大学進学者の8人に1人が辞めている衝撃の事実。指定校入学者8割、一般入試10割という中退例も…大学側が伏せる不都合な真実とは
集英社オンライン / 2023年7月31日 10時1分
大学経営をめぐる状況はいまや決して明るくないという。2024年度からの学生募集停止を発表する大学も増えているが、一体何が起きているのか。その実態を『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』より、一部抜粋・再構成してお届けする。
知られざる「中退」のリアル―指定校入学者の8割という例も!
近年、大学・専門学校進学後の中途退学(中退)が世間の注目を集めています。
2012年時点でのデータでは、大学進学者の8人に1人が中退していました。仮に高校1クラスから35人が大学へ進学したとして、そのうち4〜5人程度が中退した計算になります。さらに別の4〜5人程度は留年を経験。実に4分の1が、大学を4年で卒業していませんでした。一般的にイメージされているよりも、今の大学は卒業しにくいのです。
読売新聞は2008年から19年まで「大学の実力」と題する全国調査を実施していました。国公私立すべての大学に対して調査票を送付。入学から4年後(医・歯・薬学部は6年後)時点での中退率や留年率、正規雇用率などを学部ごとに調べたのです。中退率は一般入試やAO、指定校推薦、附属校推薦など入試種別ごとのデータを掲載するこだわりよう。調査結果は全国紙での掲載(※一部データのみ)に加え、書籍としても刊行されました。
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調査結果は、高校教員や高校生、その保護者にとって衝撃的なものでした。入学4(6)年後に卒業している学生の比率を「標準修業年限卒業率」と呼ぶのですが、これが7割を切っている大学が珍しくなかったからです。
難関国立大でも留年率が高く、標準年限卒業率が5〜6割台という学部は多く存在しています。私大では、入学者の3割以上が中退している学部も散見されます。
入試種別ごとの中退率に至っては、「指定校推薦で入学した学生の8割以上が中退」「一般入試の入学者が100%中退」といった例もありました。しばしばウェブやSNS上では「筆記試験で入学した学生は優秀で、AOなどの推薦入学者は授業についていけなくなる」といった言説が見られます。
ですがこうした中退率や成績評価の数字(GPA)などを見る限り、これは必ずしも事実ではありません。実情は極めて多様です。
大学中退が招く経済的破綻…大学は伏せている!
中退・留年自体は、必ずしも悪いこととは限りません。ただ、結果的に非正規雇用や無職に追い込まれたり、貸与型奨学金の返済計画が崩れて経済的に破綻したりといった若者の増加を招いています。文部科学省も各大学に対し、中退抑制を求めています。
問題なのは、高校側がこうした実態を知って衝撃を受けているという点にあります。私はしばしば高校教員に対する研修の講師を務めていますが、この事実を知らせると「まさかこれほど高いとは」と一様に驚かれます。せいぜい数%程度だと考えていたそうです。高校生自身も同様で、「大学案内には就職率100%とあるので、中退する学生は一人もいないと思っていた」といった感想をよく目にします。
なぜこのように歪いびつな状況になっているかと言えば、最大の理由は「大学側が伏せているから」。
文科省は教育情報の公表を各大学に求めています。各大学の公式サイト内をくまなく探せば中退率の記載が見つかることもありますが、そこにたどり着ける高校生はほとんどいないでしょう。あえて探しにくい場所に置いたとしか思えないケースが多いのです。
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あえて志望大学の中退率を調べないワケ
進路指導において、68%の高校は志望大学の中退率を特に調べさせていません。大学中退者など極めて例外的な存在だと思われているからです。
各地の進路指導協議会などで地元の大学の中退状況をご紹介すると、高校教員たちは「早く知りたかった。知っていれば、送り出す生徒たちに対して必要な指導を施すこともできたのに」と声を上げます。
たとえば指定校推薦で合格した生徒にデータを示しながら、「薬学部は入ってからの勉強が大変なんだ。だから生物と化学をしっかり復習しておこう」といった指導ができたはずと言うのです。本来なら未然に防げた可能性のある中退も少なくないのです。
大学側がこうしたデータを積極的に公開したがらない理由もわかります。ネガティブに思われるデータですし、数字が一人歩きして「あの大学は進学すべきでない」という風評が立つことを恐れているのでしょう。
ですが、こうした広報のあり方を見直していかなければ、いずれ中退者の増加は大学の経営を圧迫します。1年次で中退した学生からは残り3年分の学費を受け取れなくなるのですから。長期的に見れば、地元の高校からの信頼も失っていくことになるでしょう。
中退率などの教学データを扱うのは教務課だが、高校側との窓口は入試広報課、といった部署間の壁も中退問題を見えにくくしてしまっています。裏を返せば、職員同士が協働することで解決の糸口が見えてくる可能性もあるということです。
中退予防も大学改革のホットトピック
志願者数を2倍にするのは簡単ではありません。お金や手間を倍にしたからといって、志願者数が同じように増えるとは限りません。
それに志願倍率を上げたところで、入学定員は決まっています。ですが中退は、原因を調査し、それぞれに対して適切な施策を打つことで着実に減らしていくことが可能です。
経営改善という観点では効果的なアプローチの一つだと私は思います。教職員が部門横断のプロジェクトとして取り組む実践事例としても、得るものが多いトピックです。
18歳人口の減少に関心を寄せる職員は多いと思いますが、中退予防も大学改革のホットトピックです。さまざまな取り組み事例がありますので、気になる方は調べてみてはいかがでしょうか。
『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』 (中公新書ラクレ)
倉部 史記 (著)、 若林 杏樹 (イラスト)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/07/27045118552779/400/daigakushoei.jpg)
2023年7月7日
990円
288ページ
978-4121507983
噂の人気職「大学職員」のリアルに迫る!
大学職員は「年収一千万円以上で仕事も楽勝」と噂の人気職だが、はたして真相は?
大企業と似たような仕事内容がある一方、オーナー一族のワンマン経営で、ブラック職場の例もある。国公私立でもまた事情は千差万別。
私立大学の元職員である二人の著者が、学生や外部からは見えにくい組織のピンキリな舞台裏を明かしつつ、18歳人口が激減する業界の将来不安、職員が抱えがちなキャリアの悩み、教員との微妙な関係性、そして高度専門職としてのモデルや熱い想いを伝える。
それでも大学職員になりたい人、続けていきたい人、辞めようかどうか迷っている職員のための必読書。
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