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高津監督の内山壮真“育成プラン”を後押しした古田敦也の一言「なにを隠そう、僕は捕手と遊撃手の二刀流起用を考えていた」

集英社オンライン / 2023年8月6日 10時21分

セ・リーグ連覇、交流戦優勝、ゆとりローテーション、言葉の力――球界に革新を起こすヤクルトスワローズの名将・高津臣吾。自らのマネージメント手法を克明に語った『理想の職場マネージメント ~一軍監督の仕事~』(光文社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

期待の若手・内山壮真の育成プランの2択

2023年からは内山壮真に、新たなチャレンジに取り組んでもらっている。

内山は身長171センチと、プロ野球選手としては小柄だが、日本シリーズ第2戦で代打ホームランを放ったように、勝負強さ、パワー、配球の読みに大いに将来性を感じさせるので、数年後に正捕手になれるよう、育成したいと思っている。

ただし、捕手のポジションはひとつしかない。スワローズの正捕手は侍ジャパンにも選ばれた中村で揺るぎはない。2021年以降、30歳を超えてからの中村の成長度合いには、僕もびっくりしているほどだ。球団としては中長期的な視点を持ってマネージメントしなければならないから、内山が正捕手になるための準備も進めていく。



青写真としては、内山を打てる捕手として育てる。クリーンナップを打ってほしいし、下位からチャンスが回ってきた時の1、2番だってあり得るかもしれない。今後、どういう段階を踏んでいけば、そうしたイメージ通りに成長してくれるだろうか? ということを編成、コーチたちと一緒に考えている。

そこで必要になってくるのは「逆算」だ。

たとえば、2028年に内山にはどんな選手になっていてほしいか。正捕手としてマスクをかぶり、古田さんのように3割をコンスタントに打つ打者になってほしいし(古田さんの記録を改めて調べると、2年目に打率3割4分で首位打者、通算で9度の3割をマークしている。すごいとしか言いようがない)、欲をいえばホームランも20本を超えてほしい。

では、5年後にその域に達するためには、3年後にはどんな形になっていればよいか、来年は、そして今年はどうする? というように成長パターンを逆算して考えていく。

内山のプランを考えるにあたって難しいのは、捕手という仕事の特殊性だ。捕手はたったひとつしかポジションがない。しかも、試合に出ていないと上達しづらいのだ。そこで、いくつかの育成プランを考えた。

・一軍の控え捕手としてベンチに置く。少なくとも週に1度は先発マスクをかぶる機会をつくる
・二軍に置き、毎試合先発出場させ、捕手としての経験を積ませる


どちらも正解になり得るし、どちらがいいかは球団の事情による。実際、2021年は二軍で経験を積んでもらったが、2022年には内山のバットが一軍にとって必要なものになっていた。スワローズの弱点として右の代打が不足しており、内山は必要な戦力になっていたのだ。

一軍には必要。しかし、キャッチャーでは出場機会を増やせない。「5年計画」を実現させようとすると、このパターンでは成長を促せないと考えた。

そこで出てきたのが捕手と外野手の「二刀流」だった。

捕手と遊撃手での幻の二刀流プラン

内山は星稜中学時代には捕手で、星稜高校に進学した時点で、先輩に山瀬慎之助(現・ジャイアンツ)がいたため、1年生からショートにコンバートされた。2年生の夏の甲子園では奥川恭伸がエースで、内山は3番ショートで決勝まで戦って準優勝し、2年の秋に捕手に戻っている。

そうした成長パターンを経ていたので、2021年頃には、なにを隠そう、僕は捕手と遊撃手の二刀流起用を考えていた。しかし、2022年に長岡秀樹が遊撃手に定着したので、このプランはなくなった。

しかし、長岡の成長ぶりからヒントが得られた。やっぱり、出続けた選手はうまくなるのだ。

内山の出場機会を増やすにはどうすればいいか? 外野だったらチャンスがあるかもしれない。では、捕手と外野手の二刀流はできないか? そう思いついたのである。

そこで内山を外野と捕手の二刀流でプレーさせることを編成に提案した。それはあくまで内山を将来の正捕手として育てるためである。ただし、中村だって黙っていないだろうし、外野手としても自らの沽券に関わる問題だ。とはいえ、またとない素質を持った選手だから、球団として二刀流に取り組んでいこうということになった。

内山の負担は増えるが、この時期に捕手として、そして打者として一軍の投手の球を数多く見て、経験を積んでもらう。それが数年後の大きな成長につながると考えている。

それは村上が、2年目の19歳から一軍に定着して打席を積み重ねていったことで、5年目の三冠王獲得につながったことでも証明されている。また長岡も、3年目にレギュラーとして定着したことで、20代中盤にさらに飛躍する機会を得られると思っている。

