1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

【サンカクヘッド×眉月じゅん対談 後編】団地と九龍から考える、今私たちが描くべき漫画

集英社オンライン / 2022年5月19日 18時1分

『平成少年ダン』のサンカクヘッドさんと、『九龍ジェネリックロマンス』の眉月じゅんさん。ともに「週刊ヤングジャンプ」で「懐かしさ」を重要なモチーフとした作品を連載中のおふたりによる初の対談が実現。担当編集者である大熊八甲を交えつつ、後編では物語の舞台となる「団地」や「九龍」といった場所にフォーカス。さらに令和という時代に、おふたりが描いていきたい漫画についても伺った。

団地って、一つの国のようなものなんですよ(サンカクヘッド)

——サンカクヘッド先生が、最初に「団地」というテーマに興味を持ったきっかけを教えてください。

サンカクヘッド そもそも僕自身が、団地育ちなんです。『平成少年ダン』で描いている団地の光景も、おおむね僕自身の実体験がベースになっています。僕が住んでいた団地で暮らしている人たちは、身も蓋もない言い方をすればみんな同じような経済状況だったような気がします。でも、だからこその一体感が生まれるというか。当時の僕にとって、団地は「一つの国」のような感覚でした。



眉月 実は私もすごく団地が好きなんですよ。私、『九龍』の次は団地モノをやりたいですもん。というか、そもそも九龍も団地みたいなところがあって。どちらも閉じた一つの世界が形成されている。そういう箱庭のような世界で展開される物語が好きなんです。とはいえ、私は九龍城に行ったことがないし、団地育ちでもないから、あくまで資料を読んでの想像にすぎないのですが。

サンカクヘッド でも、たしかに昔の団地って、その内側で生活が完結していました。団地内にいろんなお店とかもありましたもん。それで何号室に誰が住んでいて、とかみんなわかっている。それと団地が面白いのは、みんなが同じ間取りの部屋に住んでいること。でも、その家庭によって空間の使い方が微妙に違うんですよ。友だちの家に行くと「この六畳を居間にしちゃってるのか!」とか、変なところに感心したり(笑)。

『平成少年ダン』第3話より ©サンカクヘッド/集英社

眉月 サンカクさんのお話を聞いていたら、九龍や団地に惹かれる理由が、もっとクリアになってきました。私は「同じようで少し異なる小さなものが、いっぱい集まって一つの大きなものをつくっている」という構造が好きなんですよ。お菓子の詰め合わせでも、オムニバスの短編集でも。団地や九龍もきっと、それと同じなのかもしれません。

サンカクヘッド 小さな一部屋一部屋に、きっとそれぞれのドラマがあるんですよね。

私が住んでみたいと思える九龍を描きたかった(眉月じゅん)

——眉月先生は、いつ頃から九龍に関心があったんですか?

眉月 中学生くらいの頃から興味があって、写真集を買ったりしていました。だから、いつか九龍を舞台にした漫画を描こうというのは、ずっと前から考えていて。「やるなら今だな!」というタイミングで、『九龍ジェネリックロマンス』の連載をはじめた感じですね。

サンカクヘッド 眉月先生の描く九龍って、すごくオシャレですよね。僕は九龍っていうと、怖い場所だっていうイメージがあったんですけど。

大熊 (新宿)歌舞伎町をもっとダーティーにしたみたいな……。

眉月 大熊さんにも最初、「きれい過ぎませんか?」と聞かれましたよね。けれどそこはフィクションというか。何だろう、「私もここに住んでみたい!」と思えるような九龍を描きたかったんですよね。それに結局は、同じ人間じゃないですか。外から見ると怖そうでも意外と自分達と同じ悩みを抱えていたりもすると思うんです。だから、私もサンカクさんの団地ではないですけれど、馴染みのある場所として九龍を描いています。

『九龍ジェネリックロマンス』第1話より ©眉月じゅん/集英社

サンカクヘッド 普通はそのままの九龍を描こうとしちゃうと思うんですよ。けど、眉月さんはむしろ作品を通じて、九龍のイメージを書き換えようとしている。そこがすごいと思うし、大切な部分だなと感じます。

——一方で、『九龍ジェネリックロマンス』の九龍のなかでは、ときどき世界が反転したかのように、理不尽で不気味なできごとが起きたりもします。

眉月 現実でも、そういう瞬間ってありませんか? 自分をあんなに理解してくれていたはずの人たちが、全然知らない人に見えてくるような瞬間が。みんながニコニコしていればいるほど、うすら寒くなってくる。そういう「何か」に触れてしまったとき、そこにいる人たちも、自分がいるその場所も、何もかも信頼できなくなって自分の体温がギュッと下がっていくのがわかるんですよ。そういう感覚が、作品にも反映されているのかもしれません。

『九龍ジェネリックロマンス』第15話より ©眉月じゅん/集英社

僕自身より、僕の限界をよく知っている(サンカクヘッド)

——ここまでさまざまなお話を伺ってきましたが、編集者の大熊さんから見て、おふたりの共通点や違いはどんなところにあると感じていますか?

