってるんです。寂しくないところがいいと言っています。年の違う人たちが集まっているから、本人にとっていい刺激になっているんだと思います。唯一、心配なのは建物が古いため大地震が起きたとき大丈夫かなと思うことくらい。あとは親として特に心配していることはありません」

この日の夕食は、大皿に乗ったペンネ、ポテトグラタン、きのことニンジンのサラダ。山田君をはじめ、協力家庭登録メンバーや利用者の6人が1つの食卓を囲んで談笑する姿があった。

この日の晩御飯のペンネ

「なぜこのような施設をやりはじめたのでしょうか?」
そう記者が問いかけると「ここは施設じゃないんですけどね」と藤田氏は笑顔で首をかしげた。

「私は、もともと都内の母子生活支援施設で働いていたんですよ…でも施設でやれることには限界があって…」

後編では藤田氏が「れもんハウス」をオープンすることになった経緯と共に、世代を問わらず“求められている居場所”について詳報する。

問い合わせ 一般社団法人青草の原
ホームページ https://aokusa.or.jp/
メールアドレス info@aokusa.or.jp


※「集英社オンライン」では、“子どもの居場所”をテーマに取材をしており情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。

メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com

Twitter
@shuon_news

取材・文/ 甚野博則
集英社オンライン編集部ニュース班
撮影 撮影/Soichiro Koriyama

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