1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

リーマンショック以降、日本企業の賃金が上がらない「本当の理由」とその意外な「打開策」

集英社オンライン / 2023年8月4日 10時1分

この30年間、日本人の賃金はほとんど上がっていないと言われる。不況でも雇用を守り、給与もそれほど下げない代わりに、好況に転じても、すぐには賃金を上げなかった。つまり「安定重視があだになった」というわけだ。では今後はどうすればいのか?元日銀で第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の『インフレ課税と闘う!』より一部を抜粋、編集してお届けする。

過剰なくらいに安全運転だから、スピードが出せない

内閣府の「世界経済の潮流」(2022年)によると、日本は生産性の変動に対して、賃金が連動しにくい国だという。

労働生産性と賃金の伸び率の間の相関係数を求めて、OECD加盟国のうち35か国で比較したものだ。日本は35か国中で、26位と低い順位だ。相関係数は、0.049とほぼ無相関である。これは、日本の賃金が、生産性と連動していないことを示している。



生産性の高まっている米国は、相関係数が0.674と日本よりも遥かに高い。近年、日本の賃金を抜いてきたイスラエルや韓国、東欧諸国はいずれも日本より相関係数が高い。つまり、日本の賃金は変化に対して上方硬直的だから、成長する国々に次々と抜かれるのだ。この内閣府のデータは、私たちの心をくじくに足る内容だ。

なぜ、日本の賃金がこれほど硬直的なのかを考えると、「安定重視があだになった」という見方ができる。日本企業は不況になっても、雇用を守り、所定内給与もそれほど下げない。その代わりに、好況に転じても、すぐには賃金を上げない。リスク回避型で賃金を支払っていることが、硬直性の原因になっている。

この傾向は、経営者の慎重姿勢とも符合する。過去20年間を振り返ると、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、コロナ禍(2020年)と、数年に一度のペースで、大きな経済ショックに見舞われている。企業はそのたびに雇用を守り、所定内給与を下げ渋ってきた。

その代償として、危機から数年を経なければ、名目賃金を上げようとしない。しかし、名目賃金を上げ始めると、すぐに次の危機が起こって賃上げがストップする。この循環が繰り返されてきたのだろう。

こうした傾向は、日銀の金融政策にもそっくり当てはまる。慎重すぎて超低金利の是正がいつまで経ってもできないでいる。過剰なくらいに安全運転だから、スピードが出せない。安定志向があだになっている。

労働者を一生懸命働かせる「ただひとつの方法」

あだになっていると言えば、ここ数年、日本の勤労者の労働意欲が低下していることが指摘されている。かつて1980年代まで、会社への忠誠心が非常に高いというのが日本人像だった。それが今では完全に過去のものになっている。その原因は、日本企業が生産性に見合った賃金を必ずしも支払わなくなってきたからだ。

米国のジャネット・イエレン財務長官の学者時代の業績には、効率賃金仮説というものがある。賃金水準を生産性水準に比べて高めに設定すると、その労働者は割高の賃金水準を失いたくないと考えて、一生懸命に働く。忠誠心も高くなる。逆に、生産性に比べて賃金が低いと、忠誠心も低くなる。日本はいつの間にか、後者になってしまっている。

ほかにも、内閣府「世界経済の潮流」(2022年)は、様々に興味深いことを指摘している。米国はそもそも生産性が高まっていて、それが賃金を上昇させているが、さらに別の要因もあるという。それは労働市場の流動性である。

米国では、転職をして労働移動をすると、そこでさらに賃金が上昇する。内閣府は、アトランタ連銀の研究を引用して、継続雇用者に対して、転職者の賃金が高まるデータを紹介している。

それに比べると、日本は継続雇用を重視し、賃金が上がりにくい。技能職や管理職、経営層での雇用の流動性が極めて低く、労働移動によって賃金が上がることも起こりにくい。日本企業の賃上げには、競争圧力を通じた作用も小さいということだ。

この労働市場の改革を進めることは、日本企業が硬直的な賃金を変えていくことにもなる。仮に、外部労働市場(転職市場)が厚みを増せば、企業が過剰に雇用安定を重視しなくてもよくなるだろう。労働者側も、生産性に比べて賃金を支払わない企業を敬遠して、もっと優遇してくれる経営者の下に移ろうとするだろう。時間がかかるかもしれないが、日本人が安定重視を犠牲にして、柔軟に選択できる環境を作ることができれば、賃金は上がりやすくなるだろう。

文/熊野英生 写真/shutterstock

インフレ課税と闘う!

熊野 英生

2023年5月26日発売

1,980円(税込)

四六判/344ページ

ISBN:

978-4-08-786138-9

もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
個人の防衛手段として外貨投資や、副業のすすめなど、具体的な対処法や、価値観の切り替えなども指南する、著者渾身の一冊!

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください