本当は怖すぎるチョコレート依存症「もうそんなに食べちゃったんですか…」ごはんの代わりに摂取はマジでやばい
集英社オンライン / 2023年8月1日 17時1分
わかっちゃいるけどやめられないものが多いから、こんなに生活習慣病が増えている現代。「悪習慣の罠」がもたらすことと向き合い、脱出するためにはどうしたらいいのかを『悪習慣の罠』(扶桑社)より一部抜粋・再構成してお届けする。
悪習慣の罠にハマった人たち。
チョコレートがやめられない…菜々子の場合(31歳・WEBデザイナー)
患者の菜々子は、31歳で広告会社のWEBデザインの仕事をしている。彼女は、最近チーフを任されて多忙な日々を送っていたらしかった。
だが、これまでの業務とまったく違い、自分の力不足を感じるばかりだったと、彼女は診察のときに私に話した。とはいえ、仕事は取引先に指定された期日までに間に合わせなければならない。焦りと連日の残業で、菜々子の心と体の疲労はピークに達していた。
「菜々子さん、お客さんからいただいたチョコ食べます?」
その日も菜々子は残業をしていた。同僚の薫に声をかけられ、パソコンに向かって集中して書類を作っていた菜々子が顔を上げた。時計は夜7時。後ろを振り向くと、アメリカの人気ブランドのチョコレートの袋を持って薫が立っている。
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「ありがとう!ここのチョコレート大好きなの。キャラメル味が最高。あ、これキャラメル味だ!疲れているときは、こういう差し入れってホントに嬉しい」
「菜々子さん、昨日も遅くまで働いてたでしょ。もらったメールの送信時間が22時回っていました」
「そうなんだよね。今、急な仕事が割り込んできてて結構大変」
「無理しないでくださいね。手伝えることあったら言ってください。最近、取引先の50代の女性が脳出血で入院されたんです。菜々子さんもあまり働きすぎてたら、そんなことになるかもしれませんよ」
「もうこんなに食べたんですか…」菜々子はチョコレートをパクパク食べ続けた
薫とそんな話をしながら、菜々子はチョコレートをパクパク食べ続けた。
「あっ、もうこんなに食べたんですか?結構甘いから私はこれ以上無理です」
チョコレートの入っていた金色の包み紙が、いつの間にか机の上で山になっていた。
「この時間にそんな甘いものを食べてたら絶対太るぞ」
向かいのデスクから声が聞こえた。7つ年上の先輩だ。
「私は貧血だから疲れやすいんです。だから、仕方なくチョコレートを食べてるんですよ」
「仕方なくね」
菜々子はチョコレートが大好きだ。いつもデスクの引き出しにはチョコレートが入っている。最近、嬉しいことに休憩スペースに福利厚生のおやつボックスが設置された。いくらでも食べることができるので、残業のときは自然とそこに足が向いてしまう。これから夕食も取らずにひと仕事するのだから、これがないとやっていられない。おやつを設置してくれるなんて、私たち社員を大切にしてくれるいい会社だと思う。
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「今日はチョコレートが夕食ってことにすれば大丈夫」
「今日はチョコレートが夕食ってことにすれば、カロリーオーバーにもならないから大丈夫」
こんなふうに、夕食を作る時間も気力もないときは、おやつが夕食になるのが日常茶飯事だった。
菜々子は、夕方6時を過ぎるころにはいつも強い疲労を感じていた。フラフラして、集中力も切れてくる。毎年健康診断では貧血を指摘されていたので、フラフラしたり疲れやすいのは、生まれつき貧血があるせいだと思っていた。
実は、この疲れやすさは、過労や貧血だけが原因ではない。チョコレートの食べすぎこそが大きな原因である可能性がある。近ごろ、このような疲れやすい女性が増え続けている。
チョコレートを食べ過ぎると貧血状態になる
チョコレートの食べすぎは、糖質の取りすぎである。あるブランドのチョコレートは一袋で糖質約100gに相当するものもある。このような過剰な量の糖質を分解するためにビタミンBやCを消費してしまうため、ビタミン不足となる。
ビタミンBは、エネルギーを作るのに必要な栄養素であり、これが足りないと強い疲労を感じる。疲労を感じるだけでなく、神経の働きが損なわれて集中力が低下し、痺れや認知機能の低下、精神的な抑鬱状態、幻覚、痙攣などに発展することもある。
ビタミンCは、体内で40以上の働きをしているが、その一つは鉄の吸収促進である。つまり、ビタミンCが足りないと貧血になる。
足りなくなったビタミンBやCを食事から補うことができれば、大きな問題にはならないかもしれない。しかし、糖質の食べすぎを、菜々子のように食事を抜くことによってプラスマイナスゼロにしようとする人も少なくない。そうすると、必要な栄養素を補いきれない。そのようにして、多くの人、特に若い女性が疲れやすく、貧血の状態になっている。
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欲求を抑えられない自分を認めたくない
菜々子は、糖質依存になっている可能性が高かった。本人としては、「疲労回復のため」に食べていると思っているが、それは、欲求を抑えられない自分を認めたくないので正当化しているだけだった。
糖質依存は、砂糖中毒とも呼ばれ、病気として扱われている。1989年にアメリカのキャスリーン・デメゾン博士は、糖質が鎮痛効果を示すことを見つけた。モルヒネと同じμオピオイド受容体に結合するために、痛みを感じにくくするのだ。
それだけなら嬉しい効果だが、糖質はドーパミンの分泌を増やす。だから、甘いものを食べるとモルヒネ効果で疲れという苦痛が軽くなり、ドーパミン効果で快楽を感じるのだ。
糖質依存は、人間だけに起こるものではない。ラットに25%の糖液と固形飼料を12時間好きなだけ食べられるようにし、その後、12時間絶食にした研究がある。すると、そのラットは、糖液なしで固形飼料だけのラットに比べて10日間で2倍量のグルコースを摂取した。特に12時間絶食した後の1時間では、過剰な食欲を見せた。
ラットの脳を調べると、ドーパミンD2受容体の数が減っていた。これは、薬物依存症患者と同じ状態だ。ドーパミンが出すぎる状態では、受容体が数を減らしてしまう。受容体が少なくなったら神経のスイッチが入らないので、ドーパミンの効きが悪くなる。すると、ラットは余計にたくさん糖液を飲んでドーパミンを増やそうとする。
砂糖よりも依存性の強い果糖
糖質の中でも、特に果糖には強い依存性がある。糖質依存になっている人の多くが好むのは、加工した食品だ。チョコレートの他にもクッキー、ジュース、ケーキ、糖入りの缶コーヒーなど、身の回りには糖質たっぷりの食品が溢れている。
もし、手元に甘い加工食品があるなら、裏の原材料名を見てほしい。一番初めに書かれてあるのは「果糖ブドウ糖液糖」か、似た名前の糖ではないだろうか?加工食品に使われる液糖は、コーンシロップを材料にした甘味料だ。家庭で使う白い砂糖の200倍以上の甘味を持つので、製造業者からするとコスパの良い原材料と言える。
この果糖は、砂糖よりも強力な依存性を持つ。果糖の消費量の世界的な増加と肥満人口の増加は比例している。果糖の肝臓での代謝と脳での働きは、エタノールと驚くほどそっくりだ。
アルコールは飲みすぎると肝臓を悪くするし、脳を麻痺させて人を酔っ払わせたり、脳の萎縮を起こしたりする。こんなことは言われなくても多くの人が知っている。
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お菓子やジュースも酒と同じような働き
ところが、お菓子やジュースに入っている果糖も、それと同じような働きをしているのだ。チョコレートを食べてもすぐには酔っ払わないが、肝臓と脳にダメージを与えている。もし、お酒を減らしても中性脂肪が減らないと嘆いている人がいたら、普段食べている甘いものを見直してみてほしい。加工品のおやつを減らせば、ずいぶん数値が良くなるはずだ。
翌朝、菜々子は電車に乗っていた。昨日の睡眠時間は4時間。自宅に帰ったのは、結局、夜11時だった。家に帰ってお風呂に入り、スマホを少し見ていたら、あっという間に深夜2時半。こんな日が続いていた。
フラフラしながら会社に到着すると、エレベーターホールに先輩がいた。「おはようございます」と挨拶をしながら、ちょうど開いたエレベーターに乗り込んだ。だが、動き始めたエレベーターの中で菜々子は、胸がムカムカして吐き気のような感覚を感じ、そのまま倒れてしまった。
気づいたときは、救急車の中だった。病院に着くと、頭部のCTや脳波、血液検査などひととおりの検査を受けた。説明を受けるために診察室に入った。
「頭部CT検査では、特に異常はありませんでした。軽度の貧血がある程度です。ただ、突然、意識を失って倒れるタイプのてんかんである可能性があります。来週、もう一度検査に来てください」
と菜々子は医師から告げられた。
文/山下あきこ
『悪習慣の罠』 (扶桑社新書)
山下 あきこ
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/07/27053909486706/400/wanashoei.jpg)
2023年7月1日
1,100円
256ページ
978-4594095130
9
タバコ、酒、甘いもの、ラーメン、スマホ、パチンコ、恋愛…
なぜ、好き・楽しい・おいしいが病気になるのか?
多くの患者を診察してきた専門医が説く!
◎脳は快楽を求める
◎「物への依存」と「行為への依存」
◎糖質の鎮痛効果
◎小麦の強い依存性
◎スマホを見る時間の減らし方
◎ギャンブル大国日本は依存者が多い
◎相手との適切な距離を保てなくなる恋愛依存症
◎酒好きとアルコール依存症の違い
◎依存のできあがっていく仕組み
◎恐怖だけでは悪習慣を断ち切れない
◎自分の依存を直視し言葉にして伝える
◎ワクワクし幸福度を高める行動を習慣にする
【目次】
はじめに――退屈に耐えられず私たちは刺激を求め続ける
第1章 依存を招く悪習慣の罠
第2章 悪習慣の罠にハマった人たち
第3章 飲酒と喫煙の悪習慣が及ぼす害
第4章 飲酒の悪習慣を断ち切る
第5章 悪習慣の罠からの脱却
第6章 現在の快楽を得るか未来の幸せを求めるか
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