大熊 作風は全然違いますよね。でも、自分のなかで面白さの軸をきちんと持たれている点は共通していて。ある種の普遍性を掴んでいるんですよ。だから「懐かしさ」という個人的で曖昧な感覚をテーマにしても、誰にでも刺さる作品をつくれるのだろうと思います。編集者としては、一番楽をさせていただいているパターンですね。

サンカクヘッド 僕なんかからすると、大熊さんにはゴールが見えてるのかな? と感じることがあります。一緒に作品をつくっていても、どこを目指せばいいのか、この人にはハッキリ見えているのかなって。

大熊 見えてないですよ(笑)

サンカクヘッド だって大熊さんは「まだまだ行けますよ」みたいなことを言うじゃないですか。「まだまだ本領を発揮していないでしょ?」みたいな追い込み方をしてくるというか(笑)。だから、この人は、僕以上に僕の限界を冷静に見極めてくれているんだろうなと思っていました。

大熊 その答えは簡単で、サンカクさんには限界がないと思っているからです。だからいつも「まだまだ行けますよ」って言っている(笑)。

大熊によると「サンカクさんがノっているかどうかは、線をみればわかる」という

一緒に地獄に堕ちましょうよ、って(眉月じゅん)

眉月 私は大熊さんのことを、限りなく書き手に近い感覚をもった編集者だと思っていて。妥協したくないという書き手の気持ちに寄り添って、一緒に走ってくれる。それも危険地帯を(笑)。大熊さんって「一緒に地獄に墜ちましょうよ」みたいなことを言ってた時期がありましたよね。私は普通に、地獄には墜ちたくないなと思っていたんですけれど(笑)。そんなにひどい状況になる前になんとかしてくれよ、と。でも最近、ちょっと認識が変わってきたんです。

サンカクヘッド 一緒に堕ちる覚悟ができたんですか!?

眉月 いや、そうじゃないんですけど(笑)。大熊さんは地獄っていう言葉が好きなんだろうなって最近思ったんですよ。というか大熊さんって、地獄でしか見られないものを見ようとしているのかなって。そう思うと、地獄って必ずしも悪い場所じゃないような気もしてきませんか? もしかしたら大熊さんが地獄と呼んでいるだけで、私たち作家には天国のような場所かもしれない。最近は、そんな風にも感じたりしています。まあ、やっぱり地獄には堕ちたくないですけどね、私は。

「大熊さんくらい職人堅気な編集はいない」と眉月さん

時代に合わせた漫画ではなく、時代をアップデートする漫画を

——話は尽きませんが、最後の質問です。「懐かしさ」を共通のテーマとするおふたりの目に、令和というこの時代はどのように映っていますか?

サンカクヘッド それは平成と令和の違いは何なんだろう? という問いでもありますよね。実はそれは僕が『平成少年ダン』を描きながら、毎回考えていることで。個人的には、一応の結論は出ているんです。けれどその答えは、やっぱり作品を通じて示したくて。令和から平成に戻ったダン君が、何を感じてどこへ向かうのか。今後にぜひご期待ください、という感じでいかがでしょうか。

大熊 担当編集者としましては、ありがとうございます。です(笑)。

眉月 私は正直、令和についてはあまりいい印象がなくて。正直、何も語りたくないです。それでも強いて言うなら、ジェンダー感についてはどんどんアップデートしていこうと意識しています。男性同士でも女性同士でも、あるいはそれ以外の組み合わせだとしても、その関係性を特別なものとしてではなく、もう当たり前にそこにあるものとしてシレっと描きたい。それは時代に合わせて描いているということではなく、今そういう漫画が必要だと思って描いています。令和がどんな時代になるかはわかりませんが、自分たちがこうあって欲しいなと願うことを、それぞれがやっていくしかないと思うんですよね。きっとダン君も、そうしてくれると信じています。

<サンカクヘッド先生と眉月じゅん先生の週刊ヤングジャンプ連載中の漫画はこちら!>

平成少年ダン 1

サンカクヘッド

2022年3月18日発売

693円(税込)

B6判/196ページ

ISBN:

978-4-08-892251-5

オモチャ箱のような時代「平成」でもう一回、遊び尽くせ♪♪
「令和」を生きる青年が「平成」の少年時代に「転生」!? 玩具、漫画、お菓子、懐メロ、初恋 懐かしい!って楽しいな♪ 平成転生×少年少女 新しレトロな日常コメディ♪♪

九龍ジェネリックロマンス 7

2022年5月18日発売

660円(税込)

B6判/186ページ

ISBN:

978-4-08-892271-3

私だけが嘘。確かなことは分からない、この九龍でしかし、それだけは、工藤さんにとって確かな事実? 違うけれど同じ。鯨井Bの顔をした私と日常を過ごしている工藤さんは…もしかしたら? 悲観的になってしまい身を引こうとする鯨井に強く「どこへも行くな。ずっと傍にいろ。」という工藤。明らかになるほどに分からなくなる、その想い。理想的なラヴロマンスを貴方に──。

この対談を前編から読む場合はこちら

©サンカクヘッド/集英社
©眉月じゅん/集英社

取材・文・撮影 福地敦

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください