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日本の大学で”謎の学部学科”が乱立した理由…カタカナ語学部に「国際」「情報」「子ども」を学科名に多用。ツケを払わされる卒業生の末路

集英社オンライン / 2023年7月31日 17時1分

私立大学の元職員である二人の著者が、学生や外部からは見えにくい大学組織のピンキリな舞台裏を明かした『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』。今回はキャンパス全体を国際化する大学が増加する一方で、世界標準への対応状況という観点でさまざまな問題を抱える日本の大学の問題点を一部抜粋・再構成してお届けする。

あまりにローカルな日本の大学

大学は国際交流の機会が多い場所でもあります。現在、多くの大学が留学生の受け入れや送り出しに注力しています。受け入れた留学生の支援に関わる仕事では、相応の語学力やサポート能力が求められます。

ここも職員が専門性を発揮しやすい領域の一つでしょう。英語はもちろんですが、中国や韓国から多くの留学生を受け入れる大学では、中国語や韓国語でコミュニケーションできる職員がいるケースもあります。留学先となる海外機関とのやり取りのほか、国内では地元の役所や入国管理局などと連携する場面も少なくありません。誰もがこなせる業務ではないですね。



学生の海外研修等に引率スタッフとして参加したり、海外からの問い合わせに対応したりと、語学堪能な職員の出番は少なくありません。留学生たちの悩みを理解し積極的にサポートできるという点も考えると、対応する職員自身が留学経験者であることが本来なら理想的なのでしょう。

学問領域によっても差はあるでしょうが、大規模校でなくても、あるいは国際交流の窓口でなくても英語力が必要になる場面はあります。私が教務部の職員として働いていた当時、海外企業へ就職するという卒業生から「卒業証明書や成績証明書を英語に翻訳して送ってほしい」という問い合わせを受けたことがあります。

翻訳作業自体を私がすることはありませんでしたが、何が書かれているのか教務の担当者が理解できないというわけにもいきません。アドミッションセンターや図書館が海外からの問い合わせに答えたり、海外から来たゲストに窓口で対応したりと、語学スキルはあって困りません。

大規模校などでは海外に事業拠点やサテライトキャンパス、研究施設、附属校などを持っているケースもあり、こうした部署も職員の異動先になり得ます。さすがに英語がまったく話せない人を海外拠点に赴任させるケースはないかもしれませんが、逆に英語が得意であるなら多様な経験ができるチャンスです。

キャンパス全体を国際化する大学は増えています。たとえば国際基督教大学(ICU)では伝統的に学内すべての掲示物が日本語・英語の二言語併記で、卒業生に送付される同窓会誌にまでこのルールが徹底されています。留学生を多く受け入れている大学では、このように学生とのコミュニケーションに英語が必要な例が多々あります。

大学職員にも求められるグローバルスキル

芝浦工業大学は、文科省が行う「スーパーグローバル大学創成支援事業」に私立の理工系単科大学として唯一採択されました。受け入れ留学生の大幅増、全学生に単位取得を伴う海外留学を経験させる等、意欲的な構想が評価されたものです。

そんな同大の構想には「職員に占める外国人及び外国の大学で学位を取得した専任職員等の割合を、2023年までに33.3%まで引き上げる」という項目があります。

正確には外国籍の職員、外国の大学で学位を取得した日本人職員に加え、外国で通算1年以上の職務・研修経験のある日本人職員もここに含まれるそうです。実際に同大ではその後、条件に該当する職員の採用を進めつつ、日本人職員を対象とした研修も展開しているようです。

教員と学生だけをグローバル化すれば良い、という時代ではありません。職員にもグローバルな大学に相応ふさわしいスキルや姿勢が求められるようになってきました。

大事なのは語学力だけではありません。グローバルな大学を目指すとなれば、世界標準の大学教育システムを意識した運営も求められます。

たとえば成績管理や単位認定の仕組み。国境をまたいで学ぶ学生にとって、不都合がないようなルールにすることが必要です。各授業に割り振られた履修登録番号なども、これまで多くの大学では主として履修登録のために、学内だけで通用するルールで番号を付けているケースも多かったのではないでしょうか。

