横浜市磯子区の高台に建つ「Brillia City(ブリリアシティ)横浜磯子」。2013年、横浜プリンスホテル跡地に建てられた総戸数1230のビッグコミュニティマンションだ。
このマンションは、管理組合とは別にマンションの住人で形成された自治会を持つ。2022年には、同自治会の役員に当時13歳の鈴木梨里子(りりこ)さんが就任し、メディアを騒がせた。
世界最年少で就任!? 女子中学生がマンション自治会役員に就任したら起きた、予期せぬ化学反応とは…
集英社オンライン / 2023年8月11日 10時1分
横浜市磯子区にそびえ立つ巨大マンションの自治会役員に当時13歳の鈴木梨里子(りりこ)さんが就任して1年が経った。役員として彼女が就任してから、同マンションには思わぬ変化が起きたという。
JC、巨大マンションの役員に就任
さらに鈴木さんの2期目となる今年は、中学生や高校生、大学生が続々と役員に立候補し、総会決議を経て就任した。学生だけでなく、シニア層の活躍も目立つのが同自治会の特徴だ。
本来なら毛嫌いされる自治体役員の仕事が、老若男女、多くの人を惹きつける秘密はどんなところにあるのだろうか?
会長の田形勇輔さんのご厚意から参加させていただいた総会で、その答えが垣間見えた。招待されたZoomを開くこと数分。聞き覚えのあるBGMが流れ始め、オリジナルのショートムービーを背景に、Brillia City横浜磯子自治会総会のスタートがアナウンスされた。総会の名称は「Jichikai TV総会特番」。まるで、テレビ番組のようなオープニングだ。
しかし、そこは自治会の総会。1年間の活動内容や収支決算の報告から合意形成まで、必要な情報・工程は抜かりなく盛り込まれている。それでいて、自治会員が興味を持って視聴できるよう「思い出ムービー上映」や「ブリリアへの手紙コンテスト表彰式」などのイベントを挟んだプログラム構成になっている。加えて、要所要所で自治会の「理念」を伝えるパートが含まれていることに感心した。
同自治会では、大手企業さながら「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が明確に示されている。総会も、この3つの理念の共有からスタートした。
理念の明確化や共有の徹底は、同自治会独自の「自治会レボリューション」というマネジメント手法に基づいているという。
負の活動にさせない「自治会レボリューション」とは?
「自治会レボリューションは、なにも『これまでの自治会のシステムに革命を起こそう』といった趣旨のものではありません。自治会に関わる人の『気持ち』に革命を起こしたいということから命名しました。
自治会活動にかけた時間や苦労の分だけ、子どもたちの笑顔や住人の感謝といった報酬が得られ、報酬が得られるからこそ自分の街がもっと好きになる。だから来年もまたやってみよう……無理に自治会活動を押しつけるのではなく、この好循環を創出することが大事なのだと思います」(田形さん)
「押し付けない」というのは、自治会運営のキーワードの1つになってくるだろう。同自治会では、役員になる人のほとんどが自らの立候補だという。1棟につき1人以上の役員を配置する都合上、こちらから役員をお願いすることもあるというが、無理に頼むことはない。
イベントやボランティアへの参加にいたっては、完全に任意だ。それにも関わらず、約3,000人が来場した昨年の縁日祭りには192名のボランティアが参加し、夏休み期間中のラジオ体操にはのべ1,600名が参加した。
会長の田形さんは、子どもの誕生をきっかけに「この子の故郷になる街をもっと盛り上げたい」との思いから、役員に立候補し、その翌年には会長に就任したという。コミュニティマネジメントが学べる塾に自発的に通い、自治会の在り方や健全なコミュニティ形成のためのノウハウを学んでいった。このコミュニティ塾には、中学生役員の鈴木さんも入塾。鈴木さんは総会で、コミュニティ塾で学んだことを自作のスライドを使って報告した。
中学生役員が考える、自治会の在り方
鈴木さんは約2か月かけ、NPO法人CRファクトリーが主催するコミュニティ塾で「団体として成果を出しながら、関わるメンバーを幸せにできる組織運営の方法」を学んでいったという。
鈴木さんは、活気あふれる自治会にするために必要な工程は次の3ステップだと考える。
1.理念作成
2.強く温かい組織にしていく
3.多様な関わり方をデザインする
このうち、特に「3.多様な関わり方をデザインする」についての彼女の見解や例えは、実に秀逸だと感じた。
鈴木さんはまず、自治会に関わるメンバーの多様性を尊重すべきだという。自治会に関わる時間や労力などのコミットメントの度合いにグラデーションがあるのは当然のことであるし、むしろ「グラデーションをつけることが自治会運営をうまくいかせるためのコツ」だと彼女は話す。
「健康を維持するには、炭水化物やタンパク質、ビタミンなど必要な栄養素をバランスよく摂取する必要があります。同様に、自治会も『炭水化物のように深く関わってくれる人』『タンパク質のように運営を支えてくれる人』『ビタミンのように必要なときにサポートしてくれる人』がいるからこそ成り立つのです。自治会との関わり方に、正解はありません。関わり方を分けることが、お互い気持ちよく関われるポイントなのだと思います」(鈴木さん)
総会では、新たに新役員に就任した面々にインタビューする様子も中継された。新役員には、鈴木さんより若い中学生1年生の男子も含まれる。その他、新たな役員として、女子高生や男子大学生などが就任した。
中学生・高校生・大学生……新たな若い力が自治会役員に
新役員に就任した中学1年生の窪塚智祐さんは、役員になった理由やこれから実現したいことについて、次のように語る。
「自治会役員になった父や周りの皆さんの取り組みを見ていて、すごく立派だなと思っていて。『こんな人になりたい』という気持ちから立候補しました。防災委員になって、日々できる防災について学んでいきたいです」(窪塚さん)
同じく、新たに役員となった増子奈保さん(母)と高校生の涼奈さん(娘)親子は、次のように話す。
「TV特番を見て、非常に楽しそうな取り組みをされていることを知りました。参加するだけでも楽しかったのですが、運営側に回りたいという思いから立候補を決意しました。幅広い年代の方々が暮らしているこのマンションでの皆さんの生活が、より楽しくなるようなイベントを企画していきたいです」(奈保さん)
「お祭りのボランティアで、これまで話したことのない人とたわいもない話をしながら、楽しく参加できたことをきっかけに、これからは自分が企画する側にまわりたいと思うようになりました。小さな子どもからご年配の方まで楽しんでもらえるイベントを考えていきたいです」(涼奈さん)
自治会活動は、仕事と異なり金銭的な報酬はでない一方で、時間や労力は発生する。だからこそ「面倒」「参加したくない」と考える人も少なくないのが事実だ。しかし、自分ができる範囲でできることだけをして「感謝」や「心地よさ」という報酬が得られたら。それは、暮らしの中の彩りとなり得る。
Brillia City横浜磯子自治会が人を惹きつける理由は、まず自治会に参加している人が楽しんで活動していることであり、その楽しみの輪を広げていっていることにある。楽しい活動をすることだけを目的にしているのではなく、その先にある理念を明確にし、共有することもまた、多様化する時代にますます求められていくのではないだろうか。
取材・文/亀梨奈美
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