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開店初日で2時間待ち! 大人気おにぎり専門店を営む夫婦の経営哲学。「お客さんがもらす“日本人でよかった”がおにぎりの醍醐味」。目標は「最後の晩餐で食べたいごはん」

集英社オンライン / 2023年7月30日 11時1分

豊島区雑司が谷の人気おにぎり店「山太郎」。前編ではその仕込みに密着したが、後編では、店主の樋山千恵さんと一緒にお店を立ち上げたご主人の樋山潤さんにも登場してもらい、夫妻揃ってのインタビューを実施。開店当初の苦労、テイクアウト専門店の狙いや、修行先の豊島区大塚のおにぎり専門店「ぼんご」との違いなどを聞いた。

妻を動かすために主人がとった行動とは?

――お店に着くと、まず目に入ってくるのが大きなのれんです。のれんに書かれている「山太郎」の頭文字の「や」がとても印象的ですが、そもそも山太郎という店名の由来とは?

樋山潤さん(以下、潤さん) 息子の「一太郎」から「太郎」を取って、「山」という字の形がおにぎりに似ているし、山登りといえばおにぎりを食べる。それに、おにぎりの三角形を山型とも言うし、私たちは樋山で山が入っている。なんというか、山の字には親和性がかなりあると思ってつけました。


ちょっとダサくて親しみもあるところが気に入っています。

山太郎を切り盛りする樋山さんご夫婦

――おふたりとも経験ゼロで飲食店経営の世界へ飛び込んだと聞きました。ぼんごに入る前は、どのような仕事を?

潤さん 一般企業で経理や人事の仕事をしていました。山太郎でも経営部分を担当しています。
妻はビールメーカーで飲食店への営業や商品開発などを担当しておりましたが、出産を機に退職して専業主婦になっていました。

まったくの畑違いの世界ですが、もともとお互い食べるのが大好きで、自分たちもいつかは飲食店をやってみたいという思いが以前からありました。それに実は私、会社員の前はお笑い芸人をやっていたんですよ(笑)。人を喜ばせるのが好きだから、人と触れ合える仕事の方が向いているなって。

とん汁は山太郎の看板メニュー

――おにぎりととん汁のお店にした理由を教えてください。

いろんなお店を回りながら、自分たちでやるなら一番好きな食べ物にしようと。
妻は『死ぬ前に食べるなら絶対おにぎりととん汁』とずっと言い続けるくらい好きでしたから、それに決めたんです。
もともと結婚する前から、それぞれぼんごさんには通っていましたし、おにぎりならぼんごさんしかないという共通の気持ちもあった。
妻を動かすためにも、僕は半年後に退職しますって会社に話して退路を断ったうえで、ぼんごの女将さんに弟子入りを頼みました。

オープン後、夫婦ゲンカが増えた

――ぼんごではどのような修行を?

樋山千恵さん(以下、千恵さん) 私は完全に弟子入りして、半年間ほど店で仕込み作業や握りを学びました。
夫は月に一度のおにぎり教室に通ったり、女将さんと個人的に会って勉強させてもらったりして出店の準備に走りまわってくれました。
ぼんごさんの握り台は、何年も修行しないと立てません。それで、ある程度勉強したらもう実践に入らなければと思い、修行後に半年ほどの間借り営業を経て、山太郎のオープンにたどり着きました。

――修行で学んだことで、一番大切にしていることは何ですか?

千恵さん おにぎりだけど握らず、握りたてで大きくて具だくさん、というのがぼんごさんの一番大切にしていることです。
ぼんごさんから、ベタベタとおにぎりに触らず一手でも少なく握り、ふんわりおいしくきれいなおにぎりを出すことを教わりました。これは今も常に意識していますね。(ぼんごの)女将さんには、「握りたて」「大きい」「具だくさん」の3つができなければぼんご出身と名乗ってはダメだよと言われています。
おにぎりの提供だけでなく金銭の授受も、きちんと両手で、お客様の目をしっかりと見ながら渡しなさいと言われました。

潤さん お客様への向き合い方は勉強になりました。ぼんごさんってお店としての変なこだわりがなくて、お客さんの求めるものに全部応えていこうとした結果、現在のような形になったんですよね。
お客さんへのホスピタリティといいますか、精神的な部分が本当に勉強になりました。

――お店をオープンさせてから、どのようなところで苦労されましたか?

