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「中高年男性の孤独は悪」となぜ決め込む? 50代おっさんにも大事な“ひとり時間”。ライブも旅行も映画もひとりが一番でなにがいけない?

集英社オンライン / 2023年8月8日 12時1分

かつて多くの女性の共感を得た“おひとりさま”という概念だが、これを中高年男性に当てはめてみるとどうなのだろうか。昨今は中高年男性の孤独は悲惨だ、おじさんはなるべく人とつながる努力をしろ、と決め込む風潮すらある。果たして“孤=悪”という単純な図式は成立するのだろうか? 50代となってひとり行動をさらに楽しむコラムニスト佐藤誠二朗氏の思いは。

「おひとりさま」の対象はあくまでも女性。男は放っておいても一人になりがちだ

一人で……
小さな旅をしよう
おしゃれなカフェに行こう
キャンプや車中泊をしよう
美術館巡りをしよう
etc.

ネットや雑誌など世のメディアに踊るこうした“ひとり時間のススメ”は、大抵、女性に向けた提案だ。



そもそも近年において注目される“ひとり時間”とは、女性限定で成り立った概念である。
ジャーナリストの岩下久美子が2001年に出版した著書によって初めて提唱した「おひとりさま」が、個の確立ができている自立した大人の女性のことを指していたからだ。
残念なことに著者の岩下氏は同書発売の直後、海外旅行先で不慮の事故死を遂げたが、彼女が提言した“おひとりさま”はその後も力強く一人歩きし、今世紀の女性の新しい生き方のひとつを規定するとともに、“おひとりさま需要”という経済効果も生むほどに浸透した。

明るいイメージの「おひとりさま」 イラスト:illustAC

“男とは、女とは”と、性別を根拠に十把一絡げな断定をするのはいささか時代錯誤的かもしれないが、そこを避けると本質を外す可能性があるので敢えて言うと、女性とは本来、群れたがる生き物だ(批判覚悟でよく言い切ったぞ! 俺)。
そして男性、特に僕のようなおっさんはというと、基本的に孤独を愛する生き物。だからことほど左様にオススメされなくても、勝手に単独行動をする傾向にある。

人間の行動の真理を、野生に尋ねてみれば

人間の行動の真理を、体の深奥に潜む野生に尋ねてみるのは一つの手立てだ。
近年、日本中の里山で著しく増殖している野生鹿を観察してみるとわかるが、集団で山から里へ下りてくるのはメスばかり。
正確にいえば雌鹿と性別不詳の子鹿で、その集団内にツノを生やした大人の雄鹿が混ざっていることはまずない。
オスの成獣は滅多に山から降りてこないが、たまに見かけるときも大概、悠然と単独行動をしている。

野生動物の中には、ニホンザルのように複数のメスと複数のオスで群れを作るものもいれば、ライオンのように一頭のオスが複数のメスを抱えてハーレムを作る種などもいる。
だがいずれにせよオスは生涯の中で必ず、群れを離れて単独行動をする期間があるのに対し、メスは生まれついた群れから離れず、がっちり固まった女系集団内のみで行動する種が多い。

単独行動中の雄ライオン

野生動物の行動は基本的に食餌と生殖を中心に規定されるが、メスの場合はここに出産・育児が加わる。すると、群れていた方が都合のいいことが多いのだろう。
自分の遺伝子を次世代以降へ確実に伝えるためには、血縁をはじめとする利益共有集団で互助的に行動することが大事なのだ。
翻りオスは、自分の遺伝子をなるべく多方面に拡散させるため、自由な単独行動を選ぶのである。

そうした動物的本能が、現代人の行動にどの程度残っているのかはわからないけど、敢えてそこをベースに話を進めるなら、群れ行動が本能である女性の“ひとり時間”はハレ、つまり非日常を味わう快感。
逆に単独行動が本能である男性の“ひとり時間”はケ、本来の動物的行動に戻る喜びなのではないかと思う。

