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SNSで「池ちゃん」が話題の『邦キチ』ってなんだ!?「安易な“クセつよ映画イジり”だけでは終わりたくない」

集英社オンライン / 2022年5月22日 11時1分

映画&漫画ファンであればSNSで一度は目に留めたことがあろう『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』(ホーム社)。怪作・奇作・珍作へのほとばしる愛を、邦画マニアの女子高生・邦吉(くによし)映子が熱く語るレビュー漫画だ。サブスクの発展により膨大な映画が見放題となった現代、あえて“クセつよ邦画”という荒野を開拓する作者の服部昇大氏に今回、“本邦初の邦画プレゼン漫画”が誕生した背景を伺った。

作業用BGVに最適?なクセつよ邦画

――『邦キチ! 映子さん』を描き始めたきっかけについて教えてください。

仕事中、テレビで映画を流しつつ作業をしていたのですが、面白い作品だと画面に見入ってしまい筆が進まないんです。なので仕事場で漫画執筆の片手間に見る映画は、心が動かされるような名作・大作ではなく、かといって駄作でもない、適度に肩の力を抜いて楽しめる日本語作品である必要がある。この条件に沿った映画を見続けているうち、次第に“マイナーなクセつよ邦画”の知識が増えていってしまいました。



「そんなものに詳しくなってどうするんだ」という意見はごもっともなんですが(笑)、連載を始めた2017年当時、映画レビュー漫画はすでに先行作品がいくつもあったんです。けれど「邦画限定のレビュー漫画はまだないな」と思い、描き始めたのが連載のきっかけですね。

――記念すべき連載第1回が実写版『魔女の宅急便』(2014)でした。『邦キチ!』で同作を知った読者も多いと思います。

誰もが知っている作品を取り上げてもレビュー漫画としての意味がないし、かといって本当に誰も知らない作品だと興味をそそられませんよね。その点「アニメ版は国民的知名度を誇る一方、実写版はほとんど話題になっていない」という『魔女宅』は第1回として理想的でした。「国民的アニメの実写化なのに、なぜここまで見られていないのか」という謎をはらんでいるのも面白いですよね。そういった意味で、今年秋公開予定の『耳をすませば』(実写版)も、もしかしたら将来“第二の魔女宅”となるかもしれませんね。

――最新話が更新されると、SNSを中心にインターネットでも盛り上がりを見せています。

連載しているのがウェブの漫画プラットフォーム「COMIC OGYAAA!!」ということもあると思いますが、そもそも映画レビューとネットは相性がいいんです。2000年代のネット、とりわけテキストサイト界隈には「B級映画レビュー」というブームがありました。作品そのものは未見でも、『デビルマン』(2004、単行本1巻描き下ろし)、『北京原人 Who are you?』(1997)、『幻の湖』(1982、単行本2巻描き下ろし)といったクセつよ邦画をイジる“ネタ”をネットで目にした人は多いのではないでしょうか。

ただ、ことネット文化においては「徹底的にこき下ろす」みたいな方向に向かいがちで。しかし、それでは誰も映画自体を見ようとは思わないでしょうし、作品をネタとして消費するだけで生産的ではない。なので『邦キチ!』では、映子というキャラクターを通して、変なところも作品の魅力として読者に伝えられるようなレビューを心がけていますね。安易な“クセつよ映画イジり”だけでは終わりたくないな、という思いが根底にあります。

“うまいこと”言える人がもてはやされる時代

――連載5年目になり、映画を取り巻く状況も変化しています。なかでもサブスクリプションの発展が視聴者に与えた影響は大きかったのではないですか。

『邦キチ!』で紹介するような映画は、マイナーゆえにレンタルショップでDVDの取り扱いがない作品もあったんです。でも、サブスクが発達した今であれば、漫画を読んで気になったら家ですぐ視聴できますよね。「クセつよ映画の裾野が広がった」と感慨深い一方、「裾野を広げてどうするんだ」という気持ちもあります(笑)。また、『パソコンウォーズISAMI』(1982、単行本4巻1話)のような作品はサブスク全盛の現代でも簡単には見られないので、よりレア度が上がったといえるかもしれません。

――どんな映画でも頭ごなしに否定することなく、作品の中に魅力を見つける『邦キチ!』流映画プレゼン。作品を読むと、社会人に必要な「言語化力」も養われると感じました。

現代はあらゆる人が情報を発信できる時代です。実社会でもSNSでもそうですが、主張を端的にまとめてわかりやすく伝える、いわゆる「うまいこと」を言える力がこともてはやされるようになっていますよね。『邦キチ!』では自分が見つけた発見や感想、知識をなるべく言語化して、台詞としても「うまいこと」言うよう心がけているんですが、それがうまくハマった回は読者の受けも抜群にいいなと思います。

潮目を変えた池ちゃんの登場

――その点、単行本7巻5話から登場した「池ちゃん」は、「巧みな言語化力」への憧れをコミカルに具現化したキャラクターですね。

池ちゃんは映画マニアに憧れて長文のレビューブログを書くも、その薄い内容ゆえ誰にも読まれず焦燥感を感じ、流行作を追い続ける大学生です。2017年の連載開始当時、映子や部長(映子が所属する「映画について語る若人の部」部長・小谷洋一。主にツッコミ役)は一見特別な才能や能力のない「ただの映画好き高校生」でしかなかったのですが、2022年においては“熱中できる趣味について、その魅力を言語化できるキャラクター”でもあるわけです。そこで、“言語化できない側の人間”を今出したら面白いのでは?と生まれたキャラが池ちゃんなんですね。

池ちゃんのようなキャラクターって普通はもっと嫌なやつだと思うんですが、逆に素直に“できない側の人間の苦悩”を口にできるところが今の読者の共感を呼び、愛されているのかもしれません。僕も当初は彼を1話のみのゲストキャラにしようと思っていたのですが、あまりに反響が大きかったので今では準レギュラークラスの人物になっています。池ちゃんのように、大量の情報で「自分が何が好きか」を見失ってしまう人間には、映子や部長のように熱中できるものがある人間が輝いて見えるんじゃないかと思います。

――映画に限らずコンテンツがあふれる現代で、「自分は何が好きなのか」を見失う若者は多いと思います。

新しい娯楽に手軽に手を伸ばせる時代では、「好き」ということと「知識が豊富」ということが混同されがちです。しかし本来、見た映画の本数が少なくても映画好きを公言していいはずですし、かくいう僕も映画マニアに比べたら見ている数は足元にも及ばないはず。ただ“クセつよ邦画”を見続けているうちに妙に詳しくなり、それがたまたまこうして仕事につながったというだけなんです。

ですので、「これも見なきゃ」「まだあれも見ていない」と焦りながらコンテンツを消費する必要はないと思うんです。「うまいこと」を無理に言おうとせず、ありきたりな感想をSNSでつぶやいてもいい。飽きたら休んで、ほかの趣味に手を出してもいいんです。映画に限らず「趣味」というものは本来、結果ではなく過程を楽しむことで人生を豊かにさせてくれるものですから。

『邦キチ!』最新話は、こちらのサイトから!
コミックサイト「COMIC OGYAAA!!」
https://comic-ogyaaa.com

画像/すべてホーム社

取材・文/結城紫雄

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