1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

コロナ禍前は一泊3万円のホテルに泊まっていた外国人が、今は5万円のホテルに泊まれるカラクリ

集英社オンライン / 2023年8月15日 8時1分

かつては世界経済を引っ張っていた日本だが、すっかり脇役扱いになってしまった感は否めない。今やチェコ、ハンガリー、ポーランドといった東欧の国にも平均賃金で抜かれそうになっているのはなぜか?『インフレ課税と闘う!』の著者で、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏に話を聞いた。

ウォーレン・バフェットの「逆張り力」

――日本株投資についてお聞きしたいのですが、日本にもかなりの影響力を持つといわれる米投資家、ウォーレン・バフェット氏が日本の5大総合商社株を大幅に買い増して話題を呼びました。こうしたバフェット氏の行動についてはどう認識されているのでしょうか?

熊野(以下同)バフェット氏が凄いのは、「ITはもう駄目だ」と言った舌の根が乾かぬうちにアップル株を大量買いするとか、巷間上がり切ったと認識されるエネルギー株に投資したりと、いわゆる逆張りをするところです。



バフェット氏の強さは、自分が言っていたことを常に“仮説検証”しているからこそ、いつでもそれと反対の行動ができることにあると思います。自分の役に立つならば、今まで思い込んでいたことを、なんの執着もなく変えてしまう。これは非常に重要なことだと思います。

――バフェット氏でさえそうなのですから、我々はもっと知恵を働かせて、インフレ課税に抵抗すべきなのですね。

もともとお金がある人は、損をしてもどんどん買い続けて、最後の一回で勝てばそれで勝者になり得ますが、資産がない者はそういう作戦は取れません。やっぱり、細かく考えて立ち回るしかない。

――このインフレはいつまで続くとお考えですか?

そう簡単には止まらないでしょう。20年以上も続くとは思わないけれど、数年で終わるものではないと思います。逆にいえばそれだけの間、インフレ課税に立ち向かわなければならないのです。

――今年の4月以降、日本株が外国人投資家に爆買いされた結果、日経平均株価が33年ぶりにバブル後の高値を付けるなど、順調に推移しています。この状況をどうご覧になっていますか?

日本株は、何年かのタームの間で、今のように必ずチャンスのフタが開くわけですから、そこを見逃してはいけません。日本企業は、内部留保をたっぷり持っていると言われて久しいですが、では、内部留保は何のためにするのでしょうか。それはチャンスが訪れたときに〝投資〟をするためにあるのです。外国人投資家はそこに期待をしているのではないでしょうか。

GDPで間もなくドイツに抜かれる日本

――かつてとは異なり、日本企業の海外進出が進捗した結果、ここにきての円安は日本人の首を絞めるだけの状況になっています。バブル時代を知らない若い世代は、かつて日本企業が株式時価総額で世界の上位を独占していたと聞かされても、まったく理解できないそうです。

そうでしょうね。拙著で取り上げた「平均賃金の国際比較(ドルベース)」を見ると、いかに日本の成長力が低く、加えて昨今の円安により日本の賃金が割安になっているのかを痛感します。2021年の日本はOECD加盟国34カ国中24位。年々順位を下げており、2013年に韓国。2016年にはスロベニア、2020年にはリトアニアに抜かれてしまった。

このランキングの前提となる為替レート(購買力平価)は2021年1ドル=102.1円で計算されていますが、これが2023年6月現在の1ドル=140円の計算だと、日本はポーランドなどの中欧、東欧、ギリシャなどの後塵を浴びることになり、「安い日本」もここまで来たか、という感じです。

もう間まもなくGDP規模で日本はドイツに抜かれるのですが、人口の多い中国はともかくとして、日本よりも人口の少ないドイツに抜かれるのは衝撃的です。

ドイツの経済規模は、ユーロ圏の1/3~1/4を占めていますが、EU経済が東方に拡大していく中で、ドイツはEU域内で貿易を増やし、それが経済成長を遂げる原動力になっています。ちなみに、プーチンはおそらくこのEUの東方拡大と、ドイツの海外膨張を警戒して、ウクライナに侵攻したと私は見ています。

ここで興味深いのは、チェコ、ハンガリー、ポーランドといった、04年にEUに加盟した東欧の国々が、ドイツと連携したがためにどんどん生産性と、平均賃金を上げてきたことです。ポーランドとチェコの平均賃金は、すでに日本を射程圏内に捉えています。「強い者と組んで働くことで、弱かった者も強くなれる」はひとつの教訓といえるでしょう。

今や「気の毒な国」になってしまった日本

――そうした現実を目の当たりにするにつけ、日本は世界の成長エンジンから外され、確実に脇役になっていることを、ひしひしと感じます。

とにかく日本はサービス産業(非製造業)に弱い、これが最大の弱点です。高齢化もネックですが、総じて日本は、サービスの“高付加価値化”に失敗していると私は捉えています。

周知のとおり、いまの日本ではインバウンドが復活して、ものすごいことになっています。訪日客はコロナ前と比べて1.3~1.4倍のお金を日本に落としているのです。

一例を挙げると、コロナ前は3万円クラスのホテルを使っていた外国人は今、一泊5万円のホテルに宿泊しています。先刻、自国通貨の価値が円に対して4割、5割も上がり、また、彼らの国の賃金が上昇したことがその要因です。

私の知人でコロナ禍前にアメリカに移住した友人がいるのですが、コロナ最盛期にレイオフになってしまいました。その時は「お気の毒に」と彼に元気づけの連絡をした覚えがあるのですが、レイオフから職場復帰した彼のサラリーはどんどん上がって、今ではグレードの高い地域に暮らし、豪華な愛車までを持つまでになったのです。

日本という島国にいると、今、成長している国と成長しない国との違いはインバウンドを通じてくらいしか見えませんが、日本は着実に貧しくなっています。

レイオフになった友人に「お気の毒に」と声をかけたものの、それから3年経って、どうやら本当に気の毒なのは自分だったことに気付かされたというわけです。


文/熊野英生 写真/shutterstock

熊野氏(撮影/堀田力丸)

インフレ課税と闘う!

熊野 英生

2023年5月26日発売

1,980円(税込)

四六判/344ページ

ISBN:

978-4-08-786138-9

もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
個人の防衛手段として外貨投資や、副業のすすめなど、具体的な対処法や、価値観の切り替えなども指南する、著者渾身の一冊!

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください