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「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」と言われる防衛大学校の実態。「戦場はもっと不条理だぞ」、吐くまで食事強要、家族への手紙の検閲〈元防大生の告白〉

集英社オンライン / 2023年8月1日 15時1分

2023年6月30日に防衛大学校の等松春夫教授が衝撃的な論考を発表した。有識者によるさまざまな見解が飛び交う中、集英社オンラインではコロナ禍中を含む國分前学校長期、現在の久保学校長期に防衛大学校を退校した3人の元学生に取材した。(前後編の後編)

「1学年はゴミ、2学年は奴隷、3学年は人間、4学年は神」

防衛大学校では、学年ごとに人格形成の標語が定められている。


1学年は「模倣実践」、2学年は「切磋琢磨」、3学年は「自主自律」、4学年は「率先垂範」。

自主自立を目指すなら、割りばしぐらい自分で用意すればよさそうなものだが(前編参照)、学生たちの間で語り継がれているという「裏の標語」には、まさに「誤った上下関係」が象徴されている――それが、1学年はゴミ(石ころ、という場合もあるそう)、2学年は奴隷、3学年は人間、4学年は神、だ。

防衛大学校の入学式 写真:Stanislav Kogikuアフロ

今回、取材に応じた元防大生の山本さん(仮名)は前編に続いて、こう語る。

「いったん“ガイジ”認定されてしまうと、もう、どうしようもありません。清掃の手間が悪い。プレス(アイロンがけ)が甘い。ミスした行為をやり直すのは当然ですが、転んで廊下に水をこぼしてしまったとき、『(小隊の)すべての居室で謝ってこい』と命ぜられ、勉学や研究に割けるはずの時間をつぶして、ひたすら入室要領を繰り返すことに虚しさを覚えるばかりでした」【5】

入室要領とは、居室へ入る際の動作、ノックの回数やドアを開ける際の手の動き、入室後の敬礼や名乗りをマニュアル化したもので、居室に入る際には必ずおこなうことになっている。そして、お辞儀の角度から、声の大きさまで、なにかひとつでも気に入らない点があれば、上級生は1年生に何度でも、入室要領のやり直しを命ずることができる。

つまり、「すべての居室に謝ってこい」の“真の目的”は、特定の下級生に入室要領を繰り返させる、いわば嫌がらせなのである。

「同期からも迷惑がられ、馬鹿にされる」清掃解雇

「学生舎には、学生30人に対して1人の割合で『指導官』と呼ばれる幹部自衛官が配されています。指導官は、我々学生の生活を監督することになっていますが、あまり機能はしていません。皆さん、だいたい事務室でくつろいでいらっしゃいます。

自分や同期の者が『ガイジ』と呼ばれ始めたときも、すべての居室で入室要領の指導を受けていたときも、毎日のように床にわざと靴墨をこすりつけられていたときも(清掃に倍以上の時間がかかる)、部屋解雇(自分の部屋に入るときにも、部屋長に対して入室要領をおこなわねばならない)されたときも、指導官は何も言いませんでした」

その後、山本さんに対する学生間指導はさらにエスカレートしたという。

「2週間ほど部屋解雇が続いた後、今度は清掃解雇されました」

清掃解雇(解放とも呼ばれる)とは、1学年が毎朝おこなう掃除を「やらせない」という嫌がらせだという。なぜ、掃除の免除が嫌がらせなのか。

「これも、建前では禁止されていますが、防大ではすべてが『連帯責任』です。つまり、『清掃解雇』の場合、本来なら自分が担当する作業を、同期が押しつけられることになるのです。ガイジになると、最初は同期たちから同情されますが、結局は自分たちの作業量が増えることになるので、次第に同期からも迷惑がられ、馬鹿にされるようになってしまいます」

「戦場はもっと不条理だぞ」

山本さんの清掃解雇は約2週間続いたが、相変わらず指導官が動くことはなかった。防大の学生舎には、上級生が割り振られた下級生の面倒をみる対番(1学年の対番は、2学年)という制度もあるが――。

「相談しましたが、『耐えろ』としか言われませんでした。『来年になれば、下(後輩)もできる』とか。結局、対番も連帯責任なんです。担当していた1学年が退校したら、上対番(その1学年を担当していた2学年)が、さらに上の3学年や4学年から叱られる。だから、とにかく問題を起こしたくないのでしょう」

耐え続けた山本さんだったが、清掃解雇の解除後、今度は「自由時間に、居室から出ること」を禁じられてしまった。それが10日目に達したとき、ようやく、指導官が部屋長をたしなめ、“軟禁”が解かれたのだという。

「その際、指導官にかけられた言葉が忘れられません。『この程度の不条理でまいっているようじゃ、どうする。戦場はもっと不条理だぞ』と。これが戦場に行かない、行けない、米軍に守られている自衛隊に巣食うルサンチマンなのだと思いました」

あまりに突拍子もない、時代錯誤に満ちた話に、我が耳を疑うかもしれないが、同様の証言は枚挙に暇がない。たとえば、國分体制下で退校した新井さん(仮名)さんは、驚くべきことに「話がつまらない」という理由から、数々の嫌がらせを受けたという。