アメリカでは、初級レベルの授業に「経済学 101」など100番台の番号を振り、200番台、300番台と上がるにつれて上級レベルの授業になっていく仕組みを採用している大学が多いのですが、日本でも学生の留学に積極的な大学では、これとほぼ同じルールで授業をナンバリングしています。

何を学んだのか想像できない造語の学科名称

現時点では、世界標準への対応状況という観点で見ると、日本の大学はさまざまな問題を抱えていると言わざるを得ません。

たとえば大学を卒業すると学士号が授与されます。現在、学位は「学士(工学)」や「学士(経済学)」のように、後ろに専攻表記を入れた形で記載されます。

この専攻表記ですが、かつては大学設置基準によって29種類と定められていました。1991年にそのルールが緩和され、各大学が自由に定められることになった結果、2015年の時点で723種類にまで急増。うち66%は一つの大学でしか用いられていない表記でした。

91年頃はちょうど18歳人口が急激に減少し始めたタイミングでもあります。日本の高校生を意識するあまり、「本学でしか学べない学問です」という触れ込みで各大学が独自の学部・学科を乱立させた。その結果、高校教員も進路指導が不可能になるほど多様化してしまったのです。結局のところ何を学んだのか想像できない造語の学科名称も少なくありません。

若者受けのいい「国際」「情報」「子ども」にカタカナ語学部

ここまででも大学側の施策には反省すべき点が多いのですが、さらに問題なのは学位の国際通用性です。

大学が授与する学位には通常、英語表記した場合の名称もあらかじめ定められています。たとえばアメリカの大学であれば、人文・社会科学系ではBachelor of Arts、自然科学系なら Bachelor of Scienceとするのが一般的。より詳しく専攻分野を表記したい場合はBachelor of Arts in Economicsのように後ろに書き添えます。

日本の大学が授与する学士号の専攻表記で、このルールに従って英語表記をしているのは3割程度。全体の7割は、Bachelorの後ろに学科名をそのまま英訳した言葉を記述するなど、独自の表記です。ぱっと見て専攻分野が理解できるのならまだ良いのですが、日本語でもイメージしづらかった学位名称を、そのまま直訳してしまったような学位もあります。これで世界共通の証明書たり得るのか、少々心配です。

地元の高校生の興味を引こうとするあまり、若者受けの良い「国際」「情報」「子ども」といった単語を組み合わせたり、聞き慣れないカタカナ語を織り込んだりと、多くの大学がオンリーワン学部をこれまで作ってきました。

グローバル化を目標に掲げながら、やってきたのはむしろローカルしか見ていない施策だったのです。場当たり的な学生募集戦略のツケは、学生や卒業生が背負うことになります。学位が世界共通の証明書であることを、大学自身が軽視してきたのではないでしょうか。

これらは一例に過ぎません。教育システム自体に国際通用性を持たせるとなれば、職員にも世界の大学教育の理解が求められます。

『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』 (中公新書ラクレ)

倉部 史記 (著)、 若林 杏樹 (イラスト)

2023年7月7日

990円

288ページ

ISBN:

978-4121507983

噂の人気職「大学職員」のリアルに迫る!
大学職員は「年収一千万円以上で仕事も楽勝」と噂の人気職だが、はたして真相は?
大企業と似たような仕事内容がある一方、オーナー一族のワンマン経営で、ブラック職場の例もある。国公私立でもまた事情は千差万別。
私立大学の元職員である二人の著者が、学生や外部からは見えにくい組織のピンキリな舞台裏を明かしつつ、18歳人口が激減する業界の将来不安、職員が抱えがちなキャリアの悩み、教員との微妙な関係性、そして高度専門職としてのモデルや熱い想いを伝える。
それでも大学職員になりたい人、続けていきたい人、辞めようかどうか迷っている職員のための必読書。

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