背中を押された古田敦也のアドバイス

二軍監督、そして一軍監督を務めて分かったのは、若手の野手にとって一軍の経験はすべて肥料になるということだ。場数を踏ませることがもっとも重要で、ミスをしてもいい。守備、走塁、送りバント、いろいろなミスが多発する。しかし、それがすべて栄養になっていくのだ。経験値はそのまま成長へとつながる。

ところが、投手はそうはいかない。一軍のマウンドに上がって失敗したとする。たとえば、ボールを連発してストライクが入らない、大量点を与えてしまった――。こうした経験によって精神的なダメージを負うことがある。だから、若手を一軍で登板させる場合は、それなりに状況を整える必要があると思っている。

高卒の投手の場合、勝ち負けには関係のない場面とか、レギュラーシーズン終盤の試合とか、過度な責任を負わないシチュエーションでの登板を考える。一方、大卒、社会人出身の投手は別である。彼らは即戦力として期待されているわけで、余裕を持った起用はなかなかできない。

2023年のキャンプで古田さんが捕手陣を指導するにあたり、内山を二刀流にすることを伝えたら、古田さんがガッカリしてしまうのではないかと僕は心配していた。

古田さんとキャンプのプランを打ち合わせする時に、「実は、壮真なんですが……」と話を切り出すと、「それはめちゃくちゃいいアイデアだよ」と賛成してくれた。ものすごくホッとした。そして古田さん自身の考え方も教えてくれた。

「将来はもちろんキャッチャーだろうけど、やっぱり試合に出ない限り、うまくならないからね。一軍のピッチャーの球を打席で見ないと打てないし、うまくならない。二刀流は内山の可能性を広げることになるから、どんどんやったらいいよ」

ありがたい言葉だった。キャンプに入ると、古田さんが内山にいろいろなことを伝えているのが目に入ってきた。

内山の二刀流は、僕らなりのチャレンジである

内山は、高校では2年の秋からしかマスクをかぶっていないし、コロナ禍だったため、3年生の時は対外試合の経験も少ない。だから、捕手については知らないことだらけだと思う。ひょっとしたら、古田さんにとって当たり前のことでも、理解できないことがあるかもしれない。もしそうだったとしても、勉強のひとつだと僕は思っている。

若手にとっては、知らないことを知ることが勉強になる。われわれが常識だと思っていることを、あえてかみ砕いて説明する必要はないと思う。理解したいなら、勉強するはずだ。そこで疑問を放置してしまう選手に未来はない。コーチたちからすれば、このレベルまで上がってこい――というメッセージなのだ。

2023年、内山には大いに経験を積んでもらい、将来へ向けての布石を打ってほしい。また、内山が外野を守ることで、他の選手たちの意識にも変化が起きることを期待している。危機意識を持つ選手もいるだろう。そうやって個々人の能力がアップしていけば、強いチームをつくることができる。

2023年の開幕戦で、内山はライトで先発出場した。ヒットも出た。チャンスでの凡退もあった。学んでくれればそれでいい。そしてライトで、レフトで、内山は好捕を見せている。彼の持っているポテンシャルを、ファンのみなさんは目撃している。

内山の二刀流は、僕らなりのチャレンジである。成功させる自信もある。選手の可能性を大いに広げるケーススタディにしたいと思っている。

写真/榊智朗

『理想の職場マネージメント~一軍監督の仕事』(光文社)

高津臣吾

2023年5月17日

990円

232ページ

ISBN:

978-4-334-04665-1

セ・リーグ連覇、交流戦優勝、ゆとりローテーション、言葉の力――球界
に革新を起こす名将が、自らのマネージメント手法を克明に語る。3連覇に向けて、
「さあ、行こうか!」

「チーム一丸となって」――誰もが念仏のように唱えるが、その方法について
言及されることは少ない。その方法をずっと考えてきて、僕がたどり着いたの
は次の言葉だ。
「相手のことを思いやり、相手のことを知る」
組織の目標達成のために、個人は仕事をする。僕は監督としてチームを指揮す
る。とはいえ、監督はすべてを自分の思い通りにしていいわけではない。自分
の考えを押し付けてばかりでは、周りの人たちの仕事に対するモチベーション
は上がらないだろう。 そこで重要に
なるのは、一緒に仕事をする人たちが、組織のためにどうしたいと思っている
のかを想像することだ。(本文より)

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