吐くまで食べることを強要された者

「防大では、約2000人の学生が学生食堂に集まって昼食を取ります。これを『一斉喫食』と呼ぶのですが、この際、1学年は目の前に座る上級生を楽しませるために、話し続けねばならないという、暗黙のルールがあります。
自分の失敗談でも、卑猥な話でも何でもいいのですが、とにかく、話し続けないと許されません。すこしでも沈黙すると『オメェ、なんで喋んねぇんだよ』と威圧され、また上級生のコップが空になっているのに気づかないでいると、『早くしろ(注げ)、ガイジかよ』と詰められます。
私は口ベタなので、これが本当に辛かった。上級生の機嫌を取るのが上手い同期は、それだけで気に入られて、ささいなミスは見逃されたり……コロナ禍の学生舎は最悪の状況でしたが、一斉喫食が中止されたことだけはよかった」

いびられる1学年の中には、一斉喫食の際に、吐くまで食べ続けることを強要された者までいたという(新井さんが実際に目撃)。

防衛大学校の入学式 写真:Stanislav Kogikuアフロ

このような声は、学校長の耳にはついぞ届かなかったに違いない。國分元学校長は防衛大学校の「話し方のガイドライン」を好意的に記している。

〈ユーモアはよいがつまらないジョークを得意げに言うのはノー〉記事リンク(PRESIDENT Online)より

久保学校長は、等松教授が指摘した問題を「國分体制下の出来事」に押し込め、自身の体制下では「改善された」と主張している。しかし、その「根拠」を学生の作文に見出すのは、いささか的外れかもしれない。

〈最近私の手元に、1学年が出身高校に宛てた防大を紹介する文章が届きましたが、そこでは怖れていたあるいは予想していた、いわゆるパワーハラスメントがいかに存在しないかについての言及がきわめて多数あります〉防衛大学校長所感(防衛大学校ホームページ)より

「嘘を書くことしか許されないので、忖度ですよ」

久保学校長は、等松教授の論考を本当に精読したのだろうか。その最初のページには、防大の問題として〈検閲〉が指摘されている。コロナ禍中での学生舎の状況を心配する家族に宛てた学生たちの手紙を、國分体制下の大学校が検閲したというものだ(久保学校長の所感がこの事実関係に触れていないのはなぜであろうか)。

学生が家族に宛てた手紙は封をすることが許されていない ※写真はイメージです

防大において「学生が公表する文章」がどのような性質のものであるかを教えてくれたのは、久保体制下で退校した吉永さん(仮名)だ。

「まあ、反省文と同じですね。嘘を書くことしか許されないので、忖度ですよ」

学生間指導(上級生から下級生に対する指導)として、「反省文」は表向き禁じられている。上級生が下級生の「ミス」を糺すに際して、「その原因」と「同じミスを繰り返さないために、どのような対策を講ずるか」をノートに記して提出させるのだが、その主眼は、下級生の考えや解決策を検討することではないという。

「建前上、反省文は禁止されているので、『意見交換のための日記』とか『自発的な文書』ということで書かされます。ある時、部屋長から『フォロワーシップを涵養するリーダーシップとはどのようなものか。お前の考えを書け』と指導されました」(吉永さん)

そこで吉永さんは、自分の考えを書いた。

「リーダーシップとフォロワーシップの健全な関係は、抑圧ではなく、鍛錬と敬意の両輪によって支えられるのが理想ではないかという内容を書いたところ、『分量が少ないから再提出』と指導されました」

そこで、より詳細に自説を補強して提出したところ、今度は「理想を実現するための具体的な方法が書いていない」と言われ、また再提出。再提出すると「具体的な方法の種類が少ない」と再提出。1週間以上にわたって毎夜書き直しを求められ、「最終的には、『そんな気持ちでいるから、お前にはフォロワーシップが備わらないんだ』と、罰を受けました。『模倣実践と書けば、それで終わるんだから』と、同期は言っていましたが……」

ようするに、これが学生による作文の作成過程なのである。改革を進める久保学校長【6】には、忖度に忖度を重ねた「建前の言葉」に踊らされず、疑ってかかる姿勢も必要ではなかろうか。

前編はこちらから

【5】別の退校者は、3、4年生しか使ってはならないとされている乾燥機を(使ってはならないと知らずに)使ってしまい、「本来その時間に乾燥機を使えるはずだった上級生が使えなかった」という理由で、(小隊の)すべての居室を回って3、4年生に謝罪することを強要されたという。
なお、1年生が乾燥機を使ってはならないという規則は存在せず、この指導は「暗黙の了解」を破ったとしておこなわれた。


【6】学生間指導における「怒鳴る行為の禁止」や「夜間の清掃の禁止」については、在校生から好意的に捉えられている。

※「集英社オンライン」では、本記事や防衛大学校に関しての取材対象者や情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。

メールアドレス:shueisha.online@gmail.com
Twitter:@shueisha_online

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