明菜のデビューからわずか4日後の5月5日。今は閉園となった「豊島園」の野外ステージで、デビュー発表のミニコンサートが開催された。
午前中は晴れていた空に、次第に雲がかかり、午後からは雨がパラつき始めていた。
3,000人が収容できる会場には、続々と観客が押し寄せ、13時半からの開演を待っていた。しかし、周囲のスタッフは気が気ではなかった。デビュー前のイベントでも、明菜が突然姿を消して、探し回ったことがあったからだ。緊張のあまり逃げ出したのではない。
彼女はトイレに隠れ、そこから観客の入り具合をずっと見ながら、まるでタイミングを見計らったかのように客席がざわつき始めた頃に姿を現した。待ち侘(わ)びたスタッフやファンは安堵とともに、一瞬にして彼女に気持ちを掴まれる。あざとさというよりも、奔放で、天真爛漫(てんしんらんまん)な彼女の振る舞いに、まだ慣れていなかったのだ。