千恵さん オープンにあたってそれなりに仕込みを用意したつもりでしたが、オープン2日目で全然足りなくなってしまって。

潤さん 普通は初日から行列なんてできないのに、ぼんごさんで修行をした話が広まっていたから開店時点で2時間待ち。デビューしたてのルーキーがいきなり大一番みたいなもので、プレッシャーと不安で大変でしたね。
あとはふたりで働いているので、夫婦ゲンカが増えて家庭内でも苦労しています。

千恵さん 険悪というわけではないですが、お互いの境界を超えてくるとやっぱりイラつきますね。旦那は人事のプロだから私が口を出したら腹が立つと思いますし、私は現場でオペレーションもしているのに、旦那に何か指示されると、「立ってないのに何がわかるんだ!」となってしまいます。

潤さん だんだんと口も悪くなりますから。どこの会社でもあると思いますけど、現場の人間と指示する側の食い違いですね。

テイクアウト専門店でもライブ感を

――とはいえ、あくまで奥様の好きなおにぎりととん汁でお店を始めたわけですから、夫婦愛のあるいいコンビだと思いますよ。

潤さん フォローありがとうございます(笑)。

千恵さん 私は自分でやりたいと思っても動けない人ですが、旦那はプロデュースというか目標へのレールを敷くのが上手なので、私がしたいことを代わりにやってくれています。
飲食店は料理を作れるだけじゃ成り立たなくて、経営のこともかなり勉強が必要ですから、そういう意味では、バランスの取れた関係だと思います。

――オープンから約9ヶ月。山太郎はできるだけお客さんを並ばせないような工夫をしているように見えます。

千恵さん 旦那も私も、本当は“並びたくない人”なんですよ。真夏や真冬にお客様に並んでもらうのは申し訳ないですし、お待たせするにしても他の場所でゆっくりと待っていただきたい。
以前までは混雑する土日は整理券を配布してたのですが、7月8日にお店の斜め向かいにテイクアウト専門店をオープンしたらお客様が分散して、行列は店内のみになりました。これは狙い通りでした。

やっぱり長時間並べない、時間の都合がつかない、そんな方にもぜひ食べてほしいですから。
実際、お子様連れの方々が「すごく便利で助かる」って仰ってくれて。ただ、握りたてのおにぎりは賞味期限3時間なので、早めに召し上がっていただけたらと思います。

潤さん 受け渡しだけのお店でも、握り台が外から見える配置にしてあります。街の方々におにぎりを握るところを見てもらうのは新しいかなと。これも大事なライブ感ですよね。
テイクアウトとはいえ、注文を受けてから握るのは同じですから、視覚的にも楽しんでほしいです。
ゆくゆくはテイクアウト店で山太郎グッズなんかを置きたいですね。

お客さんがもらす「日本人でよかった」がおにぎりの醍醐味

――おにぎりの具材にオリジナルメニューを加えたり、とん汁にこだわるなど、ぼんごとの違いも見られます。あえて差別化を?

千恵さん ぼんごさんからはどんどん離れないといけないとも思っています。修行させてもらっただけなのに姉妹店と思われることもあるので、大切なことはしっかり継承させていただきます。
ただ、山太郎ってぼんごの味と違うけど、これもいいじゃんって思わせたい。“ぼんごに行けないから山太郎に来る”ではなく、あくまで“山太郎に行きたい”という人を増やしたいです。

潤さん 実際、ぼんごさんの常連さんもうちによく来てくれていて、なかには山太郎をとても気に入ってリピートしてくれる人います。ひとつのハードルを超えられたようでうれしいですね。

千恵さん もっとメニューも増やしたい。いつも余っていた卵の白身でシフォンケーキを作ったらどうですかってスタッフから提案されたので、それも考えています。

――最後におふたりにお聞きします。あなたにとっておにぎりとは?

千恵さん 最後の晩餐に食べたいご飯、これに尽きます。その思いがきっかけでお店を始めましたから。
誰もがお母さんに握ってもらった思い出や、それにまつわるエピソードがありますよね。それもおにぎりの魅力です。

潤さん 店に立つと毎日聞くのが『日本人でよかった』という言葉です。
おにぎりには普段感じさせない感情を引き出す可能性があります。おにぎりの魅力はまだまだいっぱいあるはずです。ぜひ専門店で食べていただきたいですね。


集英社オンライン編集部ニュース班

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