昔から男は単独行動が当たり前だから、“ひとり男用”の需要はすでに掘り起こされ尽くしている。
だからメディアは未開拓だった女性にターゲットを絞り、“おひとりさま”の新奇性をアピール。そこに、新しいマーケットが創出されたということなのだろう。

50代になってから徐々に増えている単独行動で、生きる喜びを感じる自分

なんてことを考えつつ我が身を振り返ると、普段の僕は決して一人の時間が多い方ではない。
仕事はみずから選んでフリーランスの形をとっており、自宅の自室で一人机に向かう毎日だが、オンラインでもオフラインでも日常的につながっている人は多いし、第一、妻子(&犬2匹)と一緒に暮らしている。
最近は妻もリモートワークが増え、平日も休日も完全な一人になれる時間は、意外なほど少なかったりするのだ。

そんな中年男にとって、能動的単独行動は野生に還れる時間であり、もはやそれ自体がエンタメであると言ってもいいだろう。

イラスト:illustAC

例えば僕の趣味である、ライブハウスでのライブ鑑賞だ。

ごくたまに誘ったり誘われたりして人と一緒に行くこともあるが、9割方は単独で行く。
好きなバンドを間近で見るために客席前方のモッシュピットに突っ込み、サビを大声でシンガロングしたり、見知らぬ人と肩をぶつけ合ったりして大いに楽しむが、いい年してこんなに臆面もなく騒げるのは、一人で来ているからなのだ。
誰かと一緒だったらちょっと恥ずかしくて、もう少しおとなしく見ることになるだろう。

例えば旅行である。

家族一緒の旅行は不慮のトラブルが起こらないよう細心の注意を払い、予定通りに旅を進めて楽しみ、無事に家へ帰ることを最大の命題とする、言うなれば“予定調和”の旅だ。
だけど、最近の僕が趣味にしている、自力でカスタムした軽バンを使ったひとり気ままな車中泊旅では、『トラブル・アクシデントどんと来い』の心持ちで、むしろ想像もしていなかったことが起こることを期待し、敢えてやばそうな道へと進むこともある。
行き当たりばったりで何が起こるかわからないほうが、“生きた旅”というか、ライブ感があって楽しいのだ。

一人が楽しい車中泊の旅

例えば映画である。

中3の我が娘はこの頃ようやく親離れをしてきだが、これまでの14年間の生活はとにかく子ども中心だった。
映画を観にいくにしても、やれアンパンマンだドラえもんだ、ディズニーだと、子供のセレクトに付き合うのがデフォルト。
こっちもまあ新鮮な気持ちで楽しんだりしてはいたのだが、最近は昔のように、ふらっと一人で映画館に行くことができるようになった。
そしてそれは、やっぱりめちゃくちゃ有意義な時間なのである。
個人の好みの差が大きいから妻と行く場合にもやはり妥協しなければならないが、ひとりだったらまったくの自由。
単館上映のマイナーな音楽映画だろうがB級ホラーだろうが、好きなものを選ぶことができて実に愉快なのである。

photo:AC

こうして50代になってから単独行動が増え、またそれを喜びと感じている自分だが、世は逆に「おじさんはなるべく人とつながる努力をしろ」と促し、中高年男性の孤独は悲惨だと決め込む風潮がある。

確かに、孤独死した中高齢者の8割は男性であるとか、都会住みの孤立男性ほど早死にしやすいというデータがあるらしいし、男性は家庭内であっても孤立するリスクがあるというが、果たして本当に孤=悪”という単純な図式なのだろうか?

好んで一人でいる男に、無理にでも誰かとつながれというのは、大きなお世話なんじゃないかと思う。
だってオスとは本来、孤独を好むものなのだから。
他人からなんやかや干渉されて長生きするより、一人で好きなことやって「ああ楽しかった」と適当に人生を締めくくりたいと考えている男も、結構多いのではないのかな。

こんなことを考えるようになったのも、僕自身がだいぶ歳をとってきた証拠なのだろうけど。

文/佐藤誠